Little Lover  -大和編-



学校がない日も部活はある。
またもや小さくなった乾は開き直ったので、今日も元気に小さな姿のまま登校している。

「乾…」
「手塚、どうして鼻を押さえているんだ?」
「手塚なんてほっとけばいいよ、乾。今日も可愛くなったね」
「煩い…」
「それにしても、カリスマ部長でカリスマ生徒会長の君が、親友の幼少の頃の姿にうっかり発情しちゃってるなんて、うちの生徒が知ったりなんかしたら、凄いことになりそうだよね」
「はぁ?何で手塚が俺に発情するんだ?大体、あの手塚が…」
「甘い、甘いよ乾。ともかく危険だから、手塚の傍には近づかないようにね。今の乾じゃ力じゃ勝てないしね」
「…あ、ああ」
「不二、貴様というやつは俺を危険人物と言っておいて、そういう貴様はどうだと言うんだ!!」

10歳の姿で登校してきた乾。
薄い、当時の眼鏡に(保存がいいらしい)子供用のジャージ。
うっかり鼻血を拭きそうな手塚に、そんな手塚に冷たい視線と言葉を投げかけながら、こっそりと乾を手塚から離して自分の近くに置こうとする不二。

「あ〜、マイラブスイートハー…グェッ!!」
「何、ふざけたことぬかしてんだてめぇは」
「お、おい、海堂…、桃の奴死にかけてるぞ?」
「先輩、お早うございます。いつも格好いいっすけど、今日は可愛いっすね」
「ああ、あんまり嬉しくないけど有難う」
「先輩、この姿の時はここの連中は全員、餓えた狼だと思ってくださいね」
「何だ、それは?それと、そろそろ桃の奴放してやったらどうだ?」

仲良く話をする二人。
不二に可愛いと言われても嬉しくはないが、可愛いという言葉自体は嬉しくないものの、恋人の…それもベッタベタに甘やかしてる可愛い恋人の海堂に言われれば、褒められてるようなものなのでそれなりに嬉しい乾。
そして、たまに見ることの出来る可愛い乾を見れてやっぱり嬉しい海堂。
そんなラヴラヴな二人の世界で話してる二人だが、海堂の足の下には桃城が下敷きになっていた。
そう、あのマイスイート…と叫んで乾に飛びつきそうになったのは桃城で、乾まで後数センチというところで、桃城は海堂に踏みつけられてしまったのだった。

「ダメっすよ、先輩。こんなバカ野放ししたら先輩の身に危険が及ぶじゃないっすか」
「はぁ?海堂、大丈夫か?何で桃城を放して俺に危険が及ぶんだ?」
「先輩、自分に関することには鈍いとは思ってたっすけど…」
「乾の自分に関連する鈍さだけは、あの天然の手塚にも勝つよね」
「何のことだ?」
「「ともかく、乾(先輩)は小さくなった時は、手塚(部長)と桃城の半径一メートル以内には近づかないこと」」
「わ、わかった…」

不二と海堂に圧倒され、乾は後退りしながら頷いた。

「じゃあ、先輩は離れて」

ひょいっと乾を抱き上げて、手塚と桃城から離れたところに乾を連れていく海堂。

「う〜、マイスイー…ト…」
「乾…心のオアシス…」
「桃も手塚も、一回病院行ってきたら?」

離れてしまった乾との距離に涙する二人に、不二の容赦のない声が飛んだ。

「相変わらず、凄いっすね」
「手塚も凄いけど、桃…バカだにゃ〜」
「頼むからこれ以上、ことを大きくしないでくれ」
「凄いね乾、大モテだね」

そして、残りのレギュラーは乾がこの姿になる度に冷戦と熱戦を繰り返す四人に付き合ってられないので、遠くから見物を決めこんでいた。


練習開始後は乾は一人か顧問の竜崎といる。
この体では練習に参加しても邪魔になるのでと…周りの部員は一緒に練習したいのだが、本人がそう言うので…コーチ役に徹している。
その為、一人でいることが多いのだ。
今も乾は一人でいる。
ノートを開いてドア横のベンチに座って練習を眺めていた。
集中してノートに何事か書いている乾。
レギュラーも一般部員も皆、だから気がつかなかった。

「うおっ…!!」

という、いつもの感情の籠らない淡々とした声でありながらも、驚いたような声を出していた乾。
とはいえ、やっぱりいつも通りの声過ぎて練習に集中してる部員の耳には入らなかった。


さて、少し時間を遡ろう。
今の三年が大好きな高校生が一人。
三年が一年の頃の男子テニス部の部長…大和だ。

「さあ、今日も僕の子羊たちは元気ですかね〜」

子羊=現三年レギュラー
どうも何か間違ってる気がする言葉を、この中学校にいた頃の姿のまま声に出すその姿は傍から見れば…いや、見なくても…怪しいことに違いない。
その現役高校生がいるのは、何故か、数年前に卒業した母校・青学中学校。
何しにきたかって?
勿論、子羊で遊びに…もとい、可愛がりにきたのだ。
それはもう、子羊たちの迷惑も顧みずにだ。
その大和が楽しそうにコートに近づく。

「あれ?子供が混じってますね〜」

ベンチに座る子供…乾を見つけた大和。
だが、今の大和の視点からは乾の顔は見えなかった。

「あれは誰なんですかね?」

大和の何らかのレーダー…子羊レーダーとでも言うべきかがキャッチしたのか、大和は子供の顔を見ようと移動する。

「あ、あれは…」

子供の顔を見た途端、大和がどこからともなくアルバムを取り出す。
パラパラとめくって辿りついたのは乾のページ。
このアルバム、子羊たちの写真がどっさりとそれぞれのページがある。
それも出会う前…彼らが小学生の頃の写真もだ。
どうやってそれを入手したのか…そういうところはある意味、不二や乾より不可思議な存在だった。

「やっぱり、あれは乾君!」

当時の乾の写真と見比べて、結論付ける大和。
瞳は輝き、両手は胸の前で組んで乙女のような…自分が字書きで絵は描けなくてよかったと思うような…ポーズで乾を見つめていた。

「何ということでしょう。これは僕に神様がプレゼントをくれたんですね!」

そう呟いた大和。
その後の行動は素早かった。
誰にも見つからずにフェンス内に入り、乾を拉致して部室へと引き篭もった。


そういうわけで、誰も気付かない事実。
乾がコートにいないという事態が引き起こされた。


部室に拉致された乾。
その後、どうなったかというと…

「な…何で、大和部長が…」

よりにもよってこの姿の時に…

「久しぶりに君たちに逢いにきたんですよ、それにしても乾君、小さくなれたんですね」
「なれません」
「本当に乾君は小さいと可愛いですね」
「放っておいてください」
「あ、勿論、大きくても可愛いですよ」
「そんな弁解いりません」
「ところで乾君、僕とってもいいの持ってるんですよ」
「いやだ、いやだー!」

乾の絶叫が部室を越えて、コート内までも響き渡った。

「え?乾先輩?」
「…乾がいない!」
「ええっ!」
「な、何処いったんだ?」
「じゃあ、やっぱ今の声…」
「乾先輩の声っすかね?」
「乾が叫ぶほどのことを出来る人って…」
「ハッ!部室だ!」

どっからともなく聞こえた叫び声にレギュラーたちは練習を中断して、部室へと走っていった。

「乾」
「乾、どったにゃ」
「大丈夫っすか?」
「どうしたんだ?」
「何があったの?」
「誰?」
「何だ、あのオッサンは俺のスイート…グハッ…」
「ああ、やっぱり大和部長」
「やあ、皆さん、久しぶりですね」

バタンと開けたドアの向こうにいたのは大和。

「乾先輩は?」
「あれ?大和部長、乾知らにゃい?」

乾は大和の影に隠れて見えない。
それに気付いた乾は、全員の視線が大和に集中してるのを見て、そっと気配を殺して移動を開始する。

「ああ、乾君はですね〜ここに…あれ?」

大和が最高傑作と仕上がった乾を嬉々として見せようとしたのだが、乾はそこにいずに大和はキョロキョロと乾を探すように視線を巡らす。

「あれ?何処行ったんでしょう?」

大和の声に、そこにいたレギュラー全員が乾を探し始める。

「乾先輩?」
「乾、何処にいった?」
「乾先輩、出てきてください」
「いないにゃ〜」
「何でこんな狭い部室で見つからないんだ?」
「流石だね」
「不二先輩?」
「何処、行くのかな乾?」

バタバタと隅のほうやロッカーの裏など、隠れやすそうな場所を探すレギュラー陣や大和に対し、不二はジッと部室のドアを眺めていただけ。
不審に思った越前が声をかけるのと同時に、不二が口を開く。

「あ、逃げても無駄だよ乾」

その声に全員の視線がドアに集まる。
ドアの前にはドアノブに手をかけている、セーラー服に猫尻尾と大きな猫耳帽子を被った女の子が一人、足にも猫足スリッパを履かされている。
その子のかたを掴んで逃げれないように不二はしていた。

「え…乾にゃの…?」
「あ、乾君。探しましたよ〜」

唖然とする不二以外のレギュラーに対し、大和は嬉しそうに乾の前に立つ。

「さ、見てください」

暴れる乾を押さえつけて、正面を向かす大和。

「乾、結婚しよう!」
「いい加減、馬鹿なこというのはやめたら?」

乾を見た瞬間、そう叫んで抱きつこうとする手塚とラケットで思いっきり手塚の顔を振り抜く不二。

「マ…マイスイートハニー!」
「てめぇもいい加減にしやがれ!」

乾に飛びつこうとする鼻血まみれの桃城と、容赦なくブーメランスネイクを桃城にかます海堂。

「うわ、乾。可愛いにゃ〜」
「乾先輩、飼ってもいいっすか?」
「これって…」
「某デジキャラの一人のコスプレです。ぷちるちゃんと呼んであげてください」
「大和部長…」

猫好きの菊丸と越前は嬉々として乾に抱きつき、河村と大石は哀れそうに乾を見る。
された乾といえば、この姿を皆に見られて半泣きだった。

「乾…先輩…」
「か、海堂…?」

ギュウッと乾に抱きつく菊丸と越前の向こう側に、ゆらりと立ち上がった海堂の姿を認める。
その海堂の足元には半屍と成り果てていた桃城の姿があった。

「うわ〜っ!」
「った〜」

海堂の姿が一瞬消えたと思った瞬間、乾に張り付いていた菊丸と越前は宙を舞った。

「のわ〜!」

そして、皆が二人に気を取られている間に海堂は乾を連れ去ってしまった。
海堂が乾を連れていった場所。
そこは、学校内の保健室。

「海堂?」
「先輩…先輩、卑怯っすよ」

ガバっと乾を保健室のベッドに押し倒す海堂。

「お、おい、海堂…」
「先輩、好きです」
「やめ、海堂!」

自分に覆いかぶさってくる海堂。
それを阻止するように両手を伸ばして突っぱねようとする乾。

「何でっすか?先輩は俺に抱かれるのは嫌っすか?」
「別にお前が本当にそうしたいと思うなら、いいとは思う…」
「じゃあ…」
「ただし!それは本来の姿の時ならだ!こんな姿の俺に欲情されたって嬉しくないし、嫌だ!」
「どっちでも先輩は先輩じゃないですか!」
「問題が違う。元に戻ったら好きにしてもいい」
「今がいいっす」
「絶対に嫌だ!」
「問答無用!」
「嫌だー!」

乾の声が学校内に木霊する。
果たして乾がどうなったのかは、海堂だけが知っている。
他は皆さんの想像に任せることにしよう。

Fin