巡りくる軌跡  三月 巡る季節 軌跡



春が過ぎ、夏が来て
夏は終わり、秋になる
秋が過ぎ去り、冬の到来
その冬も去り……
あなたに出逢って、二度目の春が戻ってくる。


出逢いは、桜の舞う四月。
怪我した俺がやってきた保健室で、あなたが寝ていた。

「懐かしいな」
「先輩…!」

春休み、部活にきてた俺。
休憩時間、保健室に足を踏み入れた。

「何、やってんっすか?」
「ん〜、休憩」

一人できたのに、後から誰も入ってきてないのに聞こえた声に、俺はベッドのあるカーテンを引く。
そこには、一年前と同じようにベッドに寝ている乾先輩。
あの時と違って、今はちゃんと目が覚めているけど。

「そういや、アンタ部活中いなかったよな」
「今まで、気付いてなかったのか?」
「そうじゃないけど…」

本当は朝から姿が見えなくて、気になっていたら不二先輩が教えてくれて、休憩になった途端にここに来ていた。

「ちゃんと寝ろよ」

先輩が保健室にいる理由は寝不足。
倒れるまで寝ないってのは絶対に問題がある。

「ごめん、心配かけた」
「起き上がるな、いいから寝てろって」

起き上がろうとする先輩を抑えて、もう一度、ベッドに寝かせる。
そのベッドの縁に腰掛けて、先輩を見れば、どこか楽しそうな先輩の顔。

「どうしたんっすか?」
「懐かしいなと思って。ここに、俺と海堂がいるのが」
「……そうっすね。ここで最初に出逢ったんっすよね」
「そうだな…」

入学式の日、ココで先輩に出逢った。
あれが始まり。

「……桜、咲いてたな」

窓に目を向けて呟く先輩につられて、俺も窓へと視線を投げる。
そこには大きな桜の木。
今はまだ、蕾をつけているだけ。

「あの日、ずっとココに隠れてたんだ」
「そういえば、先生から逃げてましたね」
「ああ、生徒代表の祝辞を述べろって言われてね、手塚に押し付けて逃げたんだ」

可笑しそうに笑う先輩。
俺は黙って、話を聞くことにした。

「ココなら、あの日は先生もいないし、誰も来ないと思ってさ」
「はい」
「こっから、ボケッと桜を見てた」

視線を桜に固定したまま話を続ける。

「そしたらさ、一人で佇む子がいたんだ」
「え?」
「一人で、じっと桜を…違うか、きっと桜の向こうのテニスコートを見てたんだな…」
「先輩…」
「強くて、真っ直ぐで…」

先輩の視線が桜から俺へと移る。

「一瞬で心を奪われた」

先輩の手が俺の頬に伸びる。

「その後、寝て起きたら、目の前にいるんだもん、びっくりしたよ」

頬を擽って、柔らかく微笑む先輩。

「君に出逢う、その前から、君が好きだった」

囁く吐息交じりの声。
無感情な声でなく、甘く掠れた俺にだけ聞かせる声。

「ずっと、今も…毎日、毎日、新しく好きになってる」
「俺も」

先輩の見せる、柔らかい微笑み。
甘い声。
毎日、毎日、先輩を好きになっていく。

「アナタを好きにならない日はない」

出逢って、想いを通じ合わせて、二人で過ごしてきた。
一年たって想いは薄れるどころか、留まることを知らずに溢れていく。

「こんなに…」

言葉と一緒に触れる唇。

「こんなに誰かを好きになれるなんて思わなかった」

触れ合ったまま言葉を紡ぐから、その微かな振動にさえ感じてしまう。

「ふっ…」
「海堂に出逢って、知らない自分を知れた」

抱き締める腕の力が強まる。

「俺も、先輩に逢って初めて知ったことがたくさんある」

離れた唇を追いかけて、自分からキスをする。
満足するまで、何度も唇をあわせる。
一頻り触れ合って、微かな笑い声が保健室に響く。
アナタに出逢って、自分に逢った。
奥底に眠っている自分に。

「変わったよな」

俺も、お前も…

「海堂なんか、こんなに大きくなって」

喉の奥で笑いながら、口を開く。

「出逢った頃は、あんなにちっこかったのに」
「うっさい」
「来月には海堂も先輩だよ」
「あんたは最上級生だな」

来月で一年。

「早かったな」
「っすね」

過ぎた時は早かったけど、一日たりとも忘れられない日々。

「後、一年したらいなくなるんっすね」

同じスピードで一年が過ぎれば、すぐに先輩はいなくなる。

「卒業はするけど、海堂の傍からいなくなるわけじゃない」
「わかってる」

けど、不安は消えない。

「まだ、一年あるんだよ」
「知ってる」
「未来への不安へ怯えるより、現実を楽しもう」
「うん」
「俺はずっと海堂と一緒にいる。その自信はあるけどね」
「俺も…俺のほうが負けない」
「言ったな、勝負するか?」
「絶対に勝つっすよ」

二人で顔を見合わせて、吹き出す。

「先に好きになったのは俺だし、俺が勝つよ」
「告白したのは俺のほうからっすよ」

先輩も俺も負けず嫌いで、たまには変なところで子供みたいに対抗心を燃やすこともある。
そんな子供じみたやりとりも、先輩となら楽しくて好きだ。

「俺、しつこいっすよ」
「俺、冷めにくいんだよ」

ニッと笑って、言い切る言葉。

「海堂くらいに、世話焼きさんじゃないと、俺の相手できないよ」
「先輩くらいに、観察するのが好きじゃないと、俺のことわからないっすよ」
「丁度いいじゃん、俺ら」
「そんなん、とっくにわかってることじゃないっすか」

フンと言い切ると、先輩が俺の腹に顔を埋めて、爆笑する。
あんまり知られてないが、先輩は結構ゲラだ。

「アンタ笑いすぎ」
「海堂、笑わせすぎ」
「わらかしてねぇよ」
「わらかしてるよ」

キーッと叫んでも、先輩の笑いが収まることはなく、ヒトの腹に埋まって遠慮なく笑ってくれる。

「ほんとに海堂は、俺のツボをついてくれる」
「知らねぇよ」

膨れっ面で答える俺に、先輩はまたクスクスとしのび笑いを漏らす。

「ねぇ、海堂?」
「何っすか?」
「また一年、よろしくな」
「一年どころじゃねぇよ」
「え?」
「ずっとだろ」
「あ…ああ、そうだな。一生よろしく」

俺の言いたいことを汲み取った先輩が、言い換える。

「こちらこそ」

それに俺が丁寧に返事をして、また二人で笑いあった。


季節は巡り
アナタに出逢った春がきた


これからも何度も季節は巡るだろう
けれど
その全てをアナタと見れるなら
その移り変わりがとても楽しいものに思える


巡りゆく軌跡を
アナタと二人で…

Fin