Servent Doll



私を呼んで
アナタが最初に与えてくれる、その名前を…
そしたら、私は起きるから
アナタのためだけに、生きるから
アナタの望む全てのことをするために…
たった一人のご主人様


天才人形師が作り出した、最高傑作の4体の人形
-Servent Doll-
それは、まだ眠りから覚めない人形たちが望む、たった一人の主たちのためだけの存在。
彼女たちに選ばれたものだけが、彼女たちを呼び覚ますことが出来る。
その人形たちはまだ、目を覚まさない
いつ訪れるかわからない、自分の主を待って、今もまだ古びた人形屋の片隅で、眠り続けていた。

「Servent Doll?」
「そうなんですよ」

東京にある、とある有名大学の中。
カフェの一角で、珍しくも小声で話を切り出す、桃城。
その内容に、興味を持ったように聞き返すのは、乾。
一緒に手塚は、少しも興味なさそうに黙っていた。

「商店街の脇の横道に、古ぼけた人形屋があるじゃないですか?」
「人形屋かどうかはわからないが、どこかレトロな雰囲気な店はあるな」
「そこです、そこにね売ってるんですよー」

その人形のことを思い出したのか、うっとりとつぶやく桃城。
乾と手塚は、とうとう壊れたかと思う。

「桃、人形に恋するなんて、人としてどうかと思うぞ?」
「それが、乾先輩違うんっすよー」
「何がだ?」
「人形じゃないんですよ」
「桃城…、お前は何が言いたいんだ?」
「ともかく、見ればわかります!」

その桃城の言葉に、乾と手塚は授業が終り次第、桃城に連れられてその店に行くことを約束させられたのだった。


「「……」」
「俺の言ってた意味、わかったでしょ」
「「あ、ああ…」」

三人が今いるのは、約束をしていたその場所。
人形屋の、Servent Dollの目の前。

「……本当に人形なのか?」
「これは、驚いたな。人じゃないか…」
「人だよ」
「「「え?」」」
「何だい、あんたまた来たのかい?」
「よ、ばあさん。俺は何度でも来るぞ、こいつが他の奴に売られてないか確かめによ〜」
「欲しいなら、来る時間も惜しんで働いて、金を溜めてきな」
「だから、バイト増やして頑張ってるじゃねーか」
「で、そこの二人は客かい?まあ、あんたの友達じゃ買えるような金はないんだろうけどね」

ふらりといつの間にやらやっていきていたのは、年配の女性。
話からして、ここの店主らしい。

「あの…」
「なんだい?」
「人だよって、仰いましたよね?」
「ああ、それがどうした?」
「この子たちは、人形じゃないんですか?」
「そうだよ、この子たちは天才人形師が作りだした、最高傑作だ」
「人っていうのは?」
「言っただろう、最高傑作だって。この子たちには魂が宿ってるんだ」
「魂?」
「魂が宿った人形は、人と変わらない。この子たちは自分の意志で動き、話すことが出来るんだよ。私たちと何ら変わらんよ」

目の前にある、人と変わらない4つの人形を愛しそうに見ながら店主が語る。

「この子たちはずっと待ってるんだよ、自分を起してくれる、たった一人の主人を…」
「主人ですか?」
「ああ。この子たちはたった一人の人に仕えるためだけに作り出された人形だからね」
「どうやって、その一人を決めるんですか?」
「決める?決めることなんてないさ。この子たちの名前を呼んで、それでこの子たちが起きたら、そいつが主だ」

店主の言葉に、乾は目の前の人形に目を向ける。
4つの全く違う個性の人形。
それぞれに共通してるのは…

「ところで、どうしてメイド服なんですか?」
「うん?そりゃ、奉仕するといったらメイドだろう?」
「……何処か違うような気がするんですか?」
「煩いねー、似合ってるんだからいいじゃないか」
「はぁ…」

確かに似合ってると言えば、似合ってるが…
一番左の人形は、栗色の髪に基本的な洋風のメイド服。
隣の人形は、黒髪を外ハネにした、何故か猫耳と尻尾つきの、それ以外は普通のとはいえ、最初の人形とは少しデザインの違うメイド服。
その次が、がらっと変わって、黒髪に和服のメイド服。
そして、最後が黒髪で他の三対に比べ幼い子供で、洋風のスカート丈の短いメイド服を着ていた。
それぞれ、プレートがかけられていて、そこには金額と左から順に、洋風メイド・猫コスメイド・和服メイド・ロりメイドと書いてあった。
言いえてるというか、そのままというかのネーミングである。

「興味あるかい?」
「そうですね…」

何となく、視線を人形のうちの一体に向けながら呟く乾。
どうやら、中の一体に興味をもったようだった。

「払えるなら、名前呼んでいいよ」
「名前って?」
「あんたがつけるんだよ。この子たちに名前はないからね、主となる人物が一番最初にこの子たちに与えるものだ」
「で、呼んで、もし目が覚めたら契約成立ってことなんですよ」
「くわしいな、桃」
「最初に聞きましたから」
「桃は呼んだのか?」
「呼ばせてもらえないんですよ〜」
「こいつは、この子たちを買えるほどの金を持ってないからね、金を持ってきたら呼ばせてやるよ」
「だから、今頑張ってるんですよ」
「その間に売られるってことはないのか?」
「金があっても、この子たちが起きなきゃ売らないよ」
「逆に言えば、こいつが起きない限りは、俺にも可能性はあるってことですよ」
「幸せになってもらいたいからね、コレくらい払えなきゃ、主になる資格はないよ」
「なるほど…」

人形につけられた値段は、店の売り上げとかじゃなく、この人形たちの幸せを願ってのこと。
この子たちを幸せに出来るだけの人物か見定めるための…

「そんなことをしなくても、この子たちが選んだ奴がこの子たちを幸せにしないとは思ってないけどね…」

それでも、どんな人物か少しでもわかったほうが安心できるだろ。
自分のエゴだとわかってて、それでもそれくらいはと店主が静かに笑う。
先ほどから見せてる豪快な気性には似合わない笑顔で、そおれで乾は本当にこの人が、人形たちを愛していて、幸せを考えてやってるんだと思えた。

「お金、小切手でもいいですか?」
「構わないけど、買うのかい?」
「それは、彼女に聞いてみないとわかりませんが。生憎、今はそれほどの持ち合わせがないもので…」
「小切手、見せてみな」

店主に言われたまま、乾は持っていた小切手を見せる。

「…いいよ、これなら信用できるね」

乾はこれでも、日本で…いや、世界で有数の企業の御曹司というやつだ。
今、渡した小切手もその企業の物。
誰でも知る企業の名の入った小切手ならば、店主も信用できるということだ。

「乾先輩は、金持ちですからね」
「このお金だって、後で返すよ。ちゃんと…」
「個人でも儲けすぎっすよ」
「働いてるのかい?」
「違うよ、ばあさん。この人、特許持ってるんだよ。それもPC関連のだからさー、パソコンが売れるたびに金が入るんだよな」
「それ以外にもいくつかあるはずだぞ、乾は」
「すげぇ。それ以外にも株やギャンブルにも相当強いと聞きましたよ?」
「偶然だよ、運がよかっただけだよ」
「中々の人物のようだね」
「安心しろよ、ばあさん。乾先輩はいい人だぜ、俺が保証するよ」
「あんたに保証されてもねー」
「そりゃ、ひでーな、ひでーよ」

桃城が肩を竦めて、言った言葉に、その場にいた手塚の以外の人間が笑った。
その時、微かに一番右端の人形の口元が微かに綻んだ。

「さあ、どれにするんだい?」
「……薫」

店主に促され、乾が人形の前にたつ。
乾が選んだのは、サラサラの黒髪が特徴の和服メイド。
その人形の顔を覗きこむように足をついて、乾はそっと名前を呟いた。

「薫」

もう一度、今度は少し強めにその名前を呼ぶ。
何も反応をしめさないように見えた人形が、微かに睫を振るわせる。

「…マスター?」

ユルユルと瞼が開き、強い光を称えた漆黒の瞳が乾を映し出す。

「お早う、薫」
「お早うございます、マスター」

瞳をあけた人形に優しく笑いかけると、目が覚めたばかりの人形も笑い返す。

「契約成立だね」
「いいっすね、乾先輩」
「お前、本当に買うのか?」
「そりゃ、目が覚めたし。ほら、立てる?」
「はい」

乾が差し伸べた手に、薫と名付けられた人形が手を置いて、立ち上がる。

「薫、おかしなところはないかい?」
「はい。オーナー、有難うございました」
「礼なんかいいんだよ、マスターに幸せにしてもらうんだよ」
「はい」
「大切にしますよ」
「頼んだよ」
「はい、じゃあ帰ろうか、薫」
「はい」

こうしてServent Doll 和服メイドタイプ 薫は乾という主とともに、生活を始める。

Fin