「ご馳走様っす」
ある一軒の店から、ぞろぞろと出てくるのは、青学男子テニス部のレギュラーたち。
店内で会計をしている大石や手塚たちを待っている外に出たメンバーはさっきまで食べていた料理について談笑していた。
その中で、一人だけ少し離れたところにいる、海堂。
「…?」
そんな海堂の視界の隅に、ひっかかった者がいた。
「先輩?」
一つ上の先輩である、乾だ。
話しているメンバーと一緒にいたはずの乾が、スイッと周りに気付かれることなく離れていく。
どうしたんだろうと思いながら、目で追っている海堂に、気付くことなく乾はそのまま道路を渡っていく。
「え…」
驚いたのは海堂の方で、まさか乾が誰にも何も言わずに離れていくとは思ってなくて、慌てて後を追っていった。
「…案外、団体行動出来ねぇんだよな…」
何かを思いついたら、すぐにそっちに意識を移してしまう乾に、海堂は溜息を吐きながら、後をついていく。
乾が向ったのは、向かいの本屋。
これか
店頭に並んである本を見て、前に乾が話していた本だと思い出す。
よくみれば、すぐ横にでかいポスターが貼ってあって、なるほどこれが見えたのかと、乾の突然の行動に合点がいく。
目の前の乾が、本を手に取り、真剣に中身を読み始めたのを見て、海堂は一旦、そこを離れる。
「あ、海堂」
「もう、どこ行ってたんだよ」
「スンマセン」
店の前に戻ると、皆がキョロキョロと自分たちを探していたようで、海堂はペコリと頭を下げる。
「乾は、一緒じゃなかったの?」
「あ、先輩なら…」
それでもまだ足らない面子の名前を出すと、海堂が乾がどこにいるかを説明する。
「乾らしいな」
海堂の話を聞いて、全員、乾らしいの一言で片付けしまう。
それで片付けられるほど、乾のこの行動は珍しいころではないらしい。
「どうしよっか?」
こうなった乾は、時間も何も気にしないから、いつ元に戻るかわからない。
困ったような顔を見合わせるレギュラーたちに
「俺、残っときますんで…」
救いの手を差し伸べたのは海堂で、
「本当に?」
「ごめんね」
と、残りのメンバーは海堂に声をかけて、帰っていった。
「あれ?海堂?」
全員を見送って、海堂も本屋に戻る。
乾の横で、乾の意識が本から戻ってくるまで手持ちぶたさに横に並ぶ。
満足したのか、乾の意識が外に向き、横に海堂がいるのに気付き声をかける。
「全員、帰りました」
キョロキョロと周りを見渡して、時計を見る乾に、海堂が呟く。
「また、やっちゃった?」
「っす」
「ごめん」
「いいっすよ、慣れましたし」
自分の悪い癖を知っている乾が、困った顔で海堂に謝る。
「も、いいっすか?」
「うん」
けど、慣れた海堂は気にすることなく、帰ろうと店を出る。
「海堂」
「…?」
「本当にゴメンね」
先に出ていった海堂の後を追って、横に並んだ乾が窺うように顔を向ける。
「気にしてねぇから…」
気を使ってくれる乾に、気にしてないとの意思表示の変わりに、そっと手を繋ぐ。
「早く、帰りましょ」
「うん」
ギュッと繋がれた手を、握り返して二人は家路につく。
乾は知らない。
乾が真剣に何かに夢中になっている間、海堂はそんな乾の横顔を…眼鏡の隙間から見える真剣な瞳を見るのが、好きなことに。
だから、海堂は乾のこの癖に対して、怒ったりはしなかったのだ。
ただし、自分が傍にいるとき限定のことだが…
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