幼い頃に交わした約束
「薫と薫莉をお兄ちゃんのお嫁さんにしてね」
「うん、いいよ」
そう言って約束をくれたお兄ちゃんは
親の仕事の都合とかで、いなくなったけど、
また逢える日を想って
二人で頑張ったから
逢いにいくから、結婚してね?
ね、大好きなハルお兄ちゃんvv
「薫、薫莉、準備は出来たの?」
「「はい」」
この春、青春学園中等部に合格した、海堂家の双子の兄妹は、家から学校までが少し遠いこともあり、母の友人の家に居候させてもらうことが決まっていた。
母親の言葉に、最後の荷造りの済んだ双子が、階段を駆け下りる。
「行きましょうか?」
「「うん」」
外には、父が車を用意して待っていてくれる。
母と弟の葉末とともに、二人も車に乗り込む。
今日から、二人は家を出る。
向う先は、幼い頃に一緒に遊んだ、大好きなお兄ちゃんの家。
交わした約束は、双子にとっては、何よりも大切なもので、この約束を守るために二人は頑張ってきていた。
「もうすぐだね」
「もうすぐだな」
流れる景色を見ながら、大好きな人のいる場所へ確実に近づいていく。
数年ぶりに逢う、人に思いを馳せて、ドキドキする。
「ねぇ、薫。お兄ちゃん、格好よくなってるかな?」
「かっこいいよ、きっと」
「そうだね」
「そうだって」
久しぶりに会えることの、嬉しさと不安を持て余して、二人を乗せた車は、彼の家に着いた。
「穂摘ちゃん」
車を出た穂摘に、まだ若そうな可愛い感じの女性が抱きつく。
記憶の隅に残るものを引っ張りだして、あれがお兄ちゃんの母親だと思い出す。
「久しぶりね、元気だった?」
「元気にしてるよ。穂摘ちゃんこそ元気そうで安心した」
「ハル君は?薫も薫莉も、会えるの楽しみにしていたんだけど?」
穂摘が、薫と薫莉の方を向いたのに、彼女も視線をそちらに向ける。
「薫君に、薫莉ちゃん?大きくなったね」
「お久しぶりです」
「今日から、よろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくね。と言っても、私も主人もほとんど帰ってこれないんだけど」
二人とも、かなり忙しいらしく、彼はこの家でほとんど一人暮らしのような生活を送ってると教えてくれた。
「ハルね、今日も部活で、もうすぐ帰ってくると思うんだけど」
済まなさそうに話す、彼の母親の言葉に
「ハル君、クラブって何してるの?」
と、いいタイミングで穂摘が訊ねる。
((母さん、ナイス))
「ん、テニス」
「あら、じゃあ、この子たちと一緒ね」
「本当に?」
「テニスしてるんですか?」
「本当よ…、あっ!!」
「ただいま」
薫と薫莉に詰め寄られて、答えようとしていたかれの母親が、声をあげる。
ほぼ同時に、背後から聞こえた声。
「おかえりなさい、ハル君」
「大きくなったわねぇ」
「お久しぶりです、穂摘さん」
「覚えててくれたの、有難う」
「いえ」
「今日から、うちの子をよろしくね」
「はい」
薫と薫莉がソロソロと振り向いた先、母と話している長身の少年。
ソコの厚い眼鏡をかけているので、素顔はわからないが、口元に浮かぶ笑みに、纏わせている雰囲気に二人とも、ホッと息を吐き出す。
「薫、薫莉。ご挨拶」
母と談笑している少年を見つめていると、母に声をかけられる。
母の声に、振り向いた少年が、自分たちにも笑みを浮かべてくれる。
「今日からよろしく、薫君に薫莉ちゃん」
目線を同じにして笑いかけてきてくれる、少年に見惚れる。
「「…よろしくお願いします…」」
ハッと我に返った二人は、ガバッとお辞儀をした。
「俺も、青学に通ってるから」
「知ってます」
「母さんに、聞きました」
「そっか、じゃ、仲良くしような」
「「はい」」
二人の髪をクシャリと掻き回す少年に、二人は嬉しそうにはにかんだ。
「…じゃあ、クラブも同じになるんだね」
引越しの片付けも終わり、リビングで一休みしてる途中。
穂摘から、双子もテニスしていると聞かされた乾が、二人に話しかける。
「よろしくお願いします」
「私も、お兄ちゃんと一緒にしたかった…」
嬉しそうに一礼する薫に、拗ねたような薫莉。
ここのテニス部は、男子・女子部がそれぞれ独立しているために、同じテニス部でも接点はあまりないからだ。
「休みの時にでも、一緒に練習しような」
拗ねたような薫莉に、乾が話しかける。
「うん、絶対ね。お兄ちゃん」
それに嬉しそうに答える薫莉に
「ずりい、薫莉だけ」
と、今度は薫が拗ね始める。
「三人で一緒にしたらいいだろ?」
そんな二人に、乾が苦笑混じりに話しかける。
「「うん」」
二人は嬉しそうに、同時に頷いた。
「そろそろ、私たちは帰るわね」
「私も、仕事に戻らないと」
丁度、三人の話しに区切りがついた時に、彼らの家族が帰る支度を始める。
「あの子達のこと、よろしくね」
「はい、お任せください」
「お預かりするんだからね、丁寧に扱ってあげてね」
「わかってるよ」
母親たちの言葉に、返事を返す乾。
「たまには、帰ってきてくださいね」
「わかってるよ」
「葉末君も、いつでも遊びにおいで」
「有難うございます」
その横で、別れを惜しむ兄弟に、乾が口を挟む。
「薫、薫莉。二人とも、迷惑をかけてはダメよ」
「「わかってます」」
「自分の家だと思って、気楽にしていてね」
「「有難うございます」」
葉末と乾が話し始めたのに、母親たちが双子に話しかける。
「じゃあね」
「お気をつけて」
車が発進するのを、三人で見送って、家に戻っていった。
「今日は疲れただろう」
「いえ」
「もう、遅いし寝ようか」
家族が帰った後、三人でゲームをしたりして、親睦を深めていたが、どことなく薫と薫莉がウトウトとし始めたのを見て、乾が声をかける。
「…はい」
リビングをさっと片付けて、三人揃って二階にあがる。
二階の一番奥の部屋が、乾の自室。
並んで、薫・薫莉と続く。
「お休み」
「「お休みなさい」」
二人に声をかけて、乾が自室に入っていく。
二人も続いて、自室に入っていった。
「どうしよう?」
「やるしかないだろ」
部屋に入り、パジャマに着替えて枕を抱きしめて部屋を出てきた二人。
乾の部屋の前で、ボゾボゾと話しこむ。
「でも…」
「薫莉だって、早くお兄ちゃんのお嫁さんになりたいだろ?」
「うん」
「薫莉がいやだって言うなら、俺一人ででも行くぞ」
「それはダメ」
躊躇する妹に、兄が叱咤するが、二人の会話が不穏なものなだけに、感動的なシーンとは言えないだろう。
「じゃあ、行こう」
「うん」
顔を見合わせて、強く頷いて、そっと乾の部屋のドアのノックする。
「お兄ちゃん…」
そっとドアを開けて、二人で顔をのぞき込むと、乾はパソコンに向っていた。
「どうした?」
二人の存在に気づいた乾がパソコンから離れ、二人を招き入れる。
部屋のドアを閉めて、中に入った二人は緊張してるか固まったまま。
「何かようがあるんじゃないの?」
緊張した面持ちの二人に、乾は極力を優しく声をかける。
「・・・」
しばらく、黙ったままの二人に、乾も黙る。
二人が話し始めるまで、ゆっくりと待つことにしたらしい。
「お兄ちゃん」
数分間の沈黙の後、意を決したように薫が声をかける。
「何かな?」
「俺たちを…」
「私たちを…」
薫に続くように、薫莉も口を開く。
「うん?」
「「お兄ちゃんのお嫁さんにしてください!!」」
「は?」
キッと乾を見上げて言い切った二人。
対して、言われた乾は間抜けな顔で二人を見つめる。
双子の決死の告白に、乾はどういった返事を返すのか…
幼い頃の、大切な約束は守られるのだろうか?
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