「緊張しちょるの」
「はい」
彼の手が頬に触れて、カチコチになっているのがバレて、苦笑される。
「取って食うわけやないんやし、そう緊張せんと」
「わかってるんですか」
「取りあえず、目瞑ってみ?」
「はい」
宥めるように彼の唇が僕の眦に寄せられる。
こめかみや頬、額と口吻を受けていって、少し緊張がほぐれた僕は苦笑交じりに彼に答える。
この人に言われるままに、目を瞑れば唇に触れる柔らかな感触。
それはすぐに離れていって、目を開けば至近距離の恋しい人の顔があった。
「どうじゃ?」
「大丈夫です」
心配そうに声をかけられ、安心させるように笑いかける。
僕の表情に彼がホッと息を吐いて、また僕の唇に軽く口吻をしてくる。
「次は少し長くな」
言葉と共に、唇が降りてくる。
言った通りに、さっきよりも少し長めに触れ合った唇。
その長さの分だけ、離れるのが少し惜しく感じた。
「…もう少し」
「平気なんか?」
「ええ」
「じゃ、もうええっちゅうまで、何度も繰り返しちゃるけの」
彼の手を縋るように掴んで、惜しいと思った感情に素直に従うように、強請ってみる。
まだ心配そうな彼に笑いかけて、平気だと教えると、今度は最初の直ぐに離れていく触れ合うだけの口吻が何度となく繰り返される。
チュッと音を立てて離れては、目を開ける暇のない早さで、また唇が触れ合う。
時折、焦らすように唇以外の場所に彼の唇が触れていく。
「どうじゃ?」
「触れるたびに、幸せを感じます」
「俺もじゃ」
唇が触れ合うたびに、心の奥が温かくなっていって、その気持ちをそのまま相手に伝えれば、彼も同じだと嬉しそうに笑ってくれた。
「次はもう少し、深くしてみっか?」
「深くですか?」
「おう、嫌じゃったら、俺の体、押してええかんの」
「…はい」
彼の言っている意味がよく理解できずに、それでもこの人が僕の嫌がることはしないだろうから、素直に頷く。
彼の顔が近づいてきて、すっと瞳を閉じる。
さっきと同じように触れた唇は、さっきと違ってただ触れるだけではなく、軽く舌で僕の唇をなぞってきた。
「ふっ…は…っ…んん!」
擽られるような舌の動きに唇を薄く開けば、彼の舌が口内に忍び込んでくる。
驚く僕を怯えさせないように、彼がゆっくりと宥めるように舌を絡ませてくる。
「ぅ…ん…ふぅん…」
舌を絡められて、吸われ、上顎を舐め上げられる。
初めて深く唇を合わせる、その感触に体がビクビクと波打ってしまうのを止めることが出来ずに、彼に笑われる。
「はぁ…はっ…」
「気持ちわるぅなかったか?」
ようやく離された時には、上手く息継ぎが出来なくて、恋人の体に全身を預けながら何とか息を整えていると、不安そうな声が頭上から聞こえる。
「…仁王君…」
「なんじゃ?」
「僕だって、貴方が好きなんですから」
「え?」
「好きな人とのキスが気持ち悪いわけないじゃないですか」
いつもと自信ありげな雰囲気とは全く違うその声音に、つい笑みが零れてしまう。
触れるだけの口吻であろうが、深く口内を貪りあう口吻であろうが、好きな人との口吻ある以上、気持ち悪くなるわけがないのに。
何だか可笑しくなって、僕は彼の頬に軽く唇を触れ合わせて、微笑みかけた。
「仁王君は、少し僕に気を使い過ぎです」
「俺としては、柳生は慣れちょらんやろうからと思ったじゃんがのぅ」
「慣れてはいませんが、貴方とのキスを嫌がったりはしませんよ」
仁王君は違うんですか?
問いかけてみれば、彼はちょっと吃驚したような表情になって、でも、すぐに破顔して変わらんのぅと答えてくれた。
「気を使われるのも嬉しいのですが」
自分は、まだ恥ずかしいという感情を消せないから…
「たまには、強引にしてくれたほうがいいこともあるんですよ」
恥ずかしさに負けて、あなたの言葉を拒否したり出来ないように、たまには強引に言ってください。
「ほんじゃ、やりたいようにさせてもらっかの」
「たまにですからね」
「わぁっちょるって」
腕を引かれ、笑う彼に無理やり唇を塞がれる。
そういうこともたまにはあったほうが、きっと恋は上手くいく。
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