「不二…頼みがあるんだが…」
「何?乾。僕に出来ることなら何でも言って」
「ああ、実はな…」
本日の乾はいつもの姿。
不二と二人っきりで話す乾の表情は無表情だが、眼鏡に隠れた瞳は愉悦の色を浮かべている。
そして相手の不二の手には河村丸秘ノートと書かれたノートがあり、満面の笑顔だった。
そう、乾のそれはお願いではなく、買収だった。
「本気?」
「ああ」
「でも、ちょっと無理がない?」
「いや、そんなことはない。不二なら可能だろ?」
「そうかな?無理だと思うけど?」
「やってみないとわからないだろう。それにだ…」
「それに?」
「これが上手くいけば河村の…」
「フフッ、乾。いいこと考えるね。僕に任せて」
「ああ、頼んだぞ」
こうして、悪魔と首領の暗黒会議は幕を閉じた。
一体、乾は不二に何を頼んだのか?
この後どうなるのか?
数日後、部活が休みの前日
またもや、小さくなった乾は海堂の手によって着飾られていた。
「先輩、可愛い」
語尾に巨大ハートマークがつきそうなうっとりした海堂の声。
乾は何か思うことがあってか、今日は珍しくされるがまま。
いつもなら、徹底的に抵抗している。
「先輩、今度はこれ」
思う存分、デジカメにメイドコスした乾を撮った海堂。
今度は買ったばかりの袋から、和服メイド服を出す。
今日はメイドコスで揃えたようだった。
きゃつ…大和の登場以来、小さい乾…この場合、十歳バージョンだが…にコスさせるという何ともいただけない趣味を開花させてしまった海堂。
もう少し小さいバージョンの乾には動物のパジャマを着せるのに目覚めてしまっている。
そのために、乾はあれ以来、小さくなる度に不本意なものを着せられてしまっているのだ。
「薫…、俺もう眠い…」
和服メイドコスも撮りまくって満足そうな海堂に、乾が眠そうに目を擦りながら上目遣いに海堂を見上げて呟く。
「先輩、また夜更かししてたんっすか?」
「う…ん…、ちょっと徹夜を…」
「またっすか、体に悪いから止めて下さいって言ってるのに…」
ブツブツと文句を言いながらも、テキパキと乾にパジャマへと着替えさせていく海堂。
もうウトウトしている乾を抱き上げて、ベッドへと寝かして自分も同じベッドへと潜り込む。
「先輩、お休みなさい」
スースーと寝入ってしまった乾の頬にチュッとキスをして海堂は、今は子供体温で暖かい乾を抱き締めて自分も寝た。
そして、朝…
「流石は不二、データ通りだ」
海堂よりも先に起きた乾。
珍しいこともあるものだ、これは何かが起こる前触れなのだろうか?
「可愛いよ、薫。これからもっと可愛くなろうな」
横で眠る海堂の髪を弄りながらそれはもうとっても楽しそうに囁く乾。
ガサガサと隠してあった紙袋から取り出した服を海堂を起さないように気をつけながら着替えさせていく。
「ん…うん…?」
「お早う、薫」
丁度、着替えが終わったあたりで海堂が目を覚ます。
「おはよっす、先輩…戻ってるっすね」
「うん、俺はね」
「俺はね…?………ん?」
乾の意味深な言葉に悩む海堂。
だが、次の瞬間に自分の体に起こった異変に気付く。
「な!何で…何で俺が小さくなってんっすか!」
「いや、不二のおまじないってのは凄いな〜」
「って、アンタか!」
「ん、たまには逆の立場もいいかなって思ってね」
「よくねーよ。しかも、何でこんな服」
「似合うよ、薫。凄い可愛い」
チュッと頬にキスをして囁く乾。
今の海堂にはそんなことを言われても嬉しくて思わずウットリしてしまうというような神経はなかった。
今の海堂は昨日の乾とほぼ同じ姿。
そう、海堂もまた小さくなってしまったのだ。
元の成長の度合いの違いで、少し海堂のほうが小さいが、年齢的には同じ頃くらいだろう。
冒頭の不二との会話は、海堂の幼児化を不二に願ってもらったのだ。
正確には黒魔術をかけてもらったとも言うのかもしれないが…
乾の台詞の河村の…部分は、もうおわかりだろうが、河村の小さい姿を見ることが出来るぞというものだった。
さて、話は現在に戻ろう。
小さくなった海堂。
葉末よりも中一の頃よりもさらに小さい。
とっても可愛くなった海堂。
その海堂が今、着ているものは赤のチャイナ服。
そう、ある時期、とあるウーロン茶のコマーシャルに出ていたお茶の精霊役らしきコロコロと人数が代わり、今ではすっかり大所帯の某アイドル娘たちが着ていたものだ。
「ロングのスリットも凄くそそられるんだけど、今の薫は小さいからやっぱこっちのほうが可愛いね」
「どっちも嫌だ」
「その嫌だというのを薫は俺にいつもやってたんだよ」
鮮やかに微笑んで、ベッドにまだいる海堂を押し倒す乾。
「ゴメ…ナサ…ッイ…」
微笑む乾。
だが、その瞳には笑みは浮かんでおらず、海堂は実は怒ってキレちゃってるという事実にこのとき、初めて気付いた。
キレた乾は半端じゃなく恐い。
それはもう、平気で恐ろしいことを出来てしまうからだ。
いつもの優しくて穏やかな乾とは違う、冷たくて酷い乾。
そう滅多なことでは怒らない乾が怒ったということは、よほど嫌だったのだろうということにもようやく気付いた海堂は涙を零しながら謝った。
「お、俺…そ…な…先輩が怒って…って知らな…くて…」
変声期前の高い声に、嗚咽交じりの舌足らずな言葉遣い。
「もうしないって約束してくれなら、許してあげるよ」
さしもの乾も溺愛する恋人のこんな可愛い姿にはグッときたようであった。
「ほんと…?」
「うん、本当」
「も…しないから…」
「ん」
「ごめんなさい」
ギュウっと乾にしがみついて謝る海堂。
乾は言葉の変わりにあやすかのように背中を撫でる。
「先輩…先輩…スキ・好き…」
「俺も好きだよ」
泣きはらした真っ赤な瞳で真っ直ぐに乾を見つめて伝える海堂。
潤んだ大きな瞳も一生懸命に気持ちを伝えるふっくらした唇もいつもより小さな体も、乾の着せた赤いチャイナ服も全てが乾を誘っているように乾には思えた。
「薫、愛してるよ」
「あっ、ちょ…っ、ヤダ…先輩…」
耳元で愛の言葉を囁いて、息を吹き込む。
ピクンと揺れる海堂の肢体。
乾の意図に気付いた海堂は、乾を引き剥がそうと腕を突っぱねる。
「薫、可愛すぎ」
いつもの数倍も艶のある甘い声で囁かれ、海堂の背筋をゾクゾクしたものが走り抜ける。
「ヤっ…先輩…先輩は…この姿の時は嫌だって言ったくせに…」
「俺はね。でも薫はいつもの姿だって、俺に抱かれてるでしょ?」
「そ…っなの…」
「可愛がってあげるよ」
「やぁ…ん…」
結局、頑張って着せた服は着せた本人の手によって脱がせられてしまった。
海堂は果たして元に戻れるのだろうか?
その答えは不二だけが知る。
「え?僕?知らないよ〜。乾に言われたから、やっただけでその後のことなんて」
「乾先輩!」
「まあ、何とかなるって」
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