海堂家には、双子の兄妹がいる。
長男、海堂 薫 13歳。
青春学園中等部 1年生で、現在、青学テニス部に在籍しているために、テニス部寮「東雲寮」で生活している。
長女、海堂 薫莉 13歳
青夏学園中等部 1年生で、現在は青夏女子テニス部に在籍している。
こちらの学校には、寮は存在しないために、彼女は家から学校まで通っている。
この二つの学園は姉妹校で、駅を挟んで正反対の場所に位置する。
最寄り駅がどちらも同じなので、この二つの学園の生徒たちは、よくこの駅で待ち合わせをして遊んでいた。
ある日の日曜。
偶然にも、どちらの学校のテニス部ともお休みの日。
―海堂家―
「お母さん、髪セットして」
「どこか行くの?」
いつもよりもゆっくりと朝食を作る母親の元に、娘が駆け寄る。
手には薫莉の一番のお気に入りの小さめの青のリボン。。
「乾先輩と、ラケット見に行くの」
髪の毛をセットしてくれながら訊ねる母に、薫莉は素直に誰とどこに行くのかを話す。
「あら、あら、薫莉もデートする年になったのね」
娘の言葉に、母が嬉しそうに言うのに
「デートって、先輩と私はそんなんじゃ…」
薫莉は真っ赤になって否定するが、その表情が肯定していた。
「はいはい、じゃあそういうことにしておきましょうね」
クスクスと母の穂摘は楽しそうに笑って、結び終えたリボンとポンポンと叩いた。
「……」
嬉しそうな母に何も言えず、少し頬を膨らませる薫莉。
「ご飯できたから、早く食べないと、遅れない?」
ソファでプクっと頬を膨らませる娘に笑いかける。
「食べる」
穂摘の言葉に、待ち合わせ時間を思い出した薫莉は、そそくさとテーブルに向った。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
青のタンクトップの上に白のパーカーを羽織って、デニムの青のタイトのミニスカートといういでたちに、頭には可愛いお団子が二つ。それぞれに青のリボンが結ばれていた。
薫莉の家から、待ち合わせ場所の駅まで歩いて10程度の距離。
ゆっくり歩いていっても余裕でつく距離だけど、はやる心を抑えきれずに、薫莉は少し小走りになっていた。
駅の中央の時計台の前が二人の待ち合わせ場所。
それが見える交差点の向こう、信号待ちをしている人の波に薫莉は自分が待っている存在の姿を見つけた。
周りにいる人よりも、頭一つ分飛び出ている人。
向こうも薫莉に気づいたらしく、口元に笑みが浮かぶ。
信号が青に変わり、人々が流れに沿って歩き始める。
薫莉の視線の先にいる人は、そんな人波を掻き分けるように走ってきた。
「ごめん、待たせた?」
「いいえ、まだ約束の時間より早いですよ」
目の前に来た人に、薫莉が笑いかける。
「でも、薫莉は待ってただろ?」
「そんなに待ってないです」
いつもは瞳を覆っている眼鏡を外し、コンタクトをしている先輩の瞳を見つめてはにかむ。
「それに、待ってる間も楽しいから」
彼の黒の綿シャツの袖にそっと指を絡め呟く。
「そう?じゃ、いいけど。行こうか?」
薫莉の動作に笑みを深くして、乾は袖に絡まる薫莉の指を外して、握り締めた。
「…はい」
握られた手に、驚いたように乾を見た薫莉。
深く微笑まれて、薫莉は紅くなった頬を隠すように俯いて、握られた手を振り解くことなく、歩き出した。
同日、少し時間を遡って、東雲寮の一室。
「先輩、先輩」
「んん…」
ベッドの中で気持ちよさそうに眠るクラブの先輩を起こす、薫。
「何…?」
揺り起こされて、ちょっと不機嫌そうな声で薫の耳を打つ。
「出かけてきますから」
だが、既に慣れてる薫は、それを気にすることなく用件だけを告げて部屋を出ようとする。
「出かけるって、どこ?」
薫の声に目を覚ました乾が、上半身だけを起こし窺う。
「駅前のスポーツ店。ラケット見に…」
聞かれて、素直に答える薫。
「ふ〜ん」
乾が考えるように目を伏せる。
「先輩?」
「俺も行く」
「え?」
「海堂一人じゃ、決め切れなくて帰ってきそうだし」
「それは…」
たくさんラケットを目の前にしたら、十分ありそうな可能性に、薫は声を詰まらせる。
「結構、役に立つと思うけど?」
「それは、わかってます」
乾の知識は豊富だ。
それに、彼の持つデータは正確で、既に取られてるらしい自分のデータから、彼が自分にあうラケットを見つけてくれることは想像に難くない。
けれど…
「でも、先輩だって、自分の用事が…」
先輩を自分の用事につき合わせるのが忍びないらしい薫が、呟く。
「別に、今日は用事をいれてないから、構わないけど?」
「でも、俺に付き合ってたら、ゆっくり出来ないし…」
「ゆっくりするより、海堂に付き合ってるほうがいいんだけどね、俺は」
ボソボソと済まなさそうに呟く薫に、乾は苦笑混じりに呟く。
「そうっすか?」
「そうなの。だからさ、付き合わさせてよ」
「…それじゃ、お願いします」
優しく微笑まれて、そんな言い方されたら、薫には言い返す術はなく、真っ赤になった顔を俯かせて、ペコリとお辞儀する。
「じゃあ、用意するから。もう少し、待ってて」
「はい」
起き上がり、服を着始める乾の言葉に頷いて、薫は部屋を出た。
「お待たせ」
準備を終えた乾がリビングに来る。
「…」
黒のサマーセーターに、黒のジーパン。
いつもの眼鏡も、コンタクトにしてるために、取り払われていて、薫は見惚れる。
「海堂?」
自分を凝視してくる海堂の顔を覗き込む。
「どうかした?」
「い…いえ、何でもないっす」
至近距離で見つめられて、驚いて顔を横に振る。
「そう?」
「そうっす」
「ま、いいけど」
訊ねられて、首を振る。
本当のことなんて言えるわけがない。
見惚れてましたなんて…
「なんか、俺、すっげ子供っぽい…」
乾の姿を見て、鏡に映る自分の姿を見る。
黒のタンクトップの上に、白のパーカーを羽織って、濃紺のジーパン姿の自分。
目の前を歩く乾とは、釣り合いが取れてないみたいで。
「そう?海堂に似合ってると思うけど?」
薫の独り言を聞きつけた乾が、声をかける。
「でも、先輩と釣り合わない」
「そんなことないって」
ほら
と言って、自分も鏡の前に立つ。
「どうしたの?」
丁度、乾が薫の横に並んだときに、不二が通りかかる。
「不二、丁度いい」
「何、乾?」
「いや、海堂がな…」
不二を呼んで、説明する乾。
横の薫はいたたまれなくて俯く。
「へぇ、海堂がそんなこと言ったんだ」
「で、不二はどう思うよ?」
「似合ってるよ」
「へ?」
「な、俺の言った通りだろ」
さらっと答える不二に、乾が自慢げに話す。
「だから、気にせずに、とっとと行くぞ」
「え、あ。はい…」
「じゃあな、不二」
「いってらっしゃい」
「失礼します」
「楽しんでおいでね」
寮を出て行った二人を見送った不二は
「これは、面白い話を聞いちゃったvvあ、英二〜」
と、楽しそうに寮の中に消えていった。
戻って駅前。
仲良く手を繋いで、目的の場所に向う二人。
元々、周りに見られることに慣れてるのか、気にならない乾と、そういったものに敏感な薫莉。
まわりの視線に気にすることなく歩く乾の横で、薫莉は不安そうに歩いていく。
横にいる、乾の今日の服装は黒の綿シャツに黒のジーパンで、本来の年齢よりも上に見える。
眼鏡はなく、端正な顔が惜しみなくさらされていて、周りの女性たちの注目を集めている。
周りにいる人たちが、皆、乾を見てるような気がして、薫莉は不安を隠すように乾の手を強く握り締めた。
「薫莉?」
突然、強くなった手の力に乾が声をかける。
「何でもないです」
暗い顔をして、そんなことを言われても、到底、乾が信じるはずもなく、一回、グルッと周りを見回してから、苦笑を漏らす。
「本当は、教えたくないんだけど…」
そう言い置きする乾に、薫莉が不思議そうに顔を向ける。
「皆、薫莉が可愛いから見てるよ」
耳元でそっと囁く乾に、
「…そんなことない」
と、薫莉は否定する。
「本当だって、さっきから敬遠させるので必死だし、俺」
「でも、先輩のほうが見られてる…」
「そうかな?でもさ、俺が見てるのは薫莉だけだよ」
「…っ」
さらっと言う乾に、薫莉は真っ赤になる。
「だから、周りの目なんか気にしない。わかった?」
「…先輩も、ですよ?」
「OK」
真っ赤になって見上げてくる薫莉に笑って乾は頷く。
そして、さっきよりももう少し近づいて、二人はお目当ての店に入っていった。
テニス用品の専用コーナー
彼らの目的の場所。
寮から、一緒にやってきた薫たちに、駅前で待ち合わせしてやってきた、薫莉たち。
二組の目的は。中のラケットの飾られている一角。
先に睦まじく、ラケットを見ている薫莉たちに、後から入ってきた薫たち。
「薫莉…?」
「え?薫!?」
薫の小さな呟きに、驚いたように振り返った、薫そっくりの薫莉。
「…ハル?」
「ナオか」
恋人たちの声に、同じようにそちらを見た二人の乾が、それぞれに声をかける。
「「「「えっ?」」」」
同じ顔の二組のカップル。
それぞれ、自分の相手と、それにそっくりな相手の恋人を交互に見る。
一組ずつ、同じ顔の者同士、知り合いであることは確かで、
彼らの関係は、如何に!?
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