「やっぁ…だめぇ…」
電気も消えた、静かな部屋に濡れた音と艶のある声だけが響き渡る。
「薫、面白いもん貰ったんだけど使ってもいい?」
乾の手に陥落させられてから、数刻。
解けきったソコに、硬く冷たいものが押し当てられる。
「な…に…?」
「気持ちよくなるもの」
入り口をそれでなぞられ、ブルリと海堂の体が震える。
それに気を良くしたのか、乾の甘い低音に愉悦の音が混じる。
「やっ…だぁ…」
海堂の中に、その冷たいものが入り込んでくる。
その冷たさに、熱く熔けきった中が収縮する。
「簡単に銜えこむようになったね、薫」
「せ…っぱい…これ…ん…何?」
奥までキッチリと埋めこられた異物に、海堂が不安そうに乾を見上げる。
「これをね、こうすると…」
「ひゃぁあ……あ・あ…っ…」
乾の手に握られた小さなスイッチ
愉しそうに、乾がそのスイッチを一つ上げる。
途端、しなやかに跳ねる海堂の肢体。
あがる矯正は驚きと快感が入り混じっていて、大きく開いた瞳は乾を見つめているようで、その焦点はどこかうつろだった。
「気持ちいい?」
「ああっ……やっ……ぁぁん…」
「これ、三段階に段階があるんだけど、もっと強いのも知りたくない?」
愉しそうな乾の声に、必死に海堂は首を振る。
今の、この振動だけでも海堂には耐え切れない快楽を生み出す凶器となっているのに、これより強くされたら、狂ってしまいそうだ。
自分の中を、生き物のように自由に徘徊する異物に、海堂は感情がついていかずとも、体はそれを受け入れていた。
「や…取って…と…ってぇ…」
体と違い、異物を拒否する感情に、海堂の瞳が雫がポタポタと零れ落ちる。
「せ…っぱい…先輩…が…」
同性でのセックス。
受身となることへの苦痛も、引き裂かれるようなプライドもすべて、乾と一つになるためだからと捨て去って我慢して受け入れたこと。
だからこそ、乾ではないものに感じる体が恨めしく、またわかっていながらも、こうやって愉しそうに自分の体を乾以外のもので蹂躙しようとする乾も恨めしかった。
「たまにはこんなのもいいんじゃない?」
「や…」
「俺とはまた違う気持ちよさが味わえるだろ?」
生身のものとは違う感覚。
無機物の冷たさや何よりも、乾では有得ない動きが海堂を翻弄していく。
規則的に動くのではなく、不規則に予測し得ない動きを見せる異物に喘がされてしまっている海堂よりも、乾のほうが興奮していた。
いや、この場合少し御幣があるかもしれない。
乾がしている興奮は、性的なものではなく、単純な好奇心・探究心の表れ。
そういつもの悪い癖、データーを取ってみたいという欲求だった。
「ねぇ、薫。どんな感じ?」
とっびきりの甘ったるい声で、乾が海堂の耳元で囁く。
普段でも弱い乾の、いつも以上に甘い声に海堂の唇から甘い吐息が零れ堕ちる。
「俺に教えて?」
そっと手を床に忍ばせて、愛用のデーターノートとシャーペンを手に入れる。
海堂に気付かれないように、そっとノートを開け海堂の様子を書き始める。
「ねぇ、もう一つあげてもいいよね?」
じっくりと焦らして海堂の口から感想を聞いて、その上、自分でもじっくりと観察した結果をノートに書き上げていく。
時間をかけて、満足行くまで書いたら、次はそのあとの段階のデーターが欲しくなる。
「え…や…いやぁ〜」
もう一つ手の中のスイッチを上げて、様子を眺める。
より早く強い動きに、海堂の体がシーツに沈み込み、幾重もの波を打つ。
「表情が良く見えない」
情事の際、乾は海堂のたっての願いで素顔でいる。
ゆえに、眼鏡がなくてよく海堂の表情が観察できないために乾はサイドテーブルの上に置いてある眼鏡をかける。
「ああ、よく見える」
広がった視界に満足して、乾の意識がデーターへと集中する。
「せ…せん…っぱい…」
海堂の小さな、艶の混じった…けれど、それ以外の感情も混じった声が乾にかけられるが乾はそれにも気付かない。
「後は、最終の…」
乾の頭の中には既にデーターのことしかなかった。
快楽に喘ぐ海堂の瞳が時折、キツク自分を見つめていたことに乾は少しも気付いていなかった。
最終段階までスイッチをあげ、その姿すら観察してデーターにおさめて満足した乾。
けれど、勿論、されたほうが満足してるわけはなくて…
「ふぅ〜」
「いっ…いい身分っすね…」
ノートをパタンと閉じ、満足そうに息を吐く乾に低い、怒りのこもった声がかけられる。
「……薫…」
ギクリとこわばる乾の体。
冷や汗もので、振り返れば、怒りに打ち震えている海堂の姿があった。
「楽しかったですか?」
入れられていた異物を、自分の手で抜き取って、見えないようにシーツで隠して、海堂は冷め切った熱と燃え滾る怒りという熱に浮かされたまま乾を見据える。
「………ゴメンナサイ」
「……っざけんな」
「すまん、本当に悪かった」
ベッドの上、半裸で土下座する乾の姿は滑稽以外の何物でもないだろう。
だが、今の乾にそんなものに構ってる余裕はなく、ただひたすら謝るのみだった。
「あんた、俺の存在すっかり忘れてただろ」
「そ…そんなことはない」
「嘘付け。途中から完全にデーターしか見えてなかったじゃねぇか」
海堂は熱に浮かされた状態でも、ちゃんと乾を見ていたのだ。
乾の意識が何処にあるかも、全て理解していた。
「そんなにデーターが大事か」
「そんなことない」
「ヤってる途中でさえ、俺のこと忘れられるくらい、データーが大事なんだろ!!」
「違うって」
「そんなにデーターが大事なら、データーとヤってればいいじゃねぇか」
手元にあった枕を思いっきり投げつけ、海堂はさっさと服を着て乾を家を出て行った。
「薫、待てって」
制止する乾の声も無視して、自分の家に帰る海堂。
その日から、しばらく乾は海堂の半径1m以内に近寄らせてもらえなかったのは自業自得というものだ。
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