発覚  Family Game 5



部長の個人的な私情が挟まれたのか、発表されたランキング戦の表は、乾に深い溜息を吐かせ、海堂と越前の二人に、激しい闘志を抱かせたものであった。

「手塚、俺のこと嫌いだろ?」
「そんなことはないぞ」
「そうか?」

発表後の部活中。
コート待ちしている乾が、手塚に話しかける。

「俺は、例えお前が、越前との関係を親友の俺にも言わなくても、俺はお前を親友だと思っているぞ」
「わかった。嫌ってるんじゃなくて、怒ってるんだな」

手塚の言葉に乾は溜息を吐いて、順番が来たために、コートへと向う。
コートには、乾と交代して出て行こうとする海堂がいた。

「負けませんよ」

コートに入る前に、海堂に声をかけられて、乾が立ち止まる。

「俺もだよ」

海堂の頭をポンと叩いて、コートに向おうとする乾。

「でも、その前に…」
「え?」

ポツリと呟かれた海堂の言葉に立ち止まる。

「ぜってー、あのクソガキをぶっ倒す」

キッと離れた所にいる越前を睨みつける海堂に、乾は諦めたように溜息を吐いた。
そして、そんな様子をずっと見つめていた越前。

「覚悟しててくださいね」

楽しませてあげますよ、海堂先輩。

「徹底的に、叩き潰す」

それから、ハル兄

「アンタの目も覚まさせてやるよ」

そこで彼は、悪魔の微笑を称えていた。

そんな個々の思惑をのせたランキング戦は波乱のうちに幕を閉じ、1年生の越前がレギュラーになり、3年の乾がレギュラー落ちするという事態に陥った。

「お兄ちゃん…」

レギュラー8人が決まり、ランキング戦終了後、水道で水を浴びていた乾の元に、小さな涙声がかかる。

「桜乃」
「お兄ちゃん…ふえ…ぇん…」
「泣くなよ、な」

目の前でポロポロと涙を零す桜乃を、乾は優しく抱き締める。

「だって、だって…」
「いいんだよ。悔しくないと言ったら嘘になるけど、それ以上に嬉しいんだからな」
「嬉しい?」
「ああ。リョーマも海堂も俺にとったら、大切な存在だから、自分を追い越すくらい強くなったことは純粋に嬉しいよ」

話す兄も瞳に嘘がないのに気付いて桜乃も泣くのをやめる。

「父親の心境みたいな感じかな?」
「何、ソレ」

笑って話す乾に、桜乃も可愛い笑顔を零す。

「それにね、俺もこのまま終わるつもりは毛頭ないから」
「お兄ちゃん」
「あいつらには何が何でも、関東までの出場権を取ってもらわないと」

その為の、助力は惜しまないよ。

「代わりに、データと、次のレギュラーは頂くけどね」

ここが最後じゃないから。
全国までには、またランキング戦がある。

「あっ、桜乃」
「何、お兄ちゃん?」
「今のは、リョーマたちには秘密だよ」

人差し指を口元に持っていく乾に、桜乃は笑って頷いた。

「先輩」

桜乃と二人、コートに着いたところで、海堂に呼び止められる。

「どうした?」

真剣な顔の海堂に、乾も気を引き締める。

「有難うございました」

バッと勢いよく頭を下げて、礼を言う海堂に、乾はわけがわからず呆けている。

「先輩、俺と本気で試合してくれて、嬉しかった」
「は?そんなの当たり前でしょ?」
「でも先輩、人のことばっかりで、自分を犠牲にするタイプだから…」
「そんなんで勝っても嬉しくないだろ?」
「だから、嬉しかったんです」

乾が越前に負けた後に聞いた、心ない話題。
それが海堂に不安を与えていた。
乾は海堂に甘いから、わざと負けてやるんじゃないか
そういう話題。

「もしかして、お前も聞いてたの?」

乾が思い出したように聞くと、海堂がコクリと頷く。

「バカだな。俺はお前とは真剣に付き合ってるんだよ?」
「…はぁ…」
「だからね、そんな相手をバカにするようなことしたりしないよ」
「っす」

クシャクシャとバンダナを外したばかりの頭を撫でる。
ガッシャーン

「「え?」」

その時、少し離れたところで何かがフェンスにぶつかる音がして、二人は同時にそっちを見る。

「リョーマ君」
「越前」
「おチビ」

次々と聞こえる声、視線の先にはフェンスに背中をぶつけて痛そうに眉を寄せている越前の姿と

「1年のくせに生意気なんだよ」

カーッとなっているらしく、ラケットを越前に向って振り下ろそうとしている、3年の姿。

「リョーマ」
「止めないか」

手塚の声と、乾の声が同時に響く。
けれど、熱くなっている彼らに声は届かずに、ラケットは振り下ろされた。

「なっ、乾」
「…っ」

けれど、そのラケットは越前に直撃することなく、咄嗟に越前を庇った乾の肩を直撃した。

「乾!」
「乾先輩!」
「お兄ちゃん」
「ハル兄」
「え?」

レギュラーたちが乾に近づこうとした瞬間、聞こえた二つの声に、立ち止まる。

「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ハル兄、しっかり」

乾に寄り添う、少年と少女。
それは彼らのよく知る、越前と桜乃で…

「お兄ちゃん?」
「え?え?」
「何がどうなってんだ?」

レギュラーのみならず、テニス部員たちは半ばパニックに陥っていた。

「お兄ちゃん」
「ハル兄」
「…大丈夫だよ」
「乾、大丈夫かい?」

桜乃とリョーマの声に反応して、立ち上がった乾に、騒ぎを聞きつけて戻ってきた竜崎が声をかける。

「先生、大丈夫ですよ」
「おばあちゃん、お兄ちゃんが…」
「はいはい。とりあえず、乾は保健室だね。それから、レギュラー陣もついておいで、他は解散」

竜崎の声に、パニックに陥っていた連中が正気に戻る。
そして、竜崎の言う通りに、レギュラー陣たちが保健室に、残りは解散した。


乾の肩にシップを貼りながら、竜崎がレギュラーたちに事実を教える。
乾の両親がなくなっていること。
乾と桜乃とリョーマが兄弟だってことを。

「にゃんで、今まで隠してたんだよ」

全てを話し終えた後、菊丸が膨れっ面で文句を垂れる。

「俺が頼んだんっすよ」
「何でだい?」

越前の答えに、河村が疑問を口にする。
それには答えず、越前は小悪魔的な微笑を浮かべる。

「偵察ってところかな?」

その笑顔の意味を汲み取った不二が、同じ種類の笑みを浮かべる。

「偵察っていうよりは、排除っすかね」

ニヤリと笑って、椅子に座っている乾の膝の上に座る。

「あーっ」

あげた声は、一つではなく数人分。

「ハル兄は、渡しませんから」

ギュッと乾の首に腕を回して、勝ち誇ったような笑みを向ける越前。

「ぜってー、シメル」
「フフッ、いい度胸だよね」
「おチビには負けないにゃ」
「越前、校庭100周だ」
「お兄ちゃん、モテるんだね」
「桜乃ちゃん、それはちと違うんじゃないのかい?」
「胃が…」
「ケンカは良くないよ」
「凄いっすね」
「頼むから、仲良くしてくれ」

体の痛みより、心の痛みに悲鳴をあげたくなる乾に、呆れたような声が保健室に響いた。


真剣勝負は、これから。

Fin