それは、キスから始まった…
今の三年たちが二年の頃
秋の新人戦に出ることになった、1年の桃城・海堂の特訓という名目で、レギュラー陣とこの二人による合宿が行われた。
そんなある日
「あれ?乾寝てる?」
どこかに遊びに出かけていた菊丸・大石・河村・不二・桃城・海堂の六人が部屋に戻ってくる。
何故、海堂も?というのは、先輩命令という有難くない菊丸の一言で連れ出されていたからである。
しかも、不二の笑顔つきで。
「あぁ、静かにしてやれ」
出かけなかった手塚が乾を気遣って菊丸に声をかける。
「また、寝てなかったの?」
足音をたてずに部屋に入ってきた不二が、小さな声で問う。
「らしいな」
ほっとくと、平気で寝ない日が続くこともある乾は、この合宿の前も徹夜が続いていた。
その上に、気を許した相手の前以外ではまともに寝れない癖のある乾は、どうしても合宿などに行くと、睡眠が浅くなってしまう。
流石に限界にきたらしく、菊丸たちが出ていった途端に手塚の膝を枕にして爆睡を始めていた。
手塚も乾のその癖を熟知してるので、乾の様子を見て限界だなと感じていたので、驚くことなく本を読みながら、たまに乾の髪を撫でてやっていた。
この飄々とした親友が、一人に慣れてるくせに一人が嫌いなことも、甘えさせるのが得意なくせに、実は甘えるのが好きなことも、触れられるのは苦手なくせに、触れるのは好きなことも10年以上の付き合いの手塚は知っていた。
そして、乾も既に自分を隠す必要のない手塚には完全に心を開いているから、平気で我侭を通していた。
「乾先輩、眼鏡外してるじゃないですか」
慣れた様子で、既に部屋でくつろいでいる二年たちに対し、物珍しそうに手塚と乾を見ていた1年二人のうち、桃城があっと声を出したあと、思わず大きな声を出す。
「ん…」
「桃城」
「スンマセン」
「後で、この周りを50周だ」
「ゲッ」
桃城の声に起きたのか、乾が小さな声を漏らす。
その上で、手塚が桃城に罰を与える。
平気で無茶をする親友を案じて、自然に起きるまで待ってるつもりだったところを、こんな無粋な起こし方をされて、表情に出てないがかなりご立腹になったらしい。
そして、声をあげた桃城は泣きそうな顔で、すごすごと後ろに下がって、大石と河村に慰められていた。
「……」
「…乾先輩?」
そのまま寝るかと、手塚・不二・菊丸の三人が様子を窺っていたら、むくっと起き上がり、じっと目の前にいた海堂を凝視していた。
じっと見られている海堂は不思議そうに乾を見つめている。
乾先輩って、素顔…格好いい…
何で、あんな眼鏡してるんだろう?勿体ねぇ…
初めて見た、乾の素顔に見ほれてもいた。
「かおちゃん、逃げて」
「危ないよ、海堂」
「そこは危険だぞ」
既に乾と海堂から離れている、菊丸・不二・手塚が海堂に逃げるように指示を出す。
が、何も知らない海堂は三人を交互に見て、「えっ?エッ?」と戸惑っている。
「もう、遅いか…」
乾が起きた時点で、そっと逃げた手塚が乾の腕が海堂に伸びたのを見て、溜息混じりに呟く。
「ゴメンネ、かおちゃん」
「諦めて、犠牲になってね」
同じように乾の様子を見ていた菊丸・不二も海堂に声をかける。
「英二、不二、手塚、止めてあげなよ」
桃城を慰めていた河村が、乾の様子に気づいて声をかける。
「そうだぞ、海堂が可哀そうじゃないか」
「何かあるんすか?」
続いて大石と桃城がそれぞれ、片方は切羽詰った感じで、もう片方は心底不思議そうに声を出す。
「そんなこというなら、大石とタカさんが止めればいいじゃん」
「そうだよ。僕らにああなった乾は止めれないよ」
「「それとも何?僕(俺)があれをされてもいいっていうの(わけ)?」」
「「誰も、そんなことは言ってないよ」」
それに、俺らのほうがお前らよりも乾を止めるのは不可能だって…
「誰にもどうすることも出来ないんだ、仕方あるまい」
まとめるように口を開いた手塚。
(お前は止めれるだろうが)
自分が被害にあいそうになったら、殴って起すくせに…
自分でなければ、親友を殴ってまで止めさせようという気のない手塚に、心の中で突っ込む、良識人の二人。
けれど、それを口に出したところで、手塚が海堂を助けることもないことを理解しているし、その上に、自分たちが走らされるだけだというのも気づいているので口に出せない。
自分たちが走ることで、海堂が助かるならそれもいいが、海堂が助かることもなく、自分たちが走らされるだけになることは明白なので、そんな無駄なことは遠慮したい二人だった。
「なっ、何の…うわっ…」
そして、そんな二年の様子に何が何だかさっぱりわからない海堂が声を出した途端、腕を強く引っ張られた。
「…乾先輩…」
ドンと背中に衝撃が走り、目を開けた海堂の目の前には乾の顔が。
気がついたら押し倒されている状況に、心がついていかない海堂。
自分の身に何が起こってるのか、理解しきれてない状況に、抵抗することも忘れている。
触れ合いそうな距離で見つめられて、どうしていいのかわからずに乾の名前を呼ぶ。
海堂の声が引き金になったのか、乾の唇が海堂の唇に触れる。
「っ…」
「わっ…」
された海堂と、見ていた桃城が声をあげる。
二年たちは、あーぁと溜息を吐いていた。
見てはいけないものを見てしまった桃城の前で、乾は周りの目を気にすることなく(周りにギャラリーがいることも気づいてなさそうだ)キスを続けている。
何度も角度を変えて、触れるだけのキスを繰り返す。
その合間に、たまに啄むようにチュッと音をたてる。
突然の出来事についていけない海堂はされるがままになっている。
一度、乾の唇が離れたと思うと、ペロッと海堂の唇を舐める。
「んっ…」
その感触に擽ったそうに声をあげて、唇を開いたところにまた、唇を塞がれる。
「ん、んーっ」
そのまま舌を差し込まれ、先ほどまでとは比べられない濃厚な口吻を施される。
流石に、ここまでされては正気に戻った海堂が乾の胸を押すが、体格的にも勝っている乾はビクともしない。
そのうち、舌を絡められて、深く口内を犯されて、頭の芯がボーッとしてきた海堂の抵抗が止む。
(き、気持ちいい…)
クラクラしてきた頭の中、乾の唇と舌の感触に酔いしれてきた海堂は、乾の首に腕を回して、おずおずと舌を絡める。
「はぁ…ふ…ん…」
舌の裏を舐め上げられ、海堂の背筋にゾクゾクとしたものが走り抜ける。
舌を絡め、吸い上げられるたびに沸きあがる感覚を追うように、海堂も積極的に動き始める。
積極的に動き始めた海堂に、一同が固唾を飲んで見守る。
(やっぱり、こうなったか…)
その場にいた、二年生全員の呟きだった。
因みに桃城は、目の前の男同士のラヴシーンに凍り付いていた。
「ふ…ぁ…は…」
散々、口内を蹂躙した乾の舌がようやく離れる。
濡れた唇を綺麗になぞって、満足したのか乾の体が崩れる。
「うわっ」
乾の下で、さっきまでの余韻に浸っていた海堂が、突然崩れてきた乾に驚く。
「かおちゃん」
「「「「「海堂!!」」」」」
「…って〜」
「す〜」
ドンという音とともに海堂の胸に乾の頭が落ちる。
全体重をかけて自分の上に落ちてこられた海堂が痛みに呻く。
驚いた見物人たちが近寄ってみると…
「寝てる」
「さすが、乾」
「珍しいな…」
ガシッと海堂に抱きついて熟睡してる乾がいて、うち三人ほどの頭の中にある計画が浮かんだ。
「乾、かおちゃんのこと気に入ったみたいだね」
「うん、海堂のほうも満更じゃないみたいだったし」
「海堂なら、あれでしっかりしていて面倒見もいいし、問題ないだろう」
「あ…あの…」
自分の周りで何やら話しこんでいる、不二・菊丸・手塚の三人に、乾にしがみつかれてどうしていいかわからない海堂が声をかける。
「ん?あぁ、そう言えば、説明してなかったね」
海堂の顔を見て、不二が何やら一人で納得して話し始める。
内容は、今の乾の行動についてだ。
どちらかと言えば、そのことでなく、今、三人が話してる内容の意味を知りたかった海堂だが、いきなり押し倒されてキスをされた理由も知りたかったので、大人しく耳を傾ける。
「乾ね、寝ぼけて人を襲うんだよね」
「「はっ?」」
さらっと言われた言葉に、海堂と桃城が声をあげる。
「完全に覚醒してない状態だとね、とりあえず、目の前にいる人物を襲うんだよね」
その後は、そのまま覚醒するか、今みたいにまた寝ちゃうかのどっちかなんだよね。
「しかも、男とか女とか気にしてないみたいで、とりあえず、目に入った人物なんだよね」
「そ、そうなんですか…?」
だから、俺…
海堂が怖々と訊ねる。
「うん。偶然、目の前にいたから標的にされただけなんだよね」
ほんと、間が悪かったとしかいいようがないよ。
「そんな理由で…」
俺は、男にファーストキスを奪われたのか…
なんとも情けない話に、知らず、海堂の目元が潤んでくる。
哀しいというよりは、悔しいという感情のせいだろう。
何だか、無性に自分の胸を枕にしてるこの先輩に腹がたってきて、思わず、思いっきりグーで殴ってしまった海堂だった。
「……った…」
頭に直撃した海堂の手の衝撃に乾が覚醒する。
頭を摩りながら、ムクッと起き上がる。
「…れ?海堂?」
視界の悪い裸眼の状態でもわかるほど近くにある海堂の顔に、乾が不思議そうな声を出す。
「まだ、ちょっと寝てるみたいだね」
その様子を眺めてた不二がそう称した。
「何で、海堂が俺の下にいるの?」
「っ…あんたのせいだろうが!!」
「っで…」
「乾の性質の悪いことって、全く覚えてないことなんだよね」
乾のあんまりな言葉に、またまた思いっきり殴り倒した海堂。
怒りのあまり、そのまま部屋を出て行こうとした海堂の背中に、不二の暖かい一言が飛ぶ。
「…あんた、ほんと最悪っすね」
「えっ?」
結構、可愛がっていた後輩にいきなり、殴られたうえに、そんなことを言われた乾は訳がわからないという顔をしていた。
「俺、何かした?」
バンと大きな音をたててドアを閉めて出て行った後輩を見送って、乾は周りの同級生ともう一人の後輩を見回しながら呟く。
思いっきり、しましたとも。
そんな乾から視線を逸らして、その場に残っていたメンバーが心の中で呟いた。
「なぁ、何が起こったんだよ」
何で、海堂怒ってんだ?
そんな乾の叫び虚しく、彼らは沈黙を守っていた。
全部、あんたのせいです、乾さん。
その言葉は、全員の心の奥深くにしまわれた。
さて、合宿からしばらくたち……
その間、乾は海堂に睨まれ続け、声をかけても無視され続けていた。
「何で、ここまでされなきゃならんわけ?」
しばらくは、何が何だかわからないまでも、今までの経験から自分が何かをしでかした結果だということだけはわかる乾は、一生懸命海堂に謝ろうとしていたのだが、その度に無視されて、少々ムッとしていたが、
「あれだけのことをしたんだもの、これ位は仕方ないよ」
「訴えられても文句言えんぞ」
「あと、数発は殴られると思ったのにな」
「今回は乾が悪いな」
「海堂が可哀そうだよ」
と、仲良い同級生たちに口々に言われてしまい、口を閉ざす。
何度も思い出そうとしても思い出せないそれに、周りに聞いても海堂に聞けの一点張りで、その当の本人、海堂に聞こうとしてもあの調子で…
一体、俺は何したんだよ。
そこがわからないんで、海堂に謝るにもどう謝っていいのかわからない乾だった。
そして、今日も今日とて海堂に無視される乾。
だが、流石に可哀そうになってきたのか……
いや、きっとあの日ひっそりと話し始めていた不穏な計画のために、不二と菊丸が海堂に声をかける。
「嫌っすよ」
が、まだ何も言う前に、海堂の口からは否定の言葉が漏れる。
「別に、乾と仲直りしてとは言わないよ」
けれど、その言葉すら否定する不二に
「じゃあ、何っすか?」
と、思わず聞き返してしまう海堂。
聞き返さずにさっさといなくなってしまえば、まだまともな人生送れただろうにとは、どうすることもできずにいた二人のダーリン。
「かおちゃんさ、もの凄く乾のこと意識してるでしょ」
楽しそうにピシッと人差し指を海堂の前に立てて笑う菊丸。
「…してません」
「してるよ。いつも、乾が自分を見てないときは乾見てるでしょ」
「それも、乾の唇。気にしてるでしょ」
「…ぅっ…」
二人から図星をさされ、海堂の顔が真っ赤になる。
「何で…」
何で、わかるんすか?
「わかるよ。海堂、いつも乾見てるもの」
「わかってないのって、乾くらいじゃない?」
そんなに、見てるのか俺?
確かに、気がつくと目で追ってる。
知らないうちに、あの人の唇を見つめてて、気づくたびに顔が熱くなる。
あの日から、どこかおかしくなった自分を持て余して、恥ずかしさも手伝って先輩に話しかけられても謝られても無視してしまう。
別に、怒ってるわけではないのだけど。
ただ、たぶん……
「好き、なんでしょ?」
考えてることを先読みしたように不二が口を開く。
好きなんだと思う。
こうなる前から……きっと……
ずっと、色々と世話をやいてくれていたから。
あの人だけが、笑って近づいてきてくれたから。
警戒してた心はとうの昔に警戒を解いて、知らない間にあの人を心の奥深くに入れ込んでしまって
キスされて気づいた。
触れた唇から、心が震えた。
触れた唇が心を教えてくれた。
だから、謝られると辛い。
あれは、あの人にとっては間違いなのだと、そう言われてるようで。
何も覚えてないあの人に悪気はないのだろうけど、自分にとってのあのキスはただのキスじゃないから。
「海堂、無視してたら、伝わらないよ?」
「好きって、ちゃんと言わないと、乾はわからないよ」
あれで、自分のことにはてんで鈍いから。
「…言わない」
二人の言葉に、海堂はフルフルと首を振る。
「迷惑はかけたくないっす」
苦しめたくはない。
あの人は優しいから。
きっと、こんな気持ちを知られたら、困ったような顔して、それでも俺を傷つけないように笑って……
そんな顔、させたくない。
「どうして?きっと、乾なら迷惑なんて思わないよ?」
「でも、困らせたくはないっす」
「それこそどうしてさ?乾もかおちゃん好きなのに、何で困るの?」
「はっ?」
菊丸の言葉に、海堂がポカンと口を開ける。
「もしかして、気づいてないの?」
「え?」
「かおちゃんて、乾並に鈍い」
「いいじゃない。手塚並に鈍いわけじゃないんだから」
「不二先輩…」
今、サラっととんでもないこと言いませんでした?
とは、怖くて口が裂けてもいえない海堂だった。
「あのね海堂。乾は自分で気づいてないけど、海堂のこと好きだよ」
ちゃんと恋愛感情としてね。
「そうそう。あの乾があっこまで誰かを構うなんてないもん」
「嘘…」
俄かには信じられない言葉に、海堂が呟く。
「嘘じゃないよ」
「大体、あの乾が君の胸を枕にして熟睡してたじゃない」
「それが?」
それが先輩が俺のことを好きだという理由になるんだろうか?
乾の癖を知らない海堂が、とても不思議そうな顔で訊ねる。
「乾ね、気を許した相手の前じゃないと寝れないんだよ」
「僕らの前でも、浅いんだよ。だから、ちょっとしたことですぐ起きちゃう」
「あれで、乾も警戒心強いからね」
海堂みたいに他人を排除するんじゃなくて、選別するから表向きはそう見えないけど。
「それがさ、海堂の胸を枕にしたら、熟睡してたでしょ」
だから、乾は僕らよりも君に心を許してるよ。
「でも…部長は…」
いつも自然と二人でいる彼らを思い浮かべる。
あの日だって、ずっと彼は部長の膝で寝ていた。
とても気持ちよさそうに、リラックスして。
「…?もしかして海堂、乾と手塚の仲、疑ってる?」
ギュッと唇をかみ締めて、泣きそうになるのを堪えてる海堂に、不二がピンとくる。
その声に余計に泣きそうになってくる海堂。
「かおちゃん、それ誤解。あの二人はそんな関係じゃないよ」
「そうだよ。あの二人はただの幼馴染で親友」
それ以上でも以下でもないんだよ。
優しい不二の声に
「でも」
と、言い返してしまうのは、やっぱりあの二人を見る限り、そういう関係に見えてしまうからだろう。
「そんなに信じられないなら、本人に聞いて見ればいいじゃない。ねぇ、乾」
「何の話だ?」
ニッコリ笑った不二が海堂の後ろに声をかける。
「げっ!!」
そして、後ろから聞こえてきた声に、咄嗟に海堂が振り返る。
「げっ…て、それはないだろう」
そこには先ほどまでの話題の人物である乾が苦笑しながら立っていた。
少し遡って
今日も海堂に話しかけようとして、見事に無視された乾。
「手塚〜」
しょぼくれて(そうは見えないけど)後ろから、手塚に抱きつく。
「うっとうしい」
口で言うほど鬱陶しいとは思ってない手塚がしたいようにさせておく。
「いつになったら、口聞いてくれるんだろう…」
「さあな」
「なぁ、本当に俺、何したんだ?」
「海堂に聞けと言ってるだろう」
「手塚、冷たい」
肩に額をのせて、ブツブツと呟く乾。
「少しは慰めてくれたって…」
「なんだ、慰めて欲しかったのか」
「手塚…」
ハァと大げさな溜息を吐く。
部内一、鈍感と称されるだけはあるなとつくづく思ってしまう。
「走らされたいのか?」
大げさな溜息に手塚の眉間に皺が寄る。
「まさか」
慌てて、手塚から離れる。
「あっ」
離れて顔をあげた先に見えた光景に乾が小さな声を漏らす。
「ん?」
手塚もその声に、乾の視界を辿る。
「あいつら…」
その先では、泣きそうな顔の海堂と笑っている菊丸と不二。
「いいのか?助けなくて?」
あの二人の計画を知っている手塚がさり気に、乾を向こうに向わせようと声をかける。
「今にも泣きそうだな」
どんどんと歪んでいく表情に、乾が小さく舌打ちして駆け出す。
「いい加減、自覚したらどうなんだ」
聞こえない距離でそう呟いて、手塚はコートへと戻っていった。
「で、何?」
固まった海堂にではなく、不二に声をかける。
確実に状況をわかりやすく説明することが出来そうな唯一の人物だからだ。
「うん。海堂がね、乾と手塚は恋人同士だと思ってるみたいなんだけど、どうなの?」
「は?何で、俺と手塚が…」
勘弁してくれよ
心底嫌そうな顔で溜息まで吐く乾に
「でも、仲いいし」
いつも一緒にいるし、わかりあってるし…
俯きながら反論する海堂。
「そりゃ、物心ついた頃から一緒にいるからね」
だからって、それだけで恋人同士にされてはたまらない。
「絶対に手塚とだけはあり得ないよ」
近くにいすぎるから。
わかりあいすぎてるから、今更、今の関係以外のものになんてなれるはずがない。
「俺と手塚は、そういう感情を持つには近くにいすぎるからさ」
「ね、海堂。僕の言った通りでしょ」
不二が海堂に笑いかける。
「だからさ、頑張って」
ポンと背中を押され、1歩、乾に近づく。
「大丈夫だよ、かおちゃん。乾に責任取ってもらいなよ」
その後ろで、菊丸が腕を振って応援する。
「何だ?」
責任って…?
事態が飲み込めない乾が不思議そうな顔をする。
「…たの…だからな…」
「何?」
ボソボソと呟く海堂。
はっきりと聞き取れなかった言葉を乾が聞き返す。
「あんたが、あんなことしたせいだからな」
顔を上げ、キッと乾を睨みつける。
あんなことしなきゃ、この気持ちに気づかなかったのに……
構ってこなければ、こんな気持ち持たなかったのに……
「あんなことって?」
睨みつけてくる海堂に、少々たじろぎながら問い返す。
海堂は乾のTシャツを掴み思いっきり引き寄せる。
傾いてきた乾の唇に、自分の唇を重ね合わせる。
「…あんたが悪いんだからな」
「海堂?もしかして…」
一瞬で離れた唇と手。
バッと離されて、態勢を立て直した乾が驚いたように唇を手で押さえて海堂を見る。
「乾、もっと凄いとこまでしたよ」
「熱烈ラヴシーンを有難うって感じだったしね」
また俯いてしまった海堂の代わりに、菊丸と不二が乾の問いに答える。
それじゃ、確かに海堂が怒って無視するのもわかるな。
けど…
今のキスの意味は?
「…好き…」
「へ?」
ポツッと呟いた海堂に、間抜けな声を出す乾。
今、何と言いました?
いつも冷静な頭も、この展開についていけないらしい。
「乾先輩が好きです」
「海堂?」
「…迷惑ですか?」
戸惑ったような乾の声に、海堂が恐る恐る訊ねる。
「いや、迷惑ではないけど…」
ずっと可愛がってた後輩だ。
弟のように思っていた子から突然、告白されて驚いたけど。
嫌じゃない。
寧ろ、この子に好かれてるっていうのは嬉しい。
ただ、自分がこの子に、同じ気持ちを返せるかどうかは別問題なだけで。
「誰か、好きな人とかいますか?」
「いや、いないよ」
「なら、諦めませんから」
乾を見つめてはっきりと言い切る。
よくよく観察してみると、握り締めた拳が微かに震えていた。
「絶対に、あんたに好きになってもらうからな!!」
キッと強い視線で射抜くように見つめられ、ビシッと指を指されて宣戦布告をされてしまった乾。
「ハハ…参ったな…」
乾の乾いた笑みだけが、その場に残された。
キスから始まる物語
その結末は
ハッピーエンドかそれとも……
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