Little Lover  -不動峰編-



「「乾…さん…?」」
「乾か?」
「そうだよ、不本意なんだけどね。たまにこうなっちゃうんだよ」

ここは商店街近くのファーストフード店。
何故か癖になってしまった幼児化をした乾。
今日の姿は大体十歳の頃の姿だ。
そして、その乾と逢っているのは、青学レギュラーではなくて、不動峰の橘・神尾・伊武の三人。
あることをキッカケに不動峰の三人と仲良くなった…正確には不動峰の三人に異常に好かれてしまったということだが…乾は、珍しく不動峰の三人と約束をしていたのだ。

「まあ、あんまり気にしないでくれ。中身は変わらないから」
「今日はどうします?ストリートに行く予定でしたけど?」
「乾さんちっちゃいから、テニスは辛いよね…」
「そうだな、変更するか?乾?」
「ああ、これでも越前とそんなに背丈は変わらないから大丈夫だよ」

是非とも不動峰のデータ収集をしたいというのと、純粋に試合をしたことないこの三人とテニスをしてみたいという気持ちから、乾は予定の変更を遠慮する。
本当なら本来の姿でしたかったが、データのこと考えたらこっちのほうが相手には取られないのでいいかと考える。

「じゃあ、行こうか?」
「俺が行ってるとこでいいっすよね?」
「この前、桃たちとデートしてたところだろ」
「あれはデートじゃないっすよ!」
「何だ、神尾。桃城とデートしたのか?」
「違う、違う。デートしたのは桃城と…」
「あーっ、乾さん。ストップ」
「神尾君が…」
「深司、お前も言うな!」
「何だ?」
「何でもないっすよ。この前、桃城とテニスしたってだけです、橘さん」

慌てて弁解する神尾。
流石に橘の妹の杏と桃城がデートしたとは言いいたくなかったらしい。

「さあ、さっさと行って、テニスしましょう」

その話から逃れるようにリズムに乗って、神尾は三人を追い立てた。


お目当てのストリートコートに辿りついた四人。
そこには既に先客がいた。


少し話しを戻してストリートテニス場の近くの公園


「今度は何だよ?」
「デート」
「デート〜、もうマジで勘弁してくれよ」

またまた電話で杏に呼び出された桃城。
勘弁して欲しいとか言いながらも、ちゃんと待ち合わせ場所に来てるあたり満更でもないのだろうか?

「デートって、またテニスするんじゃないのか?」
「うん」
「デートって言わずに、テニスしようと言えばいいじゃねーか」
「デートだよ」
「だ〜、お前がそれを言うたびに神尾がうるせぇんだよ」
「どうして神尾君が出てくるの?」
「お前、気付いてねぇのかよ…」

杏の言葉に桃城は盛大な溜息を吐いた。

「あっ」
「あっ?」
「あの人、海堂君じゃない?」

桃城が溜息を吐いてる意味も理解できない杏は、桃城が溜息を吐いている間、周りを見渡していて、丁度、ランニング途中だった海堂を見つけた。

「ああ…おっ、丁度いいや…おーい、マムシ」

杏に言われた気付いた桃城が、海堂を呼び止める。

「ああっ、誰がマムシだ!」

それまでは寡黙に走っていた海堂だったが、人間、言われたくない言葉や嫌いなものほど良く聞こえるらしく、すぐに反応した海堂が猛ダッシュで桃城の前まで行って、胸倉を掴む。

「よう、マムシ。デートすんぞ」
「…………………デート?」
「おう、デートだ」
「…………………とうとう、頭沸いたか?」
「どういう意味だ、てめぇ」
「それは、こっちの台詞だボケ!」
「ああ、何がだよ?」
「何で俺が貴様とデートしなきゃならねぇんだよ」
「誰も俺とだなんて言ってねぇだろ」
「あ?」
「俺と橘妹とだ」
「断る」
「何でだよ」
「練習中だ」
「いいじゃねぇか、ちょっとくらい」
「よくねぇ。俺には乾先輩がいるんだ。他の奴とデートなんか出来るか」
「そんな堅苦しく考えるんじゃねぇよ」
「…海堂君もデートしよ」
「だから、俺は…何すんだ〜」
「「いいから、いいから」」

珍しく絶叫する海堂の襟首を掴んで、桃城と杏はいつものストリートのテニスコートに向った。

「テニスコート?」
「おう、デートだぜ」
「テニスしよ?」

唖然とする海堂にニッと笑いかける二人。
その時…

「あ…」
「「「あ?」」」

階段のあたりからボソッとした声が聞こえた。
そちらに視線を向ける三人。

「お兄ちゃん!」
「杏?」
「海堂?」
「乾先輩!」
「あ〜桃城!」
「ゲッ、神尾。……あ、あれはマイスイート…ゲフッ…」
「凄いめぐり合わせ…」

お互い相手を指差す二組。
桃城に至っては、海堂の足の下に寝ている状態だが。

「何やってるんだ?」
「デート」
「デート?って、桃城と海堂とか?」
「お、俺は違うっすよ。練習中にこいつらに捕まっただけで。俺はデートなんかする気なかったっすよ」
「まだ、何も言ってないよ」
「お、俺だって…マイ…」
「てめぇはそのまま死んでろ!」
「グハッ!」
「やるじゃねぇか、マムシ。俺にもやらせろ」
「あ、リズム野郎か。好きにしろ」

嬉々として桃城を踏みつけにきた神尾と変わって、海堂は小さくなっている乾の元に走り寄る。

「先輩、逢いたかったっす」
「…俺はこの姿の時は逢いたくなかったよ…」
「先輩?」
「ところで、桃はあのままでいいのか?デート中だったんだろ?」
「だから、俺は無理やりあの二人に連れてこられてきただけっすよ」
「ふ〜ん」
「そういう先輩こそ、何で不動峰の三人と?」
「ん?デート」
「先輩!」
「冗談だって、不動峰の三人とテニスしてみたくて約束したんだよ」
「で、小さくなったのに逢ったんっすね?」
「ああ。この姿ならテニスは出来るしな」
「先輩…また、部長やバカのような先輩に変なことを考える危ない奴が増えたらどうすんっすか?」
「危ない奴って…大丈夫だろ」
「大丈夫じゃないっす!」

グッと握りこぶしを作って、説得する海堂。
乾は何バカなことをと思っているのか、始終笑っている。

「てめぇ、あれほど杏ちゃんに近づくなって言ってるだろうが」
「あいつが勝手に寄ってくんだ。俺の知ったことっちゃねぇ」
「なんだとー」
「それより、とっととその足をどけろ」
「そうよ、神尾君。桃城君が可哀相だよ」
「杏ちゃん」

桃城を踏みつけたまま話す二人に橘兄妹が割って入る。

「ったく、てめぇのせいで見てみろ。俺のスイートハニーが…グェッ!」
「人のもんに勝手に変な名前つけんじゃねぇよ」
「別に俺は海堂のものじゃないけど?」
「先輩、だから、俺はデートなんかしてないっすよ。先輩一筋ですって」
「どうだか」
「乾先輩」
「で、杏。本当にデートしてたのか?」
「そうだよ」
「そうか、杏は桃城と…」
「橘さん、ダメですよ。杏ちゃんに桃城は似合わないっすよ」
「どう意味だ、てめぇ」
「何だよ、やっぱ貴様、杏ちゃんのこと」
「違う。俺が…俺が好きなのは…マイスイート…」
「だから、それはやめろって言ってんだろうが!」
「海堂、桃城死ぬぞ?」
「あんな奴が死のうが知りませんよ」

桃城が自由になったために海堂と乾も混じっての混戦状態。
少し離れたところで眺めている伊武はブツブツと何事かと呟いてる。

「…乾さんとマムシ君が出来てて、バカ君は乾さんが好き。杏ちゃんはバカ君が好きで、神尾君は杏ちゃんが好き…要するに…ああ、ややこしい…」

音声拡大でお送りしました。
伊武がブツブツと言っている間に、混戦状態は最高潮に達していた。

「ふぅ…そうだな…桃城か神尾…それは杏が決めればいいだろう。でだ、振られたほうが海堂と付き合う」
「ああ!何でそこで俺が出るんだ?俺は乾先輩一筋だって言ってんだろ!」
「ああ、俺はどっちもやだぜ。俺にはマイスイー…ふがっ!」
「橘さん、杏ちゃんが選ぶってのはいいですけど、何で海堂が出るんっすか?」
「お兄ちゃん…自分の欲望のために妹を売り物にしないでよ…」
「でだ、乾は俺と付き合う」
「ふざけんな、大仏!」
「はぁ?橘、俺男だぞ?」
「そうくるか、それなら橘さんじゃなくて、俺とでもいいんじゃないかな?」
「大体だな、振られたほうは責任持って兄貴のてめぇが面倒みてやりゃいいだろう」
「嫌だ。この中で付き合うなら乾がいい」
「あのな…俺の意見っていうのを…」
「「乾先輩は俺のだ!」」
「あ?何ふざけたこと抜かすんだ、バカ桃」
「てめぇこそ、いつもいつも我が物顔すんじゃねぇよ、マムシ」
「「やんのか、コラァ」」
「…帰ろう…」
「乾さん、杏とデートしよ?」
「…そうだな。一番、無難な相手だな」

疲れたように混戦を極めた中から出てきた乾。
乾と同時に抜け出してきた杏の額には青筋がピクピクしている。

「乾!杏!」
「乾先輩!」
「マイスイー…いい加減に蹴るな!」
「杏ちゃん!」

乾も杏の怒りがわかり、叫ぶ五人を置いて、二人でストリートを後にした。

Fin