Little Lover  -Before5-



翌日、日曜だが、また部活はあった。
乾のベッドで仲良く眠っていた海堂は、隣で眠る乾の姿をマジマジと見つめていた。

「おっきいけど、ちっちゃい………」

……不可解な呟きである。
が、それもそのはず、乾は昨日よりは大きく、けれど、本来の乾よりは小さな姿になっていたのだった。

「ん…、おはよう、海堂」

海堂の微かな呟きが聞こえたのか、乾がむくっと起き上がる。

「……?俺、大きい?」

昨日よりは成長しているらしい目線の高さに、乾は海堂を見つめる。

「でも、まだちっちゃいっす」

海堂の言葉を聞いて、乾は洗面所に向う。

「あ〜、これは十歳くらいの頃か?」

鏡に映る自分の姿を見て、過去の記憶を引っ張り出す。
今、鏡に映る自分を過去に見たのは、それくらい。

「この調子じゃ、明日くらいには戻りそうだな」

成長してくれている体に、ホッと一息吐きつつ、乾は洗面所を出ていった。


「……仕方ないか……」

海堂の作ってくれた朝食を食べて、今日も部活なので、着替える。
昨日の不二の買ってきてくれた服じゃ小さいから、自分の服を引っ張りだす。
ずり落ちそうになるハーフパンツを、紐で括りつける。
Tシャツはダブダブで、ズボンも大きくて女の子の履くキュロットのようになっている。

「どうした海堂?」

髪はやっぱり降ろしたままで、目は少々きついがコンタクトをつけている。

「犯罪的っすよ、先輩」

まだ幼い顔立ちは、中性的というよりは、無性的な顔立ちで、はっきり言って、
お……襲いたくなるくらい、可愛い!
と、目の前で自分を心配そうに除きこんでくる乾に対して思っていた。
因みにこの二人、乾が攻で海堂が受である。
まあ、海堂も健全な男の子なので、こういう感情を持ってもおかしくはない。
それも相手は、恋なんてものを初めてしてしまった相手なのだから、仕方ない。

「何のことだ?」

まさか自分がそんな風に思われているなんてことに全く気付かない乾に、海堂はなんとか気を落ち着かせて立ち上がる。

「俺、一回帰って葉末の服、借りてきます」
「お、おい。海堂!」

叫ぶように話して、全速力で出ていった海堂に、乾が声をかけるが、既に海堂の姿はなかった。

「本当に、どうしたんだ、あいつ?」
どこまで行っても、自分のことには鈍い乾だった。


「およ、乾?大きくなったね」
「少しはな」

あの後、出ていった時と同じくらいのスピードで帰ってきた海堂。
手には言っていた通りに、葉末のものらしき服がある。
黒の迷彩柄のTシャツにジーパンというラフな服は、乾の体にピッタリで似合っていたが、さっきまでの妖しい色っぽさみたいなのは消えて、海堂はホッとしながら、乾と一緒に学校に向った。
部室には既に、他のレギュラーが揃っていて、皆、一様に乾を見て驚いていたが、菊丸の言葉と乾の会話に、自然と笑みが漏れる。

「乾!」

が、どこか妖しげな雰囲気を醸し出すもの数名。
うちの一人、手塚が乾の肩をガシッと掴む。

「どうした?」

真剣な表情でジッと自分を見つめる手塚に、乾が首を傾げる。

「い…今すぐ、俺と結婚してくれ!」

ガタン!

「はあ?」

手塚のいきなりの告白に、部室では乾の素っ頓狂な声と、他のレギュラーたちが椅子から落ちた音だけが響き渡る。

「何、ふざけたこと抜かしてんのさ、君は」

ゲシッという音とともに、手塚に降りかかってきた冷たい声は不二。
暗雲を立ち込めて、手塚の背中を足蹴にしたまま微笑む。

「不二、人の背中に乗るとは。躾のなってない…」
「なってないのは君のほうだろ?」

ズズズ……と、暗い雷雲を頭上に巻き起こして睨みあう、青学ナンバー1とナンバー2。

「触らぬ神に祟りなしって感じすっかね、桃先輩……?」

越前がファンタを飲みながら桃城に向き直ると、桃城は乾を見つめながら、小さな声でブツブツと呟いている。

「桃先輩もっすか……」

呆れたように溜息を零す越前の横で、桃城が勢いよく立ち上がり、

「お、俺の彼女になってください!」

と、叫びながら、乾に向って突進していった。

「桃城?」

叫んで、走ってくる桃城が標的(この場合、乾)にめがけて飛び込んでくる。

「危ない!」

大石が叫んだ時には、桃城は床に激突していた。

「って〜」
「お〜い、大丈夫か、桃?」
「先輩。あんなバカの心配なんかしなくていいっす」

桃城が激突した床は、少し前まで、乾がいた場所。
桃城が飛び込んだ瞬間、乾の体は海堂の腕の中に収まっていた。
そして今も、乾は海堂に抱き上げられたまま、声をかけている。

「誰がバカだ、マムシ」

顔を擦りながら、立ち上がり、海堂に詰め寄る桃城。
ただでさえ、普段から気に食わないライバルが、彼女にしたいと間違ったことを思わせてくれた乾を抱き上げているので、余計に腹が立つ。
怒りを露に、海堂に近づくと、

「脳みそ沸いて、自分がバカだってことも分からなくなったか?」

と、乾を自分の足元に下ろして、鼻で笑ってくる海堂に、桃城は完全にキれた。

「んだと、てめぇ。先輩との仲を邪魔しただけでなく、人をバカにしやがって」
「したんじゃなくて、バカなんだろうが。それにだ、何が先輩との仲だ。この人は、俺のなんだよ」
「いつ、先輩がお前のになったんだ。失礼なこと言うんじゃねぇぞ」
「何が失礼だ。この人の頭の先から、爪先まで、全部俺のもんなんだよ」
「っざけんな、そんなこたぁ、お天道様が許しても、俺は許さねぇぞ」
「誰が、てめぇの許しなんかいるか」
「上等じゃねぇか…」
「「やんのか、コラァ!」」

こうして、本日の部活は冷戦と熱戦の二つの嵐によって、お流れとなりました。

(チャンチャン)

Fin