Stage Debut  乾海編



それぞれ、あの悪夢の二日以来、あまり顔を合わすこともなく頑張ってきた乾と海堂だったが、決戦を明日に控えた本日、生徒会長・演劇部部長の

「ここまできたら、後はなるようにしかならないから、早めに練習は切り上げて、各自、明日に備えて休息を取るように」

との有難いお言葉を受けて、久しぶりに乾の部屋で逢瀬を重ねる。
偶然、校門で出会って、そのまま何となく離れがたかったので、海堂は乾に誘われるままに乾の家にお邪魔して、しっかりお泊りの連絡も済ませていた。

「海堂んとこはどう?」

二人とも連日の練習に疲れているのか、ベッドに凭れかかっている姿勢で話していた。

「何とか、台詞は覚えましたけど」

一番はりきっていた桃城が一番、ダメだったりする。
まず、物覚えが悪いというか、台詞をちっとも覚えない。
その上、スタンドプレーが目立ちまくって、日々、越前・海堂の姫様二人に怒鳴られる日々を送っていた。

「やっぱ、俺、あいつ嫌いっす」

テニスだけじゃなく、全てにおいて正反対な桃城に、海堂はかなりご立腹の様子で、乾は苦笑をしながら

「まあ、そう言うなって。それなりに、いいとこもあるんだろうからさ」

と、褒めているのか、けなしているのかわからない台詞を口にした。

「そうですか?…先輩はどうなんですか?」
「俺?俺はねボチボチと…」

こっちの問題児は紛れもなく、手塚だった。
大体のことなら、何でも器用にこなせる乾・不二と違い手塚に演技などさせようということ自体が、問題であった。

「ま、手塚はあんまり台詞ないからいいんだけどさ…」

ただ、最後のあのシーンがな…
色んな意味で、大問題なラストに乾は今から頭を抱えたくなった。
絶対に、しばらくは口をきいてもくれないんだろうな……
どう考えても、海堂の嫉妬を買うような話に、乾はどうやって宥めようかとずっと思案していた。

「そういえばさ、海堂、何でコレ出る気になったわけ?」

どうあってもこんなのに出たいわけがない海堂が出る気になったわけが気になっていた乾が訊ねると

「えっ…あ、べ…別に…」

しどろもどろになりながら誤魔化そうとする。

「言えない理由でもあるのかな?」

海堂の様子に何か裏があると踏んだ乾は、至近距離まで海堂との距離をつめる。

「何もないっす」

したり顔で言われ、海堂は首を思いっきり横に振る。

「何、貰った?」

自分たちが生徒会長に買収されてる以上、こっちの三人も何かに買収されてると思うのが確実だ。

「なっ…何も」

驚いたように目を見開いて、上ずった声で否定しても信憑性などあるはずもなく

「何、貰ったのかな?」

楽しそうな声でそう囁いて、不意に視界に入った海堂のカバンに手を伸ばす。

「あっ、ダメ!!」

乾の手が自分のカバンに伸びたのを見て、海堂が慌ててそれをひったくろうとしたが、乾のほうが一瞬早く、海堂のカバンを手にした。

「俺のカバンなんですから、勝手に見ないでください」
「お前、前に勝手に人のカバンあけたでしょ」(感情<愛情参照)

もっともな台詞を吐いてみるが、過去に自分も勝手に人のカバンを覗いたというか、中のものを勝手に拝借したことがあるのでそれ以上は何も言えなかった。
ゴソゴソと海堂のカバンを探りながら、海堂の攻撃を死守する乾。

「何だ、コレ?」
「ソレは、だめ!!」

乾が取り出した封筒を、海堂が乾の腕から奪う。
どうやら、ソレに例のものが入ってるようだ。
海堂はソレをしっかりと胸に抱いて、ジリジリと後退る。

「ふ〜ん、ソレなんだ」

ヤな笑いを浮かべて近づいてくる乾に、必死に逃げ道を探す海堂。

「絶対に見せないっすからね」

一瞬の隙をついて、逃げ出そうとする海堂。

「そんなに言われると、益々、見たくなるな」

それを見逃すことなく、海堂の足を捕まえる。
捕まえられた足をジタバタさせる海堂に、乾はおとなしくさせようと両足を掴む。
手はしっかりと封筒を抱きかかえてるため、動かすことも出来ないのだ。

「離してください」
「ソレ見せてくれたらね」

足を固定して、背中に体重をかけて動けないようにしてくる乾。
その圧迫感に、苦しそうに呻くと

「見せる気になった?」

という声が降ってきて、ほとんど反射的に

「ヤダ」

と言い返していた。

「ったく、強情だね」

やれやれと言った感じの乾の物言いに、海堂が嫌な予感を覚える。
このままいてもラチがあきそうにないし、実力行使に出させてもらうよ。
不穏な空気でそう言うなり、覆いかぶさってくる。

「先輩!!」
「知ってる海堂、人間ってさ、痛みよりもね、快楽のほうが弱いんだよ」

海堂の弱いところの一つである、耳を甘噛みしながら囁く。

「っ…」
「どこまで我慢出来るか見ものだな」

海堂の背後から、動けないように固定する。
海堂の体の下に手を差しいれて、服の上から胸をまさぐる。
唇は耳から下へと下がり、襟足あたりをさ迷っていた。

「ぁっ…」

スルリと忍び込んできた指が、海堂の胸の突起に触れる。
それを指の腹で押しつぶして捏ねると、海堂の体が震えるのが背中越しに伝わってくる。
首へのキスを背中に変えて、跡がつかない程度の強さで吸い上げれば、海堂の声から艶やかな声が漏れた。
乾に腰を抱き上げられて、獣ような格好にされてるにも関わらず、海堂はどうしてもその封筒を死守しないといけないために、両手で握り締めてそれに耐える。

「やっ…ああっ…」

散々、弄った突起を最後にピンとはじいた後、海堂の下肢に伸びる手。

「もう、こんなにして」

おかしそうに笑って、ズボンの中の海堂に触れる。
ビクンと顔をあげて鳴く海堂に、乾は満足そうに笑う。
そのまま性急に強く扱くと、海堂のソレはすぐに張り詰める。

「元気だね」

こういう言い方をすれば、絶対に海堂の羞恥が増すことを知っていて、乾は口を開く。
案の定、海堂は頬を朱に染めて、乾を睨む。

「そんな顔で睨んでも、迫力ないよ」

楽しそうにそう言って、手の動きを強める。

「ひやっ…あ、あっ…」

性急に追い上げられる快楽に、海堂の目に涙が溜まる。
いつもとは違って、自分を追い詰めるだけの行為に、悲しくなる。
優しさの欠片もない愛撫に感じる自分に、嫌気が差していた。

「やっ…だ、先輩…」

ヒックと嗚咽を鳴らして声を出すと、

「薫…?」

流石に乾もヤバいと思ったのか、手を止める。

「こんなの、嫌だ…」

封筒を持った手に顔をのせて、泣き続ける。

「ごめん」

海堂のいいたいことを理解した乾が、海堂から一度離れて、海堂を抱き起こす。

「ふぅっく…俺…先輩のことっ…好き…だけど…こんなのは…」

好きだからこそ、抱かれることも受け入れてるけど、こんな追い詰めるだけのセックスはしたくないのだと、懸命に嗚咽交じりに伝える海堂。

「うん。ごめん、俺が悪かったよ。もうしないから」

自分のしたことで、凄く海堂を傷つけたことに気づいて、反省する。
自分で裸にしておいて何なんだが、そのままじゃ寒かろうとベッドのシーツをはがして海堂をそれにくるめて抱きしめる。
泣き顔を隠すように、海堂の手は海堂の顔を覆っていて封筒は既に、床に落ちているのだが、乾は今更、それを見ようとはしなかった。
海堂が泣き止むまで、髪を優しく撫でながらあやしていく。

「…俺も、意地になってスンマセンした」

ようやく泣き止んだ海堂が、恥ずかしそうに俯いたまま謝ってくる。

「いいんだよ。誰にだって、見せてたくないものはあるから」
「違うんです。別に見せても良いんですけど…その…恥ずかしくて…」

かなり恥ずかしい内容なのか、海堂は乾の胸に顔を埋めて囁く。

「どうしてもって言うなら、見てもいいっすよ」

考えてみれば、こんなことで喧嘩なんかしたくないし。
別に見せて問題のあるものじゃないので、そう言ってみる。
でも、恥ずかしいのは恥ずかしいので、こうしてることだけは許して欲しい。

「いいの?」

乾が封筒を手に取りながら、もう一度、確認してくる。

「…はい」
「じゃ、遠慮なく」

本当は海堂に泣かれた時点でどうでもよくなってはいたのだが、あまりに海堂が恥ずかしがるので、もし人様に見せれないような海堂の恥ずかしい写真だったらと思い、やはりソレを見ることに決めた乾だった。
もし、そんな写真だったら、絶対にあの演劇部部長を脅してでも出所を吐かして…と言っても、出所など一つしかないのは確かで、あの二人の友人、現写真部部長のあの少年っぽい少女なのは間違いない。
後で、あの二人、締める!!
勝手に、海堂の恥ずかしい写真であると決め付けて、画策する乾。
決める前に、中味を検分してください。

「……これって……」

一応ということで、封筒の中身を取り出す。
予想通り、中味は写真で…
ただ予想と違って、写ってたのは全部…

「俺?」

そう、乾で。どの写真も乾の姿が写っていた。
普段の学校での授業姿や部活姿のもの。
それどころか…

「あいつら、ストーカーか?」

そう言いたくなるような、プライベートでの写真。それも眼鏡を外してるものが何枚も
挙句の果てには…

「一体、いつ撮ったんだ?」

自分と海堂の2ショット写真まである。
それもご丁寧に、学校のとプライベートのと。

「俺って、こんな顔してんのな?」

プライベートのコンタクトをつけてる自分と海堂との2ショット写真。
海堂を見つめる自分の瞳の優しさに、自分のほうが照れてしまいそうだった。

「薫、お前、コレで買収されたの?」

自分の胸で顔を隠したまま離そうとしない海堂に訊ねると、首が少し動いて頷いたのがわかる。

「なあ、俺の買収の品も見る?」

ククッと喉を鳴らして笑うと、海堂が少しだけ顔を上げてキョトンとした顔で見上げてくる。
泣きはらした目が痛々しくて、癒すようにその目に唇を押し当てる。
そうしてから、机の引き出しに大事そうにしまわれた封筒を出して、海堂に手渡す。

「見ていいよ」

乾の言葉にうながされるように海堂がソレをあける。

「これ…」

中から出てきた写真に海堂が乾を見上げる。
その中にあった写真は全て海堂が写っていた。

「そっ、あいつら考えてるよ」

たぶんどちらも写真部で売ってるであろうものを持ってきたのだということは察しがつく。
三人揃って、共犯か。

「考えてることは、どっちも同じってことかな?」

自分が写ってる写真を一枚、一枚見ている海堂に聞いて見る。

「…俺、先輩の写真持ってなかったし…」

チラッと一回だけ、乾のほうを見て、恥ずかしそうに俯く。

「二人で写ってるのもないから…」
「そうだね」

一緒にいるようになってから時間はたってはいるものの、あまり写真を撮られるのは好きでない二人だから、当たり前のように写真を撮ることはなかった。
それでも、二人の思い出になるものは心のどこかで欲しかったみたいで、

「これからは、大石、菊丸たちみたいに、写真取ろうな」

海堂の髪に触れて、梳いていく。

「あそこまでは…いいです」

毎回、毎回、デートしては写真撮ったのと大量の写真を見せてくる菊丸を思い出し、少しうんざりしたような表情で拒否する。

「ははっ、確かに」

乾もそれを思い出したのか苦笑する。

「一回につき、一枚くらいの割合かな?」
「…二・三枚…なら…」
「了解」

乾の言葉にポツポツと答えていく海堂に、優しく微笑む。

「でさ、さっきの続きしていいかな?」

今度は優しくするから…
問いかけながらも、手は既に不埒な行為に走っていて、海堂の口から微かに甘い声が漏れる。
手の動きに酔いしれながら、潤んだ瞳で乾を見上げる。

「明日…んんっ…本番だから…」

緩やかに快楽を引きずりだそうとする乾の手に身をゆだねながら、乾の服を握り締める。

「わかってる、辛くはしないから」

薄く開いた唇に自分のソレを重ねる。
本番を明日に迎えた今、
休息をとるようにと言われた言葉は、どこかに吹き飛んでしまったらしい。


本番、大丈夫か?

Fin