本番当日。
二組は、それぞれ午前・午後の部のトリを務めることになっている。
現在、午前の部のトリの一つ前。
控え室では、午前の部に出場する、海堂・桃城・越前の三人が衣装を着替え終え、機嫌悪そうに待っていた。
「結構似合うな、お前ら」
…間違いを訂正しておこう。
正確には、機嫌の悪いのは越前・海堂の二人で、桃城はすこぶる機嫌が良い。
「ざっけんな」
「喧嘩売ってます?」
その桃城の様子に余計に神経を尖らせる二人。
「うってねーよ。これから、仲良く演じるんだぜ、ここは仲良く行こうじゃねぇか」
「は〜い、始まるよ」
越前と海堂の機嫌の悪さが最高のため、桃城以外の控え室にいる生徒たちは、可哀相に怯えていた。
その空気を除くかのように、演劇部部長のホニャ〜とした声が響く。
「は〜い」
「「……っす」」
元気良く返事をする桃城に対し、越前と海堂はほとんど聞こえないように呟く。
「頑張ってね桃城君」
「うっす」
「海堂君・越前君、桃城君のことだから、台詞覚えてないと思うのね」
桃城を優しく見送った後、海堂と越前に振り向く。
「だからね、もうアドリブ入れてもらってもOKだから、絶対に成功させてね。どういう意味であれ、成功するなら文句はないわ」
「「っす!!」」
演劇部部長の声に。海堂と越前はお互いに顔を見合わせ、ニッと嫌な笑みを浮かべて、力強く頷いた。
「頑張ってね〜」
機嫌が戻り、舞台に向った二人を、彼女はクスッと不二が見せるのと同じタイプの笑みで見送った。
彼らが舞台へと向っている頃、舞台となる講堂の一角。
最前列ど真ん中を陣取っている、男テニ3年レギュラー陣。
「そろそろじゃにゃい?」
「そうだね」
「どんなのになるのかな?」
「桃の命もかかってるしね」
「乾、舞台に乗り込むのだけはやめろよ」
「フッ、そんなことする必要はない」
会話の中には薄ら寒いものも混じっていた。
ブーッ
「おい、いつの間にこんな装置つけたんだ?」
「凄いね、生徒会長」
開演をつけるブザーの音に、びっくりした生徒たち。
ここは学校の講堂で、そんなものがあるはずはない。
それが、何故かある。
現在の生徒会長の凄さを知らされた。
「ただいまより、演劇部による舞台を始めます」
アナウンスが始まり、幕が上がる。
むかし、むかし、ある所に…と始まったナレーション。
舞台には大きなチューリップの蕾らしいものがデーンと置いてある。
ナレーターの声とともに、少しずつ開く花。
そこから出てきたのは、可愛い小さな王子様…もとい、お姫様。
「あ、おチビ」
「予想通りと言うか…」
「やっぱり、親指姫なんだね」
「ある意味、ハマリ役だね」
そう、可愛いお姫様、越前が機嫌悪そうに登場した。
館内は名物テニス部のルーキーの登場に、歓声があがる。
「可愛い〜」
「リョーマ様〜」
などなどと、小さなお姫様に女子だけでなく、男子からの野太い野次も混ざってる様子。
「これは、明日からの部活が大変そうだね」
「男のファンも増えそうだな、越前」
「ヤだね〜、男の野太い歓声は」
「部活の士気にも関りそうだな」
その歓声を聞きながら、冷静に分析するものに、嫌そうに眉を顰めるものとレギュラー陣は雑談を交わす。
舞台ではその間もストーリーは当たり前だが進んでいく。
親指姫がツバメに連れ去られた時点で、暗転。
親指姫がツバメに連れ去られていた頃、また別の国では……
暗転とともに、ナレーションも新しい場面への言葉を紡ぐ。
舞台に照明が灯り、猟師に手を引かれて歩く、お姫様が登場している。
「海堂」
「……乾……」
「舞台を壊すようなことはしないでくれよ」
「あれは…確か…」
「凄いね、演劇部員の素性も既にチェック済み?」
「乾、部活に影響をもたらさない程度にしておけ」
勿論、姫は海堂。
その海堂の手を握る猟師に未来はあるんだろうか?
「殺すのは忍びないから…」
森らしき場所。
そこで猟師は白雪姫の手を離し、そそくさと退場する。
舞台にでてる間の猟師が、何故か恐怖に震えていて、舞台から降りた途端に「殺される」と怯えてたとかいう噂が流れたが、それはまた別の話し。
「どこだ、ここ…?」
「海堂、姫じゃないよ、それじゃ…」
置いてきぼりにされた白雪姫はまわりを見渡し、眉を顰めて呟く。
はっきりいって、お姫様が使う言葉じゃない。
本来なら、いきなりこんなところに連れてこられて不安そうなお姫様なシチュエーションなはずなのだが……
「不安じゃなくて、不満そうだね」
そう、お姫様はこんなとこに置いてかれて、その前に、こんな目に合わされてとても不満そうに観客を睨みつけていた。
姫、白雪姫、移動・移動……
「チッ…」
可憐なはずの白雪姫が舌打ちして動き出します。
「ここでいいのか?」
それと同時にセットも変わり、舞台の端っこに小さな家。
お姫様は面倒そうにそのドアをくぐりました。
暗転
「見た目は可愛いのにね〜」
「失礼だな。中身も充分可愛い」
「乾の前ではね」
「かおちゃん、乾以外の前ではおっとこまえさんだもんね〜」
言いたい放題の3年レギュラー陣。
その間に舞台のセットは変わり、照明がつく。
「誰か、いねぇのか?」
「う〜ん、煩いよ…」
ドアをくぐった端とは逆の端から出てきた白雪姫。
舞台の真ん中にあるベッドでは親指姫が寝ていた。
「……小人の家じゃねぇのか?」
「そうだよ。それよりアンタ誰?」
「人に名前を聞くときは、自分が先に名乗るのが礼儀だろうが」
「ねぇ、あれって演技?」
「どこまでが台本通りなんだろうな」
舞台のお姫様たちは、言い合いを始めている。
その内容は、いつも部活中に起ることとほぼ同じ内容。
3年レギュラー陣が疑問に思っても不思議はなかった。
「まあ、いいや俺は親指姫。ここは台本じゃ小人の家、以上」
「以上じゃねぇだろ、コラ」
「俺は眠いの。後は海堂先輩…違う、白雪姫に任せるから」
「任せんな」
言いたいことだけ言って眠ってしまった親指姫。
台本通りに動いてくれない主役に、ナレーターは悲しんでるよ。
それでも何とか話はすすみ…まあ、はっきり言えば、疲れた白雪姫も寝てしまい急遽、小人たちが走ってきたんだけど…
「話しが…」
「部長に怒られます〜」
泣きながら、親指姫と白雪姫を起す小人たち。
けれど、連日の慣れない演技の練習に、片方は眠るの大好きな子に、もう一人は前日に色々しちゃって疲れてるとくれば、そんな簡単に起きることもなく…
「煩いって言ってるだろ」
「起すんじゃねぇ」
二人とも近くに置かれてた小道具のフライパンを手にとって、バケツに入ったジャガイモ(レプリカ)を持って、親指姫はツイストサーブを白雪姫はスネイクを綺麗に決めて、また眠りについた。
「アレはどう見ても演技じゃないね」
「二人とも、ワザに磨きがかかったな」
「データを更新しなくては」
「また、これでテニス部に変な噂が…」
「大石、しっかりして」
「もう大石ってばさ、今更、どうってことないにょに」
可哀相な副部長は胃を抑え、天然部長は技のキレを見ていた。
この場合、どう考えても副部長の言葉のほうが正しいと思うのは私の気のせいか?
さて、その頃の舞台裏…
「どうします、部長?」
「二人とも寝ちゃいましたよ?」
「あんなの恐くて起せません」
「仕方ないわね、ここは一つ王子様に頑張ってもらいましょうか?」
「へ?俺っすか?」
「うん。同じテニス部の桃城君なら、あの二人を起して劇を続けるのも造作ないでしょう?」
「はい、お任せください」
可愛い仕草で桃城にお願いする演劇部部長。
その姿にすっかりやられて、桃は胸を叩く。
「じゃあ、桃城君出ていちゃって」
「はい」
スタスタと舞台へ向う桃城。
その後ろでは、演劇部部長がピースしてたとか……
戻って舞台
「うわ〜ん、海堂、越前、起きろよ〜」
「まずいって、本気で寝るな〜」
二人の寝るベッドから少し離れた場所から声だけかける小人。
「え〜と、何だっけか〜?ま、いいや邪魔するぜい」
「あ、王子様」
早速、台詞を忘れての登場は、王子様役の桃城。
全くいつも通りに、舞台へ上がってきた桃城に、小人たちは心底ホッとしたような声を漏らす。
「おお、桃の登場だにゃ〜」
「桃、生贄に選ばれたね」
「「い、生贄!?」」
「そうだな。あの状態の越前と海堂を起すのは演劇部員には不可能。だから、同じテニス部員の桃城を予定より早く出してというとこだろうな」
「無理っしょ。桃は間違いなく殺されるね」
「そこまで予測済みだろう、アイツは」
「桃城も一応はうちの部員なんだが…」
「手塚、一応じゃないから」
レギュラーたちは桃城の未来を予測しながらも、止めようという気はないらしい。
その間、舞台では小人たちが王子様の前にわらわらと期待に満ちた目で集まっていた。
「仕方ねぇな、仕方ねぇよ」
ズカズカと二人が寝てるベッドまで近づく王子様。
「越前、可愛いよな〜。俺としては、こいつだけでいいんだけどな〜」
ストーリー上では、白雪姫と親指姫の二人と結婚予定の王子様。
だが、王子様にとって白雪姫はライバルでどう考えても嫁にはしたくない海堂。
変わって親指姫は溺愛…一方的にだが、してる越前。
本音はもう、越前だけ貰っていきたいというところだろう。
「おい、え…っと、白雪姫に親指姫、起きろよ」
無遠慮に二人の寝るベッドを揺らす桃城。
力任せに揺らすものだから、ベッドはギシギシ音を立てる。
それでも意地でも起きようとしない二人。
「う〜ん、仕方ねぇな〜、ここはやっぱアレか王子様の熱いベーゼで…」
うっかり、越前にあっついキスをするシーンを想像してしまいヤラしい笑みを浮かべてしまう桃城。
「桃、あの顔はダメだにゃ〜」
「あんな顔されて迫ってこられたら、流石に嫌になるよね〜」
「「越前も気の毒に」」」
その顔を見た不二と菊丸の言葉に、乾・河村・大石は苦笑するしかなかった。
その頃、舞台では一人どっかにイっちゃってる桃城。
その前のベッドで寝ていたはずの二人はベッドに既になく…
「おい、おい桃城…」
「逃げろ」
「殺されるぞ」
「だからテニス部を舞台に出すのは問題だって言ったんだ」
小人たちが舞台の隅から桃城に声をかけているが、桃城は全然耳に入っていない。
「ん?あれ?海堂?越前?」
やっとで戻ってきた桃城。
寝ていたはずの二人がいないことに気付いて、キョロキョロと周りを見回す。
「桃、後ろ…」
「そのまま、逃げろ」
「後ろ?」
小人たちの声もようやく耳に入った桃城。
言われるままに後ろを振り向くと……
「煩いんっすよ」
「……」
黒いオーラを撒き散らして、フライパンを持つ海堂と越前。
「あーぁ、めっきり不二に感化されて…」
「何か言った?乾」
「別に」
乾にそう言わしてしまうほどの、暗黒オーラが舞台に撒き散らされていた。
「おっ、ようやく起きたか。舞台で寝るんじゃねぇよ」
そのオーラに気付かない。オーラの行き着く先にいる桃城。
瞬間、舞台上の生徒に袖にいる生徒。そして、舞台を見に来ている観客の生徒、その全てが桃城に対して両手を合わせていた。
「「起すんじゃねぇ!!」」
そして、その桃城の声に完全に堪忍袋の緒を切った海堂と越前。
綺麗に声を揃えて、手もそろえて、小道具であるフライパンを桃城に振りかざした。
「グッ…」
哀れ桃城。
小道具とは言え、本物の小さなフライパン。
ステンレス加工のそのグライパンで殴られた桃城は、小さな呻き声を出して撃沈。
「ったく、少しは王子らしくしたら」
「王子なんて柄合うわけねぇだろバカに」
「それもそうだね」
「帰るぞ」
「っす」
そして、桃城を殴ったことでストレスを発散した海堂と越前。
固まる小人たちを無視して、舞台を降りていった。
「ナレーター、締めて。幕おろすよ」
舞台袖で演劇部部長の声が響く。
慌てて正気に戻った演劇部部員たち。
『…連れ去られてしまった親指姫も、突然、城から追い出されてしまった白雪姫も現代の女性のように強さを秘めている姫様だったので、彼女たちは王子様に頼ることなく、自分の力で幸せの道を切り拓いていきました』
〜暗幕〜
舞台終了のブザーが鳴り響く。
「ふ…あははははは…」
「ヒーッ…ゲラゲラゲラ…」
思わず静まり返っていた観客席から、そのブザーの直後に響く笑い声。
「何はともあれ、大成功vv」
「大失敗です!!」
その声に一人満足そうな演劇部部長と、疲れ果てながら突っ込む演劇部部員。
姫二人は暑苦しいカツラを外して、鬱陶しいドレスを脱いで着替えて、ざわめく舞台袖から出ていった。
舞台発表会、午前の部。
無事?終了。
+おまけ+
「あれ、もう脱いだの?」
午前と午後の部の間にある、昼休み。
部室に集まるレギュラー陣。
桃城は保健室でお休み中。
制服に着替えて戻ってきた越前と海堂に残念そうな声を出す乾。
「あんなん、いつまでも着てても仕方ないっす」
「似合ってたのに」
「嬉しくねぇ」
「折角、白雪姫と一緒に写真撮るつもりだったんだけどな」
「ねぇ、僕もちゃんと白雪姫と親指姫と写真撮りたくて、一番、高性能なカメラ持参してきたのに」
「俺も、俺も姫なかおちゃんとおチビと写真撮りたかったにゃ!!」
「そんなこと言われても、もう脱いだ後なんで」
「あーぁ、残念」
「先輩…」
めっきり残念そうな乾。
その姿に海堂は溜息を吐いて、内緒話をするように乾の耳元で声をかける。
『先輩の家で二人だけなら、先輩がどうしてもっていうなら着てもいい』
「本当?よし、傍島に衣装借りてこよう」
「あの…今じゃないっす…」
「わかってるよ、今日、泊まりにくるだろ?」
「…俺はいつかの話をしたんっすけど…」
「今日は無理?」
「うっ…」
「俺は今日がいいな」
「……仕方ねぇな」
海堂の肯定の返事とともに、駆け抜けていく乾。
今夜の予定は決まったも同然か!?
次、三強本番。
乾の夜の楽しみが無事叶えられるかどうかは、この舞台にかかっている。
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