聖なる夜に  十二月 聖夜 蜜夜



中学に入って初めてのクリスマス。
あの人と出逢って初めての……

「先輩…」

帰り道、途中まで道が一緒なので二人で歩く。
俺が声をかけて見上げると、先輩がうん?とこっちを見る。

「先輩、クリスマスは……」

初めてのクリスマス。
午前中は学校・部活とあるけれど、夜は出来たら一緒に過ごしたい。

「一緒に過ごしてくれないの?」

先輩は既に俺と一緒に過ごすという予定を入れていたらしく、不安そうに聞いてくる。

「あ…と、先輩家族とは?」
「うちは、クリスマスも仕事。正月も仕事かもね」

先輩の両親は多忙な仕事をしている人らしく、俺もいまだに会ったことはない。

「あ、海堂は家族と過ごすか……」

今の会話で、先輩は俺が家族と過ごすと思い込んだらしく、じゃあ仕方ないなとクリスマスの予定を変更し始めた。

「先輩!」

確かにクリスマスは家族と一緒に過ごす。
母さんがクリスマスのための料理や手作りのケーキを用意しているだろうし、父さんも仕事を早めに切り上げて早く帰ってくると言っていたし、弟も毎年家族で過ごすのを楽しみにしているから、俺の我侭で一人抜けるわけにもいかない。

「俺のことは気にしなくていいよ」

先輩は俺が謝ろうとして呼び止めたと思っているらしく、柔らかく微笑んでくれる。

「違うっす。その…確かに家族と過ごすんですけど……」
「ん?」
「あの、その……よかったら、先輩も一緒に……」
「お邪魔していいの?」
「はい。先輩がよかったらですけど」
「俺は海堂と過ごせるなら、どこでも」
「え、と……それで、その良かったら泊まっていって欲しいんっすけど……」
「いいの?」
「はい」
「じゃ、お言葉に甘えて」

先輩の了承の返事に、ホッと詰めていた息を吐き出す。
家族と過ごすことを出来ないということも出来なかったけど、どうしても先輩と過ごしたかった。
どうしたらいいだろうと、何度も何度も考えた。
それで考えたのが家族と過ごすクリスマスに先輩も呼ぶこと。
二人っきりも捨て難かったけど、泊まっていってもらえれば、夜は先輩と二人になれるから、これで我慢することにする。
それに、家族と過ごすことの少ない先輩。
そんな先輩に出来れば、家族で過ごす楽しさも知って欲しかった。
俺のエゴだけど、先輩にも俺が楽しいと思うことで楽しんで貰いたかったのだ。

「じゃ、海堂。練習も程ほどにすんだぞ」
「っす。お疲れさまっした」

二つに分かれる道。
そこで先輩の家と俺の家の道が分かれる。
先輩と離れるこの道はそんなに好きじゃない。
けれど、それでも先輩と逢える道でもあるから、嫌いにはなれない。
簡単に挨拶を交わして、別れる。
俺は、自分の計画したことを先輩がOKしてくれたことが嬉しくて、早くこのことをお母さんに言いたくて、残り僅かな帰り道を走っていった。


クリスマス当日
部活が終わった後、先輩は一度家に帰ってから、うちにきた。

「お邪魔します」

家にきた先輩を俺はリビングに通す。

「いらっしゃい、乾君」
「今日はお招きいただいて、有難うございます」
「乾さん、こんにちは」
「こんにちは、葉末君」

先輩は何度か家に来たことがあり、既に俺の家族とは面識がある。
因みにうちの家族は何故か異常に乾先輩を気に入っている。
先輩が来ると伝えただけで、家族の喜びようはいつもの倍以上に凝られた料理にいつもより早く帰ろうとする父。いつも以上に浮かれる弟が実証してくれている。

「乾さん、乾さん、新しいゲームを買ったんですよ」
「そうなんだ、今度はどんなゲーム?」
「ポケモンの新しいのなんですけど、僕、欲しいポケモンがいるんですけど、どこにいるか分からなくて」
「はは、じゃあ教えてあげるよ」
「ね、乾君。乾君はコッチとアッチ、どっちが好き?」
「俺はどちらでも、皆さんの好きなほうにしてください」
「あら、乾君がお客様なんだから、遠慮しなくていいのよ」
「有難うございます」

先輩が来た途端、先輩にまとわりつく母さんと葉末。
先輩と一緒にいたくて誘ったのに、何で俺が蚊帳の外。
ちょっとじゃなくて、そうとうムカツク。

「先輩、荷物置きに行きますよ」
「あ、ああ、そうだな」

膨れっ面で言い放って、先にリビングを出る俺を慌てて追いかける先輩。

「海堂、何か怒ってる?」

部屋に入って荷物を適当な場所に置きながら聞いてくる先輩。

「別に…」

先輩が荷物を置いたのを見て、先輩の腕を掴みソファに座らせる。

「海堂?」

先輩の声を無視して、先輩に抱きつく。

「どうしたの?」

先輩の胸に頬をすり寄せる俺の髪を、先輩が優しく梳いてくれる。

「先輩、家に来てから、ずっと葉末や母さんの相手ばっかり……」
「妬いてたの?」
「むーっ」
「家族に妬いてどうすんの。俺が好きなのは薫だけだよ」

いつからか、先輩は二人の時だけ薫と呼ぶようになった。
それが、俺は恥ずかしいけどとても好き。

「俺が先輩といたくて、先輩呼んだのに……」
「今日はずっと一緒だろ」
「うん。一緒にいて欲しい」
「いるよ、ずっと」

母さんに呼ばれるまで、先輩はずっと俺を抱き締めていてくれた。


クリスマスパーティーはやっぱり家族で乾先輩の取り合いになって大変だった。
それでも、先輩がとても嬉しそうにいてくれたのが嬉しかった。
何とかパーティーが終了して、お風呂も入って、二人で部屋に戻る。

「今日は楽しかったよ、有難う」

濡れる俺の髪をタオルで拭いてくれながら、先輩が礼を言う。

「疲れませんでした?」

ずっと先輩の周りには誰かがいる状況。一人のほうが楽なことを知っているから気になって聞いてみる。

「大丈夫だよ」

終わりと、先輩がタオルをソファにかける。

「先輩、こっち…」

それを合図に、俺は床から立ち上がって、先輩の手を引っ張ってベランダに出る。

「……へぇ……」

感心したような先輩の声。
俺の家は少し高台になっていて、部屋のベランダから夜景が綺麗に見える。

「星も綺麗だね」
「っす。ずっと、先輩に見せたいって思ってたんです」

東京といえども、自然の多い地域で、空がまだ綺麗なほうなためか、星が見える。
勿論、田舎などにいけばもっと綺麗なのだが。

「そうなんだ、有難う」

先輩は嬉しそうにお礼を言ってくれる。

「嬉しそうっすね?」
「うん。だってさ、これって海堂にとっては宝物でしょ。それを教えてくれたんだもん、嬉しいよ」

先輩の言葉に、俺は顔が赤くなるのを感じた。

「薫、顔赤い」
「…先輩のせいっす」
「じゃ、責任取らないとね」
「当たり前です」
「そっか」
「そうっす」
「そうだね、最高のクリスマスプレゼントを二つも貰ったしね」

そう言って先輩は、この満天とは言い難いが綺麗な星空の中で、口吻をくれた。


聖なる夜
優しく光る空の中
俺は、最高のプレゼントを貰った。
勿論、その前に貰った形あるプレゼントも最高のものだったけどな。

Fin