もう、凄く驚いたよ。(どこが?驚いてたんですかあれで?桃城談)
何がって、ミーティングに遅れてきた越前の爆弾発言。
いきなり、乾のことが知りたいなんて、熱烈な告白をかましてくれたおかげで、ミーティングは台無し。部室は一時、地獄絵図に化したからね。
何がって、そりゃ海堂が…
マジ切れしちゃって、大変だったんだよ。
?誰がって?そりゃ、大石と河村と桃が。
僕?僕はこんな楽しいこと見逃すはずないじゃない。バッチリ、写真に収めといたよ。
まあ、乾に没収されたけどね。
で、越前の話し。
落ち着いた頃を見計らって、乾が自ら詳しく越前に話を聞いたんだよね。
どうやら、本当にただの純粋な興味だけだったみたいで、部室は一気に和やかムード。
で、それで越前には乾以外のレギュラーが一人一個ずつ乾のことを教えていくってことになってね。
ただ、すぐに教えても面白くないし、それぞれ違うことを教えていかないといけないわけで、自分たちも言うことを考えないといけないわけで、後日、思いついたらそれぞれその場で教えるってことに落ち着いたんだよね。
さて、僕は何を教えようかな……
「不二!不二ってば」
「え?あ、英二、どうしたの?」
この前のことを思い出していた僕は、英二の声を完全に聞き逃していたみたいで、英二が心配そうに顔を覗きこんでいた。
「どうしたのじゃないよ。早く、いかないと乾の料理なくなっちゃうよ〜」
「あ、そうか」
英二がバタバタとせわしなく、僕の腕を掴んで引っ張っていく。
英二の言葉で思い出す。
今日の四限は乾のクラスは家庭科。
そう、調理実習。
乾の料理の腕は絶品で、僕たちはその乾の料理を食べさせてもらいに、乾のクラスが調理実習の日は必ず家庭科室に向う。
乾もそれをわかっているので、いつも僕たちの分も余分に作っておいてくれる。
あ、僕達っていうのは僕と英二だけでなくて、手塚と海堂、それに桃も入ってるからね。
「あ、おチビ発見」
「ほんとだ」
突然、僕の腕を放した英二は、前方を歩いている越前に突進している。
あれは、越前が可哀相だよ。
「あ、そうだ。越前」
「っす」
「乾のこと、教えてあげるよ」
「何すか?」
「一緒においで」
「不二ずるい。俺もそれにしようと思ってたのに」
「ゴメンネ、英二。他の考えてね」
「チェッ」
家庭科室に向かいながら、話している僕らを不思議そうに見る越前。
きっと今の一年はあの汁シリーズのイメージから、乾は味覚音痴だと思っているだろうから、これを知ったら驚くだろうね。
敵が一人増えるのは、残念だけど。
「どこ行くんすか?」
「ん?着いたら分かるよ」
「そうそう、おチビは大人しく俺たちについといで」
訝しげに僕らを見る越前をよそに、僕たちは目的の場所に辿りつく。
「ここって…」
「家庭科室だよ」
「それって…」
クスッ、今きっと越前の頭の中には、皆が嫌がるあの乾汁の数々が思い出されてるんだろうね。
「ほら、入るよ」
「いいっす」
「何、遠慮してんだよ」
「遠慮なんかしてません」
「いいから、入ろう」
「乾〜」
「新しい珍客連れてきたよ」
嫌がる越前を僕と英二の二人で無理やり中に入れる。
「ん?越前か…何か、怯えてるけど、どうした?」
「それより、乾お腹減った〜」
「ああ、わかった。大人しく座れ」
そう言って乾が指した先には、既に手塚と海堂と桃城が乾の料理にありついたいた。
「うぎゃ、桃。俺の分まで食うなよ」
「そりゃ、出来ない相談っすね、英二先輩」
「手塚たちも止めておいてよ」
「お前たちが遅いから悪い」
「…折角の飯が不味くなるっす」
掻き込んで食べている桃を見て、僕も英二も嫌な予感がして、英二は桃本人に、僕は一緒にいたはずの二人に忠告してみるが、返ってくるのはそっけない返事。
ふ〜ん、僕にそんなこと言うんだね。
どうなっても知らないよ。
「物騒なこと、考えるなよ」
適当に空いている席に、越前と連れ立って座りながら、心の中で呟いていると、お皿を持ってきた乾の苦笑にあう。
流石、幼馴染だけあって、僕の考えを読んだらしい。
「ほら、ちゃんとお前らの分は別に残してあるから」
僕と英二と越前の前に並べられる乾の手料理。
仕方ない、今日は乾に免じて許してあげよう。
「やった、いっただきます!」
嬉しそうに手を合わせて、食べ始める英二。
「越前も食べなよ。美味しそうでしょ?」
目の前にある料理を警戒してる越前に声をかける。
「どうした?嫌いだったか?」
中々、料理に手をつけようとしない越前に乾が心配そうに声をかける。
「大丈夫だよ、皆食べてるだろ」
「そっすけど…」
「ああ、そういうことか。大丈夫だよ越前」
僕と越前の言葉に乾も越前が中々口をつけない理由に思い至ったらしく、安心させるように笑う。
「じゃ、頂きます」
恐る恐るという感じで、乾の料理を口に運ぶ越前。
目を瞑って一口目を口にいれる姿は乾の苦笑を誘った。
「!美味いっす」
「だろ」
食べて、アレ?って顔した後、凄く嬉しそうな顔して、その一言を言った後、黙々と食べ始めた越前に、僕と乾は顔を見合わせて笑った後、僕たちも食べ始めた。
「何で、こんな美味い料理作れるのに、あんなもん平気で飲めるんっすか?」
すっかりと食べ終わった後、越前が心底分からないって顔で乾に尋ねた。
「それを教えるために、僕は君をここまで連れてきたんだよ」
そう、僕が越前に教えようとしたのは、まさにそのこと。
僕が乾と出逢ったのは、幼稚園の時。
乾と手塚と僕はずっと同じクラスだった。
乾の両親はその時には既に忙しい人で、乾の送り迎えは手塚のお母さんの役目だった。
そんな僕が乾のお母さんに会ったのは乾が風邪を引いて寝込んだ時のこと。
乾のことが心配で手塚と手塚のお母さんに連れられていった。
そこで見たのは…
日本人形を思わすような乾のお母さんと、青ざめた乾。
そのベッドに上半身を起した乾の手元にある、一人用の土鍋。
「凄かったんだよね〜」
その中身を思い出しながらしみじみと呟く僕に、当時を思い出したのだろう眉を寄せる手塚に、苦笑する乾。他の面々は興味津々と言うところだろう。
「どんなんだったんですか?」
中々口を開こうとしない僕に焦れたのか桃が身を乗りだして聞いてくる。
「ん〜とね、青緑だった」
「へ?」
「青緑っすか?」
「そう、青緑」
「お粥っすよね」
「たぶん」
そう、あれはお粥だったと思う。
ただ、ご飯も何もかもが青緑だった。
アレを目にした手塚のお母さんは絶句して、その後、乾のお母さんに説教をしていた。
「でね、アレを僕と手塚も味見させてもらったんだけどね…」
そう僕が言ったら、皆、興味津々で身を乗り出して次を待っていた。
「青酢を超える味だったよ」
「「「「……」」」」
僕の言葉に、四人はその味を想像したのだろうか、眉間に皺を寄せて、何かに堪えているような表情になった。
「後から聞けばさ、乾のお母さんの手料理ってのはいつもそんなんらしくてね。ね、乾」
「そうだな。物心ついたときにはあの味が普通だと思ってたからな」
乾の言葉に、全員が乾に向けたのは哀れみの視線。
確かに、アレを食べて生きてくれば、あの汁の数々など何とも思わないだろう。
「だからさ、俺はマズイとか美味いの判断は普通に出来るんだけど、マズイものに関しては食べるのは平気なんだよ」
「じゃあ、乾先輩は不二先輩と違って味オンチじゃないんっすね」
「あっ」
「バカ、越前」
ピキッ
自分の頭の中から、そんな音が聞こえた。
「越前、僕はね別に味オンチじゃなくて、大体のものなら美味しく食べられるだけなんだよ?」
たぶん僕以外の人には、ゴゴゴゴゴッ……って音が聞こえてきているんじゃないかな?
だって皆真っ青で、僕の周りから離れているもの。
「それを味オンチって言うんじゃないっすか?」
おや、越前。本当に君って度胸あるよね。
「やめろって」
桃が遠くから越前を止めようと試みるけど、今更、遅いんだよね。
人には言われたくない言葉って言うのが、一つや二つはあるよね。
所謂、禁句ってやつ。
今、君はその禁句を口にしたんだから、それ相応のことは覚悟してもらわないとね。
じゃあ、こっから放送出来ないので、またね。
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