暑い夏
部活はうだるような暑さの中で、それでも続けられる。
炎天下の中、日陰もないコートを走り回る部員たちは、休憩と言われようやく部員たちは、各々、木陰へと涼をとりにいった。
「あちぃ……」
海堂もその中の一人で、いつもなら休み中も自主練をしようとして乾に止められていたのだが、今日はかなり暑くてしんどいのか、すぐに木陰に入り休憩した。
「海堂、今日はちゃんと休憩してるな」
「乾先輩」
休憩直後、休憩後のメニューについて手塚たちと話していた乾も、話が終了して、海堂が休憩している隣に腰を降ろした。
「今日は暑いな」
「っすね」
「…しんどそうだけど、大丈夫か?」
乾の言葉に、ダルそうにそれでもキチンと返事を返す海堂に、乾が心配そうに覗き込む。
「…気持ちいい…」
「ん?」
そっと額に手を置いて、熱を測る乾の手のひらがひんやりとしていて、海堂が目を細めて呟く。
「先輩の手、冷たくて気持ちいい…」
「んー、体温低いからかな?」
乾は慢性の寝不足のせいか、元からかはわからないが、人よりも体温が低い、低温人物である。
逆にどちらかといえば、体温が高めの海堂にしてみれば、乾の体温の低い手はひんやりと感じることが出来る。
「う〜」
「本当に気持ち良さそうだな」
乾の手が額から降りて、頬を滑る。
頬に触れる心地よさに、海堂はスリスリと乾の手のひらに擦り寄る。
その海堂の様子に、乾は苦笑混じりに呟いた。
「乾!…と、お邪魔だったかな?」
「大石か、どうした?」
「いや、これを差し入れに」
そう言って、大石が差し出したのはアイスノンだった。
「どうしたんだ?」
「ん、今日は炎天下だって言ってたからさ、家庭科室の冷凍庫借りて冷やしていたんだ。流石に数は少ないから、レギュラーは2人で一つ。それ以外は3.4人で一つになるんだけどさ」
「そうか、じゃあ有難く使わせてもらうよ」
「ああ」
軽く手を上げて、礼の代わりとした乾に、大石も軽く手をあげるのを返事にして、菊丸のいるところへと戻っていった。
「ほら、海堂」
「う…?ふ〜」
大石から受け取ったアイスノンを、乾は海堂の頬にあてる。
そうすると、その冷たさに海堂はスリスリとアイスノンにほお擦りを始めた。
「…どうした?」
しばらく気持ち良さそうにアイスノンに頬擦りをしていた海堂だったが、突然、乾のことをジーッと見始める。
乾が不思議そうに訊ねても、ジッと乾を見つめるだけ。
「……」
「大丈夫か?」
何も言わずに乾を見つめ続ける海堂に、流石の乾も心配になったのか、海堂の顔を覗きこむ。
海堂はそれに構わずに、スッと視線を乾の手にあるアイスノンに向けたかと思うと、アイスノンを掴んで乾のもう片方の手に置いて、自分はさっきまでアイスノンがあったほうの乾の手のひらに頬擦りを始めた。
「海堂?」
「これが一番、気持ちい良い…」
「そ、そう…」
驚く乾を無視して、海堂は乾の手がぬるくなれば、アイスノンを移動させて冷たいほうに頬擦りをという風に、ずっと冷たい乾の手に頬擦りをしていた。
「休憩終了」
それは、手塚の休憩が終わりの合図が聞こえても止まることはなく…
「乾・海堂、休憩終了と言ったのが聞こえなかったのか?」
「ああ、手塚、いい所に」
わざわざ部長が怒りながら、出向いてきたのにも関らず、海堂はそれに気付かずにそれをずっと続けていて…
乾はあからさまにホウッと溜息を吐いた。
「何だ?くだらないことだったら、走らせるぞ」
「既に走らせる気だろ」
「乾」
「待て、後で走るから。とりあえず、海堂を保健室に連れて行く」
「どういうことだ?」
「おかしいとは思ってたんだが……、間違いない、熱射病だ」
「海堂がか?」
「ああ、そうじゃなかったら、未だにコレを続けてるわけがないだろ」
「……そうだな」
手塚の存在にも気づかずに、延々と乾に擦り寄っている海堂を見て、手塚も乾も正気じゃなと悟るしかなかった。
「てことで連れて行きたいんで、とりあえず、コレを大石に返しておいてくれ」
「わかった」
アイスノンを手塚に渡して乾は、海堂を抱き上げて保健室へと向かった。
「…もっと早く行けばよかったのではないか?」
そして、残された手塚には最もな疑問だけが残されていた。
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