レコーディング



「緊張してるね」
「うう…だって…」

今日は海堂と乾のレコーディングの日。
二人はスタジオへの道を、一人は普段と変わらずに、もう一人はいつもよりも固い表情で歩いている。

「おはようございます」
「ちっす」

既にスタッフのそろったレコーディングスタジオ。
挨拶をして、中に入る乾と海堂。

「おはよう」
「時間通りだね」

スタッフたちはキチンと時間に合わせてくる二人に優しく接する。

「早速だけど、始めようか?」
「はい」
「っす」

スッタフの一人に声をかけられ、二人も気を引き締まる。

「まずは乾君から」
「はい」

呼ばれた乾は、ブースの中に。
海堂はソファに座って待機。


「はい、終了」

それほど問題なく、乾の録音は終わった。
戻ってきた乾は、苦笑交じり。
流石に疲れたらしい。

「次、海堂君」
「…っす」

呼ばれて、飛び跳ねるように直立不動で立つ海堂。
緊張してカチンコチンになってる。

「海堂、大丈夫?」
「……」

そっと窺うように海堂を見る乾に、海堂は泣きそうな顔で乾を見る。
これはどう見ても、大丈夫ではいないだろう。

「落ち着いたら大丈夫だから」
「っす」
「頑張れ」
「はい」

ポンポンと落ち着かせるように肩を叩いて背中を押す。
やっぱり、カチカチに固まってる海堂は、予想通りにトチりまくってしまう。

「う〜ん、困ったな」
「スンマセン」

もう何度目かの取り直しに、スタッフも困り顔。
海堂も自分が悪いのをわかっているので、殊勝に謝る。

「ちょっと、いいですか?」
「ん?」
「緊張してるみたいなので、ほぐしてきます」
「お願いできる、悪いね」
「いえ」

スタッフに声をかけて、ブースの中に入っていく乾。

「先輩?」

突然、中に入ってきた乾に、不思議そうに声をかける海堂。
乾はそれには答えずに、サッとカーテンを引いて、中を見えなくしてしまう。

「先輩、何?」
「う〜ん、海堂が緊張してるから、その緊張をほぐそうとね」

カーテン閉めて、ようやく乾が口を開く。

「ほぐすって、何…?」

乾の声のトーンに、ゾクリとしたものが背筋から這い上がってきた海堂はジリジリと嫌な予感に後ろに下がる。

「薫」

ヒクンと海堂の喉が鳴る。
いつもより低いトーンで名前を呼ぶ乾。
この声で呼ぶのは、情事の最中。
その声だけで、海堂の体に熱が灯る。

「大人しくしてたら、悪いようにはしないよ」
「先輩…」

潤んだ瞳を不安で揺らす。
そこに薄い笑いを浮かべた乾が近づく。

「ココは防音だ。どんなに声を出してもバレないよ」

マイクから離れて、音を拾えないであろう隅に連れて行く。

「力が入りすぎ、抜いて…」
「ふっ…はい…」


カーテンが引かれて、しばらくたってからマイクに向った乾が口を開く。

「お待たせしました。このままの状態で歌録りしてもいいでしょうか?」
「ああ、構わないよ」
「構わないって、もう大丈夫だろ?」
「…え?」
「このまま支えててあげるから、頑張って」
「うん…」

どこか放心してる海堂。
音楽がスピーカーから流れてきても、気付いてないのかボケッとしてる。

「ほら、歌って」
「ハイ」

乾の声に促されて、海堂が歌い始める。
結果は…

「OK、凄いよかったよ。どうやったの。乾君?」
「企業秘密です」

一発OK。
さっきまでの連続の失敗が嘘のようだ。

「じゃあ、僕たちはこれで」
「ああ、うん、お疲れ様」
「っした」

そそくさと海堂を隠すように連れて出た乾。

「ねぇ、海堂」
「っす」

まだ、余韻が残ってるのか上気した頬を見せる海堂。

「家、来るでしょ」

問いかけではなく、確認の意を込めての言葉に、海堂の頬がカアッと赤くなる。

「薫?」
「いく…」

ギュッと乾の服の裾をつかんで、か細い声で答える。
そうして、二人は乾の家へと消えていった。

Fin