秘めごと  <モノカキさんに30のお題 02>



海堂と俺が出逢うまでの、俺の知らない海堂の年月。
気にならないと言えば嘘になるけど、それでもどんなに願ったって、その間の海堂といることは出来ないから。
隠しごとはしない。
何かあれば、何でも話す。
お互い一人で抱え込んでしまう癖を持っているから、相手を心配させないために、これからもキチンと付き合っていくために作った決まりごと。
それを破ったことはないし、破られたことはない。
秘密にしてることなんかないけど、それでもお互いが出逢う前のことまで1〜10まで話せるわけはない。
だから、それを秘めごととは思わないんだけど……

「きっちりと吐きやがれ」

海堂も同じだったはずなんだけど、何故か今日になって海堂は俺の過去を気にし始めた。
正確に言えば、俺の過去の女性遍歴と言うか、男性遍歴と言うか…まあ恋愛だとか付き合いだとか…ぶっちゃけるとセックスに関することにだ。

「吐きやがれ…って、別に…」

何でか今、俺は自分のベッドの上で海堂に馬乗りに乗られている。
これがもっといい雰囲気の時だとかなら嬉しいことなんだけど、この状態はどう考えてもよくない状態だ。

「アンタ、今まで誰と付き合ってたんだ。綺麗に全て吐け」
「吐けって言われてもさ…、全部、海堂に逢う前の話だし、海堂だって…」

海堂にだって初恋の一つや二つくらい…
付き合ったり、キスしたり、セックスしたりというのは俺が始めてだって知ってるけど、それでも初恋くらいは経験してるだろうし、だからってそこまで聞いていいものかとも思うし、気になるけど聞いたら余計に腹が立ちそうで聞いていない。

「俺はアンタが初恋だ!!」
「そうだの?奇遇だね、俺も海堂が初恋なんだよ」
「そんなこたぁ知ってる」
「そっか、じゃあ…」
「俺が聞きたいのはそんなことじゃなくて、アンタが好きでもないけど、付き合ったことのある奴のことが知りたいんだよ」
「何で今頃?」

そう一番の疑問はソコ。
今になってようやく海堂も俺に興味を持ってくれたのか?なんて、余所様の所の俺が思うようなことは言わない。
そういう意味では、俺は自惚れてていい。
うちの海堂はそこらじゃ類を見ないほどに、俺にベタ惚れだ。
だから、疑問はソコなんだ。
付き合った当初にそれを気にされるならわかる。
でも、今までは少しも言えば御幣があるが、そんなに気にしなかった。いや、相手の名前だけはだが……
それ以外のことは既に包み隠さずに白状させられた。
いつからそういうことをしたのかとか…どれくらいの人数とか…なら。
さて、何が海堂にそれを気にさせるようになったのか…データーにないな。

「海堂?」
「アンタ…」
「ん?」
「アンタ、氷帝の……」

ヤバい…
咄嗟にそう思った。
実際に背中に冷や汗が伝うのを止められなかった。
何でだ?何で海堂が知ってるんだ?
よりにもよって、氷帝とは……


「穴戸と付き合ってたんだってな!!」


俺が先輩に出逢う前までの、俺の知らない先輩の日々。
気になるし、どう考えても先輩は色々とその…慣れてたから、たぶんそういう経験は沢山してたのだろうって…
だから、そこのところは付き合い始めた当初に全部白状させた。
ただ、それは初めてはいつかとか、何人位と付き合ったのかとかいうことで、流石にその一人一人についてまでは聞く気にもなかったし、興味もなかった。
そうだ昨日、アイツに会うまでは。
アイツ…この前の氷帝戦で戦った鳳。
何を考えてんだか…きっと何も考えてねぇんだな。
自分とこの部活が終った後に、青学にやってきた鳳は俺以外に誰もいないコートを見て唖然としていた。

「あ…の、海堂君…」
「……」
「青学は練習がないの?」
「……何時だと思ってんだ?」
「え?」
「終ったに決まってんだろ」
「ああ!!」

俺の言葉に驚いたように声をあげる鳳。
こいつは本当のバカかもと俺が思っても仕方ないことだと思う。

「そっか、そうだよね。自分とこの部活が終ってるんだから、他の学校だって終るよね…」

シュンと項垂れる鳳。
何しにきたんだか知らねぇけど、俺は練習してるのを放り出してまでコイツの相手なんざしてぇとは思わねぇから無視して練習を再開しようとしていた。

「じゃあ、乾さんもう帰ったよね…」
「……」
「乾さんの連絡先とかわからないかな?」

再開するつもりだったが、辞めた。
話が乾先輩のこととなると別だ。
どういう理由で先輩に逢いたいのかはわからねぇが、俺の先輩に逢いたいとはいい度胸じゃねぇか。

「何のようだ?」
「え?」
「乾先輩に何のようだって言うんだよ」
「え…と、ちょっと聞きたいコトがあったんだけど…」
「話せ」
「え?」
「いいから、何を聞きたかったのか話せつってんだよ」
「でも」
「とっとと言え!!」
「でも、乾さんのプライベートなことだから…」

いいにくそうな鳳。
コイツ、俺の先輩を狙ってんじゃねぇだろうな…

「言っとくけどな、乾先輩は俺のだからな」
「は?」
「先輩に手なんか出してみろ、地獄の果てまで追っかけてぶっ殺す」
「…もしかして、乾さんと海堂君って付き合ってる?」
「それがどうした」
「そっか…それじゃ話してもいいかな」

そう言って、ベラベラと話を始めた鳳。

「……嘘じゃねぇだろうな?」
「本当だよ。俺だって今日知ってびっくりしたんだから」
「出所は?」
「忍足先輩だから間違いないよ」
「……」

確かに忍足さんが出所は信じて良さそうだ。

「わかった。乾先輩は俺がきっちりと見てるから、てめぇんとこの穴戸は…」
「大丈夫だよ、穴戸さんは僕がしっかりと見てるから」
「ならいい」
「じゃあそういうことで、乾さんによろしく」
「ああ、穴戸にもな」
「勿論だよ、乾さんには海堂君という恋人がいるから、もう近づかないで下さいねっって伝えとくよ」
「こっちも穴戸と鳳は出来てるから近づくなって釘を指してやる」

言いたいことを言って鳳はすっきりした顔で帰っていった。
そして俺は…
問い詰めるために、先輩の家に向かった。


「誰に聞いた?」

うろたえた乾の声。
珍しいもの聞けたなとどこかで冷静な声を海堂は聞いた気がした。

「鳳っす」
「鳳君!?」
「出所は忍足さんらしいっす」
「侑…か…」

失敗したなと乾の心情を表すならその言葉が一番だろう。
氷帝の忍足と乾…それに手塚を加えた3人は幼稚園からの付き合いがある。
故に、乾のそこらへんの関係のことも忍足には既にバレていた。
だからと言ってまさか、海堂が穴戸とのことを聞きつけてくるとは思っていなかったし、昔のことでお互いに何でもないと思っていたために、忍足に口封じをするのを忘れていたのだ。
この調子では、穴戸も鳳に聞いて忍足に対しての報復を考えていることだろう。
後で野菜汁のレジピでも穴戸に送ってやろうと思った乾だった。

「昔のことだよ」
「当たり前だ」
「お互い、青学と氷帝だって事も、テニスをやっているってことも知らなかった頃の話だ」
「何処で知り合ったんっすか?」
「繁華街」
「……」
「お互い、むしゃくしゃしてた時期で気が合ったから、気まぐれで付き合ったけど、別に恋愛感情はなかったから、そういう時期を過ぎたら自然と別れた」

こうなったら包み隠さずに話したほうがいいと判断した乾は、既に忘れていた穴戸との出逢いを海堂に語って行く。

「その後、テニスの大会で再開した時はお互い驚いたよ。それで、手塚や侑には穴戸とのことバレたけど。お互い何とも思ってないから別にわざわざ二人で話すなんてこともしなかったしね、この前の試合だって、そんな私情は一つもなかったよ」
「…それだけっすか?」
「え?うん、それだけ」
「他には?」
「他って穴戸とは…」
「じゃなくて、他にも付き合ってた奴いるんっすよね」
「それはまあ、でも…」
「話せ。っつか、まだいるだろ?」
「何が?」
「穴戸以外にもテニス関係で付き合ってた奴」
「……いないよ」
「嘘付くんじゃねぇ」

いつもは鈍い海堂。
何故か、こういう時にだけ彼の勘は冴え渡る。
これぞ、野生の勘っていうやつかな…
馬乗りに乗られたまま海堂に詰め寄られている乾の頭の中はそんなことをデータに取っていた。
余裕があるんだか、ないんだか…

「誰だ、言え!!」
「……」
「どの学校だ、不動峰か?」
「いや、そこは今年逢ったとこだし」
「…ルドルフじゃねぇだろうな?」
「それはないから…あ、でも…」
「でも?」
「いや、何でもない」
「なくねぇだろ、吐け」
「いや、木更津は…今回初めて逢ったし…」
「まさか、現在進行形で浮気してんじゃねぇだろうな」
「してない!!断じてしてない。単に興味があったから逢って話した位だよ」
「いつ?いつしたんだ!!」
「都大会の後くらいかな」
「偵察は我慢すっけど、個人的に逢うんじゃねぇよ」
「でも、データー…」
「喧嘩売ってんっすか?」
「いえ、個人的には逢いません」

ギロっと睨みつける海堂に、素直に詫びる乾。
既に立場逆転になってるのを本人たちは気付いているのだろうか?

「で、他には?」
「他は…」
「山吹…」

瞬間、乾の顔がわずかだがこわばったのを海堂は見逃さなかった。

「山吹の誰だ?」
「何のこと?」
「なっくれんじゃねぇ。山吹…あのラッキー野郎じゃ…」

じっと乾を見ながら話せば、ギクッ・ギクッと音がしそうな表情になる。

「あのバカに負けたラッキー野郎か…」
「昔のことだってば。今は何でもないし。あの時だって、千石のラッキーの秘密を知りたかったっていうか…」
「そんな理由で付き合ってたってことは、氷帝は穴戸だけじゃなさそうだな」
「……」

わずかに視線を逸らせる乾。

「誰だ?あのカバか?」
「いや、2年は…海堂に逢ってからだし…」
「ってことは3年。あのアクロバティックじゃねぇだろうな…」
「いや向日君には敵視されてるからね。あの子も興味深い対象ではあるんだけど…」
「じゃあ、あの寝てる奴か?」
「……」
「奴なんだな」
「………はい」

小さな肯定の返事がかろうじて海堂の耳に届く。

「後、サル山のボスは?」
「サル山のボスって跡部?それはちょっとひどいよ?」
「奴もなんだな」
「………」
「この調子じゃ全国言っても…」
「……海堂、そろそろ……」
「いるんだな」
「…お腹すかない?」
「綺麗に洗いざらい吐いてもらうまで、逃がさねぇからな」

完全に目が据わっている海堂。
乾はもう渇いた笑いしか出てこない。
この日、乾は全てを吐くまで寝かせてもらうことはおろか、食事も風呂も何もかもを取り上げられていた。
勿論、海堂も同じで乾が正直に全てを話し終えるまで、乾に馬乗りのったままだった。

「この調子じゃ青学内でも…」
『ギクッ…』
「出してんのか!!」
「もう時効だって、許してくれ」
「ふざけんな、絶対に許さねぇ」

そして乾は他校の偵察に二度と一人で行くコトが出来なくなったとか…
それどころか、青学内でも動向も逐一海堂に報告するようになったとか…
自分の過去を心の底から後悔した乾だった。

Fin