Love you



決して口には出せないけど
いつも、あなたを想っている
伝えきれない想いを込めて…

誰よりも愛しい人へ


カレンダーの日付を指でなぞる。
自分の誕生日の次の日から、一日・一日と…
大切な人が生まれた日まで、後、一週間ほど
彼の誕生日の前日が一番近い休日だが、その日は予定が入っているから、そこから近い休みは今日だけ。
本当なら、部活も休みの今日。
彼と一緒にいるのが、常だけれども、あの人に渡す贈り物を買いにいかなければならないから。
今、俺は自分の家にいた。
はっきり言ってしまえば、まだ何を買うかも決まってなかった。
この前、成り行きでしてしまったモデル(それも女装…)のバイトで貰ったお金が、はっきりいって、中学生が貰うような額じゃなかったのが丸々残っているので少々高いものでも買うことは出来るが、あまり高いものをあげても彼が喜ばないのもわかっているだけに考えてしまう。

「お兄さん、お出かけですか?」

服を着替え、財布をポケットに突っ込んで階段を降りる。
リビングにいる家族に一声かけて出て行こうと、中に入るなり、弟の葉末に声をかけられた。

「ああ、駅前まで…」
「何か、お買い物?」

端的に答えれば、今度は母の穂摘に声をかけられる。

「うん、ちょっと…」
「買い物に行くときに、買ってきましょうか?」

言いがたそうに言葉を濁すが、本当にちょっとしたものを買いに行くと思った母親からの優しい心遣いに、

「いい。…乾先輩の誕生日プレゼント買いにいくから」

と、正直に話す。

「まあ、乾君のお誕生日?」
「そう」
「いつなんですか?」
「来月の3日」

弟に尋ねられて、海堂は素直に返事を返す。

「お兄さん、僕も一緒にいっていいですか?」

兄の言葉を聴いた葉末が、海堂の服を掴んで訊ねる。

「僕も、乾さんに誕生日プレゼントあげたいです」
「…ああ」

たぶん、葉末からプレゼントを貰っても、先輩は困るだけだと思ったけど、先輩に懐いている葉末の気持ちもわかるから、連れて行くことにする。
葉末のお小遣いからプレゼントをしてもらうことに、きっと先輩は悪いと思ってしまうだろうけど…

「じゃ、行ってきます」

そう言って、二人で出かけようとすると、父の飛沫に呼び止められる。

「薫、葉末」
「何?父さん」
「乾君にあげるペレゼントの足しにしなさい」

いつもお世話になっているからね。
と、父が出してくれたのは、臨時の小遣いだった。

「「有難うございます」」

父の気遣いに、兄弟二人でお礼をして、仲良くはぐれないように手を繋いで家を出た。


「お兄さんは、乾さんに何を差し上げるんですか?」

駅前につい最近出来た、大型電気専門店に入ったところで、葉末に声をかけられる。

「いや…」

先輩の欲しいものなんて、想像もつかない。
ただ、データ収集を日々のライフワークのようにしている人だから、パソコンやそれに関連するものがいいかなと思って、パソコンなどのブロックに足を踏み入れたのはいいんだが…

「…わかんねぇ」

はっきり言って、大量の種類と量を前に、戸惑っていた。
こういったものに対する知識が皆無の俺は、弟と二人して突っ立っていた。
知識もない上に、はっきりとコレっていうものを決めてないので、店員に聞くことも出来ない。
第一、人見知りする俺に店員に声をかけること自体出来るわけないからどうしようもないのだが…

「べ、別の店にするか…」
「そうですね。ここじゃ僕が買えるようなものもなさそうですし」

葉末のお小遣い買えるものもないことだし、俺も何をどうしていいかわからないので、二人で店を出る。
駅に連なってる大きなデパート。
そこなら何かあるかもと立ち寄ろうと、駅に向って歩いていると、丁度、改札口に見慣れた長身。

「乾先輩」
「あ、乾さん」

葉末と二人して声をかければ、向こうも俺たちに気づいたらしく、やぁと軽く手をあげてくる。

「二人で買い物?」

改札を出て、俺たちの傍にやってきた先輩に声をかけられる。

「そんなとこっす」
「そっか、仲いいね」
「はい」

先輩の言葉に、葉末が嬉しそうに答える。

「あ、そうだ。乾さん、欲しいものありますか?」

逢えてよかったとばかりに話す葉末に、俺はギョッとする。

「おい、葉末!!」
「欲しいもの?」

俺が止めようと口を開いたのと同時に、先輩が不思議そうな声を出す。

「はい。乾さん、もうすぐお誕生日でしょう。お兄さんと二人でプレゼント買いに来たんですが、どうせなら、乾さんの欲しいものをあげたいので」

葉末は俺の声に耳を貸さずに、先輩に正直に全部話してしまった。

「…プレゼント?」
「はい」
「有難う。その気持ちだけで嬉しいよ」

先輩は葉末の目線に合わせるようにしゃがみこんで、葉末の頭を優しく撫でる。

「俺はそう言ってくれるだけで嬉しいから、プレゼントはいいよ」
「でも、僕だって乾さんには遊んでもらってるので、何かお渡ししたいです」

ギュウッと先輩の腕を掴んで話す葉末に、先輩は困ったような顔をする。

「先輩、俺からもお願いします。葉末の気持ちを無駄にしないでやってください」
「海堂…、わかったよ」
「先輩」
「乾さん」

少しの間、俺を見つめた後、嘆息とともに吐き出された言葉。
それに、俺と葉末は嬉しそうな声をあげる。

「兄弟揃って、頑ななところは似てるんだもんな」

苦笑混じりに呟かれて、俺が恥ずかしく俯いてしまう。

「…先輩」
「うん?」

俯いた先に見えたものに、俺が先輩に声をかけるとのんびりした声が返ってくる。

「それ、何すか?」

先輩の右手に握られた小さなバスケット。
先輩が持ってるには可愛過ぎる代物。

「コレ?ああ…コレは母さんに頼まれてね」

そう言って先輩は、俺と葉末に見えるようにバスケットを持ち直して、蓋を開けた。

「「うわぁ〜」」

中に入っていたものに、俺と葉末が声をあげる。

「飼われるんですか?」

葉末が楽しそうに先輩に尋ねる。
中にいたのは、小さな子猫。
グレイの毛並みの、ロシアンブルー。

「一応ね…」

先輩が苦笑混じり話す。

「母さんの友達の家の猫が子供を産んでね…」

遊びに行ったときに気に入ったらしく、貰う約束を取り付けたらしいんだよ。

「貰う約束をしたのはいいけど、忙しくてね…」

彼の両親は、どちらも多忙な仕事をしていて、あまり家に帰ってこないような人たちだ。

「仕方ないから、俺が貰いに行ったってわけ」
「オスですか、メスですか?」
「オスだよ」
「お名前は、もう決めたんですか?」
「うん、ユキだよ」
「ユキ君ですか?」
「そう」
「触ってもいいですか?」
「後でね。今は、寝てるから」

起したら、可哀そうでしょ。

「そうですね」

うずうずと今にも手を伸ばしそうな葉末に、先輩が困ったように笑う。
先輩の言葉に納得した葉末が、大人しく手を引っ込めるのを見て、先輩は葉末の頭を撫でた。

「じゃあ、プレゼントだけど」
「はい」
「今から、ユキのものを買おうと思ってたから、それ買ってもらっていいかな?」
「はい」
「海堂も、それでいい?」
「え?」

突然話を振られて驚いて顔をあげると、そこには苦笑を漏らす先輩の顔。

「海堂も、俺のプレゼント買おうとしてたでしょ?」
「あ、はい」
「結構、ペット用品って一杯あるからさ。葉末君に一つと、海堂に二つほど買って貰うってのでいいかな?」

どうやら、俺のほうもバレてたみたいで、先輩に笑われる。
先輩の言葉に素直に頷いて、俺たちはペットショップに向った。


駅の近くにある、大き目のペットショップ。
一杯いる、子猫や子犬、ウサギなどの小動物たちに、つい、俺と葉末は目的を忘れて見つめてしまう。

「お兄さん、あの子犬可愛いです」
「そうだな」

二人でゲージの中の動物を眺めていると、後ろからしのび笑いが漏れる。

「……///」

そういえば、ここには先輩もいることをすっかり忘れていた。
そっと後ろを窺うと、先輩が右手を口元に持っていって、笑いを堪えていた。
その姿に、俺は真っ赤になって、黙ってそこを離れ、先輩の横に並ぶ。

「…もういいの?」

口元を引き攣らせたまま聞いてくる先輩に、俺は軽く睨みつける。

「…買い物に来たんだろう」
「そうだけど、時間はあるから見てても平気だよ」
「いい。葉末!!」
「はい」
「先輩のプレゼント見に来たんだろ」

恥ずかしさを誤魔化すように、まだ動物を眺めていた葉末を連れて、店内に入っていく。

「何、買うんすか?」
「取り合えず…」

水入れと餌いれ、首輪などに始まって、猫用のトイレに猫砂…など、結構、色んなものをカゴに入れていく。

「結構、ありますね」
「まあね、動物を買うとなるとね」

俺の言葉に先輩は苦笑で返す。
自分の希望で飼うわけじゃないから、この苦笑も頷ける。
カゴ一杯になった荷物から、葉末が淡いブルーのリボンのついた首輪を、俺が猫のベッドをそれぞれプレゼントすることになった。

「本当にこれでいいんすか?」

買い物が終わって、先輩に誘われるままに先輩の家に葉末と一緒にお邪魔する。
リビングに通され、少し早いが、今すぐにいるものなので、プレゼントを渡す。

「いいよ。有難う」

先輩に言われて買ったのはいいけど、考えてみれば先輩のものでないから、つい聞きなおしてしまう。
でも、先輩は優しく笑ってお礼を言ってくるから、これ以上、俺は何も言えなくなった。

「ニャァ〜」
「あ、お兄さん、乾さん。ユキ君、起きましたよ」

バスケットの中で眠っていたユキを眺めていた葉末が嬉しそうに声を出す。

「本当だね」

先輩が葉末の声に、バスケットの中を覗き込む。
そっと先輩の手が中の猫を抱き上げる。

「…可愛い」
「可愛いです」

先輩の腕の中に納まる小さな体は、大人しく、座っている。

「んなぁ〜」

先輩の手が、ユキの喉を擽ると、気持ちよさそうにエメラルドグリーンの瞳が閉じられて、小さな鳴き声を漏らした。

「はい、葉末君」
「有難うございます」

駅前での約束を覚えていた先輩が、葉末の手にユキを乗せる。
葉末を嬉しそうにユキを抱きしめて笑っている。

「海堂は、次な」

その様子を眺めていた俺に、先輩が声をかける。
その言葉から考えるに、先輩に俺も抱っこしてみたいと思っているのは、バレバレであるみたいだ。

「葉末君、じっとしててね」

先輩が葉末に貰った首輪をユキにつける。
淡いブルーが、ユキのライトブルーの毛色に映えて似合っていた。
先輩が買ったものの整理をしている間、俺と葉末は葉末の膝に気持ちよさそうに寝ているユキを撫でていた。

「可愛いですね、お兄さん」
「そうだな」
「僕も動物欲しいです」
「無茶言うな」

父が動物アレルギーのために、家では動物を飼うことが出来ない。
葉末の気持ちもわかるが、こればっかりはどうしようもない。

「葉末君、ユキでよかったらいつでも遊びにおいで」

そのことを前に話したことのあるために知っている先輩が、葉末に声をかける。

「いいんですか?」
「うちはいつでもいいよ」
「有難うございます」

嬉しそうに笑う葉末に、俺もホッとする。
そして、猫のミルクを温めにキッチンに向った先輩の後を追う。

「有難うございます」
「何が?」

後ろからそっと声をかければ、先輩が不思議そうに振り返る。

「いえ…、そういえば、何でユキなんっすか?」

さり気ない気遣いを無駄にしたくないから、俺はそれにそっと首を振ってから、疑問に思ったことを口にしてみる。

「え?」
「別に白いわけでもねぇし、オスだっていうし…」

俺のユキという単語に対するイメージは、雪だった。
それに、ユキという名前は、どちらかといえば、女をさしてるほうが多いと思う。
この自分の名前のように。

「ユキは、雪じゃなくて…」

俺の言葉に、先輩が言いにくそうに口を開く。

「…後で教えるよ」

しばし逡巡した後に、そう言われて、俺は大人しく頷いた。


そのまま、その後は先輩の家で二人で昼飯をご馳走になって、しばらく遊んでいたが、時間も夕飯の時間に近くなってきたし、ユキもまた眠ってしまったので、俺たちは先輩の家を後にした。
本当なら、葉末がいなければこのまま泊まっていったのにと思わないでもないけど、今日は大人しく帰ろうと思う。
先輩の家にきた可愛い住人を、家族に教えるのを葉末一人に先を越されるのもしゃくだったから。

「「ただいま」」

家について、玄関先で靴を脱いでいると、携帯が鳴る。

「お兄さん、また連れてってくださいね」

そう言って、家に入っていく弟に頷いて、携帯を確かめる。
携帯を見れば、メールを着たことをしらせるマーク。
中を開いて覗けば

「お帰り、薫。部屋に帰ったら漢和辞典で、自分の名前をひいてみること」

と、書かれていた。

「んだぁ?」

わけのわからない文章に首を捻りながら、家に入る。
リビングからは、今日の出来事を両親に話している葉末の楽しそうな声が聞こえるが、俺は部屋に真っ直ぐに進む。
部屋に戻り、漢和辞典を取り出す。
書かれた通りに、漢和辞典で「薫」の文字を調べる。
薫―かおる・クン
意味…
と、続く文章を読んでいく。
名乗と書かれた行。
かお・かおる…などと名前としての読み方が何通りか書いてる最後の名前。

「ゆき…」

あ、あの人…
かおる=薫=ゆき
猫の名前の由来を知って、自然と零れる笑み。

「ったく…」

どおりでいいにくそうだったわけだと思いながら、胸の内に宿る暖かな想いに、くすぐったさがこみ上げる。

「わかりにくいっての」

俺の名前からとったという事実が嬉しくて、俺は携帯の中に一つだけ登録されたナンバーを押した。

「何やってんすか、バカ」

そう、弾んだ声で言うために。


「誕生日、おめでとうございます」

誕生日本番、月曜日。
にもかかわらず、何故だか俺と先輩は先輩の家にいた。

「有難う」

本来なら、学校でつまらない授業を受けてる時間。
俺はベッドの上で、じゃれてくるユキの相手をしていた。

「プレゼント、やっぱあれだけじゃと思ったんで…」

ユキを先輩の膝に乗せて、俺は鞄の中から綺麗にラッピングされた箱を取り出す。

「薫…」
「その、安物なんすけど…」

箱を先輩の手に、チョコンとのせる。

「有難う」

恥ずかしくて、俯いていると、柔らかな声が降りかかる。

「開けていいかな?」
「っす」

先輩の声に小さく返事して、上目遣いに、先輩が箱を開けるのを見つめる。

「時計」

そう、時計。
数日前、どうしようと思いながら、テレビを見てるときに偶然映ったCM。
時計を贈る意味を話す声に、これだと思った。
もうすぐ離れていってしまう人。
離れても、あなたの時間を俺で束縛したいから。

「時計贈る意味、知ってますか?」

雑学なこの人のこと、知っているに決まっているけど…

「…貰わなくても、俺の時間は薫で占められてるよ」

そう言って抱きしめられて、大人しく彼の体に納まる。
集中したら、時間も気にしなくなるから。

「少しは、コレ見て、俺が心配してるって思い出してください」

時間も睡眠も、食欲を全部忘れて没頭して、無理して体を壊す人だから。
腕に巻きつく時計を見て、時間を思い出した欲しい。

「…努力します」

俺の言葉に返ってきたのは、苦笑交じりの言葉。
その言葉に、俺は深い溜息をつく。

「らしいっすけどね」

自信がないから、言い切らない。
約束は破らない人だから、出来ない約束はしない人。

「先輩の誕生日なんで、それで勘弁してあげます」

本当なら、きっちりと守らせたいところだが、約束したところで、確かに守りきれるわけはないと思うので、誕生日を理由に許してやる。
先輩の膝で眠るユキを潰さないように、気を使って、先輩の横に座る。

「先輩」

横から、先輩の首元に抱きついて

「I wish…」

耳元で囁く。

「…with you…」

ありったけの想いを込めて

「…love you」

口に出せる勇気のない俺の、年に一回だけの勇気。
大切な人の誕生日に贈る、決死の告白。

「薫…」

先輩の手が、俺の背中に回る。

「…me,too」

耳元で囁かれた甘い言葉に、泣きそうになる心を抑えて、俺は鮮やかに笑ってみせた。


いつも想うのは、あなたのこと
願うことは、あなたと一緒にいれること
いつまでも、一緒にこうやってあなたの生まれた日を祝いたい

誰よりも愛しいあなたへ、伝えたい…

Happy Birthday…
   &
Love you

Fin