今年最後の日、我侭を言えば君と過ごしたかったけど、俺たちはまだ中学生でそこまでの我侭は叶えられないから、せめて、このくらいは許されたい。
適当に親を誤魔化し、自室へと戻る。
机の上に置いた携帯を手にとり、ベッドに座り、時間を確認する。
もしかしたら、家族といるかもしれない。
案外、家族仲のいい家だから。
そういう危惧がありながらも、乾は手馴れた手つきでよく押した番号を押していく。
「…乾先輩…」
「……」
押し終えて、耳に携帯をつけた瞬間、聞こえた大切な人の声に、乾は驚きに息を飲む。
「…早かったな」
まだ少し、早く打つ心臓を宥めながら、声を出す。
「…携帯、持ってたから」
「かけるとこだったか?」
「…うん」
「そりゃ、悪かったな」
海堂の言葉に乾は、携帯を切ろうとして、話を終わらそうとする。
本当は、終わらせたくないし、どこにかけるのか気になるんだけど…
ちっぽけなプライドが邪魔して、聞くことができない。
出来れば、いい恋人でいたいのだ。
余裕なんかないけど、余裕のあるように見せたい。
「邪魔したな…」
重くなる口を無理矢理動かして、話を打ち切ろうとすると、
「…ちがっ…」
焦ったような海堂の声が、携帯の向こうから聞こえる。
「海堂?」
「俺…俺も…先輩にかけようと…」
電話の向こうから、途切れ途切れに聞こえてくる言葉に、乾は嬉しそうに声をたてずに笑う。
「だから…切らないで…下さい」
嬉しかったのに…
同じ気持ちでいてくれたことが。
声だけでも聞きたかったのは、海堂も同じで。
適当な理由をつけて、部屋に帰ってきていた。
携帯を手にとって、乾の番号を押そうとした時、携帯がなった。
ディスプレイに書かれた名前は、思い描いていた人で、頭が理解する前に手が動いていた。
「嬉しいよ」
同じ気持ちでいてくれて。
自分一人の想いじゃなくて。
「俺も…」
電話の向こうで微かに笑ったような音が乾の耳に入る。
「電話でも、空気の流れってわかるもんだな…」
「えっ?」
「何でもないよ」
独り言のように呟いた言葉に反応した海堂に、適当に答えたことで、海堂がどんな表情をしているのかが、何となく想像できてしまい、乾は声を殺して笑った。
「…笑ってません?」
何となく笑われてるような気がした海堂は、ムッとした声を出す。
「気のせいだろ」
中々、気が抜けないな…
「それより、もうすぐ年が明ける」
誤魔化すように乾が海堂に声をかける。
その声に、海堂もテレビに目を向ける。
海堂の部屋のテレビ画面では、皆でカウントをうっているところだった。
「一分切りましたね」
「そうだな…」
他愛ない話をしてるうちに、時間は進む。
30秒を切った時点で乾が海堂を呼ぶ。
「海堂」
「はい?」
そのまま黙る乾に海堂は、じっと次を待つ。
海堂の部屋のテレビのカウントが1秒を告げたのと同時に、
「好きだよ」
乾の声が、そのまま0まで被さる。
「…俺も…好きです…」
「有難う」
「年明けましたね」
「そうだな…」
「……」
テレビの騒いだ音に、二人して耳を向け、一瞬黙った後、
「「明けましておめでとうございます」」
声を揃えて、年明けの挨拶。
「今年もよろしくお願いします」
「こっちこそ」
クスクスと笑いながら、形どおりの挨拶をする。
「明日…もう今日か、迎えに行くからさ、初詣行こうか?」
「はい」
乾の問いに、少し弾んだ声が返ってきて、自然と乾の顔に笑みが浮かぶ。
「そろそろ寝るんだろう?」
規則正しい生活をしている海堂の事を気遣って、乾が声をかける。
「…ス」
「じゃあ、お休み」
「お休みなさい」
このまま話していたい気持ちを殺して、互いに携帯の電源を切る。
せめて、声だけでも聞きたかった。
新しい年を一緒に迎えたかった。
それが
自分一人の想いじゃないと、君が教えてくれた。
「お休み…」
切れた携帯にそっと囁く。
「いい夢を…」
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