手塚が九州に行くことになった。
このために、大石が部長代理となったが、その裏では…
「大石、お前が優しいのはわかるが。それだけじゃダメだろ」
「ね、大石。今まではさ、手塚が厳しかったのを大石の優しさで中和してたけど、手塚がいないなら大石の甘さだけが目立つよ?」
「これじゃ、部員がだらけるのも時間の問題だな」
「不二・乾…」
胃を押さえ呻く大石。
その前には遠慮なくズケズケと言いたいことだけを言う不二と乾の姿があった。
そう、大石新体制、その裏の実態は、表に立つのは嫌いな二人がタッグを組んで大石を裏で糸を引いていたのであった。
『ゴメン、手塚。俺は悪魔に魂を売り渡してしまったよ…』
大石はいつも以上に消費量の増えた胃薬を見ながら、心の中で九州にいる手塚へと呟いた。
時は遡り、ボーリングの後日。
手塚が九州に行く前に大石と話をした。
「部のことはお前に頼む」
「手塚、俺よりも乾や不二のほうが適任じゃないか?」
手塚の言葉にこっそりと反論してみる大石。
「いや、あの二人には任せられん」
「手塚?」
「確かに不二は、どんなに中身が悪魔だろうが、あの外見で微笑まれてお願いされれば、誰でも言うことは素直に聞くだろう。そうじゃなくても、あいつの本性を知ってるやつは皆言うことを聞くが」
「…手塚…」
ちゃんと、不二のことわかってたんだな。
「乾も確かに面倒見はいいし、データは信頼できるから、人望は厚いし、下級生にも好かれているし。越前さえ懐いている」
「そうだろ、やっぱりあの二人…」
「が!!」
「手塚?」
「あの二人は、部のことよりも自分の楽しみを優先させる」
「あ…」
「あの生粋の快楽主義者の二人に部を任せて見ろ」
「手塚、快楽主義者って…」
よくこんな言葉知ってたな…
「一日で、テニス部は地獄に変わるだろう」
「…………」
手塚の言葉に大石は何も言えず、ただ胃を軽く押さえただけだった。
そう大石は手塚の言葉に、その惨状を簡単に想像することが出来たのだ。
テニス部地獄絵図…そんなタイトルをつけれそうな現実を……
「わ、わかったよ手塚」
「そうか、頼むぞ大石」
胃を押さえながら了承する大石。
そんな大石に手塚があてた最後の言葉は
「大石、何があっても絶対に悪魔に魂を売り渡すんじゃないぞ」
だった。
『売り渡す気はなかったんだけどな…悪魔が魂を取っていったよ…』
そう、手塚との話しの後、部長代理として正式に任命された大石。
だが、やはり不安はあるので乾に相談することにした。
元々、乾は大石と手塚とともに練習メニューを考えたりしていたから、そういう感じで持っていけば、地獄はみずにすむだろうと考えたのだ。
それが甘かった…自分の甘さを痛感した。
魔王は地獄耳に、するどい勘を持っていたのだ。
「乾、話があるんだが…」
「ああ、何だ?」
こおじゃちょっと言って、乾を部室に連れて行くことは成功した。
「あのな、これからのことなんだが…」
基本的に乾一人に相談するなら問題はないはずだ。
メニューの組み立てや、理にかなったことを教えてくれる。
だが、乾を表に立たせると、不二がくる。ひどいときは英二とセットでだ。
そうなると、乾は手塚の言う問題児に変貌する。
不二は乾の好奇心を刺激でき、かつ自分が楽しむためのものを持っていくからだ。
だが、こういう風に相談役に徹するなら、決定権は乾にないからそれを阻止することができ、かつ、適切な助言がくる。
「ああ、それなら…」
われながら名案だと思ったそのとき
「やだな、大石。僕には何の相談もないの?」
「……不二……」
終わった、俺の計画は見事に崩れ去っていった。
そして、乾と不二の最強にして最恐のタッグが完成してしまった。
「ボーリング以来、性格変わったな…」
九州に行く当日、手塚の何気ない一言。
違う、違うんだ、手塚。
この計画は全てあの二人の考案なんだ。
俺は言われたまま動いてるだけなんだ〜
と叫びたいのを我慢したことは懐かしい。
「やっぱりさ、アメとムチは使わないとね」
「そうそう、アメとムチを使えば従順になるよ」
「流石、乾。実体験からにじみ出た言葉」
「え?実体験?」
言いたい放題の二人の言葉に、大石が疑問を抱く。
「…あの…」
「ああ、海堂。自主練終わったか?」
「っす」
今は部活後、ここは部室。
練習後の誰もいない部室で三人で話していたところに、自主練を終えた海堂が戻ってきた。
「海堂」
「はい」
乾が名前を呼ぶだけで、素直に乾の元に行く海堂。
「アメとムチの結果」
やってきた海堂のコメカミにキスをして、頭を撫でる。
「大石はアメのやりすぎだ」
「そうだよね、だから我侭になっちゃう」
「そう、アメは褒美。言うこと聞かなかったらムチが待ってるって覚えさせないと」
「何の話っすか?」
「大石の性格改善」
「ハァ?」
「わからなくて、いいよ。ココで大人しくしてて」
「ハイ」
後ろからギュッと抱き締められて大人しくなる海堂。
「乾、いつムチがあったんだ?」
大石が知る限り、乾は海堂に甘い。
ベタベタに甘い。
「ああ、ムチの部分、今度是非見せて欲しいな。参考のために」
「ダメ、もったいなくて見せれない」
クスクスと楽しそうに笑う不二に、乾のセリフ。
『ムチって…どういう時に使ってるんだこいつ』
そう思ったのは隠すことにした、大石。
イケナイ世界に首を突っ込みたくはなかったのだ。
「ま、アメとムチは使いよう。忘れたらダメだよ」
「忘れたら、特製ジョッキが待ってるからな」
「……わかったよ……」
『手塚、どうせなら俺も連れていってくれ…』
こうして、大石は一人アメとムチを習得せざるを得なかった。
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