愛し方と愛され方



日曜、朝9:00
大石と河村の家に入った一本の電話。

「もしもし、桃です」

朝だというのに、既に元気な桃城の声に、二人は流石だなぁと感心する。

「相談したいことがあるんで、乾先輩の家に来てください。俺も今から行きます」

言い終えると、返事を聞かずに電話を切る。

「えっ…、おい、桃…」

止めるような河村と大石の声は、ともに桃城の耳にはいらなかった。

「まずいって」

電話を切られた二人は、大急ぎで家を出る。
向かうは乾のマンション。
桃城がチャイムを鳴らす前に、何としてでも桃城を止める必要が二人にはあった。
桃、頼むから乾の逆鱗に触れるなよ…
ある意味、試合をしてる時以上に本気で走っていく、河村と大石であった。


「あっ、タカさん」
「大石」

乾の家のあるマンションのエントラスホール。
息を切らしながら走ってきた二人がばったりと出会う。

「タカさんも?」
「大石もなんだね」

ここに来た理由に思い当たって、息を切らせながらも苦笑する。
そこへ、

「大石?河村?何をしている」

例の如く、祖父から逃げてきた手塚がエントランスに入ってくる。

「手塚」
「おはよう」
「あぁ。それで、こんなところで何をしてるんだ?」
「それがね…」

説明をしようと河村が口を開いたところで、二人はハッとしたように顔を見合わせる。

「「そうだ、桃…」」

ここにきた目的を思い出して、急いでエレベーターに向かう。

「おい…」

何が何だかわからずに置いていかれそうな手塚も、二人を追う。


その頃、そのマンションの最上階
既に乾の家の前に来ていた桃城がそこにいた。
何も知らない桃城は、未だ乾が夢の中とは知らずに、無防備にチャイムを鳴らす。
一度、鳴らしても誰も出てくる気配はなく、そのまま二度・三度と鳴らし始める。

「…出ねぇな」

色んなテンポで、何度も何度も連打する桃城。
チャイムが鳴り終わる前に次を鳴らしたり、少し間を置いてならしたりとしてるうちに、チンとエレベーターがついた音がする。

「「桃城、止めっ…」」
「あっ、大石副部長、タカさん…部長も?」

走って出てきた大石・河村が急いで桃城の手を掴もうとする。
ゆっくりと出てきた手塚も、その様子から二人がここにきた理由を何となく理解する。
バンッ!!
二人の腕が桃城に伸びるよりも早く、乾の家のドアが勢いよく開いた。

「ウゲッ…」

その開いたドアは迷うことなく桃城にぶつかる。
桃城は呻き声を出して、ズルズルと倒れた。

「人の睡眠の邪魔をするとは、いい度胸だな…」

そして、ドアの向こうからは低い怒りを多分に含ませた声がそこにいた四人に降りかかる。

「「乾…」」
「大石に河村か…、人を起しといてどうなるかわかってるよな」

目線を動かして、倒れてる桃城の後ろ、何とかボヤけた視界の中、誰かが立っているのがわかる。
寝起きなのだろう、眼鏡をかけずに裸眼のままここまで走ってきた乾には、外の様子がボヤけた状態でしか見えない為、自分を呼ぶ声で誰がいるのかを判断する。

「「…俺じゃない…」」

乾の寝起きの悪さを知っている二人は、心の中で「桃、ごめん」と謝り、

「「起したのは、桃だ…。俺たちは止めにきただけ」」

可哀そうだが、事実を言って乾の怒りから逃れる。

「桃城?」

二人の口からでた名前に、乾が不審そうな声を出す。

「そこで、のびてるぞ」

後ろで黙って控えていた手塚が桃城を指して答える。

「手塚もいたのか」
「あぁ、邪魔するぞ」

幼い頃から一緒にいる手塚にとっては、乾の朝の機嫌の悪さも慣れたもので、青ざめている大石・河村をよそに、何ら変わることなく乾の横を通って家の中に入る。

「お前らも入れば」

このままここで話してるのもバカみたいに思えて、乾は二人を促す。

「「お邪魔します」」

怒りは収めてくれたらしいものの、まだ機嫌は悪そうな乾にビクビクしながら二人も手塚に続く。

「さて、こいつどうするかな…」

目の前でぶっ倒れてる桃城を見ながら、乾が不適な笑みを漏らす。

「このままほっておいてもいいんだが…」

周りの迷惑になるしな…
仕方ないとばかりに桃城の片足を持って引きずる。

「それは、あんまりじゃないか」
「俺が運ぼうか」

ズルズルと言う音に後ろを向いた二人は、あんまりな桃城の扱われ方に乾の手から桃城を預かる。
それを気にすることもなく乾はリビングにいる手塚に

「シャワー浴びてくる」

と言い残し、風呂場へ直行した。

「「……?」」

浴室へのドアがあいた一瞬、中からシャワーの音が聞こえてきた気がした大石・河村の二人は顔を見合わせる。
そして、二人で玄関に視線を向けると、そこには今いるはずの人数よりも一足多い靴が並べられていた。

((泊まってたんだな))

それが指す意味に気づいた二人は、少し羨ましいなと思いつつ桃城をリビングに運んだ。

「お〜い、桃。大丈夫?」

リビングに運び終えた大石、河村の二人が桃を心配そうに覗きこむ。

「…何とか」

ぶつけて真っ赤になってる額を摩りながら、ソファに凭れる。

「あの、乾先輩って…」
「乾はね、夜遅くまで起きてるから、休みの時は昼くらいまで寝てるんだよ」

桃城の言葉を引き取って、河村が説明する。

「元々、平日であろうが平気に夜更かしするから、万年寝不足でね。人に起されるのが大嫌いなんだよ」
「その上、寝起きが悪いから、無茶苦茶怖いんだよ」
「だから、俺たちが乾に用があるときは、乾が起きてそうな時間を見計らって来るんだよ」
((まあ、英二と不二は、海堂拉致して朝から行くけど…))
「本当なら、たぶん乾の報復が来ると思うけど…」
「報復…っすか」

大石の言葉に、桃城の顔が一瞬にして青ざめる。

「何とかならないんっすか?」

恐怖のあまり、涙を溜めて縋ってくる。

「あのな、桃。乾の逆鱗を解くには、方法が一つしかないんだよ」

桃城には嫌な方法だろうけど…と大石が続ける。

「何でもいいっす。乾先輩を怒らすほうが怖いっす」

表向き、この青学テニス部で最も怖いとされてるのは手塚だろうが、実際のところ、ここの部員が絶対に怒らせたくないと思っているのは、不二・乾の二人だった。
そして、桃城はその一人、乾の逆鱗に触れてしまったのだ。

「たった一人だけ、乾の怒りを絶対にかわない人物がいるんだが…」

そいつに頼めば、報復はなくなると思うんだけど…頼んだ所で、彼が頼みを聞くかと言えば…
否…だろうな…

「それってもしかして…」

大石が指している人物に気づいたのだろう桃城が絶望感を味わいながら聞いてくる。

「海堂だよ」
「乾は、海堂にだけは甘いから」

海堂のお願いなら、聞いてくれると思うんだけど…
すまなさそうな表情で、頑張れよといわれても、桃城には嬉しくもない言葉であった。

「問題ないだろう」

それを聞いていた手塚が、流石に哀れに思えてきたのか、口を開く。

「乾の場合、海堂がいるだけで、寛容になるからな」
「部長…?」

何のことだかわからない桃城が、不思議そうに手塚を見つめる。

「海堂がいるから、問題ないだろうと言ってるんだ」

そう手塚が言うのとほぼ同時に、リビングのドアが開く。

「…はよございます」

Tシャツにハーフパンツという姿で、頭にタオルを被せて片手で適当に拭きながら入ってきたのは海堂で

「「おはよう」」
「あぁ」

固まって海堂を凝視している桃城以外の三人が、挨拶を返す。
そして、続いて乾も入ってきた。
いつもよりレンズの薄い眼鏡をかけて、シャツに綿パンというラフな姿の乾がソファに座る。

「乾先輩、今日は本当にスミマセンっした」

乾が座ったのと同時に、桃城が乾に謝る。

「俺、先輩が寝てるの知らなくて」
「あぁ、もういいよ。でも、次はないと思えよ」

やっぱり海堂がいるせいで寛容なのか、呆れたように溜息を吐く。

「先輩も、ポカリでいいっすか?」

そこに、幾分まだ眠そうな声でポカリを持って海堂が戻ってくる。

「ああ、サンキュ」

乾がそれを受け取ると、海堂は乾の隣に座り乾の肩に体重を預ける。
まだ眠いのだろうか、目をゴシゴシと擦りながら朝早くからやってきた来客を眺める。

「どうしたんすか?」

海堂も乾の寝起きについては、自分がそれを体験したことはないけれど、彼らの話で知っている為に、先輩たちがこんな時間からやってくることを不思議に思う。

「そういや、用件を聞いてないな」

海堂の言葉に乾も思い出したように彼を見渡す。

「俺たちも、桃から電話貰ってさ…」
「乾の家に集合って聞いただけだから、知らないんだよ」
「俺は、偶然居合わせただけだぞ」

三者三様の言葉が飛び交う中で、言い出した桃城は黙って何かを凝視してる。

「手塚は、聞かなくてもわかるし」

どうせ例のアレだろ?
手塚の言葉に、乾が苦笑を浮かべる。

「…桃?」

乾と手塚が話している間、黙っている桃城に大石が心配そうに声をかける。

「どうかしたの?」

河村が桃城を覗き込む。

「海堂…、泊まってたんすか?」

フルフルと体を震わせて、突然、叫びだす桃城に、他の面々は唖然と桃城を見る。

「泊まってるってことは、やっぱキスとか…その…アレとかやりたい放題なんっすよね!!」
「アレって…」
「桃…」

真っ赤になって、どもる大石・河村。

「まあ、そうだな」

しれっとした口調で、答える乾。

「桃城、校庭…」

例の言葉を手塚が言おうとした、その時

「てめぇ、何をいきなり言い出しやがる!!」

完全に覚醒したのか、海堂が真っ赤になって叫ぶ。

「うっせぇんだよ、マムシ。俺は、乾先輩に相談があるんだ」
「誰がマムシだ、誰が」

桃城の言葉にキレた海堂が、テーブルから身を乗り出して桃城に掴みかかろうとする。

「こら、危ないから止めなさいって」

が、後ろから乾に抱きかかえられてソファに戻らされてしまう。

「う〜」

一発もしくは、何発も殴らなきゃ気が済まないらしい海堂は、乾の腕の中でジタバタと暴れる。

「わかったから、落ち着けって」

難なく海堂を押さえ込んで、宥めるように髪を撫ぜる。

「ん?まだ濡れてるじゃないか」

髪がまだ水滴が指につくほど濡れていたのに気づいた乾は、海堂の首にかけられたタオルを取り、海堂の頭を優しくふく。
その感触に満足したのか、海堂は怒りを納めってか忘れ?て、乾の腕の中で大人しくなる。
それを見た乾が、クスッと笑った後、桃城に向き直る。

「桃も、海堂が嫌がることは言うなよ」

この二人のケンカは日常茶飯事で、一種のジャレあいみたいに思っている乾だが、一応、海堂の嫌がることはして欲しくないので釘を指しておく。

「俺は、事実を…」

だが、桃城にそれは通じてないらしく、ムッと口を尖らせて口を開く。

(((バカ、桃城、それ以上は…)))

それを見ていた残りの三年、三人が心の中で桃城に突っ込む。
確実に部屋の空気が下がった気がしたのは、はたして自分たちだけの気のせいなのだろうか?
文句を言う桃城に冷や汗を流しながら、冷えた部屋の中で凍りつく彼らだった。

「桃城…」
「はい?」

いつも以上に淡々とした冷たい声に、桃城が乾を見る。

(ヤバッ…)

咄嗟に、桃城はそう感じた。
が、時は既に遅く、薄いレンズの向こう、乾の浮かべた微笑は氷の微笑と言う言葉が似合いそうなもので、

「野菜汁と、ペナル茶の特製ブレンドでもご馳走してやろうか?」

折角、一度は許された報復を自らの手で受け取ることになっていた。

「お、俺が悪かったです、スイマセンした」
(((さっきまでの、話を聞いてたら予想できることなのに…)))

乾の前で、土下座して平謝りしてる桃城を見ながら、三人は深い溜息を吐く。

(((海堂だけが乾の怒りを解かすことが出来るんだから、逆に、乾の怒りをかうのも、海堂に関することだってわかりそうなものだろう?)))

大事に、大事にしてる存在に危害を加えるような人間を、あの乾がほっとくわけないのに…
互いに悪意があるわけがないことを知ってるからこそ、通常は許されてるだけなのだ、桃城は。
よきライバルとなる存在だからこその、ケンカだと認識されてるからこそ、桃城は海堂と殴り合いになろうとも、乾の制裁を受けてないだけなのに…

(((いい加減、乾の性格を見抜けよ)))

青学一の曲者も、乾の性格までは見抜けていないようだった。

「どうしようか?」

目の前で謝り倒す桃城を一瞥して、乾は横で気持ちよさそうに擦り寄ってくる海堂を見る。

「もう、鬱陶しいし、いいっすよ」

乾に髪の毛を拭いてもらい、ご機嫌になったのか海堂が面倒だとでも言いたげな口調で返事する。

「そう。じゃあ、もういいよ桃」

海堂の言葉に、乾もあっさりと従う。
それに心底ホッとした様子の桃城は、しばらくは海堂がムカつくことをしても我慢してやろうと思う。(彼の性格上、思うだけってか、実行に出せないでしょう)

「で、話ってなに?」

朝の電話から、今まで、ようやく本題に入れそうな事実に、大石と河村がホッとする。
結局は、この二人もここにいる意味がわかってないのだ。

「それなんっすけどね、どうやったらキス出来ます?」
「「「「「はぁ?」」」」」

至極真面目な桃城に対して、他の五人は何が言いたいんだ?というような声を出す。

「越前が、キスさせてくんないんっすよ」

そんな反応に気にせずに、桃城は話を続ける。

「俺としては、もう少しいい関係になりたいんっすけど」

モジモジと少し紅くなりながら話す桃城に、

「ようするに、越前としたいってこと?」

乾が核心をつく。

「うっ、まあ、そうなんすけどね…」

情けない声を出す桃城。

「越前の奴ね、全然、触らせてくんないんっすよ。一応、付き合ってるのに、キスもさせてくんないんですよ」

開き直ったのか、半ば叫ぶように桃城が話す。

「先輩がたはどうなんっすか?やっぱ、大石先輩も、タカさんもしてます?」

直球で聞いてくる桃城に、大石と河村は真っ赤になる。

「し、してるだなんて…」
「そうだぞ、桃。もう少し、言い方ってもんが…」
「どんな言い方したって、結局は一緒だと思うけど?」
「「乾〜!!」」
「キスはしてますよね?」

言いよどむ二人に、桃城は質問を変える。

「してるっていうか…」
「されてるっていうほうが、しっくりくるっていうかね…」

顔を見合わせて、乾いた笑みを漏らす二人。

「してもらってるんですか?羨ましいっすよ」

二人の言葉に、滝のような涙を流し胸に拳をあて握り締める桃城。

「そうか?英二なんて、場所や時間をわきまえずに強請ってくるから、結構、困るぞ?」

桃城の様子に圧倒されながらも、話す大石。

「不二は、そういうことはわきまえてくれるけど、結構、大胆かな?俺のほうが、どうしていいか困るよ」

ポリポリと紅くなった頬を掻きながら河村が呟く。

「贅沢っすよ!!二人とも、そんな恵まれた環境だってのに」

二人の言葉を遮るように、桃城が叫ぶ。

「でもな、桃。所構わず抱きつかれてみろ、こっちが冷や冷やするだけなんだぞ」

いつでもどこでも、気分きままに大石に張り付く菊丸に、良識人の大石の心労は並じゃない。
やはり付き合うにしても、それなりの一般常識などを考えてしまうからである。

「それにね、俺たちまだ中学生なんだからさ、そこまで急がなくってもいいと思うんだよ?」

どうにも気が弱く照れ屋な河村にしてみれば、積極的な不二の行動は刺激が強すぎるようだ。
もう少し、ゆっくりと順を追って進みたいらしい。

「じゃあ、この人たちはどうなるんっすか?」
「「俺たち?」」

思わず、人の話も聞かずにイチャついてる乾と海堂を指す桃城に、二人が声をあげる。

「「俺と、乾を比べないで欲しいな…」」

桃城の言葉に、大石と河村は苦笑する。

「どういう意味かな、それ?」

その言葉に、乾が反応する。

「「いや、深い意味は…」」

乾に聞かれ、二人は凍りつきながら誤魔化す。
勿論、そんなことで誤魔化されるような乾ではないんだけど。

(後で、菊と不二に言ってやるか…)

きっちりと、二人への報復を算段していた。

「乾先輩はどうなんですか?」

大石と河村に聞いても仕方がないと思ったのか、桃城が乾に向き直る。

「俺?俺は好きなようにしたらいんじゃないかと思うけど?」
「好きなように?」
「そう、付き合い方なんて、人それぞれのスタンスがあるんだから、自分たちにあった付き合いかたってのを見つけたらいいんじゃないか?」

乾の言葉に、他の五人が意外そうな視線を向ける。

「何だよ?」

その視線に気づいた乾が、苦笑いを浮かべる。

「珍しく、まともな意見だな」

誰もそれ以上のことを口に出せなかった状況で、手塚がサラリと言ってしまう。

「手塚、ケンカ売ってる?」
「何を言う、褒めてるんだぞ」

真面目な顔で話す手塚に、乾が脱力する。

((((乾(先輩)を脱力させることが出来る人って、手塚(部長)くらいなものなんだろうな))))

その様子を眺めていた全員の意見だった。

「俺、かなり長い間、お前と友達やってきたけど、手塚のそういうとこは未だに読めないよ」

乾いた笑いを漏らしながら、話す乾に

「そうか?お前でもよめないものがあるんだな?」

俺のことなら、何でもわかってると思ってたぞ。
そう呟く手塚に、

「いくら俺でも、お前のその天然っぷりはデータを取れないよ」

と、呆れたように返した。

「どういう意味だ?」

が、心底わからないという声で、手塚に問いかけられ、

「深い意味はないさ」

疲れたように、乾はその話を無理やり打ち切った。

「人にあった、付き合いかたっすか…」

二人の漫才(なのか?)の後、しばらく押し黙っていたが(どうしていいのかわからなかった)、桃城が先ほどの乾の言葉を反芻する。

「じゃあ、俺と越前にも、俺たちにあった付き合いかたってのがあるんっすよね」
「そうだよ、桃」
「そうそう、そんなに急がなくてもさ、時がくれば少しは進展するよ」

前向きになってきた桃城に、河村と大石の二人が励ますように声をかける。

「そうっすよね、今は嫌でもいずれは越前もその気になってくれますよね」
「うん。こういのはお互いの気持ちが大事だからね」
「越前が大事なら、待ってあげることも重要だよ、桃」
「はい、わかりました。それじゃ、俺越前とこ行きますんで」

大石と河村に励まされて、完全にいつもの状態に戻った桃城は、生意気なハニーに会いに行こうと、そそくさと挨拶をして帰っていく。

「「頑張れよ」」

桃城の背中にエールを送る二人に、

「河村、大石」

乾が声をかける。

「何、乾?」
「伝言、お前らに」

乾が携帯を開いて、二人にめがけて投げる。
それを壊さないように河村がキャッチして、二人で覗き込む。

「「あっ…」」

そこには、彼らの大切な恋人たちからのメッセージで

「「そういえば…」」

桃城のドタバタで忘れてたけど、この二人、本日はハニーたちのお言葉により、Wデートする予定だったのだ。
待ち合わせ時間は…

「「まずいよ」」

目に入った時計と、約束の時間との差を考えて、二人は大慌てで乾の家を後にした。

「ごめんね」
「また、今度な」

彼らの見たメールには、大幅に遅刻している二人に対しての、愛のこもった恐ろしい言葉だった。


「いいのか、乾?」

嵐が去った後、自分用の湯飲みでお茶を飲む手塚が、乾に声をかける。

「何が?」
「桃城だが…」
「あぁ、あれね」
「真実を伝えてやらんでもいのか?」
「越前のアレっすか?」

手塚の言葉に、海堂も納得したように会話に入る。

「あれは、俺たちが言うよりも、本人の口から聞いたほうがいいだろ」
「ふむ、それもそうだな」
「あれは、ちょっと桃が可哀そうっすね」

ライバルである、海堂ですら少しは同情してしまうアレとは…
ある日の部活前に、菊丸と不二が越前に聞いた何気ない一言
その時、部室にいたのが、その三人に、乾、海堂、手塚の六人だったために、大石、河村、桃城の三人は知らない真実。
3-6コンビが聞いたのは

「どうして、桃とキスするのが嫌なの?」

という、一言に

「桃先輩、キス下手っすから」

と、のたまわり、

「それに、どうせ桃先輩、初めてでしょう?俺、痛い思いしたくないんすよね」

と、爆弾発言をかました王子様だった。
帰国子女の王子様は、桃城以上に大人だったとさ。

Fin