Seven Wonder  Second mystery:Study  By:Takeshi.M



ふえ〜、この前は恐かったよな。
越前の奴、幾ら知らなかったとはいえ、不二先輩の禁句を平気な顔で口にするなんてよ。それも二回。
あいつ、実は人の感情に鈍いだろ。
あれだけ、後ろに暗雲背負った不二先輩に、もう一回、禁句を言うなんてさ。
大変だったんだぜ。
不二先輩の魔の手にかかる前に、越前を捕まえて家庭科室から脱出して、タカさん呼んできて、乾先輩の手料理とタカさんという人身御供で、なんとか落ち着いてもらったんだかんよ。
ほんと、ここ最近、厄日続きだよな。
今日も…
見ろよっていいたいけど、見れないから説明っすけど、俺の手には大量のプリントの数々。
それもこれも、部活で疲れ果てて授業に寝てた結果の産物。
あ〜あ、本当についてねぇよ、ついてねぇな。
部活に出ずに教室でするのが本来の姿なんだろうけどさ、うちの部には頭の良い先輩が揃ってるからさ、こういう課題の時は、部室ですんのが一番なんだよな。
ま、部長に走らされるのは覚悟の上だけどよ。
ってなわけで、両手にプリント持って、教室を出て行こうとしたらさ、目の前にはマムシ。

「ゲッ」
「……」

何だよコイツ。いつもなら、人の姿見た途端、嫌そうな顔してふいっと顔を逸らしてとっとと歩き出すくせによ。

「んだよ」
「……」

何だ?人の声にも反応せずに、ずっと一点だけを見てやがる。
どこ見てんだ…って、これは、俺の手か…要するに、プリントか。

「それ…」
「ん?」

嫌そうな声で呟く海堂。
ん?ん!やべっ、気付かれてる。
海堂の考えてることに気付いた俺は、猛ダッシュで走っていった。

「チッ、野郎。待ちやがれ!」

その後を、海堂も俺が海堂の考えに気付いたんだろう、猛スピードで追いかけてくる。
悪いが、瞬発力なら俺のほうが上なんだよ。
絶対に、俺は海堂より先に部室に行く必要があった。
海堂に限りなく甘いあの人を捕まえるために。

「乾先輩!」
「どうした、桃?」

さっきも言ったけど、瞬発力じゃ俺のほうが上だから、俺は海堂よりも早く部室に行くことが出来た。

「コレ…」
「ああ、こりゃまたすごい量だね〜」
「せんぱ〜い」
「仕方ないな。手伝ってやるよ」
「よっしゃ!」
「乾先輩!」

乾先輩と約束した瞬間、海堂が勢いよく部室に駆け込んでくる。
ふん、遅かったな。

「どうした、海堂?」
「あ…」
「遅かったじゃねーか。乾先輩は今から、俺とお勉強会だぜ」
「ッ!このっ…」

ギロッと睨んでくるマムシに、俺は勝ち誇った顔を向けた。
先に俺と約束した以上、先輩は俺を優先させてくれる。
それを海堂の奴もわかっているから、チッと舌打ちして、機嫌を低下させたまま自分のロッカーに向う。
俺たちの姿に乾先輩はやれやれと苦笑して、椅子に座る。
俺もそれにならって、先輩の前の椅子に座って、テーブルの上にプリントをどっさりと置いた。

「今度は何したんだ?」
「へへっ、昼寝っす」

鼻を掻きながら、言うと、乾先輩は呆れたような笑みを漏らす。

「起きてても出来ないバカが、寝てんじゃねぇよ」
「んだと、マムシ」
「はいはい、ストップ」

先輩を取られて気が立ってるんだろうけどよ、ムカツクことばっかいいやがって。
先輩は早く始めないと終わらないと思ってるのか、いつもならほっとく俺たちの喧嘩を始める前に止めた。

「海堂も、横から口挟まない。桃も、部活したいんだろう?買わないの」
「っす」
「は〜い」

乾先輩の言葉に頷いて、俺はプリントに、海堂はロッカーに向き直った。

「先輩、コレ…」
「桃、少しは自分で考えてる?」

俺は、プリントに向き直った瞬間に乾先輩の顔を見た。
考えてる?考えるまでもないんっすよ。

「数字の羅列にしか見えないっす」
「も〜も〜」

その俺の情けない言葉に、乾先輩は頭を抱え込むようにして、大きな溜息をついた。

「先輩、こんな底なしバカはほっといて、俺のメニュー見てください」
「誰が底なしバカだ」
「底ねぇだろ」

俺の売ろうとした喧嘩をあっさりと交わして、海堂は今、乾先輩の首に抱きついている。
俺の相手するより、先輩を俺から引き剥がすほうが重要だということだ。

「乾先輩、ここで見捨てたりしないっすよね?」

誰が素直に乾先輩を渡すもんか。
俺だって、たまには乾先輩に構ってもらいてぇんだよ。
特に勉強は、乾先輩が一番いい。

「海堂、もう少し待ってて」

流石に、この状態の桃を放っていけるほど鬼じゃないし。
そう言って乾先輩は、海堂の腕を取って、自分の首から外させ、自分の膝の上に座らせた。

「乾先輩…」
「何?わからないとこあった?」
「いえ、その、それ…」

無茶苦茶、俺のこと睨んでるんっすけど?

「ああ、これ?放っといたら後が大変だから、気にしないで」
「気になります」

膝の上に横すわりに座って、乾先輩の首に腕を回して、ギロッと俺を睨みつけるこいつが、気にならないわけないだろ?
あ〜、今すぐぶっとばしてぇ。
けど、そんなことすれば、乾先輩に勉強見てもらえなくなるし、ここは我慢して、なるだけ気にならないように努力するか。

「ちっす……、何やってんっすか?」

俺が懸命に、目の前のそれを視線に入れないようにしながら、気をすり減らしてプリントと格闘している時、越前が部室に入ってきた。

「やあ、越前」
「……」
「よ、越前」

上から乾先輩、マムシ、俺。

「お、そうだ。お前、この前言ってたやつ、どこまで聞いた?」

そういや、こいつに乾先輩のこと教えろって言われてたんだよな〜。
そんなことを丁度思い出したので、このことについて、俺は越前に教えてやろうと思った。

「この前のって、乾先輩のことっすか?」
「そう、それだよ」
「それなら、まだ不二先輩だけっす」
「って〜と、この前の料理の話か」
「っす」

あの日のことを思い出して、俺は身震いしてしまった。
よく見てみると、海堂も思いだしたのか、さっきよりも強く乾先輩にしがみついている。
先輩は苦笑しているけど、やっぱり思い出してたんだよな。

「じゃあ、二番手はこの俺様が教えてやるよ」

嫌な気分を払拭するように、俺は元気よく声を出して立ち上がった。

「ほどほどにな」
「くだらんこと、ぬかすなよ」

ったくよ〜、いつもいつも乾先輩のこととなると、性格変わるんだからな、あいつは。
下らんことも何も、あの人の性質の悪いところって、あれだけ表に出てるからさ、越前でも知ってんだろうが。
しかも、本人の目の前でくだらねぇことなんか言えるかっての。

「で、何っすか?」
「今な、乾先輩に俺の課題を手伝ってもらってんだけどよ」
「また、何かしたんっすか?」
「いらんこと言うなっての」

何かしたってのは余計だっての。

「でな、俺はな勉強に関しては、乾先輩に見てもらうって決めてんだよ」

そう、三年の先輩たちはたくさんいる。
俺も一通り(若干、見てもらわなかった人もいるが)見てもらった結果、決めたことだけど、乾先輩に教えてもらうのが一番いいんだ。

「それがな、何でかっていうと」

まず、部長と英二先輩は却下。
若干の中に入っている二人だ。
理由は言わずもがなな、英二先輩は人に教えれるほど頭良くないし、部長は校庭走らされる上に、わからないたびにはたかれそうだ。
不二先輩は…、恐い。上に、遊ばれるので却下。
タカさんも、後ろに不二先輩がついてくるので却下。
大石先輩は優しいし、教え方も丁寧でいいのだが、可哀相だ。
これ以上、あの人の負担になることはあんまりしたくねぇしな。

「それって、消去していった結果じゃないっすか」
「そうじゃないんだよ、話しは最後まで聞けよ越前」

そ、確かに消去法の結果って気がしなくもないこれは、実際に乾先輩に教えてもらったら、そんな感情も消えちまった。
上手いんだ、何って、教え方が。
その上、高確率のヤマ。
試験前には押しかけちまうこともしばしばだぜ。
ま、その度に、海堂に睨まれるんだけどよ。
俺も自分の生活がかかってるからな、そんなもんには構ってられねぇんだわ。

「そんなに上手なんっすか?」
「普通だよ」
「何、謙遜してるんっすか。無茶苦茶、上手いじゃないっすか」
「へぇ、俺も今度の試験の時は押しかけようかな」

ポツッと呟いた越前の言葉に、過剰に反応したのは海堂だ。
もう、人でも殺せるんじゃないかって眼光で越前を睨んでいる。
これはあれだな、これ以上、邪魔者はいらんってやつだな。

「いいよ、俺でよければ」

でもな、乾先輩は面倒見がいいから、あっさりと引き受けちまうんだよな、これが。

「う〜」
「海堂?」

本人がいいと言った以上、どうすることも出来ない。
でも文句はいいたいらしい海堂が、唸るような声を出して、乾先輩に抱きつく。

「まあ、射殺されるかもしれねぇから、覚悟しとけよ」
「別に、平気っすよ」
「だろうな」

そりゃ、あの不二先輩の暗雲すら平気だったんだからな。

「あれ?じゃ、乾先輩って頭良いんすか?」
「は?今頃、何言ってんの?お前」
「てめ、先輩バカにすんじゃねぇよ」
「してないっすよ」
「この見た目で、バカなわけないだろうか?」

バリバリガリ勉タイプだろ?

「いや、あんだけデータとったり、メニュー作ったりしてるから、勉強なんかしてる暇なさそうっすから」
「あのな、越前。乾先輩はな、この学校に入学した日からずっと、学年首席なんだよ」
「マジっすか?」
「マジだ。因みに、不二先輩はずっと二番」
「はぁ、人間じゃないっすね」
「こらこら、勝手に人外のものにするなって」

しみじみ言う越前に、乾先輩が苦笑しながら突っ込む。
でも、普通じゃないよな。
毎日部活出て、メニュー作って、データー取って整理して…どこに勉強する暇があるんだ?

「そういや、試験前におしかけても、先輩って俺らの勉強見てる間も、データーの整理したり、本読んだりくらいで、自分の勉強しませんよね?」
「してるよ?」
「え?いつっすか?」

この先輩の言葉には、海堂の野郎も驚いたらしくて、俺が聞くより先に聞いていた。

「いつって、ちゃんと教科書見てるだろ?」
「「見てるだけじゃないっすか?」」

思わずマムシとハモってしまった。
あんなの勉強と言えるわけないだろ。
パラパラと教科書を捲くってるだけなんだぜ?

「教科書見れば、大体のことはわかるだろう?」
「「「わかりません!」」」

今度は越前も入っての突っ込み。

「乾先輩の頭の良さが、よくわかりました」

そうだろう。俺もよくわかったよ。
世の中には、どうあったって勝てねぇ人種がいるってことを。
ハァと溜息をついてしまう俺と越前。
何で、こんなことで疲れなきゃいけないんだ。
海堂の野郎は、キラキラした瞳で先輩を見つめている。
流石、俺の先輩とか思ってるんだろうけどな、気持ち悪いから、二人っきりの時にしてくれ。

「ん?お前ら、何をしているんだ?」
「うげっ」
「やぁ、手塚」

ヤベッ、越前に話ししてるうちに時間がたっていたらしく、時間はもうすぐ部活開始時間。
その時間なのに関わらず、俺と越前は制服のまま。
俺より先にきてた乾先輩は勉強見るときには既にジャージに着替えていたし、海堂も俺が見てもらってる間に着替えていたから既にジャージだ。
そりゃ、そのジャージ二人が一つの椅子に座って、イチャついてるっていうのはどうよって思うわけだが、部長にそれは通じない。
どうあっても、着替えてない俺らのほうが分が悪い。
しかも、チラッと視線を乾先輩と海堂によこした瞬間、それに気付いた海堂のニヤッという擬音がついてきそうな嫌な笑顔。

「…桃が、授業中寝てたらしくて、課題が出たんっす」
「げっ、マムシ。いらんこと言うんじゃねぇよ」

あの野郎…、すっげムカツク。
何だ、その勝ち誇ったような笑みは!
こいつ絶対に、報復しようとしてたな。

「桃城、それは本当か?」
「部長…その…」

部長の周りの空気が一気に張り詰めたのがわかる。
ある意味、これも不二先輩並にこえーよ。
なんだってうちの先輩がたは、空気だけで人を追い詰めることが出来るんだよ!
俺はもう、絶対にこの後に来るであろう言葉を予期して、覚悟を決めて待っていた。

「桃城、グラウンド三十周」
「ッス」
「着替えてから行け」

覚悟した宣告をくらって、俺は急いでジャージに着替えて、部室を出て行った。

「あーあ、桃の奴、まだ半分も終わってなかったのにな」

後ろで聞こえる乾先輩の声。

「仕方ない、部活後も付き合って…」

乾先輩!
俺が喜んで振り返ろうとした瞬間

「先輩、今日は俺の練習見てくれる約束してたじゃないっすか」
「乾、桃城には俺が付き合おう」
「そう、じゃあ、俺は海堂の練習に付き合うよ」

悪魔の宣告。
っく、っしょ〜!マムシの野郎、覚えてやがれ!
乾先輩の言葉に嬉しそうに、先輩に張り付いてるライバルへの報復を胸に誓って、俺は罰走へ向った。
因みに、部活後の課題の後片付けは、地獄だった。
やっぱり、俺は厄日っていうか、厄年らしい。
ちっくしょ〜、そんなもんに負けるもんか!
てなわけで、俺の話は終わり。
次ね。

Fin