追いつけない距離  十一月 試験 年齢差



期末試験が始まる。
そのため、試験の一週間前より部活は全面禁止になる。
それが意味するのは、テニスの出来ないもどかしさと、あの人に逢えない寂しさ。
同じ学校に通っていたって、一学年離れていたら、逢える機会はほとんどない。
だから、どうしても逢いたいなら、自分から逢いにいくしかないのだ。
それでも、忙しい先輩に迷惑をかけたくはないから、自分から行動を起すことが出来ない。

「海堂」

帰る途中の階段のところで、声をかけられる。

「あ、先輩」

振り返った先には、ずっと考えていた乾先輩がいた。

「今から、帰るの?」
「っす」
「じゃあ、一緒に帰ろうか?」
「はい」

偶然の出逢いが嬉しくて、俺は即座に返事した。

「テスト、出来そう?」
「……」

帰り道、先輩に聞かれて思わず口籠ってしまう。
はっきり言えば、自信はない。
七月の期末の時は、まだ球拾いとかの基礎練習ばっかりだったので、自分の自主練も先輩に言われたのもあって、比較的軽いもので、勉強する余裕もあったから、何とかなった。
でも、夏が終わり、俺たちにもランキング戦への出場権が出れば、早くレギュラーになりたくて、練習もきつめに変えた。
おかげで、学校でも居眠りをしてしまいそうなほど、疲れた体を休ませることで精一杯で、勉強をしている余裕はない。

「ねぇ、海堂」
「はい?」
「一緒に勉強しない?」
「え?」
「見てあげるよ」
「本当っすか?」
「うん」

先輩の提案は俺にとっては、とっても有難い話しだった。
でも…

「迷惑じゃ?」
「そんなことないよ、俺は海堂と一緒にいれるから嬉しい」
「じゃあ、お願いしていいっすか?」
「うん」

そうして、俺は先輩の家で勉強を見てもらうことになった。


「お邪魔します」

試験前の土曜日、泊りがけで先輩の家にお邪魔する。
先輩に通されて、先輩の部屋に足を運ぶ。

「お待たせ」

先輩は、一回、リビングに行って飲み物とかを用意してくれた。
少しだけ、それを飲みながら話をして、勉強を始める。

「…先輩」
「ああ、これはね…」

持ってきた問題集を片付けながら、わからないとこがあると先輩に聞く。
先輩の教え方はとっても上手で、一回聞けば、大体がわかる。

「先輩、教えるの上手いっすね」
「そうかな?有難う」
「先輩は勉強しないんっすか?」
「え?してるよ」

俺の問いに先輩は不思議そうに聞き返してくる。

「してるって、教科書見てるだけじゃないですか?」
「うん、いつもそうだけど?」
「先輩って、いっつも教科書見てるだけで勉強してるんっすか?」
「うん」

驚いて詰め寄るように問いかければ、困ったように先輩が頷く。

「先輩、成績いいんですか?」
「え?普通かな」

思わず聞いてしまったことに、先輩は苦笑混じりに答える。

「あっ…」

その姿に、俺は七月の期末テストの結果を思い出した。
期末テストの順位表は各学年のある階に貼り付けられているので、自分の学年分しか見れない。
だが、たった一つ、全学年の順位表が張られている場所がある。
職員室の前だ。
別に、それに興味があったわけではない。
あの日は、授業中に桃城と喧嘩してしまい、職員室に呼び出された。
その帰りのことだった。

「あ、おい、見てみろよ」

貼り出された順位表を桃城が見て、俺の肩を掴む。

「んだよ」

機嫌悪いまま、振り返る俺に、桃城は一点を指す。

「あっこ、二年の順位…」
「ああ…、っ!」

言われるままに俺が眼にしたのは、二年の順位表。
一位 乾 貞治
二位 不二 周助
三位 手塚 国光
以下、少し離れて
十位 大石 秀一郎
二年の主要レギュラーの大半の名前が学年十位以内に書かれていた。

「嘘だろ…」
「化け物か…」

唖然とした、俺と桃城の声。
部の中でも、ハードワークで名高い、男テニ。
そこの、レギュラーは特に、ハードだ。
その上、皆、部活以外でも練習をしている。
そのレギュラーの名が連なっている、それも、上位十名の中に。もっと、言えば、上位三つにだ。

「一体、いつ勉強してるんだ」

桃城の出した問いは、俺も是非に聞いてみたいものだった。
まさか、この答えがコレだとは…

「先輩、天才なんっすね」
「はぁ?天才ってのは不二みたいなのを言うんだぞ?」
「違う、テニスじゃなくて、勉強」
「勉強?別に天才じゃないぞ?」
「教科書見ただけで、学年一位は天才っす」
「え?何で知ってるんだ?」
「期末の時に、職員室の見て…」
「ああ、なるほど。でも、あれはたまたまだよ」
「そうっすか?」
「そうそう」

誤魔化すように笑う先輩に釈然としないままも、先輩が次はこの問題ねと言い出したから、仕方なく勉強に集中する。

「そろそろ、休憩しよっか?」
「っす」

それから、一時間ほどずっと勉強を続けていた俺に、先輩のその言葉は正直、有難かった。
新しく飲み物を持ってきてくれた先輩は、さっきとは違って、俺の隣に座る。
「向かいで座るより、隣のほうがいいね」
柔らかい笑みを向けれられて、顔が赤くなるのが自分でもわかった。
コクンと頷いて、先輩の肩にコツンと頭を乗せる。

「海堂、お礼貰ってもいい?」
「お礼?」
「そう、勉強見てあげたお礼?」
「俺に出来ることなら」
「出来るよ。というかね、海堂しか出来ないから」

クスリと笑った先輩の顔が近づいてくる。
咄嗟にギュッと目を瞑った俺に、先輩はもう一回クスッと笑ってゆったりと唇を重ねた。

「ごちそうさま」

深く口吻を交わして、最後にチュッと音を立てて、先輩の唇が離れていく。

「お礼?」
「そう、お礼」

ボヤッと余韻に浸りながら、呟いた言葉に、先輩は面白そうに復唱した。

「海堂の成績があがってたら、またお礼もらってもいい?」
「あがってたら…」
「約束」

そう言って、先輩はまたキスをした。


試験終了して、結果は…

「嘘つき」

前回と続いて、学年首位の乾先輩。
後から聞いけど、先輩は一位から降りたことがないらしい。
そして

「約束」

楽しそうに笑う先輩と、ムウッと口を尖らせる俺。
目の前には、俺の学年の順位表。

「泊まりにおいで」
「……はい」

前よりも、かなりの上の順位に書かれた、俺の名前。
尺に触るけど、順位があがったことは嬉しいし、先輩の家に泊まるのも正直言えば嬉しいから、仕方ないから、素直に頷いた

Fin