「はじめまして」
キチンと挨拶した俺を、キョトンとした顔で見つめる君。
「……初めまして」
それでも、キチンと挨拶を返すのは、君の家の躾の良さなのだろうか?
今までで初めての反応をノートに書き写す。
「で、君たちは仮入部の日に、何で喧嘩してるのかな?」
今は仮入部の受付中。
しがない2年レギュラーは都合よく受付に借り出されている。
副部長の手塚はいても邪魔なので、部長と一緒に通常の練習のメニューなどを頑張ってもらうことにしている。
そんなわけで、ここにいるのは俺と不二と大石の三人だけ。
三人で横に並んで沢山いる新入生の仮入部の受付をしている時に後ろのほうで怒鳴り声やら騒がしい声が聞こえてきたので三人で様子を見に行ったら、元気よく喧嘩をしてた新入生がいた。
「乾、不二、お前らも手伝ってくれよ」
真っ先に喧嘩を止めに入った大石だったが、二人とも中々の力らしくて苦戦していた。
その大石からのヘルプに仕方なく動いたのは俺だけで、まあ不二が動くわけないんだけどね。
それで、冒頭に戻るというわけだ。
「えらいね、ちゃんと挨拶できるんだ」
喧嘩しているのはツンツン頭の男の子とサラサラ髪の男の子。
挨拶を返してきたのは、サラサラ髪の子のほうだった。
「乾…」
「簡単に止めたね」
大石の情けない声と不二の面白そうな声が聞こえた。
「血が出てるね、手当てしようか」
「え?」
「じゃあ、後はよろしく」
掴みあいになった時にでも怪我したのだろうか、そのサラサラ髪の子のほうは血が出ていたので、ヒョイと抱き上げて保健室に連れて行くことにした。
丁度、いい加減飽きたことだったし。
「あ、あの…」
「うん?」
俺の頭上で困ったような声を出すけど、それ以上言えないのか言葉が続かない。
言うまで放っておくタイプなので、そのまま俺はその子を担いで保健室に向った。
「先生?いないか」
無人の保健室。
仕方ないから、その子をイスに座らせて手当てをしようとする。
「あ、俺…自分で…」
「いいから、黙ってやられてな」
「…っす」
「そういや、君の名前…」
「…海堂っす」
「俺は乾、よろしくね」
「っす」
「何で喧嘩したの?」
「…その…あいつが…」
言いにくそうに口を開く海堂。
「言いにくいなら、言わなくてもいいよ」
「あっ……っす」
「喧嘩するなら勝たないとね」
「え?」
「ん?」
「止めないんっすか?」
「何で、男の子でしょ?喧嘩くらい日常茶飯事だよね?」
「…っすかね?それに怒らないんっすね?」
「怒るってもね、事情もわかんないし怒りようがないかな。それに元気があっていいんじゃないかな?」
喧嘩くらい、実はどうでもいいわけで…
後輩の手前、そんなこと言わないけどね。
「それに」
「それに?」
「俺もこうして堂々サボれるわけだしね」
口元に笑みを浮かべて継げる言葉に唖然とする海堂。
「内緒ね」
「………ハイ」
そっと人差し指を海堂の口元で立てれば、微かに綻んだ口元が笑みを浮かべる。
「先輩って、変わってますね」
「そうかな」
「変わってるっす」
さっきまでと違い和らいだ表情で話す君。
「うん、海堂。笑ってるほうが可愛い」
「え?」
「さっきまでずっと、緊張してたのかな?俺のこと睨んでたよ」
「スミマセン」
「いいよ、別に怒ってるわけじゃないんでしょ?」
「っす。やっぱ、先輩変わってる」
「どうして?」
「俺…目つき悪くて…別に睨んでないのに…いつも睨んでるって…」
なるほど、あれは無意識だったらしい。
中々、新しい発見に愛用のノートが傍にないことが残念でならない。
「だから…先輩みたいに…」
「そっか、海堂はこんなにいい子なのにね」
「え?」
「今までの奴らは、勝手に誤解しちゃって海堂のいいところを知らずに終わって、残念だったね」
「先輩…」
「海堂は話すのも苦手かな?」
「っす」
「だろうね。海堂も変わりたいのかな?」
「はい」
「じゃあ、俺も手伝ってあげるから。少しずつ、少しずつ、頑張っていこう」
「はい」
「とりあえず、笑ってみること。笑ったら、海堂、かなり可愛いよ」
「そんなこと、言われたの初めてっす」
「それは、皆が海堂の可愛い笑顔を見たことないからだよ」
俺の言葉に真っ赤になる可愛い後輩。
これは中々、これから楽しめそうだと思わせてくれる。
「でも、少し勿体ないから、もう少しだけ笑った顔を見せるのは俺だけってことで」
この感情がどこから来るのか知らなかった春。
俺と君が初めて話した日。
二人の初めましては、忘れることのない思い出になった。
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