静寂なる深淵が世界を包み込む。
闇がこの世を支配する時間。
黒き衣を身に纏いし、魔の力が最も強くなる刻。
森の奥深く、泉のほとりに淡い純白の光が舞い降りた。
「また、来たんだ」
「来ちゃダメですか?」
「…いや、俺としては大歓迎だけどね」
苦笑交じりに、黒い衣を身に纏った男が純白の衣を身に纏った少女を見やる。
「でも、君にとっては、色んな意味で危険なことだよね?」
「危険?」
「そう、夜毎、悪魔と逢瀬を重ねているなんて…、天界に知れたら大変だろ?」
「そういうの、よくわからないんですけど…」
一言、そう区切って、純白の衣に身を包んだ少女、天使の薫は漆黒の衣に身を包んだ悪魔、乾と視線を合わせる。
「ただ、私は自分の心に嘘を付きたくはないから…」
だから、今自分はここにいる。
迷うことなく真っ直ぐに自分を見つめてくる薫に、乾はそっと視線を逸らせる。
「奇遇だね、俺も自分の心には正直に生きているよ」
そこにある感情は、少しも似ていないものだけども。
嘲るような笑みを浮かべ、乾が薫の手を掴んで抱き寄せる。
浮かべた嘲笑は、純真な心しかもてない天使へ向けたものか、それとも…
そんな天使を冒涜し続ける自分に向けられたものだったのかもしれない。
「では、私とこうするのも、あなたの心がそれを求めているから?」
求めてくる唇を避けることもなく、受け止め、抱きしめる腕に答えるように乾の首に腕をまわす。
「……悪魔は欲望に忠実だからね」
吐息の触れる距離で見つめあい、囁いて、吐息すら奪いつくすように口吻を施す。
「奇遇ですね。天使は心に忠実なんです」
口内を忍んできた舌を拒まずに受け入れ、誘われるままに舌を絡める。
息継ぎが上手くいかずに、息苦しさを感じたころにようやく離された唇。
息を整えながら見上げた先にあった、苦笑交じりのその笑顔に薫は穏やかな笑みを浮かべた。
「……も、黙って」
「んっ……あ……」
その笑顔に少し辛そうに眉を寄せ、乾はその表情を隠すように薫の耳元に唇を寄せ、甘く囁いて耳たぶを軽く食む。
その感触に薫は。擽ったそうに首を竦め、甘い吐息を漏らす。
「相変わらず、耳弱いね」
「ん…やっ…」
「何が?」
「そっ……ぃうこと……言わないで…」
「恥ずかしい?」
「ん…ぁあ…」
指や唇で耳や首筋に触れる度に、甘い声を上げてくる薫の感度の良さに、乾が楽しそうに囁く。
言われた台詞も、その声も、全てが恥ずかしさを増大させるだけのもので、薫は顔を赤くして、恥ずかしそうに首を横に振る。
「そういう表情されると、本当に天使とやってるんだなって、実感するね」
「なっ……あぁっ……」
何度抱いても、恥じらいを見せる薫の表情を満足そうに見つめる乾。
欲望に忠実な悪魔では絶対に見ることのないその表情に、乾は満足気に笑って、形のいい胸の膨らみに唇を寄せる。
言われた言葉、その内容がこんな時に言うような言葉ではないと、そういう思いのまま声をあげようとしたものの、薫は直後に胸の突起を含まれ、嬌声を漏らすしか出来なかった。
「あ、あっ……んんっ……」
既に純白の衣は胸の下まで引き下げられ、形のいい胸は露になって、乾の唇でいいように弄ばれていた。
乾はそれ以上、服を脱がすことはせず、そのまま内股へと手を忍ばせ、スッと撫でる。
「ひぃぁ…っ……」
「もう、溢れてるよ」
「ぁぁああっ……」
内股へと忍ばせられた手はそのまま撫で上げながら、今までの愛撫で濡れ始めている秘所へと辿っていく。
一番感じる部分を直に触れられ、薫もより甘さを帯びた声を上げる。
「ぁあっ…ん……、やぁぁっ……」
滴る雫を掬い、それごと中に指を埋め込んでいく。
外に残った指は、プツリと立ち上がった花芯を押しつぶしたり、捏ねたりしている。
「もう、大丈夫かな?」
「んっ……へ……っき……」
熱く熟れた内部に、乾が指を引き抜く。
耳元で囁かれた言葉に薫が頷いて、次の衝撃を待つように乾の首にしがみついたのを見て、乾は己を徐々に薫の中に埋め込んでいった。
「はっ…ぁ……あああぁぁぁっ……」
「辛い?」
貫かれ、辛そうに息を吐く薫を宥めるように、乾の唇が薫の瞳、頬、唇と口吻を落としていく。
心配そうに問いかけた乾に薫は、フルフルと首を振って、微かに微笑んで見せた。
「あなたの……好きに……して?」
「本当に殺し文句の上手な天使だ」
「あん……ああっ……ん、あぁっ…」
自分から唇を寄せ、合わせ、離れた直後に口をついて出た言葉。
その言葉に、乾は苦笑を返して動き始める。
腰を突き動し、天使の体を蹂躙していく。
静かな森の中では動かす度に擦れあう淫靡な音と、純白の天使のあえやかな声だけが木霊する。
「何て、倒錯的なんだろうね」
「え?……んぁぁぁ……」
「まるで夢の世界にいる気分だ」
悪魔が夢なんてとも思うけどね…
どこか嘲るような、そんな自嘲の笑みを浮かべながら、乾が囁く。
天使と悪魔の不義密通、それこそが幻のようで……
いや、いっそ夢だったらよかったのかもしれない、彼女にとっては……
天使にとって、この行為は罪以外の何物でもないのだから。
「あ、あ……も……ぅ……」
「ああ、俺も限界」
涙を零して訴えてくる薫の眦に唇を落として、最後を迎えられるように激しく動く。
森に一際大きな嬌声が木霊して、薫が全身の力が抜けたように乾の体に体を預ける。
それに続くように乾も、薫の中に自身の精を放った。
「何を…考えているんだ、俺は」
あのまま倒れるように眠りこんだ薫を腕に抱きこんだまま、乾は呆れたような溜息を吐く。
「ただ、その欲のままに手を出しただけだろう?」
ただの気まぐれで、興味本位で手を出しただけ。
穢れなき天使を堕とせば、天使はどうなるのかそれに興味を惹かれただけだ。
「夢だったらよかったなんて…」
相手を想うような言葉。
何て自分には似合わない言葉なんだろうか?
悪魔が自分以外の誰かを想う言葉なんて……
「何故、俺に抱かれ続ける?」
その身を穢すことが一番の罪だろうに……
「貴方が、好きだから」
「……起きて……」
苦痛に歪んだ声に、返るはずない返事が返ってくる。
驚いたように視線を腕の中に向けると、薫が淡く微笑んでいた。
「貴方を愛しいと想うから」
だから貴方の傍にいる。
想うことは罪ではないはずだから……
「種族が違う、相反するものなのに?」
決して相容れない種族同士だというのに、いつかは引き裂かれるだけの関係なのに……
「貴方に出会えたことに、後悔は一つもありませんから」
凛とした声が響きわたった。
真っ直ぐに自分を見つめる強い瞳に、乾は見惚れる。
強い、強い、彼女の心に惹かれ、愛したのだと、乾はその瞳に自覚した。
「俺は悪魔だから」
自分の欲に忠実な生き物だから、迷う必要はない。
もう、自分の心が分かってしまったのだから。
「君をこのまま攫っていく」
天界などに返してやらない。
これは俺のものだ。
返してやる義理など、あるものか。
「君を、愛しているよ」
密やかに、秘めやかに、逢瀬を重ね
密を味わう、その内に
密かに積もった想いに、ようやく気づいた
そして、今日より
蜜月が始まる。
禁忌という罪すら、甘い蜜に変えて。
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