Daily Life  Sweet Sweet



乾の両親は共働きだ。
それも、どうやらかなり高い位置にいるお偉いさんたち。
父親は、研究機関での研究員。
母親は、かなり有名な医者。
二人とも、ノーベル賞を頂いたことがあるとか、ないとか…
まあ、そんな人たちだ。
そんな人たちなわけで、当たり前だが常に多忙。
家にはほとんど帰ってこれていない。
それが、幼い頃からの日常で、幼い頃は、幼馴染の家を転々と泊まり歩かされていた乾も、ある程度のことを自分で出来るようになってからは、一人暮らしに近い状態を満喫していた。
そんな状況にいたわけだから、乾が中学校に上がった頃に持ち上がった話しに、乾は反対した。
今までとそれほど変わるはずのないもの。
それなのに、変更を余儀なくされてしまったこと。
それは、乾の両親の海外赴任。
父の研究も医療に関わることなので、両親揃って、海外のとあるプロジェクトに抜擢。
当初、乾の両親は一人息子である、乾も連れていくつもりだったが、乾の反対にあい、ある条件を出して妥協した。
それが、幼馴染の誰かの家での居候。
当然、乾はこれにも反対した。
今までだって、両親はほとんど不在で、海外に行かれたとしても、何も変わることなどなかったから。
だが、乾の両親はそうはいかなかった。
いくら、自分たちが放任していたとはいえ、家のことを一人で何でも出来るほどに、しっかりと成長してくれたとはいえ、乾はまだ中学生。
義務教育の身だ。
そんな息子を、一人置いていけるわけがなく、必死に説得した。
説得のかいあってか、息子は誰かの家でお世話になることに頷いてくれたが、その後にも、問題が続いた。
今度は、どの家が彼を引き受けるかだ。
因みにこの場合、引き受けるのを押し付けあっているのではなく、どこも引き受けたがっている。
そして、話し合いの結果、乾は海堂家に預けられることになった。
理由は、乾の一言

「俺、弟が欲しかったんだよね」

だった。
何故かっていうと…
手塚家は、乾と同い年の手塚のみ。不二家は、裕太がいるが、実兄の不二もいる。が、海堂家には乾より年下の男の子が二人。しかも、二人とも乾にはかなり懐いているし、乾も二人をかなり可愛がっていたからだ。
それ故に、乾の最後の言葉で、家は決められた。
それ以来、海堂の家に居候している乾。
それは、中学三年になった今でも続いていた。

「先輩、朝っすよ」
「貞治お兄さん、折角のお休みですから、遊びましょう?」

乾が海堂の家で暮らすことになってから、二年。
乾の部活もない休日の朝は、可愛い後輩兼恋人の海堂と、その恋人そっくりの、これまた実の弟のように可愛がっている葉末の二人の、柔らかい声によって始まる。

「…もうちょい…」

とは言え、夜更かし大好きの乾にすれば、まだ朝と呼ばれる時間に起されるのは、苦痛でしかなく、呻くように話した後、またもぞもぞと布団に潜りこんだ。
その様子はさながら、たまの休日の朝を子供と奥さんに邪魔されたお父さんのようだ。
…って、俺が奥さんか!
そんな一人突っ込みをしながら、つい間抜けなことを考えていた海堂は、内容の恥ずかしさに、頭を強めに振って、その思考を振り払い、また乾を起こしにかかった。

「飯、先輩と食べようと思って、俺も葉末もまだなんすから、起きて御飯食べましょうよ」
「そうですよ、貞治お兄さん。僕、お腹空きました」

ゆさゆさと兄弟二人で乾を揺さぶりながら、乾を起こす。

「…わかった。起きるから、先に下に行ってて」

眠い目を擦りながら、むくりと起き上がり、ベッドに座り込む。

「待ちます。先輩いつもそう言って、いなくなったらまた寝るじゃないですか」

低血圧なのか、ベッドに座り込んだまま、何もせずにボーッとしている乾の代わりに服を取り出し、着替えさせながら話す。

「用意終わるまで待っていますから、一緒に行きたいです」

海堂が脱がせていった乾のパジャマを奇麗に畳みながら、葉末も呟く。

「ん〜」

二人の言葉に乾はまだ半分寝ているのか、曖昧な返事を返した。
っし!
その返事を二人は勝手に肯定と取り、密かにガッツポーズをした。
何故、二人がガッツポーズをしたかと言うと、この乾がまだ寝ボケている状態が好きだからだ。
いつも目を覆っている眼鏡の存在自体を忘れているかのように、乾は完全に覚醒するまで眼鏡をつけない。
そのため、秀麗な瞳が、惜しげもなく曝されている。
ま、手っ取り早く言うと、この兄弟。乾の素顔が好きなのだ。それも、凄く。
そのせいか、休日の朝は、必ず二人は、乾が起きそうな時間よりも早くに起こしに行く。
乾にしてみれば、なんとも迷惑な話だ。
それから、眠くて気だるげにしている雰囲気は、とても中学生の男子には思えないくらい色っぽく、そのくせ、海堂にされるがままに着替えさせてもらっている姿は、とても幼くて可愛い。
そのギャップが堪らないらしい。
乾の幼馴染たちに言わせれば。
そんな訳で、既にすっかりと乾にやられている兄弟は、いそいそと朝の乾を堪能するのであった。


朝の仕度も終われば、乾もいつもの通りに戻る。
が、休みの日の乾は、いつもと違ってレンズの薄い眼鏡か、コンタクト。
それも、寝ぼけているうちに、海堂か葉末から手渡されたもの。
今日は、細いフレームの薄いレンズの眼鏡。
これで今日は一日、素顔の乾を堪能できると海堂と葉末はご満悦で朝食を食べていた。


「貞治お兄さん、薫お兄さん、ゲームしましょう?」
「いいよ」
「ああ」

朝食も綺麗に平らげて、ゆったりとしていた乾と海堂の元に、葉末がゲーム機を抱えて走ってくる。
葉末の可愛いお願いに、乾と海堂は二つ返事でOKをして、三人仲良く乾の部屋に。
誕生日に親に買ってもらった大画面のフラットテレビにゲーム機をセットして、電源を入れる。
テレビの丁度向いにある、大きめのセミダブルのベッド。
高さのあまりないベッドの縁に、ふんわりとした大きなクッションを置いて、それを背もたれに座る葉末がゲームを始める。
ベッドに寝転がり、葉末のいるほうを頭にして、乾は画面を見る。
その乾のお腹を背もたれにして、乾の腕に腰を抱き寄せられて支えてもらっている海堂も、葉末が動かすプレーヤーと一緒にいるあひるに目が釘付けになる。

「相変わらず、軍曹好きだねぇ」

目を輝かせて、テレビを見ている海堂に苦笑を漏らす。

「だって…、このプクプクとした腹とか、動くとフリフリする尻尾とか、触りたくなるくらい可愛いじゃないっすか」

わずかに昂揚した声で話す海堂に、葉末もゲームを進める手は止めずに、頷く。

「そうだな、可愛いな」

そんな二人の姿がすこぶる可愛くて、乾は誤魔化すように画面のあひるが可愛いと取れる言い方をして、笑みを浮かべた。
ゲームはきりのいいとこまで進み、画面が暗くなる。
出てくる円状に浮かぶ四つの炎。
大き目の三つの炎のうちの一つを終えて、一つだけ小さめな炎を選択する。
画面はまた切り替わり、明るくなる。
出てきたのは、古ぼけた城と気の弱そうなプレーヤー。
葉末が宿屋に行き、パーティー編成に入ると

「葉末、ロクだぞ、コロク」

海堂が些か身を乗り出すような動作で葉末に言う。

「はい、わかってます」

葉末も兄同様の動物好きなので、大きく頷いて、風呂敷を首に括りつけた犬を選択した。
嬉々として犬をパーティーにいれる二人の様子に、乾の笑みは深くなるばかり。
このゲーム、108人の仲間を集めるという、膨大な下手すればいる必要もない仲間を探し出すのが中々難しいあたりが気に入って買っていたシリーズなのだが、こういう可愛いおまけがついてくるとは思ってなかった。
仲間の数が膨大なRPGである、このゲームは1の頃から、コボルトやダックだのと可愛い動物たちも仲間になるので、あまりRPGが好きでない海堂や葉末もすぐに気に入った。
2の時などは、某戦隊もののパロのようなムササビたちにすっかり心を奪われてしまった二人は、常にパーティーを主人公とその五匹にしてしまうという暴挙に出た。
ゲームをクリアするよりも、そっちにいってしまった兄弟に、乾は苦笑いを漏らしていた。
そして、最近でたばかりの3。
乾は既にクリアしていて、貸してもらえた葉末が始めた。
そして、こんどはあひると犬に釘付け。
乾の苦笑は増すばかりだった。

「いい加減、進めないか?」

海堂の言うことに従って、コロクという犬を入れた葉末が向うのは、ストーリーとは関係ないダッククランの町。
そう、要するにあひるばかりがいる町だ。
あひるが見たい為だけに、行く必要もないこの町に行き続ける葉末に、応援する海堂。
いい加減、ちっとも進まないストーリーに辟易してきた乾が、ギリギリまで隠していようと思ったことを口にする。
これを言えば、絶対に進めるだろうと。

「薫、葉末。コロクなんだけどな…」

名前を呼ばれ、しかも、お気に入りの犬の名前を出された二人は、乾を見つめる。
何を言い出すのだろうとドキドキしているのが、顔に出ている二人に苦笑しながら話を続ける。

「マクマクの時と同じようにな…」
「仲間いるんすか?」
「いつ入ります?」

言葉は途中で遮られた。
圧倒されたように言葉を飲み込む乾の眼前には、目を輝かせて次の言葉を待っている海堂兄弟。
間近にある、可愛い顔二つに笑いを噛み殺す。

「城が本拠地に変わってからだな」
「げっ」
「それって、後…」
「まだ、当分はお預け」

乾の言葉に項垂れる二人。
そう、今の流れでは、そこにつくのはまだまだ先。

「葉末」
「はい」
「意地でも、今日中に仲間にするぞ」
「勿論です」

だが、諦めないのが心情のような兄に、やっぱり見て見たいから頑張ろうとする弟。
燃える二人を見つめながら、乾は

「今日中にいけたら、ご褒美な」

と、より頑張れるように餌をちらつかせた。

「頑張ります」
「幾らでも手伝うからやれ、葉末」

見事に餌に食いついた兄弟二人は、どちらもキチンと床に正座してゲームを進め始める。

「本当に、可愛いな〜」

見てて飽きない兄弟に、乾は葉末の頬と海堂の唇にキスを一つ贈る。

「ご褒美、なくなっちゃいました…」
「先にしてどうするんっすか」

突然、舞い降りてきた乾の唇に、驚いた二人はそれぞれ、唇が触れた箇所に手を置く。
期待していたご褒美を既に貰ってしまって、嬉しいのか哀しいのかわからない声で呟く二人に、乾は

「本日のご褒美は、お休みのちゅうと腕枕」

と、優しく微笑んだ。
そして、海堂兄弟が意地でもって、それを獲得したことは言う間でもないことだろう。
これが、乾が海堂家にお世話になってから、最も楽しみにしている休日の過ごし方だった。

Fin