いつもの朝の光景  -It's out  of  the  question-



溺愛しまくって、大切に大切に育てた血の繋がらない一つ年下の妹が、俺の奥さんになってはや、十数年。
三人の子供にも恵まれ、幸せに……そう、幸せに……幸せなんだろうか?

「お兄ちゃん、朝だよ」
「…薫…休みの時くらいは…寝させて…」

子供の時からの習慣のなせる業というのは、かなりの威力を持ってるよな。
結婚してからも薫は、この習慣を忘れることなく、休日といえども家族全員で朝食をと、朝早くに起してくれる。
………休日位、寝かせて欲しいよ。

「皆で、ご飯食べるんだから。ダメ」
「…せめて、後…」

後、一時間位は……

「ダメ。ご飯冷めちゃう」

……だよな。
一家の大黒柱なんて、実は一番地位が低いに違いない。
父さん、あなたの苦労が今頃になってわかります。

「お兄ちゃん、起きてくれないならチューするよ?」
「…脅しじゃないよ、それ…」

いくつになっても、うちの奥さんは天然というか、可愛いというか……
そんなこと言われたら、余計に起きなくなるだろ。

「お兄ちゃん…」

ドタタタタタタタタターーーーーー!
バターン!ガン!バキ!

「はいはい、私がするー」
「リョーコ」
「父さん、お早う」

チュッ
うーん、お早うリョーコ。
嬉しいけど、ドアを壊すのは止めてくれないかな?
後、薫。
自分の子供に妬くな。

「お父さん、お早う。僕のキスも欲しいよね?」

チュッ

「周、ベッドに乗らない」

周、父を脅してどうするんだ。
脅してまで、父親とキスがしたいのか?
嬉しくないわけではないが、色々とお前たちの将来が心配だよ、俺は。

「俺もしよう」
「国光は男の子でしょう」
「遠慮する!」

国光、中学生の男が実の…いや、実のであろうがなかろうが、父親にキスをしようとするのは問題だぞ。
ああ…思わず、飛び起きてしまった。

「お早う、父さん」
「お父さん、お早う」
「お早うございます、お父さん」
「お早う、リョーコ・周・国光」

リョーコいい加減、俺の首から離れような。
周は、父親にしなだれかかるのはやっぱり、問題だぞ。
国光、だからお前からのキスはいらんと言ってるだろうが。

「お兄ちゃん、モテモテだね」

薫…実の子供相手に妬くな、拗ねるな。

「…お早う、薫」

キスしてあげるから、機嫌を直してくれ。

「お早う、お兄ちゃん。やっぱり、私が一番だよね」
「薫が一番だよ」

……誰か、俺に平和な朝をくれ。

「いい匂いだな」
「お兄ちゃんのために、頑張ったんだよ」

結局、大人しく起きたよ俺は。
どんなに頑張っても、俺が満足行くまで寝るってのは不可能なんだよな。

「もう、用意出来たからお兄ちゃんも座って」
「ああ」

ところで、薫。
何故、俺の席に置いてる箸がピンクなんだろうか?
勿論、お前がやったとは思ってないよ。
誰がやったのかも大体予想がつくよ。

「国光、いい加減にどれが誰のお箸か覚えてくれ」
「…よく俺が置いたとわかりましたね。流石は父さんです」

お前以外に誰がいる。
俺の席にピンクの周の箸を置く人間なんて、この家じゃお前だけだ。
いくら薫に似てかなりの天然にしても限度があるぞ?
これで学校じゃ、テニス部部長に生徒会長をしているなんて…青学も大丈夫なのか?
父さん、思わず母校の心配までしてしまったよ。

「私は別にお父さんのお箸でも全然問題ないけど、お父さんはピンクのお箸嫌だろうから変えてあげるね」

そして周。
分かってるんだったら、さっさと箸を変えてくれ。

「国光、俺の箸が黒で、周の箸がピンクだからな」
「黒の箸は周だと思っていたもので」
「どういう意味でそう思ったのかな?国光」

国光、天然にも程がありすぎる。
朝から妹の逆鱗に触れてどうする。
周も朝から冷気を振りまいて、開眼しない。

「さあ、お兄ちゃん。食べよ」
「兄さんも姉さんもまだまだだね」

……薫、リョーコ。
もう少し、空気を読んで欲しいよ。
マイペース過ぎるのも問題だぞ。

「いつものことだし」
「それより、父さん。食べさせてあげる」
「ダメよリョーコ。それは私の役目なんだから」

リョーコ・薫…
頼むから、そんなことで張り合うな。
薫も、子供相手に大人気ない。
笑ってかわすくらいしたほうがいいぞ……無理だな、薫は……突っ込んでいく妹だったもんな……
リョーコももう少し、父離れしたほうがいいぞ。
もう、中学生なんだからな。
その前に、国光のほうを何とかしないといけないのだろうけどさ……

「父さんだって、若い子に食べさせてもらったほうがいいよ」
「そんなことないもん」

俺は、一人でゆっくりと平和に食べれたらそれが一番いいよ。
冷戦と熱戦を目の前で繰り広げられながらの食事じゃなければ、もう俺は何でもいいから。
平和な食卓を俺にくれ!


はぁー、何とか無事、冷戦も熱戦もほとぼりが冷めて、朝食は終った。
もう、一日立ったくらいに疲れたのは何故だろうか…
ん?何で食事後すぐに、テーブルの上に弁当箱が二個も並んでるんだろうか?

「お弁当?」

中身が、何だか真っ赤なんだが……
ということはだ、一人しかいないな

「周が作ったの」

やっぱり…この有得ない真っ赤さは、周の好きな激辛仕様だな。
どうして、ここまで見事な味覚破壊の舌を持ったんだろうか?
決して、こんな味覚破壊に育てたかったわけではないんだが……
やっぱりあれか、健康を考えて野菜汁を毎日飲ませたのがいけなかったのだろうか?

「今日はね、タカさんとデートなの」
「そうか、よかったな」

隆君…本当に済まないな。
お隣に生まれたからというだけで、周に好かれてしまって…
きっと、付き合い始めたのも、あの子に脅されたんだろうな。
済まないが、きっと君以外では周を制御しきれないと思うから、末永くよろしく。

「でね、娘の手作り料理って…」

嫌な予感がひしひしとするんだけど、勘違いだと嬉しいな。

「お父さんがタカさんにやきもち妬かないように、お父さんの分も作ったんだ」

こういう勘っていうのは、高確率で当たるんだよな。
データーに取るまでもない。

「二人分作るのは大変だろ、俺のことは気にしなくていいから」

気にしないで下さい、お願いだから。

「一人分作るのも、二人分作るのも変わらないから」

心の底から遠慮してるんだよ。
いつもは人の心を余裕で読めるんだから、こういう重要な時にも読んで欲しいな。

「周、もう時間だよ」
「あ、本当だ。行ってきます」
「行ってらっしゃい」

はぁ、これどうしよう。

「お兄ちゃん、嫌なら嫌って言えば?」
「激辛じゃなかったら、嬉しいんだよ。娘の手作り料理ってのは」
「私の料理より?」

だからね、娘にやきもち妬かない。
奥さんと子供に対する感情ってのは違うんだから。

「薫の料理が一番だよ」
「お兄ちゃん、大好き」

俺も好きだよ。
出来たら、もうちょっと大人になってくれたらもっといいような…まあ、今の薫で充分満足だけどね。

「子供たちよりも、ずっとずっと私のほうがお兄ちゃん好きだからね」

……子供と張り合わないようにね。
ガチャ

「お邪魔しまーす、リョーコ」
「ウザイ」

やあ、お隣の武君。
隆君の弟で、うちのリョーコが好きだけど、報われない武君。
大丈夫かい?救急車呼ぼうか?

「だ、大丈夫っす」
「チッ、まだ生きてるや」

リョーコ、いきなりツイストサーブを人様の顔面目掛けて打つのは止めなさい。
後、家の中で打つのもね。

「こら、リョーコ」

お、薫。ようやく母親らしいことを……

「こんなバカガキに当てたら、ボールが腐る。ぞうきんで充分よ」

……言うわけないか。
本当に、まだ根に持ってたんだな。
武君が小さい頃に、お前のことをヘビ女っていったの。

「そっか、ぞうきん取ってくる」
「リョーコ、止めなさい」

武君、本当に死ぬから。
そうなったら、俺はどうやって大石と菊丸に申し開きをしたらいいんだ?
そうじゃなくても、あの友人夫婦には周を貰ってもらうのに。
長男、隆君の嫁として。
これ以上、気苦労を既に胃痛持ちの大石に掛けられないだろ。

「父さん、こいつがいなくなったほうが胃痛はなくなると思う」

それも、そうかな?
……いやいやいや、リョーコ。
思っても、そういうことは口に出してはいけないよ。

「ってことは、父さんはそう思ってたということですね」

国光、いつの間に…

「武、後輩のそれも女であるリョーコに倒されるとは情けない。それでも青学レギュラーか」
「ぶ、部長…」

いや国光、あれは倒れても仕方ないと俺は思うぞ。
俺でもお前でもどうなるやら…

「たるんでる証拠だ、外周50周」

今は、部活中じゃないから、止めてあげなさい。
武君が可哀相過ぎるぞ。

「父さんがそう仰るなら」
「「生ぬるい」」

薫、リョーコ……
本気で武君を殺したいのか?

「武君、大丈夫かな?」
「大丈夫です、慣れてますし」

君も、隆君とは違う意味で苦労してるよな。
うちの娘に惚れたばっかりに。

「それより、腹減ったんですけど、何かないっすかー?」
「ありますよ」
「本当か、リョーコ」
「手作り弁当があるんですけど、食べます」

リョーコ、それは…

「父さん、いらないんだよね?」
「いらないことがいらないが…」

だからって武君に食べさすのは……

「証拠隠滅出来ますよ」
「皆、周には黙っててあげるよ」
「父さんの体のほうが俺たちには大事です」

三人とも、そこまで俺のことを思ってくれるのは嬉しいけど、その十分の一でもいいからさ、武君のことも考えてあげないか?

「「父さんが一番大事」」
「お兄ちゃんが一番大事」

武君、骨は拾ってあげるから。
大石のほうにも俺から言っておくし、何ならうちの国光をお詫びにやってもいいしな。
断られると思うけど。

「さ、武先輩」
「何か、真っ赤だぞ?」
「いらないの?」
「まさか、リョーコの手作り弁当ならどんなんでも食うさ」
「それ作ったの姉さんだけどね」
「………ぃ…ぃうぎゃーーーーーーーーーー」

リョーコ、素晴らしいタイミングだよ。
一口、口に入れたと同時に種明かしをするなんて……
武君の耳には入ってないんだろうね、それどころじゃなさそうだから。

「救急車呼んだほうがいいかな?」
「大丈夫です、お父さん…リョーコが作ったものなら…どんなんでも…」

お父さんか…
武君、君が俺をそう呼ぶのが当たり前になる日は、永遠に来ない気がするんだが…
決して、君とリョーコの仲について反対とかじゃなくてね。
君たちを見てる限り、不可能じゃないかなと思うんだよな。
俺、間違ってないよな。
それにしても、まだ昼になってないなんて、物凄く凝縮された時間を過ごしていたんだな。
ある意味、貴重な体験というのか?
毎回のことであっても……


これが、我が家の休日の朝
果てしなく平穏からは程遠い、有得ない毎日
それはそれは退屈しない、興味深い日々で、何だかんだと言いながらも、俺は幸せなのだろうと思う。
でも、やっぱり、もう少しゆったりとした休日の朝を過ごさせてくれ!

Fin