部員や、妹・家族の体調管理に勤しんでいた俺は、どういうわけだか……いや、周りのことばかり気にしすぎてすっかり自分のことは失念していたのだから、こういう結果になってもいたし方ないと思う。
そう、要するに他の誰でもなく自分が病気になってしまったのだった。
「我が息子ながら、バカな息子よね…」
うるさい…
実の息子が熱を出して寝込んでるんだから、もう少し、心配そうに看病して欲しいものだ。
それをこの母は、普段、俺が散々色んなことを煩く言ってるいるからと言って、ここぞとばかりに言いたいことを言ってくれる。
「人の体、気にする前に自分の体を気にしなさい」
…どうやら、これでも心配はしてくれてるらしい。
「さ、そろそろ葉末と薫が帰ってくるわね」
「か、母さん…」
時計を確認して、すっと席を立つ母を俺は急いで呼び止める。
「何よ?」
「あ、あの…その、俺の世話は……」
「そりゃ…」
「お兄ちゃん!!」
「お兄さん!!」
そりゃ…その後に続くのは…と不安一杯の所で、階段を駆け上がってきて、病人の俺の部屋を勢いよくあける、妹たち。
「大丈夫?」
「大丈夫ですか?」
心配そうに瞳を潤ませてベッドの脇に並んでる姿は、兄としてとても愛らしく、幸せを感じはするものの……
それ以上に感じる不安を隠せないのは、何かしらの使命に燃えているように感じる妹たちの瞳が目の前にあるからに他ならない。
「じゃあ、後は…」
「か、母さん!?」
「あ、母さん、大丈夫。私がお兄ちゃん見てるから」
「私も見ます」
「お、俺、一人で大丈夫だから」
ああ、やっぱり……
母さんも妹たちもそのつもりだったんだな……
お前ら、本当に俺のこと好き?
実は嫌いだろう?
そんなに俺の寿命を縮めたいのだろうか?
「ダメだよ、お兄ちゃん」
「そうですよ、一人なんて、何かあったらどうするんですか」
いっそ一人のほうが何も起らないから……
そう言っても聞いてくれないんだろうな
どう考えても、薫や葉末…特に薫が世話するとなると……
俺、無事生還出来るかな?
「じゃあ、後はよろしくね、薫・葉末」
「「はーい」」
「せめて、どっちかだけに……」
「「どっちがいい?」」
「……両方でいいです……」
何を言っても聞く気はないのだとわかる笑顔に、俺は熱もあってそれを回避する方法を見つけることもできずに、今日一日の悪夢とすべてを諦めるしかなかった。
「お兄ちゃん、体拭いてあげる」
「パジャマ着替えたほうがいいですよ」
ニコニコと着替えのパジャマと濡れたタオルを持って近づく薫と葉末。
お前ら、どっか恐いんだけど…
「有難う、自分で出来るから」
そっと上半身を起して、タオルと着替えのパジャマを受け取ろうとするのだが……
「お兄ちゃんしんどいでしょ、私が拭いてあげる」
「看病してるんですから、着替えさせるのは当然です」
頑として譲ってはくれない。
「薫、葉末……兄とは俺とお前たちは血が繋がってないんだからな」
少しは慎みとか…
いや、その前に兄の着替えを手伝ったり、体を拭いたりというのをこの年の少女が自ら望むこともどうかと思うぞ。
「それが?」
「血の繋がりがあっても仲良くない兄妹よりマシですよ」
やはりというか、妹たちは俺の言いたいことをわかってくれてないようだ。
そりょそうだよな、未だに俺と一緒に風呂に入ると言って聞かない妹たちだもんな……
「…もう、好きにしてくれ」
何とも思わないらしく、何がいけないのかすらわかってない薫と、困ったことに人が反論出来ない理由を述べてくれる葉末。
熱で頭が回らないわ、思考が定まらないわの俺がこの2人に太刀打ちできるわけはなく、こうなれば一秒でも早く病気を治すことだけを考えることにした。
「お兄ちゃん、アーン」
「お兄さん、お薬飲ませてあげますね」
「はいはい」
それはもう、懇切丁寧に看病をしてくれる妹たち。
だが、それを有難いとは思うけども、グッタリと疲れてしまうのは、それだけぶっ飛んだことをしでかしてくれている気がするせいだろうか?
「お兄ちゃん?」
「……さむ……ぃ……」
「大丈夫ですか?」
「……さむ……」
どうやら熱があがってきてるらしく、さっきから寒気が止まらない。
どんなにゆっくり寝たくても、妹たちの世話によって寝かせてもらえなかったのだから、仕方ないといえば仕方がないだろう。
「寒いの?」
「……大丈夫……」
心配そうに覗き込んでくる薫と葉末、本当は大丈夫じゃなくて体はガクガクと震えてるし、寒くて仕方ないけど、ここで寒いと言ってしまえば、後がどうなるか考えただけでも、熱が余計にあがりそうだ。
「大丈夫そうじゃないですよ?」
「凄い震えてる」
「汗も凄いですよ?」
「やっぱり寒いんじゃ…」
「だ、大丈夫だから…」
「お兄ちゃんの大丈夫は信用できない」
こんな時だけ勘のいい妹たち、出来たら、俺がどう思ってるかとかのほうの勘もいいとよかったんだけどな。
「部屋暖かくしましょうか?」
「ダメだよ、熱で体温が下がってるんだから…」
うん?薫も中々、ちゃんと考えてるじゃないか…
俺はそんな場合ではないのにもかかわらずに、ついついそんなことを考えてしまった。
「だからね、こうなったら私が暖めてあげる」
「…………………………ええぇっ!!」
「あ、その手がありましたね」
「は、葉末!?」
驚く俺を無視して、薫と葉末はいそいそと自分の部屋から持ってきたパジャマに着替え、俺の布団に入り込む。
「あ、あの…さ…何…してるんだ?」
「暖めてあげてるの?」
「こういうときは人肌がいいんです」
「…伝染るから…」
「「そしたら、お兄ちゃん(さん)に看病してもらうからいいの(んです)」」
そ、そうですか……
俺は2人の綺麗に揃われた声を最後に、精神がもたなかったのか、プツリと意識を途絶えさせてしまった。
「お兄ちゃん?」
「お兄さん?」
「どうしたの、大丈夫?」
「しっかりしてください」
「大変」
「大変です〜」
そうして、次に目が覚めたとき、俺は何故か病院のベッドの上にいた。
やっぱり、どんなに可愛い、目に入れても痛くないといえる妹といえども、看病をしてもらうのだけはやめておこうと…
いや、病気になったらどうあっても死守するのは無理なので、二度と看病してもらわなければならないほどの、病気になるのだけは止めておこうと誓った。
この日以来、俺は誰よりも自分の体調管理に気を使うようになったことは特筆すべきことではないだろうが、一応、ここに明記しておく。
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