Virtual Family 2



結婚してから、1年がたち、今日は薫の入学式。
去年の俺の入学の祝いに起こったあの出来事を思い出すたびに、気が滅入る。
きっと、あの人たちは今年も何かをしでかすのだろうと…

「お兄ちゃん、行かないの?」

朝から、自分の親と海堂の親に立ち向かうだけの策略を真剣に考えていた乾は真新しい制服に身を包んだ、奥さんに声をかけられ我に返る。

「うん?ああ、準備できたのか」

1年上の乾は委員の都合上、本日の入学式は出席することになっていたので、海堂とともに学校に行くことになっていた。

「似合うね、可愛いよ」
「……」

チュッと頬に唇をつけられて、海堂は真っ赤になりながらも嬉しそうにはにかんだ。

「じゃあ、行こうか」
「うん」

そして、二人は一抹の不安を抱えながらも、仲良く登校した。
そんな二人の不安をよそに、入学式は滞りなく終わり、二人は海堂の母と途中で分かれて、二人で帰った。

「後で、皆でおうちの方に行くわね」

という、母の恐ろしい一言を残されて。

「母さんたち、いつ来るんだろう?」

知らないうちに花嫁修業をきっちりとさせられて、家事はばっちりできる海堂が夕飯の準備にかかりながら、ポツッと呟く。

「来なくていいけど、俺としては」

横で、一緒に準備をしてる乾がうんざりとした声で言う。

「…今年は何、するんだろう?」

おたまを口元に持っていき、呟く海堂に

「何もしていらないんだけど…」

既に考えただけで疲れた乾の呟きが返ってきた。
ピ〜ンポ〜ン
そんな二人の耳に、家のチャイムの音が届く。

「あっ、来たみたい」

音に即座に反応した海堂がパタパタと玄関に走る。
乾はゆっくりと、鍋の火を止めて向おうとすると、

「お兄ちゃん、大変!!」

切羽詰ったような海堂の声が聞こえてきて、乾は急いで玄関に向った。

「どうした、薫?」
「どうしよう…」

玄関の前でたたずんでいる海堂に乾が声をかけると、海堂は戸惑った顔を見せる。

「…薫、それ…」

振り返った海堂の手に抱かれたものに、乾の頭も思考を一瞬停止する。

「あけたら、コレに入って寝てた…」
「と…ともかく、中に入って…」

玄関前に置かれた、かごを持ち上げて、乾は海堂を伴ってリビングに向った。

「それにしても、どこの子なんだ」

二人でソファに座り、海堂の腕の中で寝ているらしい赤ん坊の頬に乾が触れる。
と、

「ふっ…ぅ、おんぎゃぁ〜」
「「げっ」」

突然、パチッと目を開けて泣き出した赤ちゃん。
二人は慌てて、泣き止んでもらおうとあやし始める。
数分後、泣きやみ、眠った赤ん坊に、二人はふぅっと息を吐き出した。

「よかった…」
「まさか、泣き出すとはな」

グッタリとソファの背もたれにもたれかかりながら、二人とも全身の力を抜く。
子供をあやすだけで、かなり疲れたらしい。

「さて、この子の親に関してわかるものはと…」

とはいえ、グッタリしてるわけにもいかない現状に、乾は立ち上がり、赤ん坊が入っていたかごの中をあさる。

「何かわかった?」
「DVD?」

不意に乾の手が止まり、海堂が声をかけると、乾がそこから一枚のDVDを取り出す。

「何で、こんなもんが…」

不思議そうに、それでいてどことなく嫌そうに呟きながら、乾がデッキにDVDをセットする。

「すっごく、嫌な予感がする」

海堂の隣に戻ってきた、乾が再生ボタンを押す。
動き始めた画像。そこに出てきたのは…

「薫君、中学校入学おめでとう」

予感的中とでも言うのか、乾家・海堂家の両家の皆さんで、二人は真剣に頭を抱えていた。

「驚いた?驚いたよね」
「どう、凄い入学祝いでしょ?」

そんな二人の向こうのテレビでは彼らの母親が楽しそうに話しをしている。

「入学祝いって、誘拐は犯罪だぞ」
「まさか、母さんたちの誰かが産んだとかないよね?」
「変な想像はしないようにね、貞治君、薫君」

思わず突っ込んだ二人に、タイミングよい突っ込みがテレビから起こる。

「あんたら、実はどっかでこれを見てるとか言わないよな…」

物凄くいいタイミングだったので、乾はいらない邪推をしてしまった。

「その赤ちゃんはね、どっかの子を連れてきたわけでもないし、誰かが生んだんでもないよ…」

テレビの中、乾の父親が得意そうな顔で説明を始める。

「父さん、まさか…」

その父親の様子に、乾はある推測を思いつく。

「その子はね、僕が君たち二人のDNAを元に作り出した、正真正銘、君たちのクローン。すなわち、君たちの子供ってことになるね」

自慢げに笑いながら、話す父親に、これがテレビであるとわかってても、物を投げつけたい衝動に駆られる乾。
それを押しとどめたのは

「凄い、叔父さん、こんなのも作れるんですね」

という、愛しい奥さんのとぼけた一言だった。
薫、論点がずれてるよ。
この場合、人間のクローンを作り出すこと事態がかなりの大問題だし、当の本人たちに内緒にして作ったってのも、全て倫理的に問題になるんだよ。
とは、優しい旦那様も心の中だけの突っ込みだった。

「名前は、親の一番最初の仕事だから、二人できちんと考えて決めるのよ」
「頑張って、育てるのよ」
「あ、もしものために育児書入れてるから」
「じゃあ、父さんたちはしばらく旅行にいってるからな」
「どういう経緯であれ、その子はちゃんと君たちの血の繋がった息子なんだから、放棄せずに育てるんだよ」
「「「「じゃあね」」」」

プツッ…
その言葉とともに、テレビの画面は消えた。

「ふ…ざっけんな」
「シー!!」
「あ、悪い」

消えた画面に思わず叫んでしまった乾を、海堂が咎める。
シッと口元に指を立てられ、気分をそがれてしまった乾が座りなおして海堂に視線を向ける。

「また、泣いたら困る」

下を向いて呟く海堂を追うように、乾も視線を下に向けると、そこには目を開いてじっと二人を凝視していた赤ちゃんがいて、

「泣くなよ…」

ドキドキしながら見守ってる二人にキョロキョロと視線を動かした後、その赤ん坊はキャッキャッと笑った。

「…可愛い」
「本当、可愛いな」

嬉しそうに二人を見て笑う赤ん坊に、二人の心も穏やかになる。

「俺…俺ね…」
「うん?」

ギュウッと愛しそうに腕の中の赤ん坊を抱いて、海堂がポツポツと話しだす。

「本当は、お兄ちゃんの子供欲しかったんだ」

俺もこの人も、同じ男同士で、本当は結婚だって出来ないのを、こうして親に認めてもらって結婚できたのだから、それだけで満足しておかなきゃならないんだけど、どうしても、絶対に無理だって思えば思うほど、この人の子供が欲しいって思うようになって…

「こういう形であれ、俺はお兄ちゃんとの子供が出来て嬉しい」

生むことは出来なかったけど、育てることは出来るから

「うん、そうだね。俺と薫の子供だもんな」

どういう形で生まれてきたにせよ、この子の中の遺伝子は間違いなく、俺と薫のもので、本当は神への冒涜だとか、禁忌だとかいうのはわかってるけど、生まれてきたこの子には何も罪はないから。

「名前、考えなきゃな」
「うん」

生まれてきた以上、この子にも生きる権利はあるから。
これから先、何があっても、俺たちは君を守り抜くよ。
だって、君は俺たちの元に舞い降りた、可愛い天使なのだから。

そして、一年後…

「く〜た…vv」
「静流?」
「悪い、手塚。今日さ、うちも薫んとこも都合つかなくてさ」
「すみません、部長」
「パッパvvマッマ〜vv」
「仕方ない、しっかり見ておけよ」
「サンキュ、手塚」
「ありがとうございます。ほら、静流、お前も…」
「う…?…がと、ごじゃーまちゅ」

海堂の足の下、両親を交互に見て、海堂と同じようにペコッと頭をさげる、一歳になった、あの日の贈り物、静流。
トコトコとおぼつかない足取りで歩く姿は、愛らしく、ここ青春学園男子テニス部のマスコットになっていた。
あれから1年
二人の元に舞い降りた天使は、両親の愛情を一身に浴びて、幸せに生きている。

Fin