都大会を優勝した青学テニス部では、地区大会後以上に偵察する連中が増え、メンバーたちも多少辟易し始めていた頃、
「おお〜い、桃」
コートへ向おうととする桃城を、菊丸が呼び止める。
「どうしたんすか?」
菊丸の元に駆けつける桃城に、菊丸は
「面白いこと思いついたんだけど、桃も乗んない?」
こっちこっちと人のいない場所に桃城を連れて行き、密談を始める。
数分が経過し、菊丸が計画の全容を桃城に語った後、
「面白そーっすね」
商談成立とガシッと腕を組む、二人がいた。
その頃、青学行きのバスの中、相変わらずバスの中では寝ることというのが染み付いてるらしい、立海付属の切原が寝ていた。
終点の青春学園前で叩き出された切原は、
「また、やっちまったよ…」
と、頭をかきながら、どうせついでだしと、学校の中へ入っていった。
「…手塚、また来てるよ」
「お前目当てみたいだし、相手してあげれば?」
フェンス越しに練習を眺めているというか、手塚を探している切原の存在に乾と不二が気づいて、手塚に声をかける。
「…ふざけるな」
自分の両脇で言いたいことを言う二人に、溜息をついて、切原に向かって歩き出す。
「部外者には、出て行ってもらおう」
切原の前に行き、出て行くように促す手塚。
「折角、遠いところから来たんだから相手してくださいよ」
それを無視して、話す切原。
「面白くなりそうだね」
「行くか?」
「勿論」
面白そうに、乾と不二は二人に近寄った。
「乾…、不二…」
面白そうにコートから出て行った二人に、大石が止めるように呼ぶが、二人はお構いなしに出て行く。
「…ややこしくしないでくれよ…、?英二…?」
止めるように伸ばした手を力なく下ろしながら、溜息をつく大石。
ふと、コンビを組んでる菊丸すらもいないことに気づく。
「どこ行ったんだ?」
乾と不二についていったわけでもない菊丸を探し、顔をキョロキョロさせていると、
「英二なら、桃とどっかいっちゃったけど?」
気のいい同級生の河村が、「止めたほうがよかったかな?」と心配そうに声をかけてきた。
「桃と?」
「うん。何か楽しそうに消えていったけど?」
河村の言葉に、大石の胃がキリキリと痛んだのは言うまでもないことだった。
(何で、うちのレギュラー陣はこう好き勝手するんだろうか?)
現在起こってることなど気にもせずに、コートで打ち合ってる海堂・越前を見ながら深い溜息をはく大石だった。
痛む胃をおさえてオロオロしてる大石を横目に、手塚と切原はいまだ揉めていた。
「練習試合でもないのに、球を交える必要はない」
「何でそう、頑固なんすか?」
「練習の邪魔だ、出て行け」
「あんた、もっと柔軟になったほうがいいっすよ」
互いにひかずに言い合ってる二人の間に、乾と不二がわって入る。
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
「手塚、部外者は出て行けっていうなら、そこらに隠れてる方々にもお帰り頂かないと」
言い合ってるのを乾が止め、不二が手塚に提案する。
「そうだな…」
不二の言葉に、手塚が隠れそうな木陰などを見回しながら賛同する。
「いい加減煩わしいし、出てきてもらおうか」
淡々とした口調で乾が言うのに、隠れている他校生たちの額に冷や汗が伝う。
「大人しく出てきてくれると、嬉しいんだけど」
ニコニコといつものスマイルで隠れてそうな場所に話しかける不二。
「まあ、出てこないなら…」
乾が言い出した後、
「「出てくるようにするだけだけど」」
不二も加わり、綺麗にハモられた言葉に、嫌な予感を覚えた他校生たちが一斉に出てくる。
そして、他校生たちは二人を見て、出てきてよかったと心底思う。
それは、いつの間にか二人の手にラケットではなく、ホースが握られていたからだ。
もし、あのまま出て行かなければ、確実に高い金を出して買ったデジカメがおしゃかになっていたのは、予想するまでもない未来だった。
「へぇ、結構いたね」
目の前にずらりと並んだ他校生たちを眺めながら、不二が口を開く。
「データ通りだな」
人数を調べて、満足そうに頷く乾とは対照的に、手塚はその秀麗な眉を顰める。
「さて、どうしようか?」
「出て行ってもらうに決まって…」
「待った〜!!」
出て行ってもらおうと口を開く手塚を制するように、大きな声が響く。
「菊丸?」
声の主を見ると、桃城と凄い勢いで走ってきた。
「何だ?」
「さあ?」
バッと手塚の両脇にいた乾と不二をどかし、その位置に立つ菊丸と桃城に、乾と不二が不思議そうな声を出す。
「英二…、桃…」
コートから成り行きを見守っていた大石が、菊丸と桃城の出現に頭を抱えて騒ぎの元のところへ駆けつける。
「大石、大丈夫?」
その後を、心配そうに河村がついてきていた。
「何やってんすかね?海堂先輩」
「知るか」
菊丸と桃城が出てきたことで、やっと騒ぎに気づいた海堂と越前が、コートの中で顔を見合わせて話していた。
「俺には、関係ねぇ」
「そっすね。じゃ、続きしましょうか?」
スタスタとライン際に戻っていく海堂を見て、越前も戻る。
「行きますよ」
越前がボールを上げる。
マイペースな二人は、そのまま練習を再開させた。
「菊丸、桃城?」
そして、二人の間に立たされた手塚が二人に声をかけると、二人は手塚を見てニマッと笑った後、正面にいる、切原と他校生たちを見る。
深く、桃城が息を吸い込む。
「ええ〜い、控え〜、控えおろう〜」
桃城の大音声が青空の下、響き渡った。
響き渡った言葉に、凍りつく面々。
ただ、乾と不二は驚きはしたものの、凍りつくことなく面白そうに傍観を決め込んでいた。
きっちり、手塚の手の届かない範囲に避難した上で、デジカメとデジタルビデオカメラを片手に……
シンとした周りに満足そうに笑って、菊丸が次を引き継ぐ。
「この御方をどなたと心得る。現、青学テニス部部長、手塚国光様であらせられるぞ」
固まって動かない手塚を放って、桃城と菊丸のソレはどんどんと続けられた。
「この、ラケットが目に入らぬか〜」
ジャーンと印籠ならぬ、手塚のラケットを掲げて見せる、菊丸。
「皆の者、頭が高〜い」
桃城の言葉に、つい、そこにいた一同が頭を下げてしまい、全員
(何で、頭を下げてしまったんだろう)
と、心の中で、自分につっこんでしまったとか……
「よっしゃ〜、完璧っすね、英二先輩」
シンと頭を下げる、周りの連中を見て、桃城が嬉しそうに菊丸に声をかける。
「ばっちりだにゃ〜。いっぺん、してみたかったんだよなぁ〜、黄門ゴッコ」
桃城が出した腕をガッシリ掴んで、手塚の前で喜びあう二人。
「手塚の名前聞いたときから、考えてたネタだったんだよね〜」
嬉しそうにはしゃぐ菊丸。
「菊丸、桃城…」
その菊丸の耳に、低い怒りを含ん声が落ちてくる。
「手塚…」
「部長…」
二人の後ろで鬼のような形相の手塚に、怯えたように二人は後退る。
「お前たち…」
一度、言葉を区切って、手塚が息を吸い込む。
「…グラウンド、50周!!」
「「えぇ〜」」
手塚の台詞に、桃城・菊丸の二人は不満を零すが、
「…増やされたいのか?」
との、部長の心優しき台詞に
「「行ってきます」」
と、二人は走って去っていった。
グラウンドに向かった二人を見送って、手塚が周りで頭を下げている連中を見渡す。
「…練習をサボったお前たちも同罪だな」
視線を、試合をしている後輩二人に向けながら、声を出す手塚。
手塚の言葉に
(あいつら覚えてろ…)
走りにいかされた二人への恨み言を心の中で呟きながら、覚悟を決める部員たち。
「…折角だから、お帰り頂く前に、うちの練習を実際に味わっていただこう」
目の前にいる、切原を始めとする、他校生たちにも声をかけ、
「全員、グラウンド20周!!」
部長様の有難いお言葉が、空から降ってきた。
その日、結局走らずにすんだのは、試合をし続けた海堂・越前と、菊丸・桃城がいなくなった時点で部室に行き、乾のノートパソコンで撮ったばかりのデジカメとデジタルビデオカメラの編集をしていた、乾・不二の4人だけだった。
そして、後日。
「水戸黄門」ならぬ、「青学部長様」と銘うったビデオと、写真が校内を出回り、話題になり、乾と不二がご満悦だったのは、もう少し先のこと。
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