キスシーン <11Titles SIDE:詐欺紳士>



1.おはようのキス


「こんなとこで寝ないでください。迷惑ですよ、仁王君」

立海のテニスコート。
ベンチに寝てる仁王に降りかかる冷たい視線は複数のものの、降りかかる冷たい言葉は一人だけ。
仁王を何とかするには柳生を向かわせるのが一番と帝王に進言してくれた参謀のおかげで、柳生はベンチで眠る仁王の横に立つ。

「そうじゃのぅ…柳生がおはようのチューの一つでもかましてくれりゃ、すぐにでも起きんがのぅ…」
「わかりました。おはようございます、仁王君」

出来るわけがないと、意地悪気に笑う仁王に、柳生は動じることなく、言われたようにおはようの言葉とともに、仁王の頬にキスをする。

「なっ…なななななななな…何すんじゃい」
「やったんですから、起きて下さい」
「ちょ、ちょっと待て」
「早くしてください。練習の邪魔です」
「待ちんしゃいといっとるじゃろうが!!」
「何なんですか」

逆に慌てるのは仁王のほうで、驚いたようにキスされたほうの頬を手で押さえて、柳生を凝視する。

「君が言ったんでしょ?」
「それは、そうじゃが…」

まさか、本当にするとは…
仁王は柳生という人間について、随分な思い違いをしてらしいと思う。
もっと恥ずかしがって慌てふためいて、参謀にでも言いつけるかと思っていたんじゃがのぅ…

「さては、柳生、俺に惚れとんじゃろ?」
「馬鹿なこと言わないで下さい」
「キスしといて」
「たかがキスではないですか。頬にするのなんか、外国では挨拶です」

ニヤニヤと笑いながら、近づく仁王に柳生は冷た一瞥をくれるだけで、練習のためにコートに向かう。

「…そういうことにしっとたろ」
「それ、負け惜しみって言うんだよね」

置いていかれた仁王の捨て台詞を笑顔でブン太が突っ込んだが、その時には全員コートに向かった後だったので、誰かの耳に入ることはなかった。

-おまけ-

「同じキスするなら、乾君にしてみたかったですね」
「聞き捨てならない台詞だな、柳生」
「柳君、銃刀法違反で捕まりますよ?」
「誰であろうが、ハルに手を出そうなどという不埒ものは切り捨ててくれる」
「副部長ー、柳先輩が副部長の真剣持って柳生先輩に切りかかってますよー」
「止めんか、馬鹿者」
「無理ですよ、俺、あの二人にだけは関わりたくないっす」
「「赤也に賛成」」

うっかり吐いた本音に、刀を突きつけられた柳生と、突きつける柳。
二人の一発触発の空気に避難する立海レギュラー。
そして、自分の立場に頭を抱えたくなる副部長が何処で止めるべきか悩んでいた。




2.おやすみのキス


「これは夢なんかのぅ?」

唖然と呟く仁王は現在、校庭の木陰に立っている。
その仁王の目の前には、木を背もたれに眼鏡をかけたまま気持ちよさそうに惰眠を貪る、柳生がいる。
あの柳生が、こんなとこで昼寝?
有り得ないだろ……
と、思わず自分の頬をつねる仁王がいた。

「おーい、柳生…」

柳生の目の前にきて、しゃがみ込む仁王。
何でか目の前で手をヒラヒラ振りながら、小声で呼びかけて、様子を見るが柳生が起きる気配はない。

「柳生、おきんしゃい。起きんとキスすっからの〜」

目の前でスピスピ寝てる柳生に、悪戯を思いついた仁王が笑いながら呟く。
だからといって、何か行動に出たわけではないので、柳生が起きる気配はない。

「俺、先に断っちょったからの」

全く起きない柳生に顔を近づける。
少しずつ近づけていき、顔を少し傾け、後、もう少しというところで仁王が止まる。

「おやすみ、柳生」

少し考えて、顔を上にあげて、柳生の額に唇を落とし立ち上がる。

「やっぱ、寝込み襲うんは卑怯じゃろ」

勝負は本人の知ってるとこで
カカカと笑って仁王は、去っていった。
そして…

「案外、度胸がないんですね」

仁王がいなくなった後、クスリと笑みを零して呟く紳士と

「何だ、つまらん」

デジカメ片手に、校舎の窓から溜息交じりに文句を言っていた参謀がいた。




5.隙をついてキス

「ちょお、待ちんしゃいって」
「冗談じゃありません、丁重に辞退させて頂きます」
「止まって、こっちをみていいんしゃい」
「すみませんが、今は君の顔を見るのも不愉快です」

追いかけてくる仁王に一瞥もくれずに、早足で歩いていく柳生。
少し前の部活の時に、関東大会決勝での作戦を仁王に聞かされた瞬間から、ずっと二人の追いかけっこは続いている。

「柳のOKも出てるんじゃ、いい加減諦めい」
「嫌です、そんなふざけたことしたくもありません」

決勝の作戦、それは二人が入れ替わるというなんとも奇抜な作戦。
生真面目な柳生はその作戦がふざけたものとしか捉えられない上に、そんなことをしなければ勝てないとでも思われるてるのかと二つの理由から、すこぶる機嫌を低下させている。

「したくないいうても、柳の決定じゃ逆らうことも出来んじゃろ」
「僕は断固として戦わせて頂きます」

大体、どうしてあの柳君がこんな作戦をOKしたんでしょうか?
柳と正面から衝突するには、あの参謀の頭脳の上を行くだけの作戦がなくては、間違いなく言い返されて、気づけばOKさせられる。
それくらい造作もない人なのだ、自分のところの参謀は。
それに気づいた柳生が、不意に立ち止まり完璧な作戦を練ろうと思考に埋没する。
そこで、柳生は初めて柳がこの作戦に許可を出したことに疑問を感じたのだ。

「仁王君」
「なんじゃ、ようやくやる気になってくれたんか?」
「柳君に何を言ったんです?」
「何って、何もいっとらしぇん」
「では、どうして柳君はこの作戦に許可を出したのでしょう?」
「何じゃ、そんなことかー」

いくら仁王でも柳の弱みを握れるわけがない。
そうは思いつつも、後ろを振り返り仁王に理由を尋ねる。

「そんなことじゃありません」
「簡単なことじゃと思うんやけどなー、こんな風にのぉ」
「なっ、何をするんですか!!」
「何ってキスに決まっとるけん」

仁王の言葉に怒ったような柳生の隙をついて、仁王が柳生の唇を奪う。
真面目に問いかけているのに、相手が真面目に返さずにからかってるような行動を取るうえに、やったことがキスで柳生が顔を赤くしながら仁王を睨みつける。
が、仁王はしてやったりという表情で楽しげに笑うばかり。

「さぁて、これで弱みになったかのぉ、参謀」
「や、柳君!!」
「これなら、もう作戦を受け入れるしかないのぉ、柳生」
「なっ…二人して僕をはめましたね」
「こうでもしないと、お前は許可しないだろうが…」

そのまま仁王が校舎の向こうに声をかける。
驚いた柳生もそちらを向けば、そこにはデジカメ片手の柳の姿があった。
さっきのキスをそのデジカメで撮られたらしい。

「何故、そこまでしてこんな作戦を遂行させたいんですか?」
「ハルが楽しめるかと思った」
「本当に柳はハルばっかやのぉ」
「ハルと試合が出来、尚且つ、ハルを驚かせれるなら何でもする」
「違反で負けたらどうするんですか?」
「お前たちが弦一郎に殴られるだけだ」

しれっと言い切る柳に仁王は苦笑し、柳生はガクッと肩を落とす。
幼馴染を楽しませるため。
それだけの理由でふざけた作戦すら許可する参謀。
そんなのを参謀にしておいていいのか…
帝王に諫言すべきでないのだろうかと、真剣に考えずにはいられない柳生だった。

Fin