夜、自室で寝ていた海堂がふっと目を覚ます。
そのままもう一度寝なおそうと思っていたが、不意に隣にあったぬくもりがないことに気付き起き上がる。
寝る前は確かにいたはずだ。
「またか…」
海堂は呆れたように深い溜息を吐く。
乾が海堂の家に居候することになってから、乾は海堂の部屋で寝なくなった。
今日みたいにシテしまった日は必ず、乾は海堂が寝たのを確認してから自室に戻るのだ。
海堂は綺麗に着せられた浴衣の寝崩したところを着なおし、部屋を出る。
ドアの隙間から微かに漏れる光源に、乾がまだ起きていることを確認して、軽くノックする。
たぶんパソコンに向って集中しているのだろう、返事のない部屋に海堂はそっとドアをあけ、乾がパソコンに向っているのを認めると、部屋の中に体を忍び込ませる。
「先輩…」
「わっ…」
足音を忍ばせて乾の背後に立ち、そっと後ろから乾の首に腕を回し抱きしめる。
パソコンに集中していた乾は突然体に触れた海堂にびっくりして、驚いたような声をあげる。
「薫?どうしたの?」
けれど、すぐに立ち直った乾は、海堂の腕を一回上げさせ、クルッと椅子ごと海堂に向き直って、改めて、海堂の腕を自分の首に回させる。
「何で、すぐに出ていくんだよ」
乾の腕が海堂の腰に回り、引き寄せる。
その腕に流されるように、海堂は乾の膝の上に乗り上げ、乾を睨みつける。
拗ねたような海堂の視線に、意味を理解した乾がわずかに苦笑する。
「やっぱさ、罪悪感みたいなのがあるんだよね〜」
お世話になっている家の息子に手を出してって…
「別に、親にはバレてんだから気にすることねぇだろ」
「いや、それはそうなんだけどさ。やっぱ、俺らまだ中学生だろ。流石に、こんなことしてますって丸わかりってのはさ〜」
「ちゃんと、服着たらバレね〜だろ」
歯切れ悪く話す乾に、海堂は呆れたような声を出す。
「でもね〜」
それでも、まだ何か言おうとする乾に、海堂は溜息を吐いて
「ああやって戻られる度に、体だけが目当てなんかなって…」
言いにくそうに、今まで感じていた不安を吐露する。
「違う!それは違うよ、薫」
海堂の声を遮るように声を荒げた後、乾は宥めるような声で言い直す。
「本当にお前のことが好きだから、大切にしていきたいって思ってるんだよ」
お前の家族との関係も…
「じゃあ、お願いだから、朝まで一緒に…」
乾の膝に跨るように膝たちになっているために、上から乾を見下ろす形になっている海堂の瞳が、切なく揺れる。
揺れる瞼にそっと唇を寄せて、宥めるように口吻を施す。
瞼に頬にと降りていく唇は、最後に唇を吸った。
「んんっ…」
重なった唇に、先に動いたのは海堂のほうで、自分から進んで唇を開く乾を誘導させる。
深く口腔を貪って、舌を絡める。
部屋に響く唾液の交じり合う音に、余計に煽られるのか、熱に浮かされたように海堂は乾の口吻を求めた。
「もう、染まってる…」
「っん…」
唇を離し、最初に目についたのが、海堂の白い肌。
浴衣の合わせ目から見える肌は、先ほどの口吻で既に淡く染まっている。
乾はクスリと笑いながら、鎖骨の辺りを強く吸い上げると、海堂の体が跳ねる。
吸い上げて、痕になったそこにツッと指を滑らせると、海堂の唇から艶やかな溜息が漏れる。
「さっき、したばかりなのにね…」
苦笑混じりに呟き、海堂の浴衣の合わせ目に手を差し入れ、浴衣を肌蹴させる。
肘辺りで留まる浴衣に一瞥して、露になった肌に口吻を落としていく。
少し前につけたばかりの痕を辿って唇を寄せて、ツンと立ち上がり始めた突起を口に含む。
もう片方を指で弄び、上目遣いに表情を窺うと、切なげに震えて、声にならない溜息を零す。
「ぃや…あ…」
数時間前に重ねた体は、まだその時の名残があるのか、いつもよりも早く陥落してくる。
乾の頭に腕を回し、ギュッとしがみついて、快楽に堪える姿は艶かしい。
絶え絶えに漏れ出る声に気をよくした乾は、浴衣の裾から手を忍ばせる。
「ああん…あ…ぁ…」
既に存在を主張し始めていたソコは、乾の手を濡らし始める。
唇は未だに、突起を弄び続けながら、手を緩慢な仕草で動かす。
与えられる柔い刺激がもどかしくて、海堂は知らず腰を揺らめかせた。
「いつもより、感じてるね」
クスクスと可笑しそうに笑いながら、乾は海堂を追い詰めていく。
「やっ…はやくぅ…」
いつまで経っても与えられない刺激に、海堂が強請るように声をあげる。
「さっき、散々イッたでしょ。今は我慢して」
けれど乾は海堂の望みは叶えようとはせず、海堂の先端から溢れだした蜜を掬い、後孔を擽る。
「ふっ…ん…あぁっ…」
入り口を指で擦られ、体の力が抜けたところで、乾の細長い指が侵入する。
乾が快楽を教え込んだ体は、乾の指を難なく飲み込んで、収縮する。
乾が教えたのだから、乾が海堂の体のイイ部分を知らないはずはなく、迷うことなく、海堂のポイントを攻める。
「もっ…いい…からぁ…」
慣らされた体は、既に指だけでは物足りないと訴えていて、海堂は震える声を何とか出して伝える。
海堂の声に、乾は指を引き抜き海堂の体を固定させる。
そっと海堂の唇に口吻を落として、乾は海堂の体を開いていく。
自分の体重も手伝って、いつもよりも深く受け入れる形になり、海堂はその辛さを耐えるように顔を乾の肩口に乗せ、息を整える。
乾もそのことがわかっているために、動かずに海堂の背中を優しく撫でてやる。
「大丈夫か?」
少しして顔をあげ、自分を見つめる海堂に声をかけると、海堂が微かに頷く。
その仕草が可愛くて、宥めるようなキスを一つ贈ると、乾は動き始めた。
「はぁん…ぁあ…」
初めは緩く浅くと繰り返されていた動きも、徐々に激しくなり、海堂からも堪えきれない声が漏れる。
繋がった部分から漏れる、淫猥な水音に、脳が犯される。
激しい突き上げに沿うように、海堂の腰も動き始める。
二人とも熱に浮かされたように相手を貪り、ほぼ同時に果てた。
繋げたままで、椅子の背もたれに体を預け、息を整える乾。
「薫?」
体を預けてくる海堂の重みがいつもよりも重く感じられ、乾は海堂に声をかけてみる。
「…気、失ったか…」
が、返事のない海堂を覗き込むと、気を失ったらしい海堂から健やかな寝息が聞こえてきた。
このままでいては、海堂を起してしまうと思い、乾は海堂の中から名残惜しげに自身を抜き、海堂を抱き上げる。
起さないように、細心の注意を払って、海堂をベッドに寝かしつけると、乾は部屋を出る。
浴室でさっぱりと汗を流してきて、濡れタオルを持ってきた乾は、まだ穏やかに眠っている海堂の体を拭き始める。
自分が吐きだしたものも綺麗に処理して、汗を拭きとり、着崩した浴衣を直す。
風邪をひかないようにと、上から布団をかけて、サラサラの触り心地のよい髪に触れる。
普段はきつい眼差しも今は隠れ、残るのは年相応のあどけない寝顔。
本来なら、抱かれる悦びも、セックス自体も経験してないはずなのに…
そう思うと、胸に小さな痛みが走る。
「本当は…」
薫の家族に申し訳ないのだと言ったけど…
「お前に対して、罪悪感があるんだよ」
知らずにすんだことを教えてしまった罪。
「俺に逢わなきゃ、もっと幸せな人生が待ってただろうにな」
「…違う」
「え?」
髪を梳いていた手が掴まれる。
驚いて、海堂を見ると、いつの間に目が覚めたのか、乾を睨んでいた。
「そんなの幸せじゃない」
起き上がり、乾の体にしがみつく。
「俺は、幸せだ。あんたがいて、好きなテニスが出来て…」
乾に自分の気持ちをキチンとわかってもらおうと、海堂は一生懸命に言い募る。
「今、これ以上ないってくらいに幸せなんだ。それも、全部あんたがいるから」
同じ家に暮らしているから、いつでも好きな時に触れ合える。
テニスも乾がいるから、ここまで強くなれた。
それに今は、二人でテニスをしている。
いくら、こういう関係でも、ダブルスはお互いの性格に向かないと思っていたのに、そんなことないんだと教えてくれたのもこの人。
「あんたがいない世界なんて、考えられねぇ」
「薫…」
体を一杯に使って心を伝えようとしてくる海堂の体を、乾も強く抱きしめる。
「だから…、お願いだから、そんなこと考えないでくれよ」
俺に罪悪感なんか持たないで。
「俺の気持ちを無視すんな」
気持ちをぶつけるように言い放って、じっと乾の言葉を待つ。
「…ごめん。そして、有難う」
強く抱きしめられていた体は一旦、離され、今度は壊れ物を扱うかのごとくの優しさで抱き締められる。
「俺はきっと、お前を一生離せないよ?」
それでもいい?
「俺も、離す気はねぇよ」
不安げな声に、気丈な声がかけられる。
「もし、お前が離れていったら、何するかわかんないよ?」
もしかしたら、殺しちゃうかも?
やっぱり声は不安気で、それも物騒なことを言い出す。
「離れねぇって、言ってんだろ」
そんな乾の様子に、海堂は苦笑を漏らし、尚も言い募る。
「それに、あんたに殺されるなら本望だ」
そう言ってみせた笑顔は、とても綺麗で、乾はしばし見惚れてしまう。
「その代わり…」
言葉と同時に、笑みは物騒なものに変わる。
「何?」
「もし、あんたが離れていったら…」
「ないと思うけど、その時は…」
海堂の言葉に、言いたいことがわかって、乾が後を引き取る。
「薫が俺を殺してよ」
「勿論っす」
言っていることは物騒に違いないのだが、二人とも嬉しそうに笑って、抱きあう。
約束の証とばかりに口吻を交わして、抱き合ったまま、二人は深い眠りへと落ちていった。
それは、日常に隠された、とある闇夜の出来事だった。
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