何でもない日を、
特別な今日へと変えてくれる
最愛の人へ…
「ここに来たら、ハルに会えるよ」
部活後の自主練の途中、乾先輩の親友の忍足さんに声をかけられた。
「やっほ〜、薫ちゃん」
軽いノリの関西弁を話すその人は、自分があの人の恋人だと紹介されたときから、俺のことをそう呼び、気軽に話しかけてきた。
忍足 侑士。
彼のことは、部の先輩たちから手塚と二人で乾を取り合ってるんだと聞かされていたから、乾先輩のことが好きなのだと思っていた。
けれど、彼らは(手塚も含めて)
「そういう意味ちゃうで」
そりゃ、初恋ではあったけどな。
先輩の部屋で会ったときに、真相を聞いたら彼はあっさりとそれを否定した。
「何や、そんなこと心配しっとったんかいな」
安心しいや。
そう言って、笑うその人は、どこか彼の人に似ていて、凄く自分がホッとしたのを覚えている。
「俺と手塚は、同じ感情でハルの傍におる」
だから、張り合ってまうねん。
「けどな、薫ちゃんは違うやろ?」
「ウス」
「それに、ハルの選んだ子やからな」
そんな子と張り合おうなんか思わへんよ。
「でも…」
部長と取り合ってる位に大切な友人なら、その相手が自分みたいな奴で嫌じゃないんだろうか?
「何やそんなこと」
そう呟く俺に笑い飛ばすこの人は、この後、もう一人の彼の親友と同じことを言った。
「薫ちゃんやからや」
「海堂だからな」
乾先輩が、用事で職員室にいってる間に部室で部長と二人で待ってたときに、言われた言葉。
「俺が、あの人の横にいてもいいんでしょうか?」
自分と彼の関係を知っても、何も言わなかった部長に聞いてしまった一言。
自分が彼と釣り合うとは思えなくて、本当は部長も快く思ってないんじゃないかと思って聞いたこと。
それに答えた部長言葉と、今ここにいる忍足さんの言葉が同じだった。
「薫ちゃんはええ子やから」
ハルが好きになるのも当然や。
「そらな、いくらハルが選んだ子でも、いけ好かない奴ならとうの昔に追い出しとるよ」
いくら、それでハルに怒られようがな。
「薫ちゃんやったら、ハルを幸せにできるやろ?」
「お前なら、乾を幸せにしてやれるだろ」
また、あの日の部長の声とダブる。
同じように自分の存在を認めてくれる、恋人の親友に涙が出そうになった。
誤魔化すように俯いて、
「部長と同じこと言うんですね」
と言ったら
「げ、手塚と同じ言われても嬉しないわ」
と、物凄く嫌そうにされてしまった。
きっと、部長に今日の話をしたら、やはり同じように嫌がられて、眉間に深い皺を刻まれるのだろうと思ったら
「案外、似てるんですよね」
不意に思いついたことが口に出て
「俺と手塚かが?いくら何でも、それはひどいで」
と、心底嫌がられた。
そんな感じで、俺と彼らはあの人の家で逢えば、先輩が起きるまで、自分が会う前の先輩の話を色々と教えてくれたり、彼のことでのよい相談相手になってくれて、何となく、兄が二人できたような、そんな気分になっていた。
先輩の親友で、自分にとっても乾のことを教えてくれる人な忍足なので、海堂は自主練の途中にも関わらずに、忍足の所に行く。
「どうしたんですか?」
聞く必要もないことだろうけどと思いながら、問いかけてみる。
「ハルに呼ばれてな」
他校の忍足が青学にいる理由など、乾以外にあるわけはない。
「でな、そのハルの用事のことで薫ちゃんに話があったんや」
「話しっすか?」
「そや。今日、俺が呼び出された理由な、きっとハルは薫ちゃんには言わんやろうと思うねん」
変なとこで、格好つけたがるからな。
「まあ、今ここで俺が話すのもなんやから、明日、ここにおいで」
そう言って、忍足が地図を渡す。
地図に下のほうには、携帯の番号がのっていて
「迷子になりそうになったら、ここに電話したらええよ。これ、俺の携帯の番号やから」
「はあ…」
「明日な、ハルの奴、薫ちゃんに内緒であることをすんねん。でもな、俺は薫ちゃんも知ってるほうがええと思ってな」
それに、うちのおかん。えらいことさせる気やしな。
後で、それが街に出てからバレたらえらい騒ぎになりそうやし。
「だからな、ハルに内緒でおいで。ええもん、見れるから」
「…っす」
そう言われて、現在、立っているのが、その来いといわれた場所。
「モデル事務所?」
そこに書いてある名前に不思議に思いながらも、海堂は中へと足を踏み入れる。
「…忍足さん、部長…?」
ビルの中、言われた階で降りる。
キョロキョロと周りを見ると、何やらスタジオっぽい場所が目に入った。
その近くに、長身の影が映っていて、そこに足を踏み入れると、いたのは忍足と手塚の二人だった。
「…っ!!」
「早いやん」
海堂に気づいた手塚が、驚いたように固まり、忍足が軽く手をあげる。
「あの、乾先輩は?」
「うん、もうすぐ戻ってくるわ」
「忍足、貴様が海堂に教えたのか?」
先ほど、乾から海堂には秘密にするように言われていた手塚が、幾分焦ったような声を出す。
「そうや。ハルはああいっとったけどな、やっぱ薫ちゃんには教えといたほうがええと思ってな」
それにや…
そういい置いて、手塚の耳元で今回の乾の仕事の内容を教える。
「…そうだな。海堂も知ってたほうがいいな」
内容を聞いた手塚が溜息混じりに呟く。
一人蚊帳の外の海堂が、不思議そうにしていた。
「あっ、薫ちゃん、ちょっとそこに隠れとき」
そこなら丁度、ハルんとこから死角になるから。
乾が戻ってきたのを見て、忍足が海堂に指示を出す。
言われるままに、隠れた海堂。
こっそりと乾を盗み見すると…
「…先輩vv」
着飾られた乾の姿に、ドキドキして目が離せなくなってしまっていた。
「チャ…チャイナ服も似合うんっすね」
乾は、今、全身に竜が縁取られた黒のチャイナ服に身を包んでいて、初めて見る、その姿に海堂は魅入っていた。
「じゃあ、撮影に入るから…」
忍足の母親に今回の撮影の趣旨を説明してもらった乾が、言われるままに立ち位置につく。
「誰だよ、あの女…」
乾の前に、乾の服と対になる鳳凰が全身に縁取られた白のチャイナ服に身を包む女が立つ。
彼女の手には、香水が入ってるらしい小瓶が握られていて、たぶんアレがこの撮影での鍵なんだろうということがわかる。
「乾君、さっき言った通りにね」
忍足の母親の声に
「わかりました」
これは、絶対に薫には教えられないよな〜
などと、海堂がいることも知らずに、言われた通りに、目の前の女性の腰に右腕を回し抱き寄せ、左腕を彼女の服の合わせ目から中に忍ばせる。
そして、その女性が左手を乾の右腕に絡め、右手をあげ、自分の首筋に持っていた香水をかける振りをする。
その本当なら香水がかけられたであろう場所辺りに、乾の顔が寄せられ、唇がその首筋に触れようとしたとき
「…ざっけんな!!」
「薫!?」
低い怒鳴り声とともに、海堂がツカツカと乾の元に行く。
驚いたのは乾のほうで、目を丸くさせて海堂を凝視している。
「お前、何でここに…」
「…アンタこそ、何してんですか?」
人に隠れて、どっかの女と…
動揺を隠し切れない乾に対し、海堂は冷淡だ。
怒鳴りつけずに、静かに問いただしてる辺りからして、かなり怒ってるのが窺える。
「人の目盗んで、浮気ですか?いいご身分ですね」
「誤解だ、薫」
冷たい視線で睨まれて、乾は冷や汗が出るのが止められなかった。
「侑、もしかして乾君の大切な子ってあの子?」
「もしかしなくても、そうや」
「貴様、何も海堂に話してなかったのか?」
「すっかり、忘れとった」
目の前で繰り広げられる修羅場に、忍足と手塚は頭を抱え、忍足の母親はふ〜んと状況を観察していた。
「いくらでも、そこの女とイチャついててください。俺はもう、アンタとは別れますから」
「だから、誤解だって言ってるだろう。別れるなんて、許さないぞ」
「アンタに許してもらわなくて結構っす。浮気するような奴の言うことなんか、聞く必要ありませんから」
「浮気じゃないって言ってるだろ」
「じゃあ、何だって言うんですか?」
「それは…」
「君のためよ」
言い合う二人の間に割って入ったのは、忍足の母親で
「え?」
不思議そうにする海堂に、フフッと笑みを漏らす。
「ゴメンネ、うちのバカ息子が、ちゃんとした説明もせずに連れてきて」
「侑…」
「悪い、ハル。薫ちゃんも知ってるほうがええと思ったんや」
「教えるときは、最後まで教えろ」
「煩いわ、手塚。楽しみは後に取っておいたほうがええって思っただけやろう」
「その結果、言い忘れてこの有様か」
手塚の冷たい言い分に、グゥの音も出ない忍足。
「こんなの、見たって楽しくないです」
海堂も冷たく言い放つ。
「薫ちゃんまで…、ハル〜」
「お前が、中途半端に薫を連れてきたせいで、俺はもう少しで、別れる羽目になったんだ」
目の前で、怒られ別れ話を切り出された乾も容赦がなかった。
「どうせ、全部俺が悪いんですよ〜」
全員から責められた、忍足が拗ねたように口を開くが
「「「「可愛くない」」」」
やっぱり、誰も容赦がなかった。
そして、忍足は彼らが事情を説明してる間、スタジオの隅っこでいじけていた。
「そうだったんすか…」
忍足の母親と、乾・手塚から話を聞いて海堂が呟く。
「だからさ、頼むから別れるなんていうなよ」
お前のことを思ってしたことで、別れることになったら、俺ってただのバカだろ。
「バカっすよ、本当に」
思ってくれたことは、ともて嬉しいけど、その結果、こんなことをされるくらいなら、プレゼントなんていらない。
「ごめん」
確かに逆の立場なら、気分のいいもんじゃないから、ここは素直に謝っておく。
「…じゃ、止めますよね」
「それは…」
「まだ俺の目の前で、あの女に抱きつくと…」
「お前ね、そんな言い方しなくても…」
どうあっても、さっきのことをさせたくない海堂が冷たく言い放つ。
それに対して、自分から頼んでしたことを、ここで放棄することも出来ない乾は困り果てていた。
これ以上、恋人を怒らせても、いいことなどないし、下手すれば、さっきの二の舞だ。
だからといって、放棄するのも…
究極の選択のようなこの状況を打開したのは…
「薫君、少し立ってくれる?」
「はぁ…」
忍足の母に言われるままに立ち上がる海堂。
「ふ〜ん、これくらいなら問題ないわね」
海堂の足元から、頭までじっと見て一つ頷く。
「薫君は、乾君が他の子とああいうことしてることが気に入らないんでしょう?」
「…そうっす」
「なら、乾君の相手役が薫君なら問題ないわけだ」
「「「はぁ?」」」
忍足の母の声に、素っ頓狂な声をあげる、乾・海堂・手塚。
「問題ないって、薫は男ですよ?」
「そんなの、見てわかるわよ」
「じゃあ…」
「大丈夫よ、薫君可愛いから」
モデルの女の子なら、薫君と同じくらいの身長の子も多いし
「乾君との、差もピッタリだしね」
そうと決まれば、時間もないし準備しないと。
「え?ちょっ…俺、まだ…」
「薫君がしないなら、さっきの子に相手させるけど?」
「…する」
「いい子ね、じゃ行きましょう」
上手く言い丸められて、海堂は忍足の母親に連れられていった。
「どう?」
「「「……」」」
着替えた海堂を連れてきた忍足の母親は、黙って海堂を見つめる三人に満足そう。
海堂は、恥ずかしいのか俯いている。
「海堂なのか?」
「いや、ここまで変わるとは」
「可愛いよ、薫」
目の前には、さっきまで女性が着ていたのと同じ服を着て、髪にはウイッグをつけロングになって、薄らと化粧を施されて、どこをどう見ても女性にしか見えない海堂がいた。
「こうして並ぶと、さっきの子より合うと思わない」
海堂の横にきた乾と海堂を見て、忍足の母親が回りに同意を求める。
「確かに」
周りのスタッフも、忍足・手塚の二人も皆、その言葉に賛成らしい。
「じゃ、今度こそ始めましょう」
その言葉に、場の空気が変わる。
緊張を孕んだスタジオに、海堂も知らず緊張する。
「似合うよ」
それに気づいて乾が、さり気なく海堂に声をかける。
「先輩も、似合ってますよ」
「誰もいないなら、今すぐに押したい気分だよ」
海堂の言葉に有難うと呟いて、海堂の耳元にそっと囁きかける。
「なっ…」
その言葉に、真っ赤になる海堂。
「知ってる?この撮影のコンセプト?」
「知ってるわけないでしょ」
「カオリガクルワス、フタリノヨル…だって」
耳元で甘い声で囁かれ、海堂の中の熱がこもる。
乾の低い声に触発されたように、熱を孕む体を持て余して、乾を見上げる。
「いい表情。バッチリいい絵が撮れるよ」
「あ…」
「終わったら、この格好のまま帰ろうな」
で、二人っきりで、コンセプト通りにね
「…ハイ」
紅くなりながらも、それでもしいかり頷く海堂に、乾は満足そうに微笑んだ。
そして、この後の撮影は万事上手くいった。
余談…
この日、撮影されたポスターは後日、乾の言ってた通りの言葉が乗せられて、新発売の香水とともに街に貼りだされ、乾に煽られ、見事に艶を含んだ表情の海堂に、男性たちが、香港の若き富王という役だった乾の男の色気に女性たちが、それぞれそこら中のポスターを引っぺがす大騒動になった。
そして、乾の部屋…
「な、何で、こんなの貼ってるんすか?」
「貰ったから」
巷で話題のポスターを部屋にデカデカと貼り付けている乾。
「本当、色っぽいよね」
ほんのりと紅く染まった頬、潤んだ瞳で男に凭れかかって愛しい男を見つめる深窓の令嬢。
「言うな」
自分で直視できないその姿に、海堂の顔が朱に染まる。
「何で?帰ってからもさ…」
「止めてくださいよ」
忍足の母親が送ってくれるいうことで、本当にその姿のまま帰った二人。
その後は、想像するまでもなく、コンセプト通りのコトが行われたわけで
「思い出す?」
クスクスと笑いを含んだ声が、海堂の耳元で囁かれる。
「やっ…」
その声に、吐息に体にゾクリとしたものが駆け抜ける。
「Happy Birthday薫」
身を捩って逃げようとする海堂の腰に腕を回して、耳元で囁く。
「…ズルイ」
囁かれた言葉に、海堂の体が弛緩する。
「何が?」
「そこで、そんなこと言われたら、逃げれねぇ」
乾の体に身を預けて呟く海堂。
「逃げる必要ないでしょ」
薫は俺のなんだから
「違う。今日は、先輩が俺の…」
「ああ、そうだね。薫の誕生日なんだから、俺が薫のものだね」
「そうっすよ」
「じゃあ、今日は薫の望むままに」
どうする?逃げるなら逃がしてあげるよ?
そう囁かれた海堂の取る行動は一つ。
「何で、俺が自分の所有物から逃げなきゃいけないんですか」
そう答えて、乾の首に腕を絡めて引き寄せた。
最愛の君へ
君が生まれてくれた日に
神への感謝と祈りを…
Happy Birthday Dear…
Dearest
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