「…練習相手を呼んでおいた」
大石の視線がチラッとフェンスのドアに向う。
「ふ、不動峰っ!?」
そこには不動峰の面々が勢ぞろいしていた。
驚いたようなレギュラー陣、でもその表情も
「いーんじゃないっスか」
と越前が言う頃には、挑戦的なものへ変化していた。
「無理を聞いてもらってすまない」
「いや、こちらこそ練習相手が欲しかったから、願ってもない話だ」
大石と橘がお互い挨拶をしている。
他のメンバーはこれからの練習試合のために、ウォーミングアップの準備へと入るところ。
「せ…」
「乾さん、おひさっ」
「乾さんに逢えるの楽しみだったんだよね」
海堂はいつものように乾の元に行こうとしたところ、少し早く、不動峰の神尾・伊武の二人が乾に飛びついた。
「やあ、神尾君に伊武君、元気そうだね」
両脇から抱きつく二人に、乾は挨拶をしながら頭を撫でる。
「乾さん、柔軟一緒にしようぜ」
「乾さんとの柔軟したかったんだ…」
「おい、リズムにボヤキ!!先輩に触んじゃねぇ!!」
その神尾と伊武の言葉にブチッと切れた人一名。
「あーぁ、かおちゃんがキレたにゃ……」
「う〜ん、でも、遅いほうだよね」
「海堂、止めろって」
「他校との揉め事はまずいっすよね」
「まだまだだね」
ズカズカと凄い勢いで走っていき、乾に張り付いている神尾と伊武を剥がし、自分が抱きついて威嚇する海堂を眺める残りのレギュラー陣は若干1名を残し、のほほんとしている。
「ボヤキって僕のこと、ひどいな…そんな変なあだ名つけないでもらいたいな…」
「おい、マムシ。いきなり、人を飛ばすんじゃねぇよ」
ズルズルと不穏な空気をまとう三人。
「マムシ言うなリズム!!ボヤキって言われたくなきゃ、ボヤクな!!」
「別にぼやいてるわけじゃないんだけどな…それよりさ、乾さんに当たり前のようにひっつくのやめてくれないかな…」
「てめぇこそ、リズム言うな!!」
どんどんと険悪になっていく空気。
止めれるものは誰もいないのか、一人も間に入ってくるものはいない。
「アキラ、深司、やめろ」
「海堂、お前もいきなりキレるな」
が、天の助けか、話の終わった橘と大石が間に入った。
「チッ…」
「すみません、橘さん」
「俺らが悪いの?…俺ら何もしてないのにさ…」
「深司!!」
「すんません」
二人のおかげで納まった険悪モード。
その後は、時折、にらみ合いがあったりはしたものの、穏やかなムードで練習試合は終了した。
ただ、その間、お互いが試合に出る以外に、海堂が乾から離れることはなかったが……
「いい試合だった。有難う」
「いや、こちらこそ。いい練習になった」
大石と橘が握手を交わしている後ろ、ひそかに乾攻防戦が行われているそのとき、事件は起った。
「青学はいい選手が多いな」
「え?そうか?」
「ああ、レギュラー並の実力者なんて、9人もいるじゃないか」
「そうだな」
「ね、何か嫌な予感しない?」
「するにゃ」
「確かに、するっす」
「え?タカさんわかります?」
「いや、俺は…」
橘の言葉に普通に答える大石。
そのすぐ後ろで不二・菊丸・越前の三人が臨戦態勢に入っていく。
桃と河村がわけがわからずに成り行きを見守ることにし、海堂は乾を守って神尾・伊武とバトル中。
「レギュラー枠は8つ。実力者は9人、一人あまるよな」
「あ?ああ、そうなるな?」
「今日、見た感じじゃ、充分、大石は部のことを一人でやっていけてるな」
「そ、そうかな?」
「ああ。だからな、一人くれ!!」
「は?橘、何を?」
「ああ、一人なんて言い方は失礼だな。正確には乾をくれ」
「ダメにゃ!!」
「何、いきなり言ってんっすか」
「ちょっと、それは問題発言だよね」
「何でだ?そっちには手塚もいるし、不二もいる。部のことも大石でも充分やってるじゃないか。だから、乾をくれたっていいだろ。うちは俺一人で全てをしてるから大変なんだ!!」
「それは別問題だよ」
「そんなのそっちの勝手っす」
「そうにゃ。乾はうちのにゃ、渡さないにゃ!!」
「ああ、もうどうしたらいいんだ…。手塚、やっぱり俺にここをまとめるのは無理そうだよ」
「大石…」
「タカさん」
「あのね、大石。きっと手塚がいたらもっと凄いことになってると思うんだ」
「……そうだね……」
手塚は乾の親友で乾にことになると我を忘れる。
手塚がいたら、この場はもっと凄いことになっていただろう。
「でも、どっちにしても収拾はつかなそうっすね」
桃城の言葉に、河村と大石は視線を橘たちに戻す。
そこには…
「いいじゃないか、一人余るんだから、乾をくれたって」
「そうだ、橘さん頑張れ」
「乾さんが来てくれたら…毎日、いい思い出来そうだよね…」
「余るとかそういう問題じゃないんだよ」
「一人欲しいなら、桃先輩あげますよ」
「越前、そりゃねぇよ…」
「乾はうちには絶対に必要にゃ!!」
「大仏、ふざけたこと抜かすな。乾先輩は俺のだ!!誰にもやるか!!」
「あ〜、嬉しいんだけど、困ったな…」
とうとう、少し離れたところでバトルをしていた神尾・伊武・海堂の三人までもが参戦を始めていて、どんどんとヒートアップしている7人がいた。
そして、当事者の乾が全然困ってなさそうな表情と声で、のほほんとことの成り行きを見守っている。
「「頼むから、止めてくれ」」
思わず、胃を押さえながら呻く大石と眉を下げる河村。
「う〜ん、でも面白いから。もうちょっとデーターとりたいし」
そう言って、参戦していない不動峰の部員に話しかけていく乾。
「「自分の好奇心を優先させるな〜」」
二人の絶叫が木霊したのはゆうまでもなかった。
PS
明日はルドルフ……
一体、どうなるのだろうか?
そのことを伝えた途端の、不二と海堂…
ああ、間違いなく明日は血の雨が降りそうだよ、手塚。
その晩、大石は鞄の中にいつもの倍の胃薬を入れていたという。
明日はどうなる!?
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