Christmas for you



中学最後のクリスマス。
初めて二人で過ごすクリスマスがラッキーなことに祝日で、前日から過ごしたいと誘って見れば、

「明日も部活あるから」

と、何ともそっけない答えが返ってきて、そういえば、去年は部活のせいで二人きりで過ごせなかったんだよなぁとか思い出してたら、

「…午前中で終わりだから…」

恋人が、恥ずかしそうに呟くのに、俺は顔がにやけそうになるのを隠すのに必死で、

「昼は一緒に食べるから、作っといてくださいよ」

なのに、あいつはそんな可愛いことを言ってのけるから、結局、俺は破顔する羽目に陥ってしまって、

「何、笑ってんだよ」

と、愛しい恋人に、怒られてしまった。


それが、数日前の事。
そして本日、イブ当日。


「…グェ…」

前日、明け方近くまで起きていた乾は、恋人の足蹴にて目覚めを促された。

「…夜更かしすんなって、いつも言ってるだろ」
「すいません」

機嫌の悪そうな海堂に、乾は反論せずに謝る。

「部活、終わったの?」

愛用の眼鏡をかけて、起き上がりながら問う。

「かなり前に…」
「そんな時間?」

海堂の言い方に、時計に目をやると時計は、2:00を指していた。

「お前、いつきた?」
「12:30くらい…」
「何で、もっと早く起こさないんだ?」

海堂が乾の家にきてから、一時間半、乾は海堂がいることにも気づかずに眠っていたことになる。

「することあったし、あんた気持ちよさそうに寝てるから…」
「俺のことは気にしなくていいけど…、することって?」

自分のことを起こすのを申し訳ないと思ったあたりは可愛いなぁと思うが、どうもその前に言っていた言葉が気になるので、乾は素直に聞いてみる。

「気づきません?」

どことなくムッとした様子で言われ、内心、焦りながらも乾は周りを見回す。

「…何か、綺麗になってるんですけど…」

寝る前の自分の部屋と、今、現在の自分の部屋があまりにも変わってる現実に、乾は半ば呆然としながら呟く。
しかも、所々に知らないケースや箱が置かれている。

「プレゼントっす」

乾が驚いたことが嬉しかったのか、どことなく嬉しそうな声で言う。

「このままだとあんた、正月も汚いまま過ごしそうだから」
「あれとかも、海堂が買ったのか?」

昨日までは確かになかった、整頓箱などをさして聞く。

「来る途中で100均よって買ってきた」

テーブルの上に綺麗に折りたたまれてある大きなビニールを指す海堂に、かなりの量を買い込んできたのがわかる。

「ほんとは、もっと色々と何がいいか考えたんだけど…」

クリスマスを誘われる前から、ずっとこの人に何をあげるか考えていた。
考えて考えて、夜も眠れなくなるくらいに考えたけど、結局、この人の欲しいものなんか、自分には思いつかなくて……

「ほんとは、もっとちゃんとしたものあげたかったんですけど…」

ここに来る途中、どうせ掃除してないんだろうなとか思ったから……

「有難う」

寝てる間、俺を起こさないように気を使いながら、一生懸命に掃除をしてくれたんだろうなということが簡単に想像できてしまう。

「嬉しいよ」

どんなプレゼントでも、真剣に自分の為に悩んでいてくれたことが、とても嬉しかった。

「愛してるよ」

ベッドに腰掛けてる海堂を抱きしめて、言葉と共に感謝の印に、キスを一つ。

「貰ったことだし、俺ももう渡しとくかな」

海堂を抱きしめたまま、ベッド横に置いてある鞄の中から、綺麗にラッピングされた小さな縦長の箱を取り出す。

「メリークリスマス」

言葉とともに、海堂の手にそれを置く。

「有難うございます」

礼儀正しい海堂は、抱きしめられたままでも、律儀にペコリと頭を下げてお礼を言う。

「開けてみて」

その仕草に、微かな笑みを浮かべながら、次を促す。

「はい」

嬉しそうにいそいそと海堂は、その包みをあけていく。
中に入っていたのは、腕時計。

「お前、時計つけてないだろう」

海堂の手から時計を奪って、時間をあわせ動かすと、器用に海堂の腕にそれをつける。

「海堂さ、集中すると時間、忘れるから」

今はまだ、傍についててやれるからいいけど……

「4月からはついててやれなくなるから」

ほんとは一緒にいてやりたいけどな。

「俺がいないと、何時になっても練習続けてそうだからさ」

流石に、海堂の親から息子が帰ってこなくてとか、電話あったら嫌だし…
冗談めかして、乾が言うのに、海堂は俯いたまま聞いている。

「せめてさ、時計をつけてなくても、思い出してくれたら…」

少しは、時間を気にしてくれるといいんだけど。

「…いなくなるんすよね」

黙っていた海堂が、ポツリと呟く。
その声が、どことなく震えているように聞こえたのは、乾の気のせいなのか…

「うん」

別にここの高校に進学するのだから、それほど、離れるわけではないけど……
それでも
もう、同じ校舎にいることもない
同じ部活にも
テニスコートにもいなくなる
今までは、一緒にいれた時間が、いれなくなる。
それだけのことだけど、同じ学校にいた時間がなくなるだけだけど
それが、とても辛いのは二人とも一緒だから
下手な慰めさえも二人には出来なかった。

「待ってるから」

一年、君が高校に来るのを待ってる。

「はい」

早く過ぎればいいと思う。
二人が過ごした二年がとても短くても、一人で過ごす一年は、とても長いものだとわかっているけど。
それでも、早く過ぎることを願っている。

「…これ、ずっとつけてます」

部活だとか、風呂だとかの時は、流石に外さないといけないけど、それ以外はずっと、肌身離さずに持っている。

「あんたがいない間、ずっとつけてるから」

あなたの変わりに、傍にいてもらうから……

「有難う」

目元に唇を寄せて囁く。
眦に浮かぶ、雫を唇で掬うと、擽ったそうに海堂が身じろぎする。

「目にされるのも嫌いじゃないですけど…」

乾の頬に手を添えて、上目遣いに乾を見つめる。

「誘うの上手くなったね」

頬に添えられた手を捕まえて、手のひらに口付ける。

「誘ってなんかない」

照れてるのか顔を朱に染めて、抗議する海堂に、

「はいはい」

乾は適当な返事を返して、少し厚めの唇に唇を寄せる。

「…グゥ〜」

唇が重なる直前、海堂のお腹が盛大な音をたてる。

「プッ…ハハッ…」

一瞬、唖然と二人して止まった後、乾が海堂の肩に頭を置いて爆笑する。

「…最悪」

甘い雰囲気を一変させた張本人は、自分の肩で笑い続ける人を見ながら、顔を真っ赤にして呟く。

「そんなに笑わなくてもいいでしょう」

笑いが収まらない乾に、海堂が照れたように怒鳴る。

「わっ…悪い…」

それでも、乾の笑いは止まることなく、海堂の顔はどんどんと赤くなっていく。

「あんたは寝てたからそうでもないだろうけど…」

俺は、朝から部活した上に、あんたの部屋の掃除もしたんだよ。

「ごめん、ごめん。俺が悪かった」

何とかおさまってきたらしい乾が、海堂の肩から顔をあげる。

「早く、飯」

余りの恥ずかしさに、顔をあわせられない海堂は、視線を逸らしながら呟く。

「わかったよ」

それに気づいた乾は、無理に視線をあわせることなく立ち上がる。

「じゃあ、作りにいくか」
「…ウス」

視線は逸らしたまま、立ち上がる海堂に、

「掃除もして、疲れてるだろ。出来たら呼ぶから、休憩してな」

優しく話して、もう一度、座らせる。

「…じゃあ、お言葉に甘えて」

乾の言葉に、素直に座る海堂。

「飯食ったら、さっきの続きしような」

大人しく座ったのを確認して部屋を出ようとした乾が、ふと思いついたように振り返り一言。

「…っ、うっさい、さっさと行け!!」

それに際限ないほどに、真っ赤になった海堂が叫ぶ。
その際に、手元にあった枕を投げるが、既に乾は部屋の外。

「笑ってんじゃねぇよ」

部屋の外でクスクスと聞こえてくる笑い声に、ボソッと文句を言う海堂。
自分で投げた枕を取りにドアの前まで来て…

「…チッ」

舌打ちとともに、枕をベッドに投げて……

「いれるうちに、一緒にいなきゃ損じゃねぇか」

との言葉を残して、乾の部屋を後にした。


向かうは、愛しい彼の人の傍……

Fin