キスは好き。
「先輩…」
ベッドに寝転がって本を読む先輩の胸の上に寝転んで、服の上からでもわかる胸筋に口吻をする。
ゆったりと一定のリズムで上下する胸に耳を傾けて、優しい音を奏でる心音にしばし聞き惚れる。
「ん…」
スルっと先輩の本を持ってないほうの手が、俺の髪の間に手を差し入れる。
それで俺が少し顔をあげると、先輩の手が髪から頬に落ちる。
「んんっ…」
先輩の細長い指が柔らかく俺の頬を擽る。
それでも先輩の意識と視線は本に向いたまま。
「むー」
頬を撫でる手を掴んで口元に引き寄せる。
チュッ
先輩の長く細い指先に口吻を一つ。
五本の指全てに唇を落として、そのまま唇を手の甲に滑らす。
「っ…!」
少し強めに吸い上げて、先輩の手の甲に痕を残す。
「こら、そんなとこにつけたらダメだろ」
先輩の意識が本から俺に向う。
困ったように笑う先輩。
「ココ、絆創膏貼って隠してくださいね」
自分のつけた痕を舌で舐めて、上目遣いに先輩を見る。
痕を、見ていいのは俺と先輩だけ。
でも、そんなとこに絆創膏を貼ったら、何があるかは一目瞭然。
それが狙い。
中は見せなくても、先輩が俺のだって証はあるってわかるから。
「誰にも見せちゃダメっすよ」
先輩の手の甲に頬を寄せ、するっと擦り付ける。
「…誘ってる?」
クスッと笑ったら、先輩が息を一瞬止めた。
その後、盛大な溜息を吐いてそんなことを聞いてくる。
「誘ってないです」
ここはキチンと誤解を解かないと最後までされそうだから、はっきりと否定する。
キスは好き。
抱き合うのも好き。
手を繋ぐのも、全部。
身体のどっかが触れ合っているのが好き。
セックスも嫌いじゃない。
好きだけど、されているうちに、意識がどっかいっちゃって、気がつけばされるがままになってしまう。
セックスはそれが嫌。
触れているというのをちゃんと実感したいから。
だから、キスが一番好き。
一番、皮膚の薄い場所で、触れ合っているのを実感できるし、唇を絡ませて口内を味わったら、深く結びついているように感じられるから。
先輩は俺の返事を聞いて、また視線を本に戻した。
先輩の手の感触を思い存分に堪能してから、先輩の手を離し、先輩の身体をよじ登る。
少し右に傾いて本を読む先輩。
左側から、移動して、先輩の顔を覗きこむ。
今日の先輩はいつもの瞳の見えない眼鏡じゃなくて、コンタクト。
たまに目が乾くのか、パチパチと瞬きを繰り返す仕草が可愛い。
先輩の少し固めの癖のある髪に手を差し込む。
そのまま手を滑らせて、先輩の耳朶を擽るように撫でると、先輩が首を竦める。
それが可愛くて、俺は先輩の耳朶にチュッと音を立ててキスをした。
「薫…」
先輩と本の隙間に身体を入れて、先輩の本をもつ手に頭を乗せる。
「見えないんだけど?」
ちょっと怒ったような先輩の声。
「俺より、本見てるほうがいいっすか?」
先輩の頬に指を滑らせて、先輩の瞳をじっと見つめる。
ハァと吐き出された溜息。
パタンと自分の後ろで閉じられた本。
「そういう聞き方は卑怯だよ」
「先輩に言われたくねぇ」
卑怯な聞き方も、全部先輩の専売特許だ。
「別に俺はしたいようにしてるんで、先輩は本でも何でも好きなんもん見てたらいいっすよ」
「なら、俺は薫を見ているとしよう」
言葉とともに、額にかかる前髪を掻きあげて、俺の額に先輩の唇が降りてくる。
額から顔を離したあと、先輩は俺の腰に両腕を回して抱き寄せる。
隙間ない位にくっついた状態で、額と額とをくっつける。
「さ、どうぞ」
微笑みながら擽られるように紡がれた声がとっても心地いい。
先輩の頬に手を伸ばし、先輩がしてくれたように先輩の額に唇を押し付ける。
チュッ
そのまま唇をずらしていって、先輩の瞼にも押し付けて、鼻の頭を軽く噛む。
そんな俺の行動を先輩は、優しく見守っている。
先輩が何も言わないので、俺もこのまま続行を続ける。
頬にも口吻を落として、唇にそっと唇を重ねる。
音を立ててキスをして、もう一度、さっきよりも少し長めに触れ合わせる。
離れる前に、先輩の唇の感触をもう少し味わっていたくて、先輩の上唇と下唇を順番に食む。
俺の腕は先輩の頬から首にまわって、唇は何度も啄むように触れ合わせる。
「もっと…」
「うん」
身体全体で先輩の体温を感じる。
それよりも強く、唇で感じる。
でも、それだけじゃ足りない。
もっと深く…
深く相手を感じたい。
「んっ…ぅうっ…」
ピチャリと唾液の混ざる音が聞こえる。
舌を絡めて、吸い付く。
「ふっ…く…ふぅん…」
口内を深く弄りあう。
もうどっちがどっちの唾液だとか、そんなものも気にならない位に、口吻に酔いしれる。
「ねぇ、薫…」
先輩の濡れた唇が動く。
この後の言葉は、予測出来る。
これだけ触れ合っても、唇が真っ赤に腫れるくらいに口吻を交わしても、身体も心も満足していない。
身体が望む。
心が望む。
もっと、触れ合いたい。
一つになりたいと。
「先輩、好き」
「俺も好き」
「大好き」
「俺も、大好き」
言葉が心に広がる。
心に暖かい灯がともる。
同じように、俺の言葉で先輩の心にも灯がともっていたらいい。
気持ちが通じている人が目の前にいて。
相手も同じ気持ちなら、このはやる心を止めることなんて出来ないから。
「スル」
「シヨウ」
心と身体の望むままに、ドロドロに熔けるまで、抱き合おう。
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