猫らしい、人間の子供に猫耳と尻尾が生えた、本人曰く猫のカヲがやってきて、数日が過ぎたある日。
「乾先輩、ちょっと…」
部活中、乾は滅多にない海堂からの相談を受けた。
「どうした?」
「あの…、実は見せたいのあって…」
「見せたいもの?」
「っす。で、よければ今日、家に来て欲しいんっすけど…」
言いがたそうな海堂の様子に、何となく嫌な予感というのを感じた乾。
「わかった。一回、家に帰ってからでいいかな?」
「はぁ…、何か用事あるんっすか?」
「いや、用事はないけど。ちょっとペットを飼い始めてね」
あれをペットと呼ぶかという問題はおいといてだが。
「先輩もっすか?」
「先輩もってことは、海堂も?」
「っす。実はそのペットを見てもらいたいんっす」
「そう。実は俺もうちのペットを海堂に見せたいなとか思ってたからさ、連れていっていいかな」
「はい」
「じゃ、連れて行くよ」
そういう話を部活の合間にこっそりとして、乾は部活後、一度、家に戻った。
「ただいま」
「お帰りにゃ〜」
ドアを開けた途端、飛び込んでくるカヲを抱きあげる乾。
カヲは乾が帰ってきたことが嬉しくて、ペロペロと乾の顔を舐める。
「こ〜ら、くすぐったいから止めろって」
口では嫌がりながらも好きなようにさせてやりながら、乾は部屋に戻る。
「カヲ、今から出かけるよ」
「え?また、カヲひとりにゃの?」
「違うよ、カヲも一緒に行くんだよ」
「にゃ〜vvいっしょにゃ〜」
乾のベッドの上で、はしゃいでいるカヲを乾が微笑ましく見つめている時、学生服のポケットに入っていた携帯から着信を知らせるメロディが聞こえた。
「はい」
『…先輩…』
「海堂、そろそろ行くつもりだったんだけど、どうした?」
『あの…先輩が来るって母さんに言ったら、今日はこのまま泊まっていきなさいって』
「でも、悪いよ」
『うちは大丈夫っす。先輩さえ、よければ…』
「でも、海堂にも迷惑かけるだろ」
『俺は…その…』
「何?」
『俺は…泊まって欲しい…』
「え…そう?なら、お言葉に甘えて…」
『っす。じゃ、また後で』
「うん、じゃ、用意して行くよ」
プツッと切れた携帯を置いて、乾は片手を口元に持っていき、ハァと大きな溜息を吐く。
「ったく、殺し文句が上手くなって…」
「はる?みみあかいにゃ」
「カヲ、そういうことは言わないの」
顔を傾げるカヲに乾はバツが悪そうな表情を見せる。
大きく深呼吸をして、乾は自分が落ち着くのを待った。
2.3度、深呼吸を繰り返した後、乾は泊まる準備を始める。
「さ、行くよ」
「いくにゃ」
鞄を持ち、カヲに帽子を被せて抱き上げ、乾は家を出た。
「はる、どこにいくにゃ?」
「うん、カヲと同じ名前の、カヲによく似た人の家だよ」
「カヲににてるのにゃ?」
「そうだよ」
「にゃ、にゃかよくできるにゃ」
「そうだね、俺の大事な人だから、仲良くして欲しい」
「カヲは?」
「え?」
「カヲははるのだいじなひとじゃにゃい?」
「カヲも大事だよ」
帽子の上から頭を軽く叩くと、カヲは嬉しそうに笑った。
ピンポ〜ン
海堂の家についた乾が、チャイムを鳴らす。
「はい」
「こんにちは、乾です」
「いらっしゃい、今、行くわね」
海堂の母・穂摘の声の後、少ししてドアが開く。
「やぁ」
「先輩…それ…」
ドアを開けたのは海堂で、目線の先にいる自分に似た子供に固まる。
「逢わせたいって言ってた、うちのペット」
「カヲにゃ、よろしくにゃ」
「で、薫。俺に見せたかったのって、あの子かな?」
まだ固まる海堂の後ろ、玄関に立っているこれまた、乾によく似た、犬の耳と尻尾が生えている子供を乾が見つける。
「あっ…はい…そっす。ハル、挨拶」
「はじめまして、ハルといいます」
振り返って海堂が言うと、ハルは丁寧に挨拶をする。
「偉いな」
「まさか、先輩とこにもとは思ってなくて…」
その後、リビングに通された乾とカヲは、穂摘と葉末の熱烈な歓迎を受け、今は、穂摘と葉末とともにハルとカヲが遊んでいるのをソファに座って、海堂と見つめていた。
「うちはさ、宅急便で送られて来たんだけど、そっちは?」
「宅急便っすか?」
「うん、数日前にね…」
乾はその時のことを、海堂にくわしく説明した。
「先輩、そんな理由で飼わないでください」
「え〜、俺としては何よりもの重要な理由なんだけど。で、そっちは…」
「うちは、家の前で寝てたので母さんが拾ってきたんっす」
海堂の家も、ほぼ乾のとこと同じくらいの日のことだった。
買い物帰りの母親が、家の前のダンボールに気付いた。
穂摘は警戒することもなく、家に持って入り、葉末や海堂が帰ってきてから、開けたらしい。
一人、何が起こるかわからないからと言う海堂の声を無視してだ。
「したら、中であいつが寝てたんっす」
中に入っていたのは、乾に良く似た犬耳に尻尾のついた子供。
乾フリークな海堂家が喜ばないわけはなく、ハルが起きる前に飼うことが決定していたらしい。
「で、あいつが起きて話を聞いて、気がついたら俺が面倒見ることになってたんっす」
まあ、海堂にしてみても、乾そっくりの犬(?)だから、他の奴が世話するよりはと思っているので、悪い気はしていなかった。
「俺のことあんまり言えない理由じゃないか」
話し終えた海堂に、乾が苦笑を漏らす。
それに海堂が苦い顔をする。
「でも、よかったよ。カヲに友達が出来て」
「そうっすね、ハルと同種がいるとは思わなかったっす」
目の前で楽しそうにじゃれあっているハルとカヲを見て、自然と笑みを零す二人だった。
その後、海堂の父親・飛沫が帰ってきて、よりあの二匹は可愛がられることになった。
皆で夕食を食べて、お風呂を入る時は誰が一緒に入るかでもめたりもした。
それぞれがやっとで自分の部屋に戻るようになって、乾たちも海堂の部屋に向った。
「ひろいね〜」
「うん、ひろいの」
海堂の部屋に入ったカヲは初めての人様の家に興奮しているのか、パタパタと海堂の部屋を探索している。
ハルは心配そうに、その後をついてまわっていた。
「いい感じじゃないか」
そんな二匹の姿を乾はソファに座って眺めている。
「はぁ…」
「ん?」
「何か、カヲって…」
「つい、薫にそっくりだから甘やかしたんだよな〜」
「俺も、あんなんですかね?」
同じように二匹を眺めている海堂がポツリと漏らす。
「ああ、薫は、よっぽどカヲくらいまで甘えてくれてもいいのにってくらい、甘えてくれないじゃないか」
「…んねことねぇ…」
「全然、甘えてないよ。よっぽど、俺のほうが甘えてるくらいだ」
隣に座る海堂の肩を抱き寄せて、乾が呟く。
「先輩、甘えてねぇよ。俺は先輩に甘えっぱなしなのに」
乾の肩に頭を凭れさせて海堂も呟く。
「お互いに甘えていると思って遠慮してたけど、本当はもっと甘えて欲しかったんだな」
乾の言葉に海堂はコクッと頷く。
「お互い、もう少し遠慮せずに甘えてみようか」
「っす」
何となくいい雰囲気の二人。
それを邪魔するのは…
「にゃむにゃむ…」
「カヲ、おやすみ?」
和室の中の大きなダブルサイズの布団に寝そべるカヲと自分の布団に座るハルの声。
「ああ、カヲはもう寝る時間だ」
二匹の声に、乾は名残惜しそうに海堂から離れて、和室に向う。
海堂も、少し寂しく思いながらも、乾の後に続く。
「カヲ、お前の寝る場所はそこじゃないぞ」
「カ〜ヲ、いっしょねよ?ね」
「ん…ハルといっしょにねるにゃ〜」
乾に起されて、ハルの言葉にカヲはフラフラとハルの座る布団に向う。
「こっち…」
布団の前に来たカヲをハルが、キチンと布団の中に入れてあげる。
その後、ハルもカヲの横に入る。
「おやすみにゃ」
「おやすみ」
お互いに相手の頬をペロっと舐めて、くっついて眠る。
「すっかり仲良しだな」
そんな二匹の姿に、思わず微笑を漏らす二人。
「俺たちも寝ます?」
「そうだな、こんなに寄り添って寝られたら、物凄く寝たくなった」
二人も海堂のダブルの布団に横になる。
当たり前のように乾が腕を伸ばして海堂を抱き寄せる。
海堂も自然に乾の肩口に顔を埋める。
「何かさ…」
「はい」
「照れるね」
「っす」
「でも、いいよね」
「はい」
クスッと笑って、どちらからともなく唇を重ねあわせる。
皆、仲良く幸せに。
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