「ただいま…」
帰ってきても誰もいない家。
明かりもなく、おかえりと返されることもない。
それを寂しいと思うことすら、既に忘れた。
棚に入ってる買い置きのおやつと、冷蔵庫に入ってる牛乳。
自分で用意して、テレビをつけて音を大きくして、部屋中の電気をつけて、食べる。
ほんの少しでも寂しさを紛らわせるために。
それが、乾 貞治 6歳の日常。
「お父様が帰ってくるまで大人しくしててくださいね」
暗い、広いだけの家
時間がくれば帰っていく、義務だけをこなす家政婦。
「にいた…」
まだ、話すことすらままならない、何もわからない弟。
「はーたん、いい子にしてようね」
二人でいるには暗くて広い家。
静かな家は、恐怖だけを与える。
それから逃げるように、弟を抱き締める。
それが、海堂 薫 5歳の日常。
寂しい
孤独
その感情を外に出すことは許されなかった
それを言えば、哀しまれるのを知っていたから。
どうしようもないこの感情
埋まらない溝
救ってくれたのは…
「ハル、弟が出来るのよ」
「薫、葉末、お兄ちゃんが出来るぞ」
ある日、帰ってきた親が言い出した。
再婚することにしたらしい。
幼い子供たちは、反対する理由もないせいか、素直に相手の家族に逢うことになった。
「ハル、薫君と葉末君よ」
「薫、葉末、貞治君だよ」
連れていかれた、ホテルのレストラン。
「薫君・葉末君…」
「ハルお兄ちゃん…」
出逢った瞬間、惹かれあう心。
「「よろしく」」
同じ孤独を持つ二人。
出逢いが救いになり…
「ハル兄」
「こーら、学校じゃ乾先輩だって」
「ハル兄だって、学校でも薫って呼ぶ」
「部活の時だけだろ」
「俺だって、部活の時だけ」
埋まらなかった溝は、一緒にいることで埋まって
「薫、一緒に帰るだろ」
「うん」
離れることなく、同じ道を歩いている。
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