乾と海堂がハルとカヲとともに、二人と二匹で暮らし始めて数ヶ月がたったある日のこと。
その日、乾は朝からずっとデーター整理のため、パソコンにかじりついていた。
久しぶりの休日で、皆、楽しみにしていたのに、乾はそっから動かない。
そのせいもあって、海堂とカヲは不満だった。
だからこそ、こんなに騒ぎになったのだろう。
不機嫌なオーラを撒き散らす、海堂とカヲ。
ハルはその状態を改善したくて、ひっそりと一人で乾の部屋に向う。
トントンと叩いても乾の耳に入ってないだろうことは予測しながら、ドアを叩く。
「はる…」
小さな声で呼びかるが、やっぱり返事はない。
ハルは気をつけながら中に入って、乾の元に行こうとして…
「わぁっ」
バタン
何かにひっかかり、コケた。
「うわっ!!」
直後、乾からも悲鳴があがる。
「何だ?何で画面が消えるんだ?」
叫びに近い乾の声に、鼻を摩りながら起き上がったハルは足に絡まった線の行方を辿る。
「ごめんなさい…」
それは乾のパソコン本体の電源で、乾のパソコンの画面が消えたのは、コードが抜けたからだった。
「ハル〜、お前な、この部屋にはなるべく近づくなと、カヲと一緒に教えただろ」
「うん…、ごめんなさい」
「どうしてくれる、朝からまとめたデーター綺麗に消えたじゃないか」
「う…、ごめっ…」
突然のデーター消失に我を忘れて怒鳴る乾。
ハルはいつも怒らない乾が怒ったことで、恐くて怯えて、泣きじゃくりながら謝る。
「な、何があったんっすか?」
「どうしたにゃ?」
乾の怒鳴り声に、慌てて入ってきたのは海堂とカヲ。
「ハル?にゃいてる…」
「先輩、何怒ってんっすか?」
「こいつが勝手に部屋に入ってきて、パソコンの電源に足を引っ掛けてコテたんだよ。おかげで、データーが全部パーだ」
苛々しながら、説明する乾。
「…っめん…なさ…ぃ…ごめっ…っさい」
ハルはしゃくりあげながら、ごめんなさいを繰り返す。
「ハル、怪我してるにゃ〜」
「え?ハル見せてみろ」
カヲの言葉に驚いたように、海堂がハルに近づく。
目を擦るハルの手を持ち上げ、よく見ると鼻の頭が赤くなって、血が滲んでいた。
「入るなといってる部屋に入ったんだ、ほっておけ」
「先輩!!部屋に入ったのは悪いかもしれないっすけど、怪我してんですよ。先に怪我の治療するべきじゃないっすか!!」
乾の言い方にカチンとした海堂が乾に怒鳴る。
「も、いいっす。先輩は、一人でずっとパソコンと向かいあってばいいんっすよ」
怒った海堂は捨て台詞を残して、ハルを抱き上げて部屋を出て行った。
「何だよ」
「はる、やくそくやぶった…」
イライラと髪の毛をクシャリと掻きまわす乾に、残っていたカヲがポツリと呟く。
「え?」
「やしゅみのときは、カヲたちとあそぶって…」
「あー、それは…」
「はる、きらい」
プンとそっぽを向いて、部屋を出るカヲ。
「今日は厄日か…」
一人取り残された乾は、そう言葉を吐き出した。
「ハル、だいじょうぶ?」
「うん…」
リビングに戻ってきたカヲはハルの横に座って、怪我をしたハルの鼻の頭を舐める。
海堂は今、救急箱を取り行っていて、この場にはいない。
「いたいの、いたいの、とんでけ〜」
ペロペロと傷を舐めるカヲに、ハルは擽ったそうに真っ赤になった目を細める。
「こらカヲ、そんなに舐めたら傷が広がるだろ」
そこに救急箱を持ってきた海堂が戻ってくる。
海堂はソファに座り、ハルを膝の上に座らせて、怪我を消毒して、絆創膏をチョコンと貼る。
「はい、終わり」
「うにゃ〜vvハル、可愛いにゃ〜」
おこちゃまの頃の乾にそっくりな、勿論、眼鏡のない素顔の状態のハルの鼻にペッタリと貼られた絆創膏。
「可愛いな…カメラ・カメラ」
乾の素顔大好きな上に、親バカな海堂はどこからともなくデジカメを取り出し、カヲとハルを横に並べて、写真を撮る。
満足行くまで写真を撮って、片付けた直後くらいに、リビングのドアが開く。
入ってきたのは勿論、乾でカヲと海堂は無視する。
が、ハルは乾の姿が見えた途端に、タッと走って行き、乾のズボンの裾を掴む。
「ハル?」
「…ごめんなさい。もう、入らないから…」
ギュウッと乾のズボンが皺になりそうなくらいに強く握り締めて、一生懸命に謝る。
「もういいよ。俺もカッとなって悪かった」
苦笑混じりに乾はしゃがんで、ハルの頭を撫でる。
「でもな、どうして部屋に入ったんだ?」
乾はハルを抱き上げて、目線を合わせて訊ねる。
ハルはカヲと違って聞き分けがよい。
入っちゃダメといえば、絶対にそこには入らないし、してはないけないことはしない。
勿論、カヲを止めることもちゃんとする。
そんなハルが絶対に入るなと言っている乾の自室に入ったのだ。
それなりに理由があったのだろうと、やっとで考えがいった乾だった。
「…カヲもかおるも…はるがあそんでくれなくて、さみしそうだったから…はるにあそんでもらえるようにおねがいしよーとしたの…」
「そっか…ハルは皆のこと考えてくれてたんだな。ゴメンな、理由も聞かなくて怒って」
「ううん、ぼくこそゴメンナサイ。やくそくやぶって…」
「いや、俺が先に約束破ったんだから、気にするな」
「うん」
乾の言葉に嬉しそうにハルは乾の頬を舐める。
「ああ〜っ!!ストップ、ちょっ…そのまま…」
その瞬間、いきなり叫び出した海堂が急いでデジカメを取り出す。
そして、呆気に取られる乾とハルを撮りまくった。
「ふぅ〜」
満足そうに息を吐き出す海堂。
ハルと乾は唖然としたまま。
「先輩も反省してるみたいだし、ハルも先輩のこと許してるんで、今回は許してあげます」
「あっ…あぁ、有難う…」
「でもね、ハルも言ってましたけど、俺たちだって折角の休みだって楽しみにしてたんっすよ」
「うん。ゴメン」
「先輩が忙しいのはわかってますけど、もう少し、工夫して欲しいっす。先輩が何かしてても、こうやって同じ部屋にいるだけでも違うんっすから」
「わかった、何とか出来るように考えるよ」
「はる、あそぶ?」
「ああ、カヲもゴメンな。いいよ、今日は一緒に遊ぼう」
「わ〜い、はる、あのね…はるきらいってったのうそだよ。はるすき」
「俺もカヲ好きだよ」
無事、家族に許してもらうことが出来た乾。
残りの休日は、仲良く遊んで過ごした。
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