海堂が風邪で寝込んでいるらしい。
朝、部活行ったらいなくて、気になって海堂の家に電話を入れたら、穂積さんが教えてくれた。
そんなに大したことはないのと穂摘さんは言っていたけど、心配なのは変わりないので、俺は部活が終わってすぐに、海堂の家に向った。
そう、俺は海堂が心配で、それに逢いたかったから、一目でも顔を見たかったから海堂の家にお邪魔したわけで……
なのに、何でだ?
何で俺は、海堂家のリビングのソファで出されたお茶を綴ってなきゃならないんだ?
目の前には、楽しそうに話を続ける穂摘さん。
隣には、海堂そっくりの弟の葉末君。
「あの、薫君の様子を…」
「兄さんなら、大丈夫ですよ」
「起きたら降りてくるから、こっちで待ってましょ」
と、さっきから海堂の部屋に行こうとしても、止められる。
風邪引いているから、うつってしまうから始まって、寝ているからねと止められ、今に至る。
もしかして俺、嫌われてる?
その頃、二階の自室で寝込んでいる海堂。
「今、何時だ…」
朝よりもマシになった頭痛を抑えて、手元の目覚まし時計を見る。
時間は、とうに部活も終わった時間。
そろそろ夕食の準備が始まってそうだ。
「…来るわけねぇよな」
自分以外誰もいない部屋に、知らず溜息が出る。
ほんの少し期待していたらしい自分がいて。
「…喉、渇いた…」
声を出して見ると、カラカラに乾ききった声。
喉が水分を欲していることに気付いて、手元の湯飲みに手を伸ばすが空だった。
仕方ねぇ。
ヨロヨロとお盆を持って、階下に飲みものを取りに階段を降りる。
リビングに明かりがついていることを確認して、ドアをあける。
「母さん、喉渇いた…!」
「あ、海堂」
ドアを開けて中に入った俺。
視線の先には、ホッとした様子の乾先輩に、つまらなさそうな弟と母。
「兄さん、もう少し寝ていてくださいよ」
「そうよね、薫ってば、起きるの早いんだもの」
残念そうに声を出す母と弟。
「海堂、風邪って聞いたけど、大丈夫?」
先輩は心配そうに俺に声をかける。
けど、母と弟に捕まって、俺のとこまで来るのは無理らしい。
「飲み物ね、後で持っていってあげるから、部屋で寝てなさい」
「…先輩は?」
「あ、俺は…」
「あら、乾君にうつったら大変でしょ」
「乾さんの相手は、僕と母さんでしているので、心配要りませんよ」
ったく、どうしてこううちの家族は乾先輩好きかな。
「母さん、葉末、先輩は俺の先輩であって、母さんや葉末の友達じゃないんだ」
「薫、冷たい」
「兄さん、ひどいです」
「俺はひどくない。ひどいのは、母さんと葉末」
「どうして?薫は毎日、学校で乾君と逢っているじゃない?」
「そうですよ、こうやってたまにお家に遊びにきてくれた時くらい、お相手させて欲しいです」
「俺は病人だぞ」
文句をたれる母と弟に、折角マシになり始めた頭痛が再発してくるのを感じる。
「だから、代わりにお母さんたちが、乾君の相手してあげているんじゃない」
「そうですよ。僕たちでちゃんと乾さんもてなしますので、お兄さんはゆっくりと寝ていてください」
変な理屈を捏ねるな。
「先輩、行きますよ」
「あ、うん…」
どうあっても引きそうにない家族に、段々、苛立ってきて、俺は母さんにお盆を渡し、無理やり先輩の手を掴んで、自分の部屋に戻っていった。
「薫、ひどい」
「兄さんの横暴」
後ろで聞こえる非難は全部、無視した。
「海堂、大丈夫?」
階段をあがる途中、乾先輩が心配そうに聞いてくる。
「…じゃない」
大丈夫なわけないだろ。
ふざけたことしやがって。
「え、何?」
聞き返してくる先輩を無視して、部屋に引っ張り込む。
「頭、痛い…」
「薬飲む?」
後に残らない鎮痛剤あるよ。
のほほんとごそごそと鞄から薬を出そうとする先輩。
「そんなもん、中学生が常備するなよ」
それを止めさせて、先輩の腕を掴んで布団に潜る。
「海堂?」
不思議そうな先輩に、かけ布団を捲くって、ポンポンと敷き布団を叩く。
それだけでは、困った顔をして留まっているので、無理やり腕も引いてみる。
そこまでしたら、仕方ないなという表情で先輩は布団の中に潜り込んできた。
「よく効く鎮痛剤あるからいい」
ポスンと先輩の胸に頭を置いて、目を瞑る。
息を吸い込むと微かに匂う先輩の匂い。
心が落ち着く。
どんな薬よりも効く特効薬だ。
「薬って俺?」
「うん」
先輩の心臓の音が聞こえる。
一定のリズムで音を奏でるから、眠くなってくる。
「俺って、海堂の家族に嫌われてるのかな?」
「ハァ?」
寝かけていた俺の耳に入ってきた爆弾発言。
どこをどうとったら、嫌われてると思ったんだろう?
訳が分からず、目を丸くして先輩を凝視していたら、先輩は苦笑して、俺の額にチュッと唇を当てた後、こうのたまわった。
「だってね、ここに来てから一時間以上たってるんだよ」
一時間もたってたのか…
「その間、何度も海堂の様子を見に行かせて欲しいって頼んだけど、ことごとく断られてさ…」
母さん、葉末、後で覚えてろよ。
…もう先輩を家にこささねぇ。
「そんなに海堂にあわせたくないくらい、嫌われてるのかなって」
「先輩、それ違うから」
もの凄く間違ってます。
そう、確かにあの人たちは先輩を俺に会わせたくなかったんだろう。
それは、俺が来た瞬間の嫌そうな表情ではっきりしている。
「嫌われてるからじゃないっす。先輩。好かれすぎっす」
嫌そうに溜息を吐いて、俺は先輩の頬に唇を寄せる。
「一時間も前に来てたのに…」
う〜と呻いて、先輩の頬に自分の頬を擦りあわせて甘える。
「ごめんね」
「先輩は悪くない。悪いのは母さんと葉末」
俺が頬を擦る度に先輩がキスをしてくれる。
「先輩、うちの家族に好かれ過ぎ。……ムカツク」
何度も何度も頬を擦りあわせて、キスをして、段々とまたまどろんでくる。
「眠い?」
「うん…」
「いいよ、寝て」
「先輩…」
先輩の優しい声が、より眠気を引き込む。
「うん?」
ずっと、起きるまでココにいて。
その言葉は、声に出ることはなく、俺はそのまま暖かい夢の中へ入ってしまった。
因みに、その後、俺が起きたのは数時間も後。
隣にいたはずの先輩はいなくて、流石に時間も時間だからもう帰ったと思っていたら、仕事から帰ってきた父さんが部屋まで来て、夕食のこともあるしと、先輩をリビングに下ろしたらしく、その後は、さっきと一緒で、そのまま父さんまで加わった三人に捕まっていたらしく、無理やり泊まることにさせられて、風呂上りの先輩が父さんのチェスの相手をしながらリビングにいた。
「やぁ」
「先輩!」
驚いた俺に、困ったように笑う先輩。
気まずそうに視線を背ける、俺の家族。
だから、先輩は俺のだって言ってんだろうが!
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