Why?



どうして、こんなに好きなんだろう?
どうして、あなたを信じられないんだろう……?
どうして……


「好きだよ」

耳元で囁かれる、低音の声。
心地よく染み渡る声なのに、その言葉が海堂の心に影を落とす。

「…うそ…」

吐息に近い声で反論して、俯いたまま、ちらっと上目遣いで目の前の先輩を盗み見る。
ほんとは見なくたって、空気の揺れでこの人がどんな表情をしてるかもわかっているけど…・…
もう、こうしないと、あなたを信じられない自分がいるから。

「俺のこと、信じられない?」

少し、哀しげな声が耳を打つ。
それに、海堂は緩く頭を振るが、それが嘘だと言うことは乾にも海堂にも理解できていた。
それでも海堂にはその行為を続けることしか出来ない。


どこで、間違えてしまったのだろうか?
この人を、こんなにも愛してる自分がいるのに。
この人から、離れて生きていけない自分がいることもわかってるいるのに……
誰よりも信じなきゃいけない、この人を、他の誰よりも信じれないなんて……
何も信じられないのに……
どうしようもないくらい、この人を傷つけてしまっているのに、
それでも……


「好き…」

零れ落ちた雫は、白いシーツの波間に波紋を投げる。


泣けてしまうほど、大好きな人。
あなたを傷つけて、それでも、この場所を失えない。

「海堂……」

そんな哀しい声で呼ばないで
俺が悪いのに……

「ゴメンナサイ…」

あなたを信じられないのも、傷つけているのも……
その全てを知っていながら、あなたから離れられないのも、俺の我侭。
だから、あなたが謝らないで。
哀しまないで
全部、俺が悪いのだから……


「泣くなよ…」

ポタリ・ポタリと零れる雫を唇で掬い、抱きしめる。

「…お前のせいじゃない」

安心させるように背中をあやすように叩かれる。
その腕の暖かさに、
その胸の心地よさに、
流れる涙は、留まることを知らずに、後から後から溢れてくる。


そうじゃない
そうじゃない
あなたのせいじゃないから
俺のせいなのだから……
俺を甘やかさないで
俺に優しくしないで……


「どうして…」

縋りつくように、乾の背中に腕を絡める。

「こんなに、好きなのに…」

ドウシヨウモナイホド、アイシテル

「信じたいのに…」

シンジラレナイナンテ……

「どうして…」
「どうしてだろうな」

海堂の声に重なるように、乾の声が被さる。
乾の手が、海堂の頭の上に置かれ、そのまま海堂が顔を上げれないように押さえつける。

「先輩?」
「どうしたら、俺はお前を傷つけずに、幸せに出来るんだろうな?」

耳元で囁かれる声、どこか震えてるように感じたのは……

「どうしたらいい?」

体が伝えてくる、微妙なぶれ。
肩に伝わる、冷たい感触。
泣いてるの?
俺のせいで……

「乾先輩」

頭を押さえつける手をどかせようと試みるが、乾の手はビクともせずに、さらに強く海堂を押さえつける。

「見るな!!」

懸命に手をどけようとする海堂に、乾の強い制止の声が入る。

「頼むから、お前にこんな姿を見られたくないんだ」
「見せろよ!!」

見せてよ……

「俺だって、どんなあんたでも見たいんだから……」

お願いだから、素のあんたを、俺の前にさらけ出してよ……


「笑うなよ…」

どれくらい時間がたったのだろうか、しばらく無言でいた乾の声とともに、海堂の頭にあわされた手が離れる。

「どうしていいのか、わからないんだよ」

そっとあげた視線の先、いつも余裕たっぷりに笑ってる、彼の人は、困ったようにあふれる涙を流し続けていた。

「どんなに言葉にしても、態度で示しても、信じてくれないしさ」

流れる涙を、戸惑いを隠せないまま、乾は話続ける。

「それでも、そのことでお前を苦しめているのをわかってるのに、お前を手離すことだけは出来ないから……」
「…そんなに、俺のこと好きなんすか…」

とめどなく零れる涙に、そっと海堂の指が触れる。

「好きだよ、もう、どうすることも出来ないくらいに」

そっと、乾の頬に手を添えて、いつも彼がしてくれているように彼の眦に唇を寄せる。

「もっと、見せてくださいよ」

本当のあんたを……

「俺だけが知ってる、素の先輩が欲しい」

乾の頭を抱きしめて、あやす様に髪を梳く。

「そしたら、きっと…」

あんたを信じられるから……
もっと、好きになるから。


どうしても、信じることが出来なかった
どうしても、不安を拭うことが出来なかった
だって、
だってさ……
俺は、全てを曝け出してるのに
全部、あんたにあげたのに……
あんたはまだ、全部見せてくれてないから…
俺に、あんたをくれないから……


だから全部見せてよ
全部、俺に……
俺だけがしっている、あなたを……


Fin