大石新体制は、裏の支配者のおかげか、大石の胃を痛める演技のおかげか、滞りなくすすみ、今日は不動峰もきての練習試合などと一部を除けば充実した練習メニューと言える。
そう、一部を除けばだが…
「あれ、何?」
その一部のメニューに不満たっぷりの支配者二人が、部活終了後の誰もいない部室で大石に詰め寄る。
それはもう、半端ではない暗黒の気を立ちこめながらだ。
「あ…あれって?」
「不動峰との練習試合、大石一人で考えたにしては、いい案だったな。ただな…」
「ただね、あのオーダーを決めるための心理テストはどうかな?」
「だな。大体、何だあの絵は。一年に下手と言い切られるような絵を平気でだせるな。その神経だけは感心するよ」
「俺、もしかしなくてもけなされてるよな?」
「けなすなんてとんでもない。僕達みたいな繊細な神経の持ち主には真似できないって褒めてるんじゃない」
いや、それ絶対に間違ってるから。
とは、口に出せない大石の心の突っ込みだった。
「ま、そんなことはどうだっていいんだけどね」
「あんなのしても無駄だって、何でわからないんだ?」
「え?いや、色々な組み合わせを考えないとだな…」
「大石の考えは正しいかもしれないがな…」
「僕、タカさん以外とダブルス組む気ないから」
「不二…」
大石が頑張って話した意見を不二はさらっと却下する。
「そういうことだ。因みに俺も海堂以外と組もうとは思わない」
そこに乾が追い討ちをかける。
「後、海堂にしても二度と俺以外と組ます気ないから」
「僕も、タカさんを他の人となんて…。どうなるかわかってるよね、大石?」
「今日は練習だということで、我慢したがな」
ドンと大石のいるテーブルの前に置かれた、赤色の液体。
勿論、ジョッキでだ。
「ペナルティー1ね。何の相談もなく決めるんだもん」
一応、俺が部長代理なんだから、勝手に決めてもいいと思うんだけど…
やっぱり、心の内に秘めている言葉だった。
目の前の悪魔と首領が笑みを称えて待っている。
覚悟を決めて、大石はその赤い物体を飲み干した。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ〜」
ドップラー効果を出しながら、一目散に水道に駆け抜けていく大石。
後ろでは、乾と不二がどっからか出したらしい、白いハンカチの角を持って、頭上で振っていた。
「大石もバカだよね、僕たちに刃向かうなんて」
完全に大石の姿が消えたから、妖艶に微笑む不二。
「努力は認めるが、もう少し部員の性格を把握するべきだな」
その横で乾は、大石が書いていたレギュラーの心理テストの結果がのっているノートを捲っていた。
「答えも書いてるの?」
「ああ、中々、面白いぞ」
「へぇ…」
大石のいない間に、中を読む二人。
大石が何とか戻ってこれた頃には、読み終わり、キチンと元のままになっていて、大石にばれることはなかった。
「お前らが怒っているということは、よくわかったから…」
もういいだろ。
そう言いたげな胃に胸を押さえた大石の前。
悪魔たちの微笑みは終わらない。
それは、大石には死刑の宣告よりも恐ろしいものに思えた。
「大石、飴と鞭だけどね…」
眼鏡をクイっと持ち上げながら、乾が淡々と話す。
いつもと変わらないはずの話し方なのに、大石は何故か背筋が凍るのを感じた。
「使い方は悪くないけどな」
「ご愁傷様、大石」
「不二?」
自分の前で手を合わせる不二に、嫌な予感が確信へと変わっていく大石。
「薫にまで、使う必要はないんだよ」
さっきよりも声が若干低くなった乾。
「後、薫に触れていいのは俺だけだから…」
トンと新たに置かれた、青の飲料水。
「人のもんに勝手に触れたんだから、それ相応の罰は仕方ないよな」
「乾…」
それは今日の練習試合の後のことだった。
海堂の練習を見て、褒めた時、無意識に…あたりまえだが大石に下心などあるはずもないので、褒めるのに腰を叩いただけだったのだが、それが乾の逆鱗に触れることになってしまった。
「優しいだろ、これで終わらせてやろうとしているんだから」
「……そうだな……」
確かに通常のというか、いつもなら海堂に触れただけでも乾の報復はすさまじい。
死んでしまったほうがマシだと思えるくらいに凄いことを平然とやってのける。
だが…だが…
これをジョッキで飲めというのも、やはり同じくらい辛いことだと思うのは俺だけなんだろうか?
何も知らないテニス部員以外なら、乾って丸くなったなとか騙されるかもしれないが、自分はコレの威力を知っている。
あの不二すら倒れたこの飲み物。
あの時は、飲まずにすんだのに…
結局、俺は全ての飲み物を飲む運命なのか…
全て、これ以上の報復が恐くて、胸の中にだけにとどめた大石の叫びだった。
そして、大石はあんな絵を疲労してまで頑張って心理テストを全て無駄にして、関東大会2回戦のオーダーを氷帝戦とほぼ一緒にしたのだった。
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