週の半分位を、俺は乾先輩の家で過ごすようになった。
先輩の家の事情を知った母親が、あっさりと俺を引き渡したからだ。
それに週末は必ず、先輩の家で過ごす。
そんなわけで、今日も俺は先輩の家にいたりする。
今、先輩はデーターをまとめている途中で、パソコンとにらめっこ。
俺はというと、することもないからベッドに転がって雑誌を捲っている。
「暇…」
はっきりいって暇だ。
先輩の邪魔はしたくないから、大人しく終わるのを待っていたけど、いい加減かなりの時間が経過している。
その間、俺が見れたのは先輩の後姿だけ。
顔をみたければ、なんとか頑張ってパソコンの画面に移った顔を見れるくらい。
そんなもん、何も楽しくない。
「去年はよかったな…」
思わず、そんな愚痴が出ても仕方がないと思う。
去年、まだ俺は今よりもずっと小さくて、先輩の胸にすっぽりと納まる程だった。
勿論、大きくなりたかったわけだから、成長したこと自体は嬉しい。
それに、まだ足りない、もっと背だって伸びて欲しい、筋肉もついて欲しいと思う。
でも、こんな時は、この大きくなった自分の身体が恨めしいと思ってしまうのも事実だった。
去年、まだ海堂が一年で乾が二年の頃。
付き合い始めて、時間のたってない彼らは二人になるとお互いに触れたがった。
その最高の手段がセックスだっただけで、どこかが触れ合っていればそれで安心できた。
週末、土曜は朝から夕方前までみっちりと部活がある。
それでも学校のある日よりは早く終わる部活に、海堂は一度家に帰ってから、乾の家に向っていた。
荷物は既に前日に用意してあるから、軽く汗を流して、服を着替えてすぐに家を出る。
はやる心に従って、走って乾のマンションに向う。
高層マンションの最上階。
チャイムを押せば、乾が笑顔で出迎えてくれる。
心は早く触れたいと焦って、もどかしげに靴を脱いで、玄関のドアが閉まったのを見て、抱きつく。
「いらっしゃい、海堂」
「お邪魔します」
まだ小さい頃の海堂だから、丁度、乾のお腹辺りに顔がある。
乾のお腹辺りに顔を埋めて、スリスリと擦り付く可愛らしい姿に、乾の頬が自然と緩む。
「データー整理、まだ途中なんだ、もう少し待っててくれる?」
「っす」
懐いてくる海堂の頭をよしよしと撫でながら、困ったように話す乾に海堂は素直に頷く。
「とりあえず、部屋に行こうか」
よいしょと海堂を抱き上げて、乾は自分の部屋に海堂を連れていった。
海堂をそっと自分のベッドの上に降ろして、自分はパソコンに向う。
初めは大人しく、乾のベッドの上で乾が終わるのを待っている海堂だが、まだまだ触れ合っていたいお年頃(?)、すぐに我慢が出来なくなって、画面に集中している乾に気付かれないように乾の横に近づく。
「ん?」
そのまま少し見つめて、乾の右手が止まった瞬間に、乾の手を掴む。
そこで初めて海堂が横にいるのに気がついた乾が不思議そうに海堂の顔を覗きこむ。
「暇…」
それだけ呟いて、海堂は乾の膝によじ登っていく。
「ああ、ゴメンネ」
乾の右手をよけさせて、膝に両手をついて足を上げて登ろうとする姿に、海堂が何をしたいのか気付いた乾が、よけられた右手で海堂の腰を抱き寄せて、軽く持ち上げて海堂を自分の膝の上に座らせる。
「これでいい?」
「………」
横抱きに座らされて、顔を覗きこまれて尋ねられる。
その言葉に少し考えるような素振りを見せた後、海堂は乾の身体にしがみつきながら態勢を変えていく。
「よし」
結局、乾に跨る形で座りなおした海堂は、それで満足したのか、乾の胸に顔をくっつけて、小さく呟く。
乾も海堂が態勢を整えたことで、またパソコンに意識を集中させ始めた。
そうして、海堂は乾がパソコンの電源を切るまで乾の胸に顔を埋めて過ごすのが、乾がデーター整理している間の日課だった。
「懐かしいかも…」
「ん?何か言った?」
「いえ、別に」
「そう」
去年のことを思い出して、つい呟いてしまった海堂の独り言に気付いた乾が海堂に声をかけるが、海堂の返事を聞いて、すぐ意識をパソコンに戻す。
あの頃は、今と違ってああしても先輩がパソコンの画面を見れる位には小さかったから、出来たんだよな。
そう、これが海堂が小さい頃を懐かしんでしまう理由だった。
……やってみようかな……
つい、思い出してしまったことで、何となく我慢が利かなくなってしまった海堂。
どこか悪戯をする子供のような、そんなわくわくした気分も出てきて、海堂はその誘惑に簡単にのってしまった。
乾の意識が完全にパソコンに向っているのを確認して、海堂は足音を忍ばせて、乾の後ろに向う。
真後ろについたところで、腕を乾の首に回して、乾の後頭部に唇をくっつける。
「どうしたの?」
その海堂の仕草に気付いた乾が、くるっと椅子を反転させて、海堂に向き直る。
「暇…」
少し離された手をぬって、自分と向かいあった乾に、それだけ呟いて、ちょこんと膝の上に座った。
あの時みたいに跨ったら、確実に乾の邪魔になると思ったので、せめてと横抱きの形で座る。
「久しぶりだね」
ぎゅうっと乾の首にしがみつく海堂に、乾は懐かしそうに呟く。
「海堂、大きくなってからはひっついてきてくれなくなったから、懐かしいよね」
「…邪魔、になるから…」
「そんなの気にしなくていいのに」
海堂が落ちないように乾が海堂の腰に腕を回す。
「というかね、海堂に抱きつかれるのは全然邪魔にならないから」
海堂の頬を指で撫でながら、乾が海堂に伝える。
「それどころか、俺も海堂の体温感じれて嬉しいよ」
「本当っすか?」
頬を撫でられてくすぐったそうに目を細めながら、海堂が訊ねる。
「うん、本当。だからさ、これからもこうやってよ」
「…本気にしますよ?」
「うん、本気にして」
「俺、そんなこと言われたら容赦しませんよ?」
頬をなぞっていた指が手のひらに変わって、海堂は乾の手に自分の頬を擦り付けながら、聞き返す。
「うん」
嬉しそうに頷いてくれる乾に、海堂は乾の手を取って握り締める。
「データーの整理なんかしてられないくらい、触ってやる」
乾の右手を両手で包んで、指を弄る。
「今まで、止めてた分、一気に返してもらうっすからね」
「うん、好きなだけどうぞ」
海堂のしたいようにさせながら、嬉しそうに笑う。
「覚悟しとけよ!」
「覚悟してます」
乾の言葉に海堂も嬉しそうに笑って、小さかった頃と同じように、乾のデーター整理が終わるまで、乾に抱きついていた。
勿論、その後は今までの分を取り返すくらいに、ベタベタ引っ付きまくっていた。
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