鬼  <モノカキさんに30のお題 03>



乾はマッサージが上手だ。
とってもとっても気持ちいい。
いつもいつもしてもらってばかりは悪いので、今日は海堂が無理を言って、乾のマッサージをすることになった。
結果……

ベキボキグキッ!!

小気味いい音が鳴り響くはずだった、この瞬間
響いたのは、なにやら危なげな音

「……先輩?」
「…………〜〜〜〜〜っ」

音が気になって、海堂が乾の顔を覗きこむ。

「先輩!?」

覗き込んだ乾の顔は、いつもの白いお肌を通り越して青白くなっていた。

「先輩、先輩!!」

ぶっ飛んじゃうほど驚いた海堂。
思わず、乾の肩を掴んで思いっきり上下に揺すってしまう。

「先輩、大丈夫っすか?」
「………ぃ」
「先輩?」
「やば…ぃ…」
「わ〜、先輩、死なないで〜」

ただでさえ、さっきのマッサージで真っ青になっている乾に海堂はその上に、上下に乾をガクガクと強い力で揺さぶるものだから、余計に青くなっていく乾。
既に血の気が完全に引いてしまって、力の入らない指で何とか海堂を止めようとする乾の姿に、海堂は乾が死んでしまうと…泣きながら、さっきよりも強く揺さぶるという、殺しかねない暴挙に出てしまった。

「海堂…」
「スミマセン」

何とか、生命は保つコトができた乾。
意識も痛みも正常になり、隣で泣きながら様子を窺う海堂に声をかける。

「マッサージはもういいから」
「スミマセン」
「怒ってないから、そんな顔しない」
「スミマセン」
「気をつけてくれたらいいから」
「はい」

それで終りだと、乾は思っていた。
だが現実は…海堂はそう甘くなかった。
海堂は深く、海よりも深く反省した。
結果…

「一杯練習して、完璧にしよう」

と、傍迷惑な誓いを立ててしまっていた。
そして、その誓いの被害を受けるのは、乾ではなく、その練習台に勝手に組み込まれてしまった青学テニス部の海堂の同級生及び下級生。

「荒井」
「う、うぎゃー!!」
「林、池田」
「しっ…ぬ…」
「うげっ…」
「そこの一年トリオ」
「うわー」
「ひっ」
「ぎゃっ」
「越前」
「絶対に嫌っす」
「バカ桃」
「てめぇ、俺を殺す気だろ…」
「貴様が死んでも、誰も困らねぇ」

日々、1.2年の部員の悲鳴が聞こえるテニス部部室。
一番の被害は、ライバルでもある桃城。
理由はバカなために、やられたばっかりの悪夢を忘れてすぐに買収されてしまう、大馬鹿加減と、桃なら死んでも誰も悲しまないし困らないだろうと本気で海堂が思っているからだった。
そんなわけはいくらなんでもないだろうに……

「本当にいい加減にしろよ」

一回されたら懲りろよ。と、思わず突っ込みそうになるくらいに、また犠牲になってしまった桃城。
痛みすら麻痺し始めた体を擦りながら、海堂を止める唯一の人物へと近寄る。

「乾、先輩…」
「桃?どうした、死にそうな顔して?」
「どうしたじゃないですよ?あの野郎を何とかしてくださいよ〜」
「あのやろうって?」
「マムシに決まってるじゃないですか〜」

あいつ、絶対に俺を殺す気ですよ〜
と物騒な台詞で泣きついてくる桃城を、何とか宥め事情を聞く乾。

「それは悪いことをしたな、桃」

桃城から話を聞いた乾は、スマナサそうに眉を下げる。
海堂は3年の知らない場所で練習をしていたために、乾は今、桃に話を聞くまで知らなかったのだ。
海堂は隠して練習して、驚かそうと思っていたので、乾にバレないようにしていた。

「もう、俺たちいつ殺されるかと…」
「気持ちはわかる」

桃城の言葉に、あの日の悪夢を思い出し、乾はとっても気持ちを込めて頷く。

「海堂には俺から言ってみるな」
「先輩、有難うございます」
「………別れ話っすか?」
「「海堂っ!?」」

あまりにも桃城が哀れに思えて、乾は自分の責任で持ってキチンと海堂を止めようと桃城に答えた。
その時、低い怒りに震えた声が2人に被さる。
驚いたように顔を見合わせた2人が見たのは、暗雲を背負いこんだ海堂だった。

「俺、別れませんよ」
「な、何の話だ?」
「よりにもよって、こんなバカと浮気なんて…」
「こんなバカってどういう意味だ!!」
「桃、それどころじゃないから」
「そのバカの何処がいいんっすか?」
「だから、何の話だ?」
「そのバカと浮気してたんでしょ」
「はぁ?」

海堂の言葉に、乾も桃城も素っ頓狂な声をあげてしまう。

「一体、何処がどうなってそんな話になったんだ?」
「今、先輩とバカで話いたじゃないですか!!」
「今?マッサージの練習台にするのを止めて欲しいって話をしてたんだけど」
「だって、いつ殺されるんじゃないかって」
「そりゃ、お前のマッサージを受ければ誰だって思うだろうが」
「うっさい、てめぇは黙ってろ!!」
「海堂」
「…だって、俺には先輩から話すって…」
「マッサージの練習の原因て俺だろ?だから、俺から話すのが無難かなって」
「でも、でも……大体、てめぇが先輩に近づくのが悪いんだろうが!!」

乾に諭されて、誤解だとはわかったものの、基本的に乾にベタ惚れな海堂からしてみれば、誰かが乾に近づくのすら許せないわけで…
いきなり逆ギレを起して、持っていたラケットを迷いなく桃城に投げつけ、いつものように場外乱闘が始まってしまった。

「海堂、桃…」

止めようと一度は腕を伸ばした乾だったが…

「海堂の機嫌損ねると後が大変だしな」

自分が楽をするために、乾は桃城を犠牲にすることにしたのだった。
そして、2人の乱闘が終るまで、乾はついでにと体力・腕力のデーター更新を被害の及ばない安全な場所で取り続けていた。


Fin