Dearest…



誰よりも
今日この日の存在を願い
神への感謝の祈りを捧げる

最愛なる君へ…


今日も常と変わらずに、データの整理を終え、ベッドに沈み込む。
明日も朝練があるために、目覚ましをセットしようと時計に手を伸ばせば、既に時計は日付が変わっていたことを知らせてくれた。
明日も授業はサボリだな。
時計の示す時間に知れず溜息が零れる。
何かに夢中になると、まわりが見えなくなる癖はいい加減止めろとまわりから言われているのにも関わらず、また今日もしてしまったことに。ほんの少しの後悔が生まれる。
また、大切なあの子に、心配をかけてしまうと。
乾自身には、それほど自分の体を思いやる気がない分、海堂は半端じゃないくらい乾の体を思いやる。
まあ、逆に乾も海堂の体については、とても気にかけているのだから、同じことなのだが。
気がつけば、思考はすぐに海堂のことへと移行する。
その事実に苦笑を漏らしながらも、止める気はサラサラないのだから、自分でも重症だという自覚だけはあった。
止める気のない思考は、どんどん深みにハマっていく。
他の誰よりも多い彼のデータ。
もう、あの子のことで知らないことなんか何もないんじゃないかと思うくらいに増えたデータが頭の中に流れ出しながら、気がつけばまた、壁に何かを書き殴っていた。
この癖もいい加減にしないと…
初めて海堂が遊びに来たときに、コレを見つけられて呆れ返られた。

「データバカもここまでくると重症ですね」

そう言って、鮮やかに笑ってたのをいつでも簡単に思い出すことが出来る。
無意識のうちに自分の文字を目で追っていくと、5月11日とだけ書かれた文字が目に入る。
その文字を見て、確認するようにカレンダーを見ると、その日が近いことを思い出す。
そろそろ行動に移さないと問題だなと思い、乾は携帯に手を伸ばす。
メモリーのア行。
一番上に入ってる、今は違う学校に行っている親友の名前を選択する。

「ハル!!」

ものの数秒で繋がった電話に苦笑して、

「久しぶり、侑…」

電話をしたことを喜んでいる友人には悪いが、早速用件に入った。


GWといえども、青学テニス部には練習があって、いつもと同じように彼らは学校で部活に励む。
いつもと同じように部活が始まり、同じように終わりを告げる。
明日は部活も休みということで、部室の中はいつも以上にざわめいている。

「明日は、不二たちとダブルデートなんだ」

嬉しそうに明日の予定を話す菊丸に、不二も同じように嬉しそうに頷いて、大石と河村は苦笑している。

「越前、明日は俺と…」
「明日は、用事が入ってます」

その横では、桃城が越前に振られ、それもまたいつもの風景だった。

「乾は?海堂と出かけるの?」

話を聞いていた乾に、不二が問いかける。

「俺は、明日は別件があるから」
「別件?」

乾の言葉に問い返す不二に、乾が口を開きかけたとき

「ハル、会いたかったで」

部室のドアがバン!!と開いて、そこから長身の眼鏡をかけたこの学校の生徒ではない男子が入ってくる。

「待ってたよ、侑」

ズカズカと入ってくる彼に、乾が軽く手をあげる。

「忍足、何故、貴様がここにいる」

入ってきた忍足の存在に、手塚が不機嫌そうに眉根を寄せる。

「何でって、ハルに呼ばれたからに決まってるやろ」

わざわざ手塚に見せ付けるように、乾の首に腕を回して抱きつく忍足。
忍足の過剰なスキンシップになれてる乾は、されるがまま。
それが余計に手塚の感情を逆撫ですることも知らずに、

「頼みたいことがあったから、来てもらったんだけど、悪かったか?」

手塚の機嫌の悪い理由まで履き違える。

「本当なら、俺が侑のとこに行くのが筋だったんだけどな」

それは、もっと悪い。
そう思いながらも、手塚はそれを口には出さない。
言うだけ無駄という言葉を、身にしみて実感してるからだ。

「何言うとんねん。わざわざハルに足を運ばせるわけないやろ」

手塚の機嫌が悪くなっていくのを楽しそうに見ながら。ベタベタと乾にくっつく忍足。
手塚と忍足、この二人、実は乾を挟んでのライバルだったりする。
それも、恋のライバルというなら可愛いものの、親友のというから馬鹿げた話だと、常々、青学レギュラーたちは思っていた。
恋人は一人だろうけど、親友は二人いても問題ないだろ?
この三人の関係を知ってる、メンバーの共通する意見であった。
実際、乾は手塚も忍足も親友と思っているのだが、あいにく、手塚と忍足の間にはその感情がない。
どっちも、乾の親友は自分だけと思っているからだ。
何とも、バカバカしい話であった。

「じゃ、俺先に帰るわ」

制服に着替え終えた乾が、忍足を引き連れて部室を出る。
ドアが閉まる直前、後から出た忍足が手塚を見て勝ち誇ったような笑みを向けた。
この後の部室は、そのせいでとても静かだったとか。


「海堂」

黙々とグラウンドを走る海堂に、乾が声をかける。

「何すか?」

気づいた海堂が乾の元に走ってきた。

「やっほ、薫ちゃん。久しぶりやな」
「…ッス」

乾と付き合ってる関係で、既に顔見知りの忍足と海堂。
乾が大切にしてる子というだけで、海堂を気に入っている忍足は手塚の時と違って、笑顔で挨拶をする。

「俺、今日は侑と話しあるから、先帰るけど、無理はするなよ?」

ほっとくと、どんどん無理をする恋人を気遣っての言葉に

「わかってます」

海堂は少し拗ねたような口調で答える。
そこには、子ども扱いされたような言い方への不満と、一緒に帰れないことへの不満。
その両方が混ざっていた。

「じゃあな」
「ハイ」

苦笑して、海堂の髪をサッと掻き混ぜて、乾が手を振って帰っていく。
それを見送る海堂に、後ろに続いていた忍足が意味ありげな視線を送る。
その視線に気づいた海堂が、乾に気づかれないようにそっと頭をさげた。


乾と忍足、二人がともに向ったのは乾の家。
なわけだから、わざわざ部室で待ち合わせしなくても、忍足も手塚と同様に乾の家の合鍵を持っているのだから、乾の家で待っていればいのだが、ただ単に手塚の目の前で見せ付けてやろうという目論見のためだけに、部室で待ち合わせていた。

「で、どうなった?」

昨日の夜、忍足に電話した乾がその結果を聞く。

「あ、んなもん。速攻OKに決まっとるやないか」

うちのおかん、ハルのこと気にいっとんのやから。

「そっか?」
「そや、今回だけでなく、これからもしてくれて構わないわよって、言うとったで」

ただしや

「明日は、コンタクト装着やで」

間違っても、その眼鏡で来たら、即クビやで?

「わかってるよ」
「じゃあ、明日は…」

そうして二人は、遅くまで明日のことについて話していた。


で、次の日
乾は昨日と同じく、忍足と二人で出かける予定だった。

「何で、手塚もついてくんねん」

だが、朝早くに家にやってきた手塚が混ざって、気づけば三人で出歩くこととなった。
三人とも、長身で美形。
私服を着ているので、まだ中学生と気づかれることもなく、向う先までの間、道行く人が振り返っていた。
だが、この三人はそんなこと気にするようなというか、気づくような連中でもなく

「俺は、乾に付き合ってるんだ。貴様じゃない」
「ハルは俺に用事があったんや。お前が邪魔すんな」
「まあ、二人とも。いいじゃないか、昔みたく三人で仲良くすれば」
「「間違っても、こいつと仲良くした覚えはない!!」」

と、漫才を繰り返していた。

「どこに行くんだ?」

一人、何も知らない手塚が乾に問いかける。

「うん。侑のお母さんとこ」
「…というと、あそこか?」
「そう」

乾の答えに、手塚は忍足の母親の職業を思い出し、帰ろうかと思うようななった。

「そういや、手塚はおかんのとこ来るの嫌っとったな」
「当たり前だ。貴様の母親と言えば会うたびに…」

何やら、忍足の母親と因縁があるのか、手塚が珍しく忌々しそうに話す。

「手塚も、彼女の好みだったからな」

手塚同様、因縁ある乾も苦笑混じりに呟く。

「嫌やったら、帰っていいねんで手塚?」
「ふざけるな。誰が帰るか」

手塚の嫌そうな声に便乗して忍足が言うが、手塚は忍足の思惑に気づいて、即座に切り返す。

「そういえば、どうしてそこに行くんだ?」
「ああ、ちょっとバイトに」

手塚の言葉に、乾が言いにくそうに口を開く。

「バイト?お前がか?」
「他に誰がいるっての」

不思議そうに聞いてくる手塚に、乾が呆れたような声で返す。
ま、確かに俺がバイトってのが変ってのはわかるんだけどね。

「乾、バイトするほど、金に困ってるのか?」
「んなわけないでしょうが」

手塚のズレた言い分に、乾が頭を抱える。

「相変わらず、ボケたやっちゃな〜」

忍足は手塚の言葉に呆れかえっていた。

「じゃあ何故、バイトする必要があるんだ?」
「あ〜、それは…」

直球で聞いてくる友人に、どう答えようかと思ってると、横の忍足が優越感たっぷりに言い始める。

「それはやな〜、もうすぐ薫ちゃんの誕生日なことを知ったハルが、大事な薫ちゃんのために一汗流そうと思ってのことや」

手塚と違い、今回のバイトの目的を知っていた忍足が自慢げに話す。
この二人、こういくだらないことでも張ってたりするから、いい迷惑だ。

「貴様には聞いてない」

忍足の言い方に腹を立てながらも、冷たく言い放って乾に向う。

「海堂のためか?」
「まあね。お金は確かにバイトしなくてもあるけどさ。やっぱ、薫にあげるならさ、自分で働いて手にしたお金であげたいかなって思ってさ」

初めて、自分が彼にあげるプレゼントだから、やっぱり心に残るようなことをしたいわけで。
親から貰った小遣いから買うよりも、自分で働いた金で買いたかった。
まだ、親に養ってもらわないと生きていけない年だからこそ、こんなことくらいは、親に甘えることなく、自分の力で頑張りたかったから。

「でも、流石に中学生が一日だけ働けるようなバイトなんてないからさ。こうして、侑に事情を説明して、侑のお母さんのとこに聞いてもらったわけ」

素顔のせいか、瞳が照れて泳いでいるのが見える。
普段と違い、照れながら話す友人の姿に、一つ下の後輩がどれだけ大切なのかを知らされる。
親友が選んだ後輩が、真面目な努力家で実は礼儀正しいことを知っている手塚は、彼でよかったと思う。
もっと、他の人間だったなら、自分はここまで親友の恋を応援してなかったように思うから。

「あ、手塚。このこと、薫には内緒な」
「何故だ?教えてやったほうが喜ぶだろう?」
「いいんだよ。これは、俺の自己満足だから」

そう言って親友は、とても鮮やかに笑ってみせた。


「お久しぶりです」

スタジオにつき、忍足の母親に挨拶をする手塚と乾。

「あら?手塚君もきたの?」
「はい、お邪魔します」
「いいのよ、何なら手塚君もモデルしない?」
「いえ、俺は辞退させて頂きます」
「そう、残念だわ。まあ、今回は乾君だけでも収穫だけど」
「どうも」
「じゃあ、早速だけど始めようか」
「お手柔らかに」
「頑張れよ、ハル」
「見といてやろう」

忍足の母親に連れて行かれた乾を見送る二人。

「忍足さん、部長…?」

そんな二人にかけられた声。

「…っ!!」
「早いやん」

驚く手塚に、彼がくることを知っていたかのように挨拶する忍足。
その人物とは…

Fin