Nightmare Happening



海堂家の夜は早い。
とはいえ、長男の乾だけはそれを無視した、夜型人間である。
が、その日は、前日までの忙しさによる寝不足が祟ったのか、乾も早い時間……それでも日付が変わる頃だが……に布団に潜り込んでいた。


珍しくも乾にしては早い時間に眠りに付いた日、隣の自室で珍しく寝ていた薫のほうにいつもと違う変化があった。

「うう…っ……ん……」

断っておくが、薫は別に喘いでいるわけではない、魘されているのだ。

「ん…や……」

ギュウッとシーツを握りこんで、眉根を寄せて耐えられないように首を振る薫。
夢見の悪さに、体には汗が浮き出ている。

「いやぁ……」

ガバッと薫が起き上がる。

「ふぇ……ん……」

よほど怖い夢を見たのだろう、薫の瞳からは自然と涙が溢れてくる。

「お兄ちゃ〜ん」

怖かったせいか、薫はパタパタと部屋を出ていき、隣の乾の部屋に駆け込む。

「お兄ちゃん、怖かったよ〜」

ぐっすりと眠る乾の首に抱きついて、そのまま乾の上に飛び乗る。

「グエっ……」

流石に飛び乗られた分だけ衝撃が激しくて、寝起きの悪い乾でも、飛び起きる。

「か、薫…?」
「ふえ〜ん、お兄ちゃ〜ん」

乗られた反動のように飛び起きた乾に抱きついて、薫が泣きじゃくる。

「どうしたんだ?」
「ふぇっ……え……怖い夢、見たの」
「怖い夢?」
「うん」

それだけのせいで起されたのか?
それも腹に一撃食らわされて……
とは思うものの、目の前で自分にしがみついて泣きじゃくる薫を見ていると、怒る気にもなれずに仕方ないなぁとでも言うように、溜息だけが出てしまう。

「はいはい、落ち着こうな」

腰に腕を回して、ポンポンと軽く背中を叩く。
眦に溜まる涙を唇で掬って、落ち着かせるようにこめかみにキスを落とす。
ヒクヒックと少しずつ落ち着いてきて、しゃくりあげる間隔も長くなっていく薫が、完全に泣き止むまで、乾はこめかみだけではなく、額や頬や耳・鼻頭などと宥めるようなキスを繰り返していた。

「落ち着いた?」
「うん」

落ち着いた薫が、恥ずかしそうに顔を俯かせる。
それに気付いた乾は、優しく頭を撫でる。

「ごめんね、お兄ちゃん」
「うん?」
「寝てたのに、起して…」
「気にしてないよ」

俯いて、視線を恥ずかしそうに逸らせたまま薫が謝るが、乾は薫の髪を梳きながら安心させるように笑いかける。

「怖い夢見たのに、我慢して部屋で一人、怯えられてるほうが、俺は嫌だよ」
「お兄ちゃん」
「だから、気にせずに、怖い時は俺のとこにおいで」
「うん」

乾の優しい言葉に、薫はようやく乾に顔を向ける。

「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」

嬉しそうに乾にしがみついて、薫は甘えるような声を出す。

「今日は、このまま一緒に寝てもいい?」
「いいよ」

薫のお願いを快く承諾した乾に、薫は心から嬉しそうに笑う。

「どうせなら…」

純粋に兄であり、今では恋人になった乾と一緒に寝られることを喜んでいる薫に対し、乾は愉しそうに言葉を続ける。
流石に、乾の妹を続けてきていただけあって、その声音と表情から、何か企んでいることに気づいた薫は、そっと逃げ出そうとしたが、乾に抱き締められていて逃げ出せなかった。

「…怖い夢も見れないくらいに、ぐっすりと眠れるようなことしようか?」
「そ、それって……」

愉悦の含まれた声で、正面から眼鏡のない素顔のまま愉しそうに微笑まれ、薫の顔がカァーっと赤くなる。

「夢も見ない程、寝れるようにしてあげるよ」
「んやっ……」

耳元で息を吹きかけられながら、甘い低音で囁かれる。
通常の兄としての声とは全く違うその声に、薫の体がビクビクと跳ね上がる。

「…おにい……ちゃん……きょ、今日は……んんっ……」

まさか、そんなつもりなど全くなかった薫は、困ったように乾を押し返そうとするが、嫌がるように口を開いた瞬間に、乾に唇を塞がれる。

「ふぅ……ん……ぅんん……」

口蓋を舌で擽られ、舌を絡められる。
乾が満足するまで、散々、口内を蹂躙された薫は、徐々に力が抜けて行き、完全に乾に体を預ける。
乾はそんな薫をしっかり抱き締めて、そのままベッドへと押し倒した。


「ふぁ…ん……ぁああん…も、もう……」

膣内を指で押し広げられ、唇で花芯を弄ばれ続けていた薫が、耐え切れないように乾の髪に手を差し入れる。

「おにい……ちゃ……んっ……」
「もう、我慢できない?」

中で指を上下に動かしながら、いつもよりもグッと艶の籠った声で、薫の耳元で囁く。
与えられる刺激のみならず、耳にかかる乾の吐息と甘い声に、薫は耐え切れないように、首をガクガクと上下に振る。

「可愛いなぁ、本当に……」
「ひっ……ぁぁああああっ
――――

快楽に溺れる薫に、乾はクスクスと愉しそうに笑って、指を引き抜いたばかりのソコに自身を埋め込んでいく。

「どう、薫?これで、満足?」
「ふぁ…ん……やっ……」
「いや?何が?」
「だ……て……動いてぇ……」

根元まで全て埋め込んで、薫の様子を見る乾。
薫はそのまま少しも動こうとしない乾に焦れて、涙を零して懇願する。

「よく、出来ました」
「ひゃぁっ……あぁん……ぁあっ……」

薫の懇願に乾はご褒美とばかりに、一度、薫の唇にキスをして、そのまま薫の望んだように動き出す。

「はぁああん……ああ…んぁぁあぁあ……」

中を突き上げながら、薫の胸の突起を唇に含んで、弄ぶ。
乾に揺さぶられ、胸にも刺激を与えられた薫は、快楽に溺れ切って、ゆるゆると自分から腰を動かしていく。

「薫は覚えが早いよね。教えがいがあるよ」

その薫の様子に乾がクツクツと口角を上げて笑う。

「ぁああん……やぁん……も、もう……」
「いいよイッて、俺も限界」

薫の声が限界を感じて、高くなる。
その声に、乾がさっきまでよりも深く強く突き上げる。

「あああぁぁぁぁぁん
――――――

一番奥深い所を、強く突き上げられて、薫からは悲鳴に近い嬌声があがる。
直後、痙攣した膣内に締め付けられて、乾も激情を吐き出した。


「もう、信じられない!」
「何が?」
「あんなことして!」
「ぐっすり寝られたでしょ?」

情事の後、乾の言う通り、ぐっすり朝まで夢も見ることなく熟睡した、薫。
だからといって、それで喜べるわけはなくて、朝起きてからずっとこんな調子で、ベッドに潜り込んで不貞腐れていた。

「そんな問題じゃないよ」
「そういう問題じゃないの?」
「もう、いい。お兄ちゃんなんて、大嫌い」

だが、乾はわかってないのか、わざとなのか、薫の機嫌をどんどんと低下させていくような返事ばかりしていき、とうとう薫は拗ねて、頭まですっぽりと布団を被ってしまった。

「……薫は俺とするの嫌い?」
「そういう問題じゃないもん」
「じゃあ、寝かせるためだけにしたのが嫌だった?」
「やっぱり、わかってるじゃない。お兄ちゃんのバカ」
「ごめん」

乾の言葉に、布団から飛び起きた薫は、枕を投げつける。

「薫だからだよ?」
「そんなの、わかんないもん」
「信用ないんだなー」

薫の言葉に、流石に苦笑を隠せない乾。
過去のこととは言え、色々とやったことがあるだけに、この話題になると強く言えなかった。

「薫じゃなかったら、起された時点で追い出してるよ」
「……」
「薫だって、それはわかるだろ」

乾の言葉に、小さく頷く薫。
物凄く説得力のある言葉だけど、人としてそれはどうだろうかと思ってしまい、一瞬、頷いていいものかどうか悩んでいた。

「でも、やっぱり……」
「言い方が悪かったよ」

乾の言っていることはわかるが、だからと言って、よく眠れるようになんて理由でセックスするのは、薫には納得できないものであった。
そのことを乾もわかっているから、素直に謝る。

「無理やり理由を付けただけで、本音は単に薫としたくなっただけ」
「本当?」
「本当だよ。目が覚めたら、目の前には好きな人がいたら、したくもなるさ」
「好きな人?」

乾の言葉の「好きな人」に反応した薫は、疑問系で尋ねていながらも、顔は何かを期待しているように、キラキラと乾を見上げていた。

「うん、好きな人」

そんな薫の様子に乾は苦笑を浮かべる。

「薫は、俺の好きな人でしょ」
「うん」

乾の言葉に、薫は嬉しそうに笑って頷く。

「ごめんね、お兄ちゃん。嫌いなんて嘘だよ」
「わかってるよ」
「お兄ちゃん、大好き」
「俺も好きだよ」

ギュウッと抱きついてくる薫をしっかりと抱きとめる。

「機嫌も直った所で……」
「なぁに?」
「その格好も、物凄くそそるんだけどね」
「格好?」
「そろそろ、服を着てくれないと、俺の理性が持ちそうにないんだよ」

ベッドの下の床に放り投げ出されている、薫の服を取って渡す乾。
薫は、情事の後、そのまま寝てしまっていたので、今もまだ何も見につけていなかった。

「それに、流石にこの状況で誰か入ってきたらまずいだろ?」
「どうして?」
「どうしてって……」
「お兄ちゃんは、私とのこと、家族には秘密にしたいようなことなの?」
「そういう意味じゃなくてね……」

折角直った機嫌が、また下がってプクリと頬を膨らます薫に、乾は困ったように頭を掻く。

「付き合ってるってことは、バレてもいいんだけど、こんなことまでしているっていうのは、恥ずかしいだろ」
「……うん」
「それに、こんなことしてるってのは、親もいい気はしないだろ」
「そうだね」

乾の説明にようやく納得した薫は、シュンとして乾の胸に凭れかかる。

「そうだよね…お父さんやお母さんに、心配かけるようなことしちゃダメだよね」
「うん、そうだね」
「私、結婚するまで、こういうことは一切しない!」
「ええっ!」

薫の爆弾発言に凍りつく乾。

「だから、お兄ちゃんも我慢してね」

チュッと頬にキスを落として、薫は服を着て、乾の部屋を出ていった。

「か、薫、待って…」

正気に戻った乾が、手を伸ばそうとするが、既に薫はドアを閉めたところ。

「……今すぐにでも、結婚するか……」

法律上、結婚出来るまで後何年だったか……
いきなり、恋人より禁欲生活を宣言されてしまった乾は、真剣にブツブツと少しでも早く結婚出来る方法を考え始めた。

Fin