祭りに行こう。
勿論、二人っきりで
こっそりと囁かれた言葉に、顔には出さずに頷きましたけど、本当はとっても嬉しかったんです。
「お待たせしました」
「おおっ、浴衣か、柳生。におうとるぞ」
「…有難うございます。仁王君は普通の服なんですね?」
「ああ、俺はああいう動きにくいんは苦手じゃけぇの」
「それなら、僕も服にすればよかったですね」
「そんなこたぁない。俺は柳生の浴衣姿が見れてよかったと思うちょっぞ」
待ち合わせの五分前に、約束の場所に着いた時には、彼は既に待っていて、僕を見つけて笑いかけてくれた。
浴衣の僕と違い、ラフな服装の彼に、自分も同じようにいつもの服にすればよかったのかもしれないと思ったけれども、僕の考えを読まれたのか、この姿を喜ばれてしまって、すぐにそんな感情も消えていった。
「柳生はやってみたいもんとか、食うてみたいもんとかあるんか?」
「そうですね…、よくりんご飴を買って食べましたけど」
「妹とか?」
「ええ、仁王君は?」
「俺か、俺はやっぱいか焼とかが好きじゃのぅ。お、そうじゃ、射的は得意ぜよ」
夜店の並ぶ通りを二人で歩く。
いろんな夜店をひやかしながら、話をしていると射的を見つけて、楽しそうに彼に引っ張っていかれた。
「柳生、何か欲しいもんあるか?」
「これといっては。仁王君が欲しいものを取って下さい」
さっさと店の方にお金を払って、銃を持って狙いを定める。
どうやら狙いはこの店のメインらしい、少し大きめのぬいぐるみ。
あれを取って、仁王君はどうされるんでしょうか?
誰かああいうのが好きな人にあげるのかもしれない。
そう思ってしまうと、やけに胸が痛くなって、これ以上、見ていられなくてそっとその場を後にした。
「仁王君に悪いことをしてしまいました」
気付けばさっきのとこからかなり離れた神社の裏手に着いていた。
僕は階段に座って息を整えながら、さっきのことを思い出して、彼に黙って離れてしまったことを後悔していた。
何も聞かず、勝手に誤解した挙句に消えて、きっとあの人は僕を探してくれているだろう。
それを考えたら本当に申し訳なくて、そして、厭きられてしないだろうかと不安で、こっから一歩も動けなかった。
「仁王君、怒ってるでしょうか?」
「怒っとらんよ」
「っ!仁王君!」
「ハァ…行き成りおらんようなるから、あせったぜよ」
「すみません」
「何か気に障ったんか?」
「いいえ」
「そうか。お、そうじゃ、これお前にやるぜよ」
頭を膝に埋めて、不安を消すかのように声に出してみると、頭上から返答が聞こえた。
慌てて顔をあげると、そこには肩で息をしている仁王君がいた。
笑って自分に声をかけてくれる彼に、より申し訳なさが立って謝れば、理由を問われる。
くだらない理由だから答えにくくて、首を横に振るだけにとどめたら、それ以上のことを聞こうとはせずに、さっきこの人が狙っていた件のぬいぐるみを手渡された。
「これが一番、狙いやすかったんじゃ」
「でも…」
「柳生がいらんなら、お前の妹にでもやりんしゃい。俺にはそんな欲しそうな知り合いはおらんしの」
「仁王君…すみません…」
「何で柳生が謝るんじゃ」
「いえ…有難うございます」
自分の馬鹿さ加減に呆れた。
彼があれを狙っていたのは、そんな何でもない理由だというのに…
ちゃんと尋ねればよかった。
そうしたら、勝手に誤解して飛び出して、この人に心配をかけたりせずにすんだのに。
本当に自分が不甲斐なくて、涙が出そうになるのを我慢しながら、もう一度謝った。
ごめんなさい、迷惑をかけて、理由を口にすることが出来なくて…
代わりにありったけの想いを込めて、感謝の言葉を口にした。
そんな僕に何でもないように笑いかけてくれる彼に、もう一度、有難うを口にしようとした時、空が光り、ドォーンっていう轟音と歓声が聞こえて、二人で空を見上げた。
「お、上がったの」
「ええ、綺麗ですね」
「ああ、やっぱり花火は打ち上げじゃの」
次々に空に浮かぶ大輪の華。
見事に咲き誇る花火に、魅入られるように空を見る僕たち。
「ええ穴場じゃな。ここは」
「本当ですね」
二人だけで見れる、満開の華。
この光の下でなら、素直に言ってみようかと思って…
「仁王君」
「ん?」
「貴方がぬいぐるみを狙ってるのを見て、僕は誰か女性のかたにあげるのかと思ったんです」
「そっか」
「そしたら、とても胸が痛くて、これ以上、見たくなくて飛び出してしまったんです」
存在もしない女性に嫉妬したんです
そっと耳元で呟いた僕に、彼は嬉しそうに笑って、僕の不安を打ち消すように、咲き誇る花の下で口吻をした。
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